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第94話・香山の言い逃れからのぉ~宴会の日々

今川からの逃亡を図った藤堂三虎。

取り敢えずは海難事故として処理された様ですが…それで済むはずは無いですよねぇ。

主役の城西衆を放っておくのも何ですが、今はこっちの方が気になるんだからしょうがない。

と、言う事で今回も今川から見ていきたいと思います、ヨロです。

戦国奇聞!(せんごくキブン!) 第94話・香山の言い逃れからのぉ~宴会の日々


 ここは駿河今川館に程近い臨済寺である。

 臨済寺は僧侶であり駿河国主今川義元(いまがわよしもと)の学問の師でもある太原雪斎(たいげんせっさい)が建立した善得院を基とし、拡張を重ね後背地の賤機山(しずはたやま)城も取り込み、今や軍師雪斎を守る雪斎党の城となっている事は前話でお伝えした通りである。

 その臨済寺境内の塔頭(たっちゅう)の一室では城西学院中等部教頭であった香山誠(こうやままこと)と伊賀上忍藤林保豊(ふじばやしやすとよ)、そして藤林配下の双子の忍者世碌(よろく)護碌(ごろく)が密談をしていた。

 いつもの様に碌な話では無いと思われたが、今日の話題は半月ほど前に遭難した戦時補給船についてである。

 補給物資と共に鉄砲隊の交代要員も遭難したのであったが、世碌・護碌のしつこい調査により色々と怪しい情報が上がって来た。

 まず 火薬の在庫が殆ど無くなっていた。

 鉄砲隊の補給量にしては多過ぎる持ち出しである。

 次に津渡野(つどの)で解雇され近隣の里に帰った筈の鉄砲鍛冶多数が行き方知れずとなっていた。

 同様に藤堂三虎の姿も見えない。

 鉄砲隊の冷遇に不貞腐れ、近場の賭場に入り浸っていると思い気にしていなかったのだが、流石に半月経つと気になり方々探したが行方不明であった。

 止めは遭難した筈の鉄砲足軽が色街で豪遊していたのだ。

 ふん捕まえて吐かせると楯岡道順(たておかどうじゅん)に国に帰る様言われ、大金を渡されたとの事。

 報告が終わり “どうだ” と得意げに顎を上げる世碌に対し、リスク感度が低い藤林は “はて?” の表情で答えた。

 良くこんなんが上忍をやっていられるな と思いながら護碌が想定される厄介事を解説し始めた。


「海で溺れ死んだ筈の鉄砲足軽が、道順が出した軍資金で豪遊していたんだぜ。

船に乗った人数は確かなんだから、足軽の代わりに誰が乗ったのか?

津渡野では鉄砲鍛冶が消えている…まだ判んねぇのか?」

「道順も絡んでいる…と言うのか?」

勿の論(もちのろん)だろ。 三虎と道順、二人とも姿が見えねぇ…逃げたんじゃねぇか?」

「…え?…どこへ?」

「知らねぇよ。それより鉄砲六十丁とありったけの玉薬、それに鉄砲鍛冶を連れて逃げたとすると…

何処かで一旗揚げる気かもしれねぇな。

どっちにしろトンデモねぇ謀反だろうが」

「…雪斎様にバレては居らぬか?」

「さぁな、三河攻めで忙しいらしいからな。

しかしだ まだ気付いて居らんでも耳聡い坊さんだからな…(いづ)れはな」

「バレてない内に儂らも逃げるか…」


 今まで黙ってやり取りを聞いていた香山が始めて発言した。


「馬鹿か 伊賀に逃げても解決に成らんぞ。

いいか、一番駄目な事は上司に不都合を隠す事だ。

不都合ってやつは下には隠し、上には人のせいにして真っ先に報告するんだ。

これが組織で生き残る法則だ、覚えて置け」


 香山は城西学院でのモットーを開陳した。

 そこには中間管理職として響くものがあったのであろう、藤林が深く頷いた。

 そして迷いの無い声で世碌・護碌に宣言した。


「此度の不都合は三虎、道順の(はかりごと)。我らは(あずか)り知らぬ事である!」


 呆れ顔の世碌・護碌を代弁する様に香山が口を開いた。


「馬鹿か そんな言訳が通用すると思っているのか?

必要なのは説得力! つまり正確な情報だ。

逃亡したと思える鉄砲鍛冶と足軽、簒奪されたと思われる資材、それに因って影響を受けると思われる事象。

それを早急にまとめて雪斎様や周りの者が怪しみ出す前に報告に出向くんだよ!」


 世碌は香山の言葉に頷きながら言葉を添えた。


「まずは最近の道順の足取りでも辿って見るか?

