第1話・タイムトラブル
戦国奇聞! 第1話・タイムトラブル
曇天の中央高速道路を2台の大型観光バスが走っている。
先頭のバスのフロント掲示には『私立城西学院・中等部 1号車』の文字が見える。
中学校の社会科見学の御一行である様だ。
車内を覗いてみると、ブレザーの制服姿の子供たちがお行儀良く…と、言えばいえるか?位の感じでお座りしている。。
前方の席から引率の教師3名、男子生徒、女子生徒の順に座り 生徒それぞれのグループで楽しそうに ワイワイおしゃべりしている。
中には黙り込んでアンニュイに窓の外を見ている子も居るが…乗り物に弱いのであろう。
先頭の男性教師が 窓の外、進行方向に黒い雲が広がっているのを見つけ小さく声を上げた。
「あら~、ヤバイな~」
城西学院中等部 理科教諭:鷹羽大輔33歳である。
その声にもう一人の男性教師が気づき 怪訝な顔で声を掛けた。
「鷹羽先生どうしました」
城西学院中等部 体育教諭:古澤亮26歳である。
鷹羽は古澤に答える様にバスの外の黒い雲を指さす。
「あれ、あの雲。絶対雨になるな」
「あ、本当だ。 昇仙峡では降られないといいですけどねぇ」
「オレ、雨男なんだよな。黙ってたけど」
と鷹羽が指先で頭をかく。
「あれ、そうなんですか? 大丈夫ですよ。僕、晴れ男ですから。それより、3号車の事、聞きました?」
「?知らない」
古澤は隣の席で行程表を確認している女性教師を肘でつつき、 “報告は?” と小声で確認する。
突っつかれた女性教師は前席を覗き込む様に立ち上がり、事務的に報告しだした。
城西学院中等部 音楽教諭:中畑美月23歳である。
「教頭先生の3号車、急病人が出て病院に立ち寄るので、遅れるそうです」
「…どこ情報、それ?」
「藤堂先生情報…です。さっき私にLINE来ました」
ふーん分かったと納得しかけたが、不意に学校ルールを思い出した鷹羽先生。
「なんで1号車の管理者のオレに連絡来ない訳?」
「…だって、教頭先生はLINE使えないし、あっ、鷹羽先生もLINE使えないんでしたっけ?それでじゃないんですか」
中畑先生は “私に文句言われても困る” の顔。
それはそうだが、LINEの問題ではないと思うが…
「あのね、オレは使えないんじゃなくて、使わないの。…て、もういいよ。状況解ったから」
鷹羽先生も “君に文句いってもしょうがないけど” の表情であるが…LINEの問題なのか?
ごくごく普通?の会話を繰り広げながら、バスは一路 前方の巨大な黒雲に向かって疾走して行くのであった。
暫くすると案の定というか、予想以上というか、ワイパーが高速に動いていても景色が歪んで見える程の豪雨。
おまけに雷で真っ黒な空が時々白くなる。
昇仙峡は土砂降り確定の様だ。
暗い顔で鷹羽が呟いた。
「やっぱりな…雷まで鳴ってるし」
「鷹羽先生、雨男強すぎでしょう…ここまで降らさなくてもいいですよ」
古澤が軽く非難する。
「イヤー別にオレが降らしたくて降らした訳じゃないんだけどね…」
と軽く反論しようとした刹那
強烈な光! 一瞬遅れて轟音!
――――――――――――
山深い谷川である。
そこに強烈な光! 一瞬遅れて轟音!
