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第23話・人は石垣 人は城

最近の映画はエンドクレジットでサプライズがあるんですって?

勉強になるなぁ…

あ、独り言ですよ。

さて、今回はミリオタ全開だけど…最後まで読んでね。

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第23話・人は石垣 人は城


 信濃大変の出陣からひと月ほど経ち、戦勝の軍が甲斐に戻って来た。

 もっとも、全軍が揃って帰ってきた訳ではなく、事後処理の大きさにより、各方面軍ごとに区々(まちまち)の帰陣であった。

 まず、一番早く帰国したのは、一番遅くに出陣した 虎胤率いる深志方面の原衆であった。

 小笠原勢を一瞬で葬った、居合術の達人の様な戦振りに、人々は鬼ならぬ天狗と噂した。

 次に帰国したのは板垣や駒井ら、伊那方面軍であった。

 時系列で言えば今回の戦いで真っ先に勝利した板垣衆、駒井衆であったが、敗走する高遠頼宗(たかとおよりむね)が自軍傭兵の裏切りで殺害され、兄 高遠頼継(たかとおよりつぐ)がパニクり 高遠城に籠った為、多少手間取り 帰国が遅れた。

 甲斐に一番近い塩尻峠に布陣していたにも関わらず、遅くなったのが教来石景政(きようらいしかげまさ)率いる武川衆であった。

 彼は峠を封鎖する事 数日、その後 戦の状況が判らぬまま、戦々恐々と小勢で深志林城(ふかしはやしじょう)に向かい、小笠原長時からの和睦申し入れを受け 戦後処理を行い 帰国したのである。

 上杉勢を抑えた佐久方面の山本勘助一行は未だ、帰国していなかった。

 予定通り 真田幸綱を調略した勘助は、敵将長野業正(ながのなりまさ)と上杉方の西牧砦で高遠の戦況を見守り、その後帰路についたが、下仁田街道、佐久往還の、1,000m級、1,400m級の山越えの最中なのである。


―――――――――

 勘助、美月は不在であったが、取り敢えずの日常に戻った城西屋敷には、日々、駒井やら教来石やらも戻って来ていた。

 今日も教来石が応接室で鷹羽と駒井相手に愚痴っている。


「駒井様、聞いて下され。小笠原長時を破ったは 確かに虎胤様じゃが、囮役や和睦の折衝など面倒事は全て我らに押し付けで御座る。

(それがし)は虎胤様ならば致し方無しと思ってい(おもうてお)るから我慢も出来申すが、青木やら柳沢やらは 手柄独り占めのなさり様を、腹に据えかねて居ります」

「したがその策は軍師殿が書付(作戦指示書)に沿ったもので御座ろう?」

「否、まるで別物。

…こちらに戻ってから虎胤様に事の詳細を伺ったのですが、その目の付け所、機を見るに敏なる所 目を見張るばかりで御座った。(それがし)にもあの才の一欠けらでもあればと…」

「…苦情でござるか?賛辞でござるか?嫉妬でござるか?」


 教来石が自分に何を聞かせたいのか判断に困る駒井である。


「え?それって勘助さんの作戦以上の策だった、て事?」


 横手から春日が質問を投げる。


「…春日、どうしてお前がここに居るんだ?

