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第15話・HRで富国強兵

柔軟な発想は若さが源泉!

年取ると脳軟化症!

生徒の助けを借りるの柔軟なのか丸投げなのか、どっちだ?

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第15話・HR(ホームルーム)で富国強兵


 城西屋敷にはいくつかの広間がある。

 誰が名付けたかは判らないが、大きな広間は『第一教室』と呼ばれ、日々授業が開かれていた。

 こちらの時代に来てからも、集団生活の維持、そして 元の時代に戻っても困らない知識を得るために、可能な限り授業が行われて来たのだ。

 理数系は鷹羽、美術音楽系は中畑、体育系は古澤が担当したが、歴史は知らない方が安全との判断で除外、社会国語系は教師側の知識不足から断念されていた。

 今回、駒井政武に依頼し、現地情勢と行儀作法、つまり戦国時代の常識を学ぶ授業が行われることとなり、今も『第一教室』では明叔慶浚(みんしゅくけいしゅん)による、講義が行われていた。

 駒井政武が即行でアテンドしてきた明叔慶浚(みんしゅくけいしゅん)は飛騨、美濃、尾張、駿河などの近隣諸国に留まらず、文化の中心地 京都にも人脈を持つ、名の売れた僧侶である。

 武田晴信が再興した恵林寺に招かれ、住職として甲府に来ていた所であった。

 当時の僧侶の社会的地位は、現代の大学教授や研究機関の研究者である。

 そんな高僧が城西衆に世間常識を教えに来るという事は、今で言えば、東大京大でゼミを持っていた教授が、中学生にニュース解説をしてくれる様なものである。

 非常に贅沢な講義であるが、城西衆が若いうちに一流と言われる物、人に触れるのは良い事であろう。


 そんな講義を教室の後ろでこっそりと聞いている若い男がいた。

 体のデカい、ゴリマッチョ。教来石景政(きようらいしかげまさ)である。

 城西屋敷と明叔慶浚(みんしゅくけいしゅん)が住む恵林寺は、そこそこ離れているので、往来には警護の者が必要であり、その任に当たっているのが教来石であった。

 教来石(きようらいし)という、アニメで便利使いされそうな名は、居ついた土地、信濃との国境(くにざかい)の甲斐国巨摩郡(こまぐん)教来石村に由来する。

 もっと先を辿れば、巨大な独楽(こま)の様な光る石が飛んできた土地 という伝説…は、無い。 (騙されない様に…)

 現在の地名では山梨県北杜市白州町、入手困難で有名な『サントリーシングルモルトウイスキー白州』の生まれる土地である。

 彼らの血の基を辿れば美濃守護土岐氏(ときし)の流れらしいが、現在では甲斐辺境の武士団の若頭である。

 信虎時代に武田家に入ったが、まだまだ外様扱いで、古参から陰では山猿と呼ばれている。

 他国からは甲斐の者全てが“山猿”と呼ばれているので、目糞鼻糞を笑う状態なのだが、嘆かわしい限りである。

 武田家臣団の中の立ち位置、そしてヤンキーの当て字の様な教来石(きようらいし)と城西衆が作ったビュンビュン丸(投石器)の親和性から、景政は城西衆に対し一方的なシンパシー(同情・共感)を抱いていた。

 今回の護衛の任を振って来た駒井からは、城西衆は大陸から来た外国人と説明されていた。

 実際、当初は城西衆の言葉の半分は意味不明であったが、彼等の物怖じしないコミュニケーション力そして、順応力を身近に見聞きするうちに、本格的な好意となり、今や城西衆の兄貴分の意識である。

 今日の講義も生徒たちからは明叔慶浚(みんしゅくけいしゅん)に、“なぜ女性の社会的地位が低いのか?”や “戦争の被害は判っているのに、なぜ話し合わず、武力で解決を図るのか?”等々の、根源的(プリミティブ)な質問がぶつけられ、高僧を追いつめる姿に内心 拍手を送る教来石(きようらいし)であった。


――――――――――――

 戦国時代の常識講座が終わり、和尚さんと護衛の人を送り出し、本日の授業終了である。

 城西衆だけになったところで、古澤が司会進行となってHRホームルームが開始された。


「はーい、この前 皆に宿題としていた“この国を豊かにする方法”考えてくれたかな?

これからみんなの意見を発表して貰うけど、守ってほしい事がありまーす。

その1、人の意見をバカにしたり、笑ってはダメですよ。

その2、ジョークみたいなアイデアでもOKです。恥ずかしがらずに、発表しましょう。

その3、いっぱい発表しましょう。

その4、人の意見に乗っかってもOKです。どんどん発展させましょう。

では、意見のある人 手を挙げて!」


 一応、ブレインストーミングの4原則(批判厳禁、自由奔放、質より量、連想と結合)に則って進行する古澤であるが“この国を豊かにする方法”って、中学生に出す命題であろうか?