山びこが轟音を川沿いに流してゆく。
…光が止んだ場所に大型バスが出現している。
『私立城西学院・中等部 1号車』だ。
運転席側は大きな岩がフロントガラスを突き破り大破している。
反対側、出入り口側は無事の様だ。 が、何か違和感を感じる。
更によく見ると、車体の中央から後ろが無い。
車内は皆、気を失っているのであろうか 妙に静かだ。
後部がスッパリと失われている為、大きな開口部から光が入り、車内は良く見えている。
今は最後部となった 元中央付近から呻き声が聞こえ、それはやがて女子の悲鳴となった。
その悲鳴が目覚ましとなり、周囲も意識を取り戻し出す。
車体前方に居た古澤も薄っすらと目を開けた。
生徒の悲鳴に教師としての意識が反応したのだろう、咄嗟に声のする方向へ体が動くが、
“うっ!いててて…”
彼もどこかにぶつけたのか頭を押さえて動きは止まった。
それでも
「どうした!大丈夫か!」
と悲鳴のする方向に声を掛けつつ、ふら付きながらも救助に向かう。
流石、体育教師。鍛え方が違う。
前の席で鷹羽も意識を取り戻した様だが、何が起こったか理解できず、暫し呆然としている。
彼は理科教諭だ。体育教師と鍛え方が違う。
周りを見渡し、ぐったりと動かない運転手に気づき “やば!” とそちらに向かう。
一方、古澤は女子達にたどり着いたが、パニックが伝染し数人が交互に叫び合い、悲鳴が終わらない状態に陥っている。
「大丈夫だ!わかるか?大丈夫だ!」
と古澤は悲鳴に負けない大声を出しながら、女子達の背中をさすっている。
この状況ならセクハラとは言われないであろう。
女子達も助けに来た古澤先生にしがみつき、ようやく悲鳴が止まった。
言い忘れていたが、古澤先生は若くて割りとイケメンなので、女子生徒にもそこそこ人気だったりする。
「大丈夫、大丈夫…」と続けていた古澤であったが、ある物を目撃し絶句した。
最後部の座席には腰から上がスッパリと切断された女生徒の下半身が座っていたのだ!
運転手救出に向かった鷹羽であったが、近づくにつれ 絶望的な状況が見えてきた。
フロントガラスを突き破った岩に運転席の半分程を塞さがれ、運転手はシートベルトで宙づりにされた 状態である。
「大丈夫ですか! シッカリして!」
と声を掛けつつ覗き込むが顔をしかめる。
頭の半分が見えない。潰されたようだ。
念のため運転手の手を取り脈を診てみるが、すでに冷たくなっていた。
無意識に首を振りつつ、車内後部の古澤の付近、生徒たちの混乱を目の隅に認め、次の行動に移る。
鷹羽は車体後部の古澤に近づこうとするのだが、途中の席にいる男子生徒にしがみ付かれ、動けなくなった。
男子生徒も上半身のないスカートや、千切れた足などの凄惨な状況を目にしてしまったのだ。
逆に車体後部で思考も動きもフリーズしていた古澤は、鷹羽の状況を見て 反射的に叫んだ。
「鷹羽先生! 生徒達を車外へ!ここは危ない!」
その叫びで男子生徒達の動きが一瞬止まり、古澤に意識が向いた。
古澤はその瞬間を見逃さず、自分も立ち上がり、周りの女生徒も立たせた。
「早く外へ!」
脳筋の瞬発力は非常時には心強いのである。。
鷹羽も古澤の行動で我に返り、周りの男子生徒を促し、車内前方に体を回す。
「皆、外へ出るんだ。焦らず急いで」
その時運転席付近で再度 女性の悲鳴が上がった。
全員ビック!と身を縮める。
悲鳴を上げたのは中畑美月であった。
運転席の遺体を見て腰を抜かしている。
車内中央部で固まっている鷹羽を見て、震える声で
「運転手さん、死んでます・・・」
鷹羽は中畑美月をじっと見つめている。
今の悲鳴で却って冷静になった様だ。
ふー と息を吐き、
「うん、判った」とつぶやき返す。
そして前方のドアを目指しながら大声で叫んだ。
「判ったからみんな外に出るんだ!事故ったんだ。火が出るかもしれないから急いで外へ出るんだ!」
――――――――――――
こういう場面では大抵 脱出し終わった瞬間、バスが大爆発するのがお約束である。
が、今回は幸いな事にバスは爆発しなかった。
周りは 両側が大小様々な 緑深い木々に覆われた、そこそこ深い谷である。割りと急流の川が流れている。
そんな自然豊かな谷川に大型バスの半分が鎮座している。
凄く事故現場っぽい絵柄である。 確かに事故現場なのであるが…
脱出した生徒たちはバスから10mほど離れた小さな礫地にうずくまる様に座っている。
皆、表情が無い。
そりゃそうだ。 こんな経験、感情をシャットアウトしないと正気を保てない。
鷹羽ら3名の教師は生徒たちをまず 落ち着かせ、バス車内から救急箱や必要と思われる物を持ち出している。
この様な非常時に冷静な行動が取れる先生エライ!