戦争の話に首を突っ込むのは、教師として勧められんなぁ」


 この屋敷で勘助不在時の最高責任者、鷹羽が シレっと大人に混ざっている中学生 春日昌人に向かい、声を掛ける。


「え?だって僕も軍師だもん。 今回の信濃邀撃戦は半分僕の作戦だよ (⌒∇⌒)」

「そ、そうだったの?」

「うむ、春日殿は軍師山本勘助の一番弟子。この事は武田家で知らぬ者は居りませんぞ。

今日は、教来石殿が深志戦の顛末で意見があると申されたので、私が声を掛け申したが、不味かったであろうか?」

「あぁ…そういう事でしたら…進めてください…」


 鷹羽の承認を得、原虎胤の作戦詳細、敵味方の被害状況など 教来石を質問攻めにする春日であった。

 同席した駒井も中々の策士であるが、その駒井案の諏訪頼重出陣を撒き餌として利用する機転、勝弦峠展開の速さなどには舌を巻いた。

 そして羨望の色を滲ませながら呟いた。


「虎胤様が陣馬奉行となり、戦を差配していただければ、この上なく心強いのであるが、面倒事は好まぬと申して 引き受けて下さらぬ…。

教えを請いたい所であるが、軽々には手を明かしては下さらぬ。あの才は他人が真似する事が出来ぬ物であろうか…」

「ふーん…武田全体の軍事カリキュラムは無いんだね。

…えーとね、現場指揮官に適用できるメソッドでOODA(ウーダ)ループってのがあるんだけど」


 駒井の言葉を受け、春日昌人の膨大なミリオタ知識が爆発した。


「?…カリキ…狩衣(かりぎぬ)冥途(めいど)?」


 教来石と駒井が顔を見合わせ首をかしげ、助けを求める様に鷹羽を見る。


「鷹羽殿、今の言葉も天狗の呪い(まじない)であろうか?」

「いや~、判りかねます…

春日君、先生も理解できないぞ。オタクしかわからない言葉になってるから。話すのなら皆に判る様に…」

「(*・ω-)b ОК! OODA(ウーダ)ループって言うのは、アメリカ空軍の航空戦に臨むパイロットの意思決定メソッドが基なんだけど、Observe(オブザーブ)Orient(オリエント)Decide(ディサイド) Act(アクト)の略で…」

「待てマテマテ、略してそれかい! いきなり英語で もっと難しくなってるから!出て来る単語全て翻訳対象になってるから!」


 えー中の人です。

 オタクの話は長くなりがちなので、こちらから 少々解説をいたします。

 OODAループとは軍事行動における指揮官の意思決定プロセスを分かりやすく理論化したもので、朝鮮戦争の空中戦についての洞察を基盤にして、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐により提唱されました。

 元々は航空戦に臨むパイロットの意思決定を対象としていましたが、その後あらゆる分野に適用できる一般理論として、最近ではビジネスや政治など世界でも流行っています。

 概要としては、以下の1~4を「高速でループ」させ、行動のエラーを短時間で修正し、勝利、またはゴールを得ると言うものです。

 1:観察(Observe)

 2:状況判断(Orient)

 3:意思決定(Decide)

 4:行動(Act)

 これが健全な意思決定を実現するという理論なのですが、具体的な行動に当てはめると1で情報を集め、2で情報を分析し、3で対策を決め、4で実行する。

 …“当り前じゃないか”と思えるモノですね。

 これを意識して強化する事で 環境変化に柔軟に対応でき、施策のスピードアップが図られ、勝率がアップする…らしいです。

 しかし これを鷹羽が駒井たちに翻訳しようとすると、大変苦労します。

 まず“情報”という言葉と概念が、この当時には無いのです。

 ニュアンス的に近いのは“知らせ”でしょうか? …伝わる気がしませんね。

 そして現代で使われている日本語の“情報”も、実は不完全なのです。

 前記の4段階で使われる“情報”を英語で表すと次の様になります。

 1で情報(data(データ))を集め、2で情報分析(intelligenceインテリジェンス)し、3で対策を決め、4で実行する。

 3,4では情報共有(informationインフォメーション)が必要となりますので、3種類の“情報”が必要となります。

 この様に現代語でも認識があいまいな“情報”の概念を、“虫の知らせ”のイメージしか持たない戦国武将に伝える難しさ、おわかりいただけたでしょうか?

 視点を変えて考察すると、現代でも、性質の違う物を“情報”という一つの言葉でしか表現しない日本人は、本質を理解しておらず、情報を使い分ける仕事、特に情報戦には不向きなのかもしれませんね。