俺たちが知らねぇ用事を雪斎様が言付けてた様だからな」


 今度は世碌の言葉に相槌を打つように香山が答えた。


「おぉそれだ!

三虎と河越辺りでコソコソ動いていたな。

出来れば雪斎様が招いた不祥事…と責任を押し付けれられれば万全だ」

「御意」


 世碌・護碌が言訳の材料を探すべく部屋から消えた。


―――――――――

 雪斎が居るのは遠江(とおとうみ)(現在の浜松辺り)であった。

 (いくさ)の前線は三河であるが、隙あらば寝返りかねない奥平や鵜殿といった三河の国衆に目を配りつつ、本国駿河と連絡・補給を絶やさない為には中間点である遠江に遠征軍司令部を置いているのである。

 上洛軍でもある三河遠征軍は今川義元が率いるのが本来なのであろうが、義元は今川館に鎮座し内政に専念していた。

 武将としての義元はまだまだひよっこなので大事な戦は雪斎が指揮を執っており、今現在も織田と小競り合いを繰り返している松平広忠(まつだいらひろただ)の救援要請に対応している所であった。

 そんな超多忙な雪斎に報連相するべく、香山は藤林を連れおっかなびっくり訪ねて来た。

 陣屋として接収した寺院の僧房に通された香山は少しやつれた雪斎と対面した。

 香山の後ろで緊張した顔の藤林を見ると雪斎は人払いをして香山たちに声を掛けた。


「文では無くわざわざ訊ねて来たは…何か良からぬ事だな?」

「は!仰せの通りで」


 香山はおずおずと調査結果を報告した。

 逃亡したと思える鉄砲鍛冶と足軽、簒奪されたと思われる資材、それに因って影響を受けると思われる事象…

 淡々と報告を続け、二心が無い事をアピールする香山と藤林である。

 報告が一段落した所で瞑目して聞いていた雪斎へ香山が訊ねた。


「念の為にお訊ね申しますが…道順めに身の程を間違えるような御役目を御与えに成りましたでしょうか?」

「道順は儂の命で坂東の使いとしていたが…それが謀反の芽となったと申すのか?」

「否 そうとは申しませんが、もしやと思い小田原の北条様、古河の公方様に探りを入れて御座ります。(得意顔)

…敢えて雪斎様の名は出さず “道順は海で死にましたが方々との(よしみ)を繋ぎたく” と探りました所(更に得意顔)」


 得意顔が鼻に付きながらも結果を促す雪斎。


「三虎が貸出すと約して居った鉄砲隊はどうなったか、と北条、公方双方から念押しされ申した」

「ふむ…北条、公方どちらも鉄砲隊を欲しがり貸し出すと約束までして居ったと?