日ごろからの避難訓練の賜物であり、災害慣れした日本人ならではの行動とも言えるであろう。
彼ら3名は生徒達に聞かれない様に、荷物を運びながら会話をしている。
「あの遺体が誰か判ったか?」
1号車管理者の鷹羽が問いかける。
これからあっちこっちに報告しなければならない。
迅速な情報収集、適切な報告書が肝要である。
「2名は判った…と思います。一人は藤原未来で もう一人は藍沢希…らしいです」
古澤が女子生徒から聞き取った情報を共有する。
「らしい…て?」
「巴の記憶なので。あの下半身だけの子の靴下、今朝 藤原に見せびらかされたから間違いない、と言ってました」
「藍沢の方は?」
「これも巴の記憶なんですが、通路に落ちていた左腕が着けてた腕時計。いつも希がしていたヤツだと…」
「ちょっと確証に欠けるかな…」
「薫もそうだ と言っていたから、合ってるんじゃないでしょうか」
理科系の基準では“不確実情報”であるが、体育会系では研ぎ澄まされた感覚が重要なのだと理解しよう。
「…それにしても、車体の後ろ半分は何処に行ったんだろう。犠牲者がもっといる筈なんだが…」
先程から鷹羽と古澤の会話を黙って聞いていた中畑が、蒼い顔でボソっと
「…あの、連絡が取れないんです」と携帯を見せる。
「壊れたのか?」
「いいえ、繋がらない…」
「…圏外だな。 アンテナ立たない」
古澤が自分のスマホを確認して呟く。
二人のやり取りを聞きながら鷹羽は天を仰ぐ。
「崖下に落ちたから、電波が通らないんだろうけど…まいったな、救助を呼べないのかよ」
軽い苛立ちを覚えながら、不安そうに座っている生徒たちを見た。
すると鷹羽と目が合ったのか、一人の男子生徒が立ち上がり、急ぎ足で教師たちに近づいて来た。
明野秀哉である。
「先生 春日がヤバイ。足ケガしてたんだけど、血が止まらないみたい。意識はあるけど、唇が紫色になって来た」
明野の話しを聞いた古澤は “やばいな!” と呟き、小走りに生徒たちへ向かった。
体育教師は怪我には慣れている。こういう時は心強い。
中畑も後を追う。 音楽教師はリズム感が良い。
この場では余り役に立たないが。
「オレたちも行くぞ」
と明野に声を掛け、駆けだした鷹羽に
「鷹羽先生!」 と明野が呼び止める。
足を止め振り返る鷹羽。
「どうした明野」
「おかしいよ。ここ」 と、鷹羽を睨む。
「おかしいって…なにが?」
「先生はバスが道から落ちた。って言ってたけど、ここに道が無いんだ」
残骸となったバスを指さす。
鷹羽は指さされた方を見るが、何を言っているか判らない。
「え?」
「バスの上。落ちてきた筈の道が、無い。…それに、僕らのバスの後ろにも車がいっぱい走ってたよね。 どこ行ったの?」
言われて初めて気が付いた鷹羽。
改めて崖の上を観察するが、鬱蒼とした山があるだけで、明野の指摘通りだ。
教師としては生徒の質問には答えてやるべきではあるが、この異常事態に答えを持っている人間など居ない。
「…判らない。…とにかく、春日が先だ」
と言うのが、今の鷹羽には精一杯である。
春日君は顔色青く、心配して集まってきた生徒たちの真ん中で横たわっている。
まるで涅槃絵の様だが、この状況では不適切な例えであった。
足の怪我で出血が酷いと言っていたが、制服は濃い色のスラックスなので、血は判別できない。
確かに、よく見ると 左足の膝下辺りがテロテロしている。
「昌人、どうした。 大丈夫か?」
と古澤が春日昌人の横にしゃがみ込み声を掛ける。
左足を一瞥し、“ちょっと、足 見せてみろ”と、左足先をそっと持ち上げると 春日は力なく呻いた。
中畑が救急箱を持って傍らから覗き込むが、彼女は見守ることしかできない。
「骨かなぁ。 ちょっと、様子見るぞ」
古澤が一人冷静に診断を続ける。
「裾から膝下までズボンを切る。ハサミないか?」
救急箱を抱えた中畑に声を掛ける。