 この命題は元々、鷹羽が山本勘助から突き付けられた“相手を萎縮させる武力か、納得させる土産”の変化形である。

 投石器(ビュンビュン丸)は一応形になったが、それに続く筈の火薬やエタノールは諸事情により、生産停止中であり、行き詰った状況を中学生の自由な発想で打破しようという目論見であった。

 好きな晩ご飯を聞く様な軽いノリで始めたが、命題がザックリし過ぎたのか、壮大過ぎるのか、生徒たちは顔を見合って、誰も手を上げない。

 鷹羽は やっぱり、生徒に丸投げはダメか。 と諦めかけながら、ある事を思い出し、手を挙げた。


「え? …鷹羽先生、どうぞ」

「この中で算盤(そろばん)できるヤツはいるか?」


 意見発表の場でいきなり掟破りの質問かよ! それも教師が!

 の表情で古澤が睨む。

 しかし“この国を豊かにする方法”より“算盤が出来る人”の方が答えやすい事は確かである。

 生徒の中で数人の手が挙がった。


「ハイハイ、私 得意!」


 歩く掲示板、中林巴ちゃんが勢いよく手を振る。

 彼女は老舗和菓子屋の娘で、幼少より算盤を習っていた。

 今や時代遅れと思われる算盤であるが、算盤をやっていると暗算も得意になるので、商売をしている家では今時でも有用なのであろう。


「何すればいいの! 退屈してたからウェルカム!」


 巴ちゃんが犬であったら、尻尾ブンブン状態である。


「えーとな、こっちの人にだな、算盤を教えてあげたいんだけど、先生 電卓しか使えないんで…」

「やるやる!」


 喰い気味で参加表明する巴である。

 もう一人、おずおずと男子 深井誠(ふかいまこと)君が手を上げた。


「お、誠。 君も算盤教室で講師やりたい?」

「はい、やりたい。ただ、教室やるんだったら、欲しい物があります」

「お、いいねぇ ブレスト 回って来たねぇ」


 古澤先生も嬉しそうである。


「うん、欲しい物って、何だ?」

「黒板と大きい算盤!算盤教室には絶対必要です」

「なるほど…準備しよう」


 何かに気付いた優等生、明野君が手を上げ

「はい、先生!黒板は作れると思うけど、チョークは?」

「おっと、そうだ。この時代にチョークは売っていなかったか…」


 隠れた理科系、大林渉君がブンブンと手を振りながらアピール。

 硝石製造では泣きが入っていたが、本来は彼の科学センスも中々な物である。


「でもチョークは石灰だよ!山梨には石灰はあるよね。それに貝殻とか卵の殻なんかを混ぜて焼いて、水に溶かして固めると出来る筈!」

「大林、良く知っていたな、ナイスな知識だ。早速 手配して試作してみよう!」

 と鷹羽。


「へー、チョークって羊羹みたいに作れるんだ…」

 と巴ちゃんが和菓子屋の子ならではの納得をするが、微妙に違うぞ。

 それと、彼女を講師としてこちらの時代の人々と接触させるのは、情報漏洩のリスクが高いと思われるが 如何であろうか。


「さぁー 次ぎないか?他ないか! “この国を豊かにする方法”は?」

 古澤、市場の競りの様な進行である。


「ハーイ、作って欲しい物がありまーす」

 特技合気道、格闘系女子の佐藤有希ちゃんが挙手。

 思わず受け付けてしまう古澤だが、“この国を豊かにする方法”に対し、自分の欲しい物を要求する

彼女はフリーダムである。


「シャーペンの芯がそろそろ切れるので、先生作ってください」

「あ!それなら、フェルトペンのインク切れちゃったの治せますか?」

「私も赤ボールペンのインク、それと消しゴム作れませんかー」


 有希ちゃんの要求が切っ掛けとなり、薫ちゃん、桜子ちゃんたち 女子部が声を上げた。

 なぜか皆さん筆記用具が御望みだ。


「バカかお前ら。墨と筆があるんだから、それで良いじゃん。それにそんな物、先生に作れるはずないだろ!」

 達川一輝君が普段、有希ちゃんにバカ扱いされている事への反応で突っ込む。


「人の意見をバカにしちゃダメって言われてたでしょ、一輝は先生の話 聞いていないからバカって言われるんだよ」

「衣装を仕立てる時はフェルトペンがマーク付けやすいの!」

「筆は難しいんだよ。字が汚いと書く気が無くなっちゃうでしょ。達川君は字を書かないから判らないんだよ…」

 さっそく、有希ちゃん以下女子部から、速攻の反撃を喰らう達川君。

 脳筋は火中の栗を拾い易いのであった。


「まーまー皆さん お平ら(おたいら)に。鷹羽先生、色々と欲しい物リストが出てきましたが、いかがでしょうか?」

 MC古澤先生がにこやかに捌く。体育教師というより、若手芸人の様である。


「そーかー、字が汚いと書く気が無くなるのは真理だな。

…でも達川の指摘通り、シャーペンの芯もフェルトペンもボールペンも、今の技術では無理だなぁ、申し訳ない…」


「先生、先生!鷹羽先生!!」

 春日昌人が手を振ってくる。


「ナポレオンだよ!