坂東では思いのほか鉄砲が気に入られた様じゃな」


 雪斎は顎を摩りながら考える目をした。

 香山は恐る恐るだが 更に三虎謀反はアンタのせいと仄めかす。


「以前より怪しき動きをしておりました二人でしたが、雪斎様のご指示で坂東勢に罠を仕掛けておるのでは? と愚考し 三虎共の動きも目を瞑っておりました。

が、流石におかしいと思い今川の重役の方々に報告しようかとも考えましたが、まずは雪斎様に確かめるが先と。

また “(はかりごと)(みつ)なるを()しとす” と申しますれば、直接のご報告をと罷り越しました次第。

慎重過ぎましたでしょうか?」

「…それで良い」


 雪斎は顔を顰めどう動くべきか考えた。

 三虎が離反したとなればそれは雪斎党の不祥事である。

 あるべき姿は寿桂尼様と義元様に報告し善後策を検討する物であろうが、まだ若く醜い者怪しき者を忌み嫌う義元は三虎の追討と香山たちを連座で罰するであろう。

 これが表に出れば雪斎の統制に(ひび)が入り、惹いては他国の侮りを受けるやもしれぬ。

 ここは三虎離反の不祥事は隠し事を進めた方が良いと考えた。


「鉄砲隊は最近家中より嫌われて仕舞ったでな。

この上謀反人が出たとなれば鉄砲足軽が成敗されてしまうわ。

となれば領内に置いておくは危ないゆえ、あの者たちは一時 氏康(うじやす)殿が許に送るが良かろう」


 律儀な藤林が律儀に確認する。


「では…公方様にも鉄砲隊を御貸しに成られますか?」


 雪斎は小首を傾げつつ ふっと口元を緩め


「古河公方が新しい玩具をどう使うか興を誘うが…これをやると北条への嫌がらせと成るか?」


 香山は雪斎の表情を読み悪だくみを思い付いた様である。

 こちらも口元を緩め。


「ならば北条様に下駄を預けてみては如何でしょうか?」

「どういう事じゃ?」

「公方様も切望されていたが…とお知らせした上で氏康様に鉄砲隊を貸し出しなされよ。

又貸しされても構いませんが…と言い添えて」

「…香山は底意地が悪いのう、ふふふ」

「いやいや お褒めいただくには及びませぬ。

所で…」


 三虎の逃亡について処罰されなそうだと感じた香山が、火薬の扱いについての相談に移った。


「鉄砲隊を派遣するにしても玉薬のストック…否 備えが心許なく。

博多、堺に買い付けを出しましたが目途が立って居りません…」

「ふむ玉薬か…甲斐の城西衆とやらが作れると三虎が申して居ったな。

三虎はどこまで仔細を掴んで居ったのか存じて居るか?」


 答えに窮した香山に代わり藤林がたどたどしく答えた。


「城西衆の神宮寺なる者が秘伝の書を持って居る…と掴んでおります」

「そこまで判って居れば…藤林の力があれば出来る事もあるであろう?

先ずは玉薬を譲って呉れぬか儂が文を書くゆえ藤林、其方(そち)が山本勘助が許に持って参れ。

確か懇意であったであろう?」

「はぁ…(それがし)で御座りますか?

玉薬を調達させるのであれば…義元様より武田晴信(たけだはるのぶ)へ援軍を要請していただければ宜しいのでは?

また山本殿への使いであれば伯父君(おじぎみ)で在られる庵原(いはら)様が適任ではと…

あ、嫌で申しておる訳では御座いませんが」


 意図を察した香山は藤林に向かい “そうじゃない” と手のひらを振るが藤林は気付かない。

 雪斎は藤林の鈍さに苦笑しつつ教え諭す様に


「短期であればその通りであろう。

じゃが三虎の動きそして北条やら公方の願いを聞き、流れが読めたでな。

玉薬こそがこれからの肝じゃ。

我らは作れず武田は作れるのであれば、急所を握られて居るに等しい。

藤林其方(そち)を送るは伊賀者を堂々と甲斐に入れる為ぞ、それが何を意味するかは…判るな?」


 藤林はやっと “武田から秘法を入手しろ” との指示と理解し頭を下げた。

 その頭に向かい雪斎は被せて


「二心の無い事を儂に示してくれる事を期待して居るぞ」

「ははぁ!」


―――――――――

 小田原城 二の丸に近い馬場である。

 囲いに入れられた十頭ほどの毛並みの良い若駒を男たちが品評している。

 傍らには幕が張られ身なりの良い若者が床几(しょうぎ)に座り談笑してた。

 若者は北条氏康(ほうじょううじやす)で新たに買い入れる馬の選定中なのであった。

 そこへ商人の様な身なりの男を連れた小姓が近づき何やら言上した。

 氏康は頷くと商人を側に招き寄せ声を掛けた。


良く来た(よおまいった)。 其の方(そのほう)は確か…護碌(ごろく)であったな」

「覚えいただき恐悦(きょうえつ)に存じますが…世碌(よろく)で御座ります」

「…見分けが付かぬわ。 儂に会う時は額に名を書いて来い。

で、道順が乗った船の切れ端でも打ち上がったか」

「否 一向に」

「まぁその様な事はどうでも良いが…鉄砲隊が事は如何となった?」

「五十人が程 ご用意致すよう話しを付けて参りました」

「おぉ出来(でか)した。 これで色々前に進む」

「ことろで氏康様は鉄砲隊で何を御遣(おや)りに成られるので?」

「聞いてどうする。鉄砲隊に傷が付かぬか心配か?」

「いえいえどう使っていただこうとも…只 鉄砲隊は公方様も御所望でありまして。

それに関しては…雪斎様より耳打ち事が御座りますが」

「…近う寄れ」


―――――――――

 一方甲斐武田へのアプローチは大外交団による正面からの参戦要請であった。

 外交団代表は義元の弟で元那古野(なごや)城主 今川氏豊(うじとよ)である。(※1)

 雪斎は伊賀の上忍藤林に外交団を率いて甲斐に行けと言わんばかりであったが、流石に出入り業者を外交団長には出来なかったのであろう。

 京の都で燻っていた氏豊を呼び戻し、煌びやかに着飾らせ甲斐に送り込んだ。

 氏豊は多数の土産を持った荷持(にもち)を引き連れ、仰々しい行列で甲府躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)を訪れた。