中畑は急ぎ救急箱を探るが、申し訳程度のラインナップしか入っていない様だ。
「これしかないけど…」
と刃渡り3㎝位の、折り畳み式のハサミを取り出した。
ハサミを見ながら
「うーん、それは…いらない。…しゃーない 引き裂くか…」
と、決意した古澤の顔の上に、髭面で眼帯のオヤジが ヌッと現れた。
「ケガしなすったか。どれ、見て進ぜよう」
と古澤の横に割り込み、手にした小刀でスラックスの裾を手際よく切り裂き、傷口を露にする。
その流れるような自然な登場に、呆気にとられる古澤と中畑。
「これは思ったより深手じゃな…骨は…折れとらんな…」
手早く傷の状態を確認すると、血の気の引いている春日昌人の顔を覗き込み
「小僧。これから傷を塞ぐゆえ、多少痛むが我慢せえよ」
次に自分の背後に顔を向け、これまたいつ現れたか小柄な旅装の男に声を掛ける。
「吾介、針と糸じゃ! それと水、薬!」
吾介と呼ばれた男は、無言で背負った荷物から 縫い針と糸、笹の葉の包みを取り出し、腰に下げた竹筒と一緒に 謎のオヤジに差し出す。
謎のオヤジは受け取った品々を広げながら、古澤と中畑に向かい
「奇麗な布はお持ちかな? あと、酒も」
謎のオヤジ&謎の小男を眺めていた二人は、ハッと我に返り
「えーと、え? 奇麗な布? ガーゼって事?包帯?」
「酒? 消毒?」 ワタワタ。
20㎝程の裂傷を竹筒の水で洗い、手際良く縫合する謎のオヤジ。
麻酔なしで傷を縫われた春日昌人は痛がり、暴れたが 体育教師古澤と男子生徒達でなんとか押さえつけた。
結構元気じゃん、昌人。
――――――――――――
怪我人の緊急対応も終わり、実際は何の進展もしていないのだが、取り敢えず平静を取り戻した教師と生徒たち。
そろそろ日が傾き始めて来たが、バスに近い一角では、皆で集めてきた数本の朽木で吾介が焚火をし、生徒達がその周りで各々の荷物を抱え、座っている。
大きな火は危ないが、小さな火は人を落ち着かせる。
少し離れた場所では教師3名が謎のオヤジと向き合い、話をしている。
このオヤジ、恩人とはいえ、どう見ても普通じゃない。
年の頃は40過ぎ、髭面で眼帯…までは、まぁ良い。
問題はその恰好である。 一言で言えばむさ苦しい侍。
いや、かっこ良く言い過ぎた。 貧乏牢人。
念のために言っておくが、“試験に落ちた受験生”では無い牢人。
あちこち継ぎの当たった着物を着て、本物か模造か判らない刀を腰に差している。
「生徒の手当、本当にありがとうございました。ショック状態が出ていましたので、あの処置が無ければ、どうなっていたやら」
日常であれば、近づいてはイケないと識別する人物であるが、非常事態であるし、助けて貰ったのは確かなので、1号車管理者として、鷹羽が感謝の意を伝える。
「いやいや、ここで会ったのも、何かの縁じゃで。
それに礼は早う御座る。あの者が助かるかどうかは、あの者の運次第じゃて」
「何をおっしゃいますか。 それにしても手慣れていて…医師の方ですか?」
見事な処置に感動してオヤジのコスプレを気にしていない古澤も礼を述べる。
「本当にありがとうございました。
ところで…あの、ドラマか映画の撮影ですか?」
誰も触れないのかと思った部分を中畑美月が、それとなく訊ねる。 ナイスである。
「皆で一時に聞かれても、よう答えんが…」
謎のオヤジは3人の教師を改めてまじまじと見、彼らの肩越しに制服姿の生徒たちを眺めながら、
「そこもとらの出で立ちや言葉が珍しいが、御国はどちらじゃ」
日常であれば“いっちゃてる人”確定となる格好、言葉使い、そして質問内容であるが、明野が指摘していた周辺の異常さと、追い詰められた人間特有の直感から、鷹羽は言葉を改めた。
「…これは、申し遅れました。
私どもは東京の城西学院中等部の者です。後ろに居るのは学生、我等3名が教師です」
「…とうきょう…、じょうさい…と言うと、あぁ 京の御公家衆でありますか!
