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第2話・光の御子

楽しい筈の遠足での大事故。

救援も来ない状況で鷹羽たち教師は生徒たちを守れるのか?

山本さんは信じられるのか?

そして私は 面白い話しが 書けるのか?!

乞うご期待で本文へ。

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第2話・光の御子


 (やしろ)にたどり着いた面々は、一気に疲れが出たのか、声も出ない様子である。

 悟助さんが点けてくれた灯火台を挟んで座っているが、誰一人しゃべる者もいない。

 自然と山本勘助:悟助チームと教師:城西学院中等部チームが対峙する感じになっているが、まぁさっき会ったばかりの髭面のオッサンと、イキなり肩は組めないよな、普通。


 お互い話し出す切っ掛けも無く、無言で睨みあう中、生徒達の中からグーとお腹が鳴る音がした。

 そして言い訳するような“ハラ、減った…”の呟きが小声であったがハッキリと聞こえた。

 思わず女子生徒と中畑美月、つまり女子チーム全員が吹き出した。


 その一瞬を見逃さず、山本さんが発声する。 ホッとした感じの声である。

 彼も意外と緊張していた様である。


左様(さよう)左様(さよう)。 大変で御座ったゆえ、腹も減ったであろう。 おうそうじゃ、何か喰う物が無いか、(われ)が無心して来ましょう」

 と、立ち上がった。

 吾介さんもそれを見て、渋々といった感じで立ち上がり 二人して部屋を出ていった。


 二人が戸口から見えなくなると、生徒たちは一斉に小声でしゃべりだした。

 自分たちのために、食べ物を調達しに行ってくれた事への感謝よりも、知らない人から解放された安心感の方が強かった様だ。


 鷹羽も同様に部外者が離れてくれるのを待っていた。

 二人が出ていくのを目で追い、戸が閉まるのを確認すると、そのままの姿勢で背後の生徒たちに、静かだが全員に聞こえる音量で話し出した。


「みんな、話がある」

 渋いぞ鷹羽先生。


 …鷹羽の声は届いているはずだが、誰もおしゃべりを止めない。

 “あーやっぱり、こいつら言う事きかねーな” の表情で少し語調を強め


「みんなに話がある。 重要な事だから、聞け!」

 と生徒達に向き直った。


「ここ迄は、皆よく頑張った!