 しかし雪斎党(香山)が那古野で吉法師を暗殺し、その罪を武田の八幡隊に擦り付けた事を雪斎が知らない筈は無い。

 その上で氏豊を持って来るのは傷を穿(ほじく)るに等しく、晴信を試すような嫌らしい起用である。

 表向き慇懃に今川が要求して来たのは飯富(おぶ)と板垣の参戦であった。

 河越の前哨戦、河東派兵で活躍した飯富(おぶ)の騎馬隊と板垣の飛丸隊を是非にも貸して欲しい。

 大量の雷玉と共に織田に当たって貰えれば三河の勝利は間違いなし!

 と言うのが今川の要求であった。

 京から取り寄せた珍奇な品々を贈られ(おだ)てられても、腹に一物ありそうな要求はホイホイと飲める物ではない。

 飯富・板垣衆の河東での軍事行動は今川方と口裏を合わせたパフォーマンス披露であったが、三河・尾張はガチの戦である。

 それも武田に嫡男(吉法師)を殺されたと思い込んでいる織田は、最大級の復讐の念で立ち向かって来るであろう。

 あらゆる怨念を一身に受けて城を取っても敵を蹴散らしても、武田は今川軍の先兵でしかない。

 武田としては美味しい所は殆どないのである。

 何かと理由を付けて体良く断ろうとしたが今川氏豊は意外に粘り腰であった。

 “まぁ話だけでも” と新手の土産物を手品の様に取り出しては条件の擦り合わせを繰り返して来た。

 この不撓不屈(ふとうふくつ)とも呼ぶべき しつこさ と めげなさ があれば織田信秀(おだのぶひで)なんぞに城を乗っ取られたりしなかったのでは…とも思えるが、挫折を経験し一皮剥けたのかもしれない。

 それともう一つ しつこさには訳があった。

 荷持(にもち)役で送り込んだ藤林と配下の伊賀者に玉薬(火薬)製法を盗み出させるのが雪斎の本来の目的である。

 国家機密を奪取するのは込み合うスタバの席取りで置いておくスマホをパクるほど簡単ではない。

 …この例えは日本固有かもしれんが、兎に角それなりの前準備と最適な実行時期というものがあるのだ。

 ゆえに外交調整…というか宴会合戦を長引かせ時間を稼ぐ必要があったのだ。


―――――――――

 城西屋敷である。

 今川…というか雪斎の裏の目的には思い至らない武田首脳部は、表での宴会が終了した後 夜更けにも拘らず、御経霊所吽婁有無(オペレーションルーム)で内々の打合せを開いていた。

 メンバーは武田晴信、甘利信忠(あまりのぶただ)、秋山十郎兵衛(じゅうべえ)駒井政武(こまいまさたけ)に山本勘助のいつもの面々に諏訪上原城代の武田信繁(のぶしげ)も加わっていた。

 “宴会していただけじゃねぇか” と思うかもしれないが外交団相手の公式な(うたげ)であるから仕事である。

 それに引き続きの打合せであるから、最近の流行りであるワーク・ライフ・バランスなんて知ったこっちゃ無い過重労働である。

 彼らはどこかの国の宰相の様に “働いて働いて働く” のであろう。

 選ばれた精鋭(エリート)としては見上げた心意気ではある、と言っておこう。

 …が、不満そうな表情の者も混じっていた。

 夜更けに叩き起こされ参加を強要された城西衆教師の面々である。

 今や主役から準レギュラー落ちした感がある理化学教師:鷹羽大輔と突破力抜群な音楽教師:中畑美月の二人だ。

 もう一人コミュニケーションお化けな体育教師:古澤亮は美濃へ長期出向中で不在である。

 テンションの低い二人を置き去りにしつつ深夜の会議は進行する。

 議長である晴信からテーマは “織田攻めの援軍要請をどう断るべきか” であると告げられ、次に軍師勘助に状況分析と対応案の発表が求められた。

 勘助は立ち上がると疲れを感じさせぬ声で


「御指名を受けましてこの “軍師勘助” が日本(ひのもと)の情勢と御屋形様の進むべき道をお話しいたしましょう。

まず長らく続いた鎌倉幕府が執権の独断を打倒(うちたお)した足利尊氏公(あしかがたかうじこう)が…」


 と、室町幕府初代将軍:足利尊氏からの歴史を語り出した。

 歴史は流れの理解が重要ではあるが足利尊氏から始めると200年以上の紆余曲折である。

 暫くの間は皆辛抱強く聞いていたが話しが応仁の乱に差し掛かった辺りで、美月が目を(しばたた)かせながら手と声を挙げた。


「あのぉ長いんですけど…後どれ位掛かるんでしょうか?」

「あのな美月、世の流れと言う物はな…」

「今日はちょっと疲れが溜まっていて、何ていうか 勘弁して!って感じなんですよ」


 話は前後するが神憑りの巫女として名を馳せた中畑美月は、大祝(おおほうり)の諏訪頼重(よりしげ)をサポートする名目で真田屋敷に入り浸っていたのだが、今川対応の御託宣をせよと 無理やり呼び戻されていたので、若干機嫌が悪いのであった。