通りで皆さま御綺麗な身なりで。…我は山本勘助と申す軍学者で御座る」
「いやいや、京都ではなく、東の京のとうきょうで、鵠沼海岸ではなくて・・・」
「!山本勘助!」
古澤が誤解を助長する返しをして、中畑美月は目を見開き 相手を呼び捨てにして、固まってしまった。
いやいや、二人ともそうじゃない。この違和感を感じないのか? と鷹羽は内心イラっとしつつ古澤と中畑美月を手で制し、
「ま、ま、そこらは後でまた。
山本 さま、でしたね? 実は我等、あの車で旅しておりましたが、災難が起きまして。
助けを呼ぼうにも手が無く、どうしたものかと」
一拍置き、山本勘助と名乗ったオヤジの表情を探りつつ
「山本様の他にもこの辺りに、助けていただける人はおいででしょうか?」
「うむ、沢伝いにえらい大きな音がしましたで、追っ付…ほれ、物見がやって来ました」
と沢の上流を指差す。
指差された方角を鷹羽が振り返ると、貧相な鎧を巻き付け、槍や鎌を手にこちらを伺っている10名程の集団が現れた。
コスプレオヤジがまた増えた…て事は、直感が当たってるって事か?
この場をどう切り抜けるか、目を泳がせ考え込んでいる鷹羽をジッと観察していた山本勘助さん、ふっと笑顔を見せると
「怪我人もおいでで難儀でしょうな。お任せあれ。我が物見の衆に話を付けましょう」
と 立ち上がった。
――――――――――――
人 一人が通れる程の狭い、夕暮れの山道を鷹羽達が、一列となって登っていく。
前後を武装した農民に挟まれている。
山本勘助さんは本当に話を付けてくれたのだろうか? 不安である。
軽傷の生徒は古澤と鷹羽が背負い、重傷の春日は枝と莚で作られた担架で運ばれている。
山本さんは片足を引きずっているが、誰よりも素早く列の前後を行き来しては、先頭の農民と短く 言葉を交わしている。
「もう直ぐで集落じゃ、頑張れ!」
と、行列の皆に声を掛け、鷹羽の傍らに来ると
「出入りの口に社があるそうじゃ。 そこで休める」
と告げ、また列の後方へ戻って行った。 タフなオッサンである。
すっかり日が暮れた頃、集落にたどり着いた。
山本さんが言っていた通り、村の入り口と思われる囲いの端に、1本の松明が焚かれている。
その明かりで社とは名ばかりの粗末な小屋のシルエットが確認できる。
取り敢えず、目的地には着いたらしい。
皆 くたびれ果て、小屋に入るが 中には灯り一つなく真っ暗である。
男子生徒達の“臭ぇー”“押すな”などの小声がするが、どこに居るか判らない。
突然、彼らの中から眩い光が射し、室内全体が見えた。
「うわ!なんじゃ!」
と吾介さんが叫び、その場に伏せた。
鷹羽は何が起きたか咄嗟に理解し、叫んだ。
「スマホのライトを消せ!」
数秒後、闇に戻る室内。 目が慣れず、先程より闇が濃くなった。
暗闇の中で山本さんが低い声で問う
「また、面妖な。 何をされたのじゃ?」
鷹羽はその問には敢えて答えず、生徒たちに言う
「みんな、じっとして。暗さに慣れれば、見えてくるから」
闇の中でかすかな物音とカチカチと云う打撃音がした。
ポッとオレンジの灯が部屋の隅で灯り、吾介さんのうずくまる姿が浮かぶ。
火種を持ち、素早く灯火台を探すと火を移す。
淡い灯りで、皆の顔が陰影深く 見えてくる。
吾介さんは灯火台を部屋の中央に移動させながら、静かな声で皆に告げた。
「ゆっくり動くじゃ。 慌てるとケガするで・・・」
なぜか、皆 大きく息を吐いた。
第1話・タイムトラブル 完