だが、これからはもっと大変な事が起こると思う」


 生徒たちが聞いているが顔を見渡す、が、暗くてよく分からない。


「やってはいけないこと、やって欲しいことを伝えるので、よく聴いて守って欲しい。 まず、持ち物の管理だが…」


 生徒達が黙っていられるのはここまでが限界だった。

 それぞれが質問してくる。


「スマホ繋がんないですけど、ここは何処(どこ)で、いつ帰れるんですか?」

「学校や他の班とは連絡が付いたんですか?」


 あーこのままでは収拾がつかなくなる。 生徒を手で制しながら


「待て待て待て。 ここからが重要な話なんだから。…判った、まず質問に答えるから、黙って聞けって」

「まず、ここは・・・」

 で、早速 答えに詰まる。


「ここは、甲斐(かい)の国。 山梨県ね」

 と中畑先生が咄嗟に答える。


 え?なんで解るんだと、ちょっと驚いたが 続ける鷹羽。


「そ、そう、甲斐の国 だそうだ。…で学校への連絡だが、…付いていない。

なので、帰れる算段もまだ、付いていない」


 生徒達から静かな絶望感が伝わってくる。

 “だよな。 オレも同じ気持ちだ” 口には出さない。


「今がいつか と云うのが…問題なんだが …ずっと昔だ。明治より前の江戸とか…」

「戦国時代…です」

 と中畑先生が再び答える。


「えーうそだー。 なんのドッキリですか」


 (がたい)がデカくクラスの中で一番うるさい達川一輝(たつかわかずき)が意見を言い出す。

 他の生徒達もザワザワと意見表明が始まった。

 あーまた収拾がつかなくなる。 何か言わなければ。


「ここが戦国時代だなんて、あり得ないと思うよ。 オレ・・先生だって。

だけど、状況から見ると違う時代に居ると思うしかないんだ」

「だから、ドッキリなんですよ。僕たちみんな騙されてるんだって」


 大林渉(おおばやしわたる)が不安を打ち消すように、笑いながら言った。

 彼は理科系で普段は理路整然としているが、ストレス耐性は低い方だ。


「人が死んでいるんだ。 ドッキリじゃないよ。

それに、高速道路も送電線も無くなってた。 ドッキリのレベル越えてるって…」


 明野秀哉(あけのひでや)が理路整然の見本の様な意見を述べる。

 事故現場の異常性を最初に指摘したのも彼だった。


「俺もドッキリじゃないと思う。俺たちを連れてきたおっさん達、普通じゃ無かった」


 お、普段は寡黙な坂井忠(さかいただし)がしゃべりだした。

 皆が注目する。


「普通じゃ無いって、何かされたのか!」

 古澤がすかさず聞き返す。

 フィジカルな事案には敏感なのだ。


「そうじゃないけど。…俺たちを連れて来る時、バスの前に並ばせたでしょ。

その時、あいつらバスの中に入って行ったんだ。 中で人が死んでんのにまったく騒がないんだぜ。

それに、目ぼしいモンが無い とか言ってんの聞いちゃったんだ。

普通じゃねぇよ」


 静まり返る室内。


 皆の顔を見ながら、静かに喋りはじめる 鷹羽。


「違う時代に来てしまったと思うしかない。

それもヤバイ時代だ。…そう考えた時、みんなの安全の為、これから言う3つの事を守って欲しい」


 こんどは黙って聴いてくれている。 うん、良い子だ。


「まずその1 一人で行動しない。

その2 知らない人についていかない。

その3 自分の持ち物を見せびらかさない」


「なにそれ。 幼稚園か小学生のお約束じゃん」


 佐藤有希(さとうゆき)だ。

 彼女は小5の時から警察署の合気道道場に通っていた、格闘系女子だ。

 顔はカワイイが押しが強い。


「いやいやいや、そうだけど、…そうじゃないんだって。

いいか、坂井が聞いたように この時代は人の命が軽いんだ。

簡単に(さら)われたり殺されたりするんだぞ。

必ず大人と一緒に行動するんだ」

「大人って言ったって、先生しかいないよ。 先生、刀や槍に勝てるの?」


 佐藤の鋭い指摘。

 曲ったことが大嫌いで、納得いかないと教頭先生にでも噛みついて行く。

 で、付いた渾名が“ワニガメ”。 …こんなにキュートなのにね。


「いやいやいや、勝てないけどさ…」

 どうしよう。言い負ける。


「先生は勝てるぞ!」

 と古澤が力瘤(ちからこぶ)を出して見せる。 パワー!


