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26.悪態をつきたくもなる




当然ながら、雪道を長距離歩くのは容易では無かった。

このグリーンのローブはとても厚手で防寒対策はしっかりとされているけれど、冷たい空気を完全に凌ぐ事は不可能なので、ローブの下にはフロックコートも着込んだ。

それでも体は芯まで冷えきって震えが止まらない。無意識に唇も震えて歯がカチカチと鳴る。



簪を外してしまった自慢のフワフワの髪は、今は雪の水分を含んで重たく背中に垂れていた。

母が知ったら、美しいプラチナの髪を痛めてしまうなんて神への冒涜にも等しいと言って嘆くだろう。

カサンドラも自分の髪をとても大切にしているけれど、この時ばかりは短く切り落としてしまえたら良いのにと思ってしまった。



何度も足を取られて倒れ込んだし、息をする度に体中が痛くて仕方がない。

はぁ……と呼吸した事で急に冷たい空気が肺に入り込み、思わず咳き込んでしまった。


‥‥本当に死んでしまいそう‥‥。


意識は朦朧としていたが、それでもカサンドラは気絶しそうになる度に唇を噛み締めて意識を取り戻した。 此処で気絶したらどうなるか、私も良く分かっている。



これは命にしがみつくというより、カサンドラの意地とプライドでしか無かった。

その証拠に胸の内では何度も何度もあの男への悪態をついていて、自分の行く末など考えていない。


このまま私が死んだら、あの悪魔の思う壺だわ。 喜ばせるだけよ。

そんな事、絶対にさせない‥‥。

此処で惨めに死ぬなんて出来ない‥‥!

あの人嫌いよ! 大嫌いよ!

あのまま私を追い掛けてきて、雪の中惨めに迷子になれば良いんだわ!

泣き喚いて助けを呼ぶの。想像するだけでなんて愉快なのかしら!



一際強い風が吹いて、カサンドラの心中での悪態を止めた。

ローブの前を掻き合わせて冷たい風をやり過ごし、風に吹かれてずれたフードを目深に被る。

人の気配は全くない。 後ろから追い掛けてくる足音も。



結局馬車で一時間の道は、カサンドラの足では三時間程掛かってしまった。

既に真夜中を過ぎ去っている。


凍えて命を落とさなかったのは本当に奇跡だった。 よほど神のご加護があったに違いない。



やがて漸くグレスティンの町の建物から漏れでる灯りと、丘の上に偉そうに鎮座するヒース・コートが見えてカサンドラは心底安堵した。


‥‥あぁ、神様‥‥本当にありがとう‥!



本当なら今すぐにでも駆け出したかったが、寒さのせいで大分体力を消耗していた。

それでも速度を早め、真っ直ぐ私のヒース・コートへと向かった





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