 さて、解説はこの位にして 城西屋敷に目を戻してみましょう。


―――――――――

 教来石が 講師・春日 → 翻訳・鷹羽 のOODA(ウーダ)ループ解説を聞き、()もありなんと 感心した様に頷きながら 春日に話しかける。


「成程。さすれば、虎胤様は“うーだ”されて居る と、春日殿は申されるのですな! 流石で御座るなぁ」


 鷹羽は薄い目で教来石を見ながら、小声で確認する。


「教来石殿…本当に判ってます? 翻訳している私が言うのも何ですが、伝わっている気が全くしないんですけど…」

「え?判ってますとも… まず見て、考えて、動く。一言で申さば“敵を知り己を知れば百戦危うからず“ でありましょう?」

「え!そんな事、言ってないよ…教来石さん。 (゜Д゜)」


 駒井は腕を組み、首を捻っている。


「何やら当たり前の話を、雲をつかむ話に仕立てた様な…嚙み締めれば武将の肝となる話 でもある様な…」

「春日、教師であるオレが言うのも何なんだが、高速で状況判断と意思決定する ってのはミスし易いだろ? これを間違えずループを回すのはスゲー難しんじゃないか?

 このOODAループって、本当に効果あるのか?」


 質問を受けた春日は 無責任に答えた。


「うーん、僕は本で読んだだけだから…使った事ないし、判んないや…

あ!でも、本には “OODAループを使いこなすのは経験が必要って” って書いてあったかな?」  (⌒∇⌒) ニコ

「…いやいや、それじゃ効果無いだろ。今欲しいのはベテランの経験の共有化だから…」

「えー、そんな事、中学生に言われてもぉ。 先生こそ教師でしょ、効率的な教育方法とか知らないの?」

「…お前、都合悪くなると中学生に戻るの ズルくないか?まぁ、事実だけど…」


 春日の言葉に暫し 考え込む鷹羽。

 そして何かを思いついたらしく、ちょっとテンションの上がった声を出した。


「…そうか、教育体制の問題だ! 春日、お前の言う通りだ!

ミリタリは専門外だから黙っていたが、今 求められているのは 知識と経験の習得、そして知恵の共有化だ。

まさに教育のドメインじゃないか!

それなら色々と使えるノウハウがありそうだ…

駒井殿、武田家では(いくさ)についてどんな教育をしているんでしょうか?」


 いきなりの質問に一瞬 詰まったが、ほぼ即答で返す駒井。


(いくさ)の作法については、それぞれの家の秘伝があり、そこへ今の当主が経験を乗せて御座る。

秘伝であるゆえ、その家の中でも ()れと言う者だけに教え伝える が 普通で御座るな」

「武田全体での学校は無いのですか?」

「在り申さん…」

「じゃ、早速つくりましょ!」

「わーお、ウエストポイントだ!(⌒∇⌒)」 ※1


 二人で盛り上がる鷹羽と春日に対し、駒井が冷静に指摘する。


「いつ主家から離れるか判らぬこの戦国の世、秘伝を明かせと申しても、簡単に明かすとは思えませんな…」

「え?でも 教来石さんは勝弦峠の件、虎胤さんから聞き出したんですよね?」


 秘伝の重さがピンと来ない鷹羽は教来石を見て訊ね、教来石は自慢げに胸を張りながら答えた。


「それは(それがし)で在ったからこそ! 我らを塩尻峠に置き去りにした事を責めたて、教えを受けるまで座り込みました故!」

「…あぁ、無理やり 聞き出したんですね…

しかし、そんな状態では武田の軍は強くならないと思うなぁ。

まず、互いに教え合う場を設け、各家の秘伝を共有して、武田の秘伝にしないと…」


 鷹羽の言葉に教来石は目を輝かせたが、駒井の瞳を暗くし、首を横に振った。


「うーん…ギブアンドテイク(いい事あるよ) じゃないと、だめか?情報共有した方が、絶対得だと思うんだけどなぁ」


 腕を組み、頭を捻っている鷹羽に 春日がアイデアを出す。


「それならウエストポイントとの模擬戦で虎胤軍を負かせばいいんだよ (⌒∇⌒) !」


 鷹羽と駒井は顔を見合わせ、首を捻る。


「…えーと、春日。もう少し詳しく」

「勘助さんと僕が板垣屋敷でやった“地ならし” だよ。

それを武田家でやるのさ。

学校の生徒が考えた作戦で虎胤軍とか他の隊を模擬戦で負かすの!」

「ほぉ、それは…面白く(おもしろう)御座るが、勝てますかな? その生徒たちで…」


 駒井は興味を持ち、早速 状況を想像しているようだ。


「それは判らないけど、模擬戦でも戦えれば、秘伝とか言ってる相手の作戦とか癖とか判るじゃん!(⌒∇⌒)」

「なるほど、模擬戦の後の分析も出来れば 学習効果はかなり高いな…

知恵の共有化が進めば、各家の秘伝を越えるのは ほぼ時間の問題だろうし…

春日、そのウエストポーチ、行けるんじゃないか?」  ※1


 ※1:ポーチでは無い!ウエストポイントはアメリカ合衆国陸軍士官学校の通称。世界で最も広大な敷地を持つ学校で原子炉まで持ってる!