「…。ともかく、慎重に行動してくれ。

あっ、これも重要だ。

この世界に電気は無いぞ。スマホもパッドも充電できない。

それに向こうの機械をこっちの人には見せるな。 約束してくれ」


 スマホが使えないと云う言葉に小さな悲鳴が上がった。


「…そっちの方が致命傷じゃん…」 佐藤有希が口をとがらせた。


 外が騒がしくなり、皆 黙る。

 (やしろ)の戸が開き、提灯(ちょうちん)を持った山本さんが戻って来たのだ。

 吾介が提灯(ちょうちん)で足元を照らしている先を、数人の村人が鍋と器を持って入って来た。


「さあさ、喰い物ですぞ」

 山本さんの声に わぁー と生徒達から歓声が上がった。


 村人から質素な器が生徒達に配られている。

 どうやら(あわ)の雑炊の様だ。 令和の中学生には未知の食べ物である。

 女子生徒の「これ、何♡」 男子生徒の「何喰っても旨い」 などが聞こえる。

 うんうん、空腹は最高の調味料。


 山本さんが鷹羽に近づいて来て、粟雑炊の椀を差し出した。


「鷹羽先生もどうぞ」 

「どうも、ありがとうございます」 と受け取る。


 そのまま横に座り込んだ山本さんが、鷹羽の耳元に囁きかけた。


「先生。不躾(ぶしつけ)じゃが銭は如何(いかほど)ほどお持ちじゃ?」


 鷹羽は危険を察知し、目が泳ぐ。


「これだけの飯を無心したで、銭が欲しいと言われての。

いや、身ぐるみとは言わず、それなりの銭 と云うておる。

それは道理じゃ。

…道理なれば、(われ)払って(はろうて)やれば良いのじゃが

(われ)もそれ程 持ち合わせておらんでな」 ニヤっとする。


「うん、道理、道理ですね」


 あらぬ方向に目を泳がせながら、必死に考える。

 そして山本さんの耳に口を近づけ、これ以上ない小声で


「えーと…ですね。言いにくいのですが… 持ってません」


 疑いの表情でゆっくり身を起こし、鷹羽の顔を凝視する山本さん。

 そのままの表情でゆっくり鷹羽の耳元に寄り


「あれだけの車をお持ちなのじゃ、金子(きんす)が無いは 無しじゃ」

「えーと、車は… 壊れて半分どこかへ行ってしまい…

そちらに金子(きんす)を置いていたので、失くしてしまったのです…」

「ならば明日、付近を探せば見つかるじゃろう。 そのように申して払いは待ってもらおう」

「あ!うそです。 噓をつきました、ゴメンナサイ。 壊れた車にも金子(きんす)ははありません。

…本当に持っていないんです」


 驚愕の表情でゆっくり身を起こし、鷹羽の顔を凝視する山本さん。

 その表情に耐え切れず、山本さんをチョイチョイと手招きする。

 表情を変えず近づいてきた山本さんの耳元で


「一応伺うのですが、銭を出さないとどうなりますか?」

「…その前に、こちらからも尋ねるが、そなたら、剣術は得意か?」

「…いえ、残念ながら」

「左様か… ならば、怪我人、女性(にょしょう)は諦めよ。

走れる者だけで山へ逃げよ。(われ)一人の剣で如何(いか)ほど時が稼げるか判らぬが…」

 と、奥の壁に立てかけている刀を見る。


 今にも刀めがけて動きそうな山本さんを慌てて制し


「いやいやいや、一応、聞いただけですから」

「ならば、どうなされる。 銭が無ければ、女子供は人買いに売られ、先生方は役人に訴えられると面倒と、殺されまするぞ」

「私が“かまし”ます。 私から礼を述べるので、村長だか 村の古老だかを呼んで下さい」


 疑いに満ちた目で見ながら、

「いざとなったら、逃げますぞ…」と山本さんは呟き、

 村長と思われる人物に近づいて行った。


 と、この緊迫して来た場面で何ですが、ここからは“山本さん”呼びを“山本勘助”または“勘助”に改めたいと思います。

 なんかリズムがね。

 牢人(ろうにん)姿の“山本勘助”なら様になるけど、“山本さん”だと工務店のオジサンになっちゃうんだよなぁ。

 では、進めさせていただきます。


 生徒たちも夕食がほぼ終わり、楽し気な話し声や笑い声が聞こえる様になってきた。


 宴も酣(えんもたけなわ)なこの場を如何に〆よう(いかにしめよう)か…

 一歩間違えれば、昼間と同じような凄惨な場面を招く事になる。

 鷹羽は大量の脇汗をかいていた。 さぞ青い顔をしていたであろうが、ほとんど灯りの無い室内では、気づいた者は居ない…はず。

 大きく息をすると 意を決し、静かに立ち上がり、室内を睥睨(へいげい)する。


 鷹羽の行動に気付いた者は、すぐ近くで周囲の気を探っていた山本勘助のみであった。

 勘助は一瞬 “お、始めやがった”の表情をしたが、真顔になり大音声(だいおんじょう)


「高橋先生よりお言葉があり申す。 皆、静かに」

 と()ばわった。


 生徒も村人もその大声に何事かと ポカンとしつつ、一人立っている鷹羽に気付き注視した。


「皆、腹は満ちた様子。まことに善き料理でありました」


 気取った感じでしゃべりだしたが多少声が上ずっている。 落ち着け鷹羽先生。


「して、 この、供物(くもつ)を用意したのは誰かな?」

 と、わざとらしく見渡す。


 勘助も呆気にとられ、ポカンと見ていたが、ハッと気づき


村長(むらおさ)、これへ!」 と大音声(だいおんじょう)


 呼ばれた村長(むらおさ)は、突然の事で座ったまま飛び上がり、慌てて鷹羽の前に居ざり寄り(いざりより) 平伏する。


 低頭した村長を文字通り、上から見ている鷹羽。


「うむ、供物はありがたく、収めたぞ。

善きことを成したこの村は、孫子(まごこ)の代まで栄えるであろうぞ」

 と鷹揚(おうよう)宣う(のたまう)


「ここに居る我等は、光の御子(みこ)。 聖なる光で洗礼を与えようぞ」


 城西学院中等部はプチパニックである。

 鷹羽先生が何をやり出したか 訳が判らず、生徒も教師も互いに目配せし合っている。


 当の鷹羽は天上を見上げ、大きく腕を広げた。

 そして朗朗(ろうろう)


「さあ、御子たちよ。 ()()() を準備するのじゃ。

そして我が合図と共に ()()()()() じゃ!」


 取り合えず何をすれば良いか理解した城西学院メンバーは急ぎスマホを取り出し準備する。

 鷹羽は背中で生徒達の状況を探り


「よいな、始めるぞ。 ワン・ツー・スリー!」


 城西学院メンバーが手にしたスマホのライトを一斉にON!

 (まばゆ)い光に包まれる室内!

 村人、吾介から悲鳴が上がった。


 (まばゆ)い光に包まれている鷹羽大輔。 おぉ、なんと神々(こうごう)しい。

止めい(やめい)!」一喝。


 城西学院メンバーはスマホのライトOFF。 

 室内は漆黒の闇に戻った。


「目が…目が…」

 と騒いでいる村人の声が聞こえる。


 暫くすると、中央の灯火台の儚い灯りに、腰を抜かしている村人の姿が見えてくる。


「こ、こりゃ とんでもねぇ神通力じゃ」

 と腑抜けている村長。


村長(むらおさ)、良かったの! この村は栄えるぞ!」

 流石、軍師の機転で畳みかける、勘助。


「へぇ、ありがてぇありがてぇ。一晩と言わず、この村に住んでくりょう」

「うむ、伺っておくで、待って居れ。今日はもう下がってよいぞ」


―――――――――

 木々の間に差し込む朝日、賑やかな小鳥のさえずり。

 爽やかな朝である。

 小さな空き地に建てられた(やしろ)がある。

 (いな)、夜目では分からなかったが、朝の光の中でみれば、どう贔屓目に見ても掘っ立て小屋。

 (やしろ)などと言ったらバチが当たる建物であった。

 が、何らかの神に守られたのであろう城西学院中等部の面々は、無事 朝を迎えられたようである。


 (やしろ)の室内では、折り重なるように寝ている男子生徒達。

 反対側の部屋の隅で、それぞれ丸くなる様に寝ている女子生徒達。

 みな揃いのトレーナーを着ている。

 女子生徒達の近くでガードする様に寝ている教師達。(彼らは着替え無し)

 …取り敢えず平和である。


 寝穢く(いぎたなく)寝ている鷹羽の許へ、周りを起こさない様、ソロリソロリと山本勘助が居ざり寄る(いざりよる)

 ふと、鷹羽の左手首の腕時計(クロノグラフ)に気付き、目を近づけ凝視する。

 顔を上げ思案顔でポリポリと顎をかくと鷹羽の肩を軽く揺すり、小声で


「先生。起きなされ」


 薄目を開ける鷹羽。 半覚醒状態である。


「…なんかスゲー夢見てた…」

 一旦 目を瞑り、数秒後 ガッと目を見開く、と同時に跳ね起きる。


 鷹羽の勢いに 勘助は思わずのけ反り、後ろ手を付く。

 一方 鷹羽は、壁前の、折り重なり 死んだ様に寝ている男子生徒を見て


「チ…チキショー夢じゃねぇ」

 そして ふと横を見、山本勘助と目が合った。


 暫し無言で見つめあった二人、先に口を開いたのは勘助であった。


「悪夢でも見なすったか?」

「…悪夢、だと良かったのですが…おはようございます…」


「あぁ、良い朝じゃ。

無理やり起こしてすまなんだが、色々尋ねたき事も御座れば、急いだ方が良いと思うての」

「尋ねたい事?…なら彼らも起こしましょうか?」 と、傍らで爆睡している2教師を見る。

「いや、鷹羽先生で良いのじゃ」

「判りました。 では、何でしょうか」

 と、警戒した顔で改まる。


 ガードを固めたのを察し、やんわりとしたテンポで


「大した事では無いのじゃが… ほれ、金子(きんす)が無いと言って(いうて)おったじゃろ。

それが(まこと)ならこの先、どうされるのかと気掛かりでの」


 山本勘助に言われ、改めて事の大きさを意識した鷹羽は “あぁそうだった”と、頭を抱えた。


「そこもとらの目的地やら、じ…神通力やら、聞かせて貰えれば、利用でき…(いな)力添えできるやもしれんでな」

「なんと有難いお言葉でしょうか。

正直、途方に暮れ…一旦考えるのを止めて…忘れてました」

 

「それはそれは…」

 お前は馬鹿か と喉まで出かかった言葉を飲み込んでいるうちに、鷹羽が語り始める。


「実は私達は未来から来たのです。 来た…と云うか、飛ばされた…が近いですかね。

そう、事故です事故。

なので、こちら側に目的地なんて無いんです。

来る予定も、来るつもりも無かったので、こちらで使える金も、食料も何も用意していなかったのです」

 と、一気呵成にしゃべり出した。


 勘助は、と見ると 想定以上の話に追い付けず、口を開けて聞いている。

 その表情を見て、鷹羽は 常識外れ過ぎの話しをいきなり過ぎで、しゃべっている自分に気付く。


「…って、こんな事 信じられませんよね。 ハハ…」

 いきなりカミングアウトしてしまった事に動揺、そして後悔。


「いや、はや、びっくり。 (われ)も諸国を巡り、数多あまた不思議な話を聞き申したが、ハハ…」

 勘助としてもいきなりカミングアウトされ、動揺、そして混乱。


 何故か反応が無くなってしまった鷹羽に気を使い、精一杯 この不思議話に寄り添うネタを引っ張り出す。


「お、そう云えば豊後(ぶんご)の国で聞いた話じゃったか、

得も言われぬ美しい女性(にょしょう)が見たこともない羽衣(はごろも)をまとい、山奥を歩いていたそうな。 それも時を経て現れるそうでの。 変わらぬ姿で年を取らぬそうじゃ。

土地の衆は 人魚の肉を喰らった(くろうた)か、“時穴”が開いたか と恐れておったと…」


 じっと山本勘助を睨みつける鷹羽。

 勘助はその目線に気付き、“あれ、外したか?”の表情。

 やがて、ゆっくり 小さく頷きだす、鷹羽。

 勘助はその動きに気付き、“あれ、当たりか?どっちだ”の表情。


「時穴! そうです、時穴ですよ。私達はそれに落ちてしまったのですよ。

豊後の国、でしたっけ。 そこに行けば時穴があるんですね!」

「あ、いや。 豊後(ぶんご)だったか豊前(ぶぜん)だったか…

それに昔語りじゃったような…」

「…ハッキリしないんですね」

 非難する声である。


「…あい済まぬ」

 なんかゴメン な勘助。


「…こちらこそ済みませんでした。

改めて勘助さんに相談ですが、この生徒達を守る手は在りませんでしょうか?

自分勝手なお願いだって事は判っていますが、あなたしか頼る方が居ない…」


 あーもう、全部ぶっちゃけちゃったし、おんぶにだっこ で居直る。

 自分から探りを入れた手前、“あ、急用をおもいだしちゃった~”と逃げる訳にもいかず、思案する勘助。

 打算で動くと大損するのはよくある事、気をつけましょうね皆さん。


「ちと、尋ねるが、昨夜の光。 あれはなんじゃ?」

 お、何か思いついたのか勘助。


「あれは…」

 見せて良いか逡巡する鷹羽。 でも、ここ迄しゃべっちゃったし…


「未来の道具です。こちらには無い、強い光が出せます」

 あースマホ見せちゃった。


「ほぉ 道具とな。 道具であれば、(われ)でも使えるのかえ?」

「えーと、使えますが、寿命があるので…ここぞ、という時以外は…ちょっと」

「…うむ、良かろう。 良く(よう)そこまで明かして下さった。

様子は判り申したゆえ、共に知恵を出そうではないか」

 おぅ、山本勘助も腹くくった様だ。


 そろそろ奥で寝ていた生徒達が起きそうな雰囲気。


「皆が起きると話もしずらかろうて、(われ)の大事を手短に言うが…

(われ)は、武田家仕官を願っている(ねごうておる)

これより重鎮・板垣信方(いたがきのぶかた)様を尋ねるが、土産(みやげ)が欲しいのじゃ」

「土産と言われても、申し上げた様に金子もありませんし、目ぼしい物は何も…」

「いやいや、銭など無用。 板垣様は人を見るのじゃ。 昨夜の鷹羽先生の策略。 なんじゃったかの…“かまし” か?

あの機転。度胸。 見事じゃった」

「…止めてください。 思い出したくない」

「なに、家人(けにん)になれとは言うとらん。板垣様の屋敷迄、同道せぬか?

(わらべ)達も守れるであれば、善き策と思うがの」

「私が同行して役に立つか疑問ですが…その案、乗るしかなさそうですね。

御供します」


 取り敢えず、決着がついた様である。

 そして、この二人のやり取りを聞いていた人物が、居た。

 背中を鷹羽たちに向け、寝たふりをして聞き耳を立てていた、佐藤有希である。

 昨日の鷹羽先生、カッコ良くって、合気道師範の次くらいに尊敬しようかと思ってたのに、

 たった一人で、自分たちの秘密をしゃべっちゃって、スマホも見せちゃって、よく知らない人について行くって、言ってる。


「3つの約束、全部破ってんじゃん。 ダメじゃん」

 …有希ちゃん、大人の事情って物があるんだ。 世の中は。


―――――――――

 生徒も教師も目を覚まし、朝餉(あさげ)の時間である。

 数人の農民が(うやうや)しく鍋を持って来る。

 明らかに態度が違う。

 鍋の中身は昨夜と同じ 粟雑炊だが、野菜が入っており、味噌仕立てにグレードアップされている。

 二人の女子生徒、大草桜子(おおくささくらこ)ちゃんと小藪薫(こやぶかおる)ちゃんが鍋を覗き込み、楽し気である。


「わー、お野菜入ってる! お味噌の香り!」

「…待遇が変わった気がする。 昨日の”ジンツウリキ”の効き目かな」

 桜子ちゃんに薫ちゃん、大人の事情って物があるんだ。 世の中は。


 さて、朝餉(あさげ)も終わった。

 次に行われるのは、朝礼である。

 教師となぜか勘助さんが前に立ち、生徒たちは体育座り、吾介は生徒側のちょっと離れた所で胡坐。

 本日のスケジュール確認である。

 

 鷹羽先生が何度も説明しているが、納得しない生徒が若干名 居る様だ。


「全員で移動できないのは、判るだろ、佐藤。実際どう転ぶか判らないから、選抜メンバーなんだ」

「そんな事判ってる。 全員連れてってなんて言ってないじゃん。

何で私じゃなくて達川なのか? って聞いてるの!」

 納得しない生徒は…またか有希。


「ま、ま、 皆の衆 悪う思うな。女子(おなご)の足では辛かろうで (われ)が選んだのじゃ」

 臨時教師:勘助さんからの説明。


「な、女の子は連れていけないだろ、判るな」 

「ブー! アイツより私の方が役に立つって」

 判っていない。


「ブー! 俺の方が役に立つね、ぜって~。 だって体が違うもん」

 売り言葉に買い言葉、アイツ呼ばわりされた達川一輝(たつかわかずき)が受けて立った。


 埒が明かないと見た山本勘助が真実を述べるが一番、と本音を言う。


(まこと)を申せば、板垣様は剛の者(ごうのもの)知恵者(ちえもの)を望んでおるゆえ、武者振り(むしゃぶり)で選んだ。

鷹羽先生と秀哉は 語れば誰も知恵者と納得し、忠と一輝は武者振りが良い。

黙っておっても頼もしき若武者と成ると思わせる」

「ほーらほら。 オレわかむしゃ しゃ~」

 と達川が佐藤有希に自慢。 完全に小学生的煽り方だな。


「…でも、こいつ、馬鹿だよ。板垣様の前でゼッタイ余計な事しゃべるよ」

 有希は達川を顎で指す。


「お、お前なぁ。 誰がバカだよ。 違うからな。 あのな、えーと、人を馬鹿っていう奴がバカなんですぅ」 


 勘助さんは“え、こいつ馬鹿なの?” という顔で教師たちを見る。

 教師たちは、無言で頷いた。


第2話・光の御子 完


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