21.違和感と信頼
(朝日が完全に昇る前に帰れよかった。)
それでも少しはめまいがする。
横目でレイさんを見るけど彼は平気そうに見えた。
「この窓、どうするんですか...。」
私は跡形もなく壊れて、外が露になった窓を見つめた。
日が差してきたようでこの暗い塔の中でより存在感を高めていた。
「どうって。別に俺の階層じゃないし。」
「...絶対、怒られる。」
私が頭を抱えていると後ろの扉が勢いよく開かれた。
エルさんだった。
「エルさん...。」
「これはどういう状況?」
彼は柔らかい口調とは裏腹に、その瞳には怒りが見えた。
壊れた窓、レイさん、私、と彼はゆっくり目をやった。
「レイモンド、この子を外に連れて行った?」
「ジジイには関係ないだろ。」
「君がこの子に構ってるのは聞いてたけど。
...王国への手紙を出したのも君か。」
エルさんはそう言って、合点が言ったというように頷いた。
「あんたこそ、過保護すぎるんだろ。」
レイさんはそう言って黒い髪の毛を描き上げて、心底面倒そうな表情でため息をついた。
そしてまたあの狼に姿を変えた。
私は一瞬、彼らが傷つけあうのではと恐れたがそんな心配は無用だった。
レイさんは私に挨拶すらしないで、その場から姿を消した。
(一人だけ立ち去るなんて...!)
いら立ちを覚えるよりも先に私は目の前のレイさんにどう言い訳しようと必死に頭を巡らせた。
だけど思うようにいかず、頭がふらついた。
「ほら、肩を貸して。
もうじき陽が強くなる。部屋に行こう。」
***
「どうかな、少し落ち着いた?」
「はい、大分...。」
「...聞いてもいい?」
私は自分の部屋のベッドに腰を据えていた。
彼は私の顔を覗き込んで真剣な顔をして言うので、私は身構えた。
(レイさんと塔の外に出たこと、絶対怒ってるよね。)
エルさんはずっと私を守ってきてくれた訳だし。
「あいつに無理やり連れだされた?」
「えっと、半ば強制でしたけど、私も外に出たくて。」
「...そう。」
彼は一瞬、眉を潜めた。
私は反射的に怒鳴られる、と身構えたがそこにあるのは心底苦しそうな彼の表情だった。
「お願いだからもう、王国のことは忘れてほしい。君にとって不幸な結果しか招かないんだ。」
美しい瞳を細めて彼は言った。
そして、もう失いたくないんだ。とか細い声で呟いた。
"もう"という言葉に私は引っかかりを覚えた。
以前にもあった。
エルさんは私と誰かを重ねている。
そんな思考も、彼の悲しげで苦しそうな表情を見ていると止まってしまった。
「...ごめんなさい。」
「いいんだ、今回の件は君だけの責任じゃないし。僕も君に対して過保護すぎたよ。」
彼は少し無理した笑顔で笑った。
こんなにも優しいエルさんに、無理をさせてしまったことを私は反省した。
「...繰り返したくないけど、君にとって外の世界は危険だ。
世界中のほとんどで吸血種は迫害の対象だし、王国の名を脅かした君は一層危険なんだ。」
確かに彼の言う通りだ。
王国は私を目の敵にしている。
名声と歴史を大事にするあの国にとって私のような存在は民の信頼をも脅かすものだろう。
「外に出るなって言うのも僕のエゴだから言わないよ。
ただ、何かするときは僕を頼って欲しい。
君に危険が及ぶことは薦められないけど、だからといって頭ごなしに否定したりはしないから。」
そう言って美しい金色の瞳を細めて笑った。
彼は、私に優しい。
自惚れなのかもしれないけど、有難い気持ちになるけど、
でもやっぱり私の心には彼の好意に違和感がほんの少し残った。
それでもこの笑顔を信じたい、という気持ちが強かった。
彼が私の身を守ろうと行動していることは代えがたい事実だから。
私は手紙を出した理由、未だに王国が気にかかっていること、
全てを素直にさらけ出そうかと思ったが、彼はそれを強制はしなかった。
更新滞っていてすみません...!
それなのにブクマしたままにしてくださってる方本当にありがとうございます...
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