 駒井は頷きながら言葉を繋いだ。


「良き事を思いつきましたぞ。

その学校には、この駒井や武川衆などの細かき家の者を集め、原、甘利、板垣などの武辺(ぶへん)とぶつけましょう。

勝者には御屋形様から褒美を出して貰えば、誇りを掛け 模擬戦とやらに引っ張り出せましょうし、勝っても負けても切磋琢磨になり申そう。

うむ、良い絵が描けそうじゃ」

「図上演習と模擬戦、それと戦後評価がセットで出来る様に、集会場込みの演習場も作って!(⌒∇⌒)」

「おう、それは効果出そうだな。

駒井殿、そのウエストポーチ、今準備中の寺子屋と合わせての人材育成です。ぜひやるべきです!」


 みんなアイデアが形になりそうでニコニコしていたが、駒井はある事に思いが至り、表情が暗くなった。


「しかし、これもまた 銭が掛かりそうですな。御家老衆が難癖つけて来るが必定。

また、効果は何を見せて納得させるか…力を付けのにどれ程の時を見積れば良いか…

さすれば、掛かりが如何ほどか、試算せねば…」


 財務官僚(テクノクラート)である駒井は、視線を下げ ブツブツと呟きだした。

 既に仕官学校のコストパフォーマンスを計算し始めた様である。

 彼にはOODA(ウーダ)ループ ではなく、PDCAサイクル がお薦めだな と思う鷹羽であったが、話が長くなるので今は止めて置く事にした。

 駒井はフト 目線を上げ鷹羽を見つめ、声を掛けた。


「何か この取組みが良い物じゃと判る、“誘い文句”の様な物が御座らぬかの?

御家老衆もそうであるが、御屋形様から皆の者に言って聞かせるに、判りやすく 耳目を集める言葉が、欲しいのであるが…」


 人材育成プロジェクトのキャッチコピーが欲しいと言う事か?

 鷹羽は春日に問いかけた。


「何かいいフレーズあるか?」

「んー “人がまんなか!” なんてどぉ?(⌒∇⌒)」

「お、企業CMで見た事ある様な… カッコ良いかも。 どうです、駒井殿?」

「…捻り過ぎかと、甘利様あたりは “だからなんだ!” と怒り出しそうで御座るな…」


 そーゆーセンスないんだよなぁ、と言い訳しながら頭をひねる鷹羽だが、ふと思いだした言葉が口に出た。 


「…“人は石垣、人は城” とかは?」

「おぉ、それは良い!何処ぞ(どこぞ)の国の言葉ですかな?」

「…どこかで聞いた言葉なのですが、良く知りません。…使えそうですか?」

「良いですな。 どうじゃ教来石殿?」

「なんと言うか(おもむき)がありますな。皆も 腹落ちいたしましょう。」

「僕も聞いたことあるけど、かっこよ~(⌒∇⌒)」


 駒井も教来石も うんうん と頷いている。

 駒井が〆の一言を発した。


「是非 御屋形様から皆に言い聞かせていただきましょう」


 みな 大絶賛。鷹羽も鼻高々で、応接室の雑談は有意義に終了したのであった。


―――――――――

 後日談であるが、佐久から戻った中畑美月が この話を教来石から聞き、青くなりながら鷹羽の元にやって来た。

 “人は石垣、人は城” は武田信玄の名言として、後世に残っている言葉だと聞かされた鷹羽は 呆気に取られた(゜Д゜)顔をした後、以下の様に締めくくった。


「そうか、信長とかの言葉じゃなくて良かった。 それならパラドックスは起きないな!」


(え~! それでいいんかい!?)


 第23話・人は石垣 人は城 完



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