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8.私の力


私、何時間くらい寝てたんだろう。

木の板で塞がれた窓に目をやるけど、時刻は分からなかった。


ここ数日の疲れは少し取れていた。

思いっきりあくびをして背を伸ばそうとした。

すると、口の傷が一斉に開いて激痛が走った。


(そうだ、この傷...)


頭の中を色々な出来事が流れていく。

最初に思い浮かぶのはやっぱり、あのアンリ様の冷たい表情だった。


私には聖女としての利用価値しかなかったんだ。

アンリ様を心から恨むことはできなかった。

私も突然手に入れた聖女の能力に浮かれていた。

もっとはやく気付くべきだった。私なんかが愛されるわけないって。


そして私を陥れた張本人は、テオ様としか考えられない。

そしてここ、ベルガウにその協力者、私のファーザーがいる。

ここも安全じゃないかもしれない。

私の処刑が失敗したから、テオ様がファーザーにその手で自ら殺すよう命令するかもしれない。


エルさんに助けを求めようとも考えたが、彼が私のファーザーの可能性も0ではないのだ。


とにかくここでの生活に慣れて、体力を回復する。そしてファーザーについても調べる。

地理的な情報も欲しい。できたらお金もあった方がいい。


(ここから逃げなくてはいけなくなる日が絶対にいつか来る。)


私の固い決心はよそに突然お腹が減ってきたことに気付いた。

そっか、ここにはメイドも執事もいないんだ。


『なんかあれば言えよ。俺の部屋、この隣だから』

私は赤髪の少年の言葉を思い出して、隣の扉を叩いた。


「誰だ?」

「私、クラリス。」

「どうした?」


フィンは扉を開いてそう問いかけたけど、明らかにそれは私のセリフだった。


「あなたのその傷こそ、どうしたの!?」

「ちょっと絡まれたんだよ。」


その言葉を聞いて私はハッとした。

彼を一言で表すならちょっと賢めのヤンキーだ、そう思った。


その白い頬は腫れ、青みを帯びていた。誰かに殴られたような跡だった。


「手当しなきゃ。」

「おい、俺は吸血種だぞ?こんな傷、3日もあれば勝手に治る。」

「でも3日もかかるんじゃん。」


自分が発した言葉に驚いた。

不思議だ、フィンとは昨日会ったばかりで、何も知らないのに

彼の言いたいことを率直に言う勝気なその性格を前にすると

なんだかこちらも遠慮せずに言えてしまうのだ。


「傷、見せて。」


私が彼の頬に触れるとまばゆい光が現れた。

やっぱり。以前と比べると聖なる力の強さは弱くなっているけど、完全に無くなっている訳ではない。

フィンは驚いた顔で私を見た。


「この白い光って、聖女の力、だよな?もう治りかけてる...。

お前、吸血種になったんじゃなかったのか?」

「そう思ってたんだけど、やっぱり完全に吸血種になった訳じゃないみたい。」

「その力が吸血種化を止めてるのかもしれないな。

とにかく、ありがとう。」


彼は赤い瞳を細めて笑って言った。

こんな綺麗に笑う人だったんだ。

私は少し照れくさくなっていると彼は私の唇を指さして言った。


「なあ、なんで自分の傷は治さないんだ?」

「聖女の力は自分の傷には効果がないの。」


そう、この口の傷のおかげで私は気づいたんだ。

だって吸血種になったら、傷の治りが早いはずだから。

でもこの傷は、人間の時と治癒速度がほとんど変わらないようだった。

だから私は完全に吸血種になった訳ではないかも、と思っていたのだ。


「フィン、その傷って誰にされたの?」

「俺を恨んでいる奴らだ。ベルガウにもそこそこ居るんだよな。」

「恨むって?」

「...本当に俺のこと知らないのか?」

「知らないって?あなた、有名人なの?」

「もしかしてお前、学校行ってないのか?」

「この世界では行ってないけど。」


だって召喚されたのは1年前だし。

なんで学校の話になるんだろう、と私は気になり

問い詰めたかったけれど彼の悲しげな瞳に気付いて心の内に押し殺した。


自分の好奇心のために人の傷跡をえぐることはしたくなかった。

多分、ここにいる人はみんな何かしらで傷を抱えている。

私だってそれは同じだった。聞かれたくないこともたくさんある。

エルさんもフィンも私のことを必要以上に詮索しなかった。

それは彼らなりの優しさなんだと私は思う。


「てか、お前俺に用があったんだろ?」


私は思い出したように力強く頷いた。

そうだ、お腹空いてたんだった。


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