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19.天使


フィンとはあれから何回かすれ違ったけど素っ気ない態度を取られてしまった。


以前みたいな関係に戻りたかったけど、謝るのも言い訳するのも何だか違う気がした。

それに彼が私を避ける明確な理由も分からないし。


やっぱり私に知られたくなかったのかな。


私は数日間フィンのことで悩んでいたがそれを考えている暇もない事件が起きてしまった。


「あの、エルさん...?」


私が彼の顔色を窺うように尋ねた。

エルさんに呼び出され、私は手持無沙汰でソファに座っていた。


最初にここに訪れた時のような緊張感。


「王国から連絡がきたんだ。」

「連絡って...?」

「君を王国に引き渡すように、という旨だった。

処刑し損ねたことで世論が厳しくなっているんだろう。」


私が送った手紙のせいだ。

アンリ様を、国を救いたい一心だったけれど。

私の首をここまで閉めることになるなんて。


想像していなかった。

いや、もとより想像はできたはず。


私が目を逸らしていただけだ。


私は一瞬黙っておこうか、とも思った。

でもこれ以上騒ぎを大きくしたくないし罪悪感に囚われたくなかった。


「あの、私...実は...。」

「...いいよ。言わなくて。」


(エルさん、きっと知ってたんだ。)


私は彼の諦めたような、悲しそうな表情を見てそれを悟った。


「ごめんなさい。どうしても、王国が気になって。」

「...王国? 君が気になってるのはあの王族じゃないの?」


エルさんは決して表情を変えなかったけどその声色は厳しかった。

いつも優しい人を怒らせてしまったこの感じ。

私はなんで私に良くしてくれることを大切にしないで、

自分から離れていく人を第一に考えてしまったんだろう。


「...こちら側から王国にコンタクトは取らないし手紙が届いたことも内密に処理するつもり。

俺とその手紙を受け取った俺の子以外はこのことは知らないから安心して。」

「ほんとに、ごめんなさい。」

「...謝らないで。君も仕事の時間だろ。」


彼は淡々とそう続けた。

今度は優しい表情と声色だったけど、きっと腹の内はそうじゃないと思う。


私はもっと叱られると思っていたから拍子抜けだった。

だってエルさんにとっては自分が命からがら救った人が、恩を仇で返したわけだから。


でも彼の静かで変わらないその態度が私は返って突き放されたように感じた。


それ以上は何も言えずに彼の部屋を出た。
















フィンにもエルさんにも嫌われちゃったかも...。


誰のせいでもない自分のせいだって、分かってる。

アンリ様にもう一度裏切られたことよりもエルさんを失望させてしまったショックの方が大きかった。


私はアイラさんからのお使いで今日も重たい足を"図書館"まで運んだ。


(これでもう粗方見ちゃった。

もう手掛かりはここにはないのかな。)


私はため息をつきながら歩いていると乱雑に重ねられた本の間に金色が埋もれてるのを見つけた。

何かと思い、身を引き締めたけど、それは少年だった。


(凄い綺麗な子...。

でもどうして、こんなところで寝てるの...?)


思わずため息がでるような美しい見た目だった。

閉じられた睫毛はとても長くて、綺麗な金色だった。

きっとこの世界に天使がいるなら、彼のような見た目なんだろう、と私は思った。


私が見とれていると、その瞳がゆっくりと開いた。

私は慌ててその少年から離れたけど、彼は驚いた様子もなく、口を開いた。


「何か用?」

「いえ!なにも...。」


彼を見つめていたことがバレていたのでは、と思い私は焦った。

でも彼が発した言葉で私はもっと驚くことになる。


「君も僕のことが好きになった?」


この人いきなり何...?!

冗談かと思ったけど少年の冷たい瞳と変わらぬ表情を見て彼は真剣に聞いているんだと悟った。


私は理解も追いつかぬまま必死で首を横に振った。


「好きになってないです!」