 勘助と美月があーだあこーだと更け行く夜に揉めている所で “グウ~” と誰かの腹が鳴った。

 皆が犯人捜しで見渡すと鷹羽が顔を伏せた。

 甘利が鷹羽にツッコもうとした所で今度は御屋形様 晴信の腹も威勢よく音を立てた。

 今なら “Uber Eats で、いーんじゃない?” だが、残念ながらここ甲府では対応している店舗が無かった。(そこじゃない!)

 御経霊所吽婁有無(オペレーションルーム)の窮地を救ったのは吾介の妻『たね』さんの声であった。


「お夜食の餺飥(ほうとう)を持って来ただに。 御屋形様の味付けだでたんと喰っちょし」


 良い香りの大鍋が運び込まれ、中を覗き込む皆に晴信が得意顔で


「味噌を使う様 儂が工夫を凝らしたのじゃ、ささ喰うてみよ」

「ほう 御屋形様が料理を為さるとは意外な」


 と和気藹々(わきあいあい)であった鍋の側から、美月が不意に口を抑え室外へ出て行き『たね』が慌てて後を追っていった。

 晴信は自分の味付けが合わなかったのかと腰を浮かし後を追おうか思案している様子であるが、他の男どもは気にも留めていない様であった。

 その中で一番年若の信繁がポツリと


「もしかすると赤子(ぼこ)では…」


 その声に “( ゜д゜)ハッ!” とする一同。

 途端にガヤガヤと 誰の子じゃ? そりゃ幸隆殿に決まっておるじゃろ 等の声が飛び交った。

 暫くして一人戻って来た『たね』に勘助が声を掛けた。


「美月は如何した?」


 皆の注目を受けた『たね』は事も無げに


「お子が出来たずら…目出度いじゃんね」


 一拍の間の後御経霊所吽婁有無(オペレーションルーム)響動(どよ)めいた。


「おぉぉ、酒じゃ 酒を持て!」


 更に騒がしくなった室内で晴信がふと信繁に目を移し訊ねた。


「信繁其方(そなた)若いのに良く見抜いたな…左様に女子が好きであったか?」

「否…その様な事では…実は湖衣が同じ様な有様で」

「…なんと! 皆の者信繁に子が出来たぞ!」

「は?…あちらもこちらも目出度い事じゃ。 今宵は夜通しで祝いじゃ、酒じゃ 酒を持て!」


 と、今日の議題はなし崩し的に棚上げとなったのである。

 取り敢えず厄介事はうっちゃって武田家中の祝い事だ。

 これで暫くは外交団への回答期限は伸ばせるであろう。 (これでいいのか?)


第94話・香山の言い逃れからのぉ~宴会の日々 完


―――――――――

※1:

 今川氏豊については第58話や第62話で少し触れてはいますが可哀想な子なのです。

 氏豊は駿河今川家より今川那古野氏へ養子に出され那古野城の城主となっていたのですが、織田信秀にあっさり城を乗っ取られてしまいます。

 その手法はと言うと、

 信秀は氏豊の趣味に取り入り足繫く那古野城に通います。

 オタク仲間として信用を得た信秀は那古野城内で仮病を使い “もうダメだ…遺言をしたいから家臣を呼んでくれ” と情に訴えるのです。

 同情した氏豊は織田家臣団を城内に入れてあげます。

 すると信秀は引き入れた手勢を使って城に火を放ち城を乗っ取ったのでありました!

 …何というか仮病で騙す方も騙される方も、子供っぽいと感じませんか?

 調べてみたら織田信秀(27)が今川氏豊(16)を騙した と言う事で、分かりやすく言い換えれば、怖い物知らずの若者が世間知らずの子供を騙した とすごく納得できる事案ですね。

 まぁ信秀にしても氏豊の命は取らず京都に逃がしてあげる訳ですから、寝首を搔き合う時代にしては微笑ましい出来事と言っておきましょう。


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