ナポレオンは将校に持たせる為に“えんぴつ”を発明したんだ。ナポレオンの時代でできたんなら、鷹羽先生作れるでしょ!」

 伊達にミリオタをやっていない春日君の、色々と間違っているが熱意と着想は中々な意見である。


「黒鉛と粘土を混ぜて焼き固めると鉛筆の芯が出来るって、読んだ気がする」

 大林君が立ち上がって発言した。

 先程のチョーク製造法と言い、君はトンボか三菱か? (※1)


「大林、スゲーな…

今でも、墨と陶器が作れているから、原料はありそうだな。

よし、チョークと黒板と鉛筆、そして算盤、こっちの世界でも作れるか試してみよう。

成功したら皆で学校つくるぞ!」

「オー!!」


 高揚感と達成感を得てHR(ホームルーム)は終了したのであった。


 ※1:トンボ鉛筆も三菱鉛筆もチョークは製造した事は無い。ちなみにトンボ鉛筆とトンボ学生服、三菱鉛筆と三菱重工業も、何の関係も無い。


――――――――――――

 その日の夜、鷹羽は自室でプレゼン資料を作製していた。

 HRホームルームで出た、鉛筆製造などのアイデアを山本勘助や駒井政武へ献策する為に、必要と思われる材料、技術、そして効能をまとめていたのである。

 相手が山本勘助であれば、テンション上げて勢いを付ければ巻き込める自信があったが、駒井政武は難敵である。

 言葉、一言づつ確認されるので、提案書が必須であったが、筆に悪戦苦闘していた。


「確かになぁ…大草が言う通り、筆はムズイよなぁ。自分の書いた字が読めないと書く気 失せるよなぁ…

あ、そうか、鉛筆の必要性はオレの字を見れば、納得してもらえるか…」

 と、悲しい独り言を呟いている所にノックの音がした。


「中畑でーす。よろしいですかー」

「おーいいぞ、なんだ?」


 戸を開けて中畑、古澤の二人が顔を覗かせる。

 中畑はおやきを乗せたお盆を持っている。


「夜食のおやき作ったので…

それと、さっきのHR(ホームルーム)では言いそびれたんですけど、提案した方がいいかなぁ て、思う事がありまして。

…甲斐の国では“金”が取れるって、御存じですよね?」

 と、中畑が話始める。


「?いいえ…全然…」

 鷹羽も古澤もおやきを咥えたまま首を振る。もちろん、横にである。


「ふぅ、そこからか…えーとですね、この国では金が取れるんです。“甲州金(こうしゅうきん)”って言われていて、割と有名なんですけどねぇ」

「この国は“甲斐(かい)の国”でしょ?」

 古澤は不可解な事を言うな という顔で抗議する。


甲斐(かい)の国が在る地域が甲州(こうしゅう)なのよ…信濃の国がある地域は信州。判りました?」

 中畑は今更の事を聞くな という顔で講義する。


「ゴメン、念の為で聞くけど、“金”ってゴールドの事だよね?」

 怒られそうなので先に謝っておく鷹羽である。


「ゴールドに決まってるでしょ、黄金です」

「えぇ!勘助さんや駒井さんからは甲斐は貧乏だ貧乏だ って聞いていたのに、黄金の国・ジパングなんですか?超金持ちじゃないですか~」

「古澤先生、声大きい。それにテンションおかしい。…いいですか、話はこれからなので。

黄金が取れると言っても、今は少ないらしいんです。秘密の話なので、詳しくは判らないんですけど…」

 鷹羽も古澤も話に引き込まれている。


「有名な金山は富士山付近と多摩川上流にあった筈なんですが、今は富士山付近しか掘っていないみたいなんです。

新しく金山が見つかれば、この国も助かるんじゃないかなぁ て、思って…」


「美月先生! スゴイじゃないですかぁジパングですよ!こういうヤツ、何て言いましたっけ?“上腕二頭筋”みたいなヤツ」

「それが事実なら最高のタイミングだなぁ。うちらからの提案は金の掛かる事ばっかりだって、駒井さんに嫌味言われてたんだ。

今回の学校開設計画と合わせて金山情報を出せば、話が通りやすい」

 古澤は貴金属に弱いらしく、なぜが興奮し唐突的な問いかけを発したが、鷹羽にはスルーされた。


「…“ジョウワンニトウキン”…一攫千金(いっかくせんきん)じゃないですか、それ。 キンしか合ってないですよ」

 ちゃんと拾ってくれる中畑先生、優しい…。


 夜も更け行く城西屋敷で、未来人の知恵と知識を結集した、領民の基礎教育カリキュラムと、新財源を合わせた富国強兵策を、着々とまとめる鷹羽たちであった。(おやきを食べながら…)


 第15話・HR(ホームルーム)で富国強兵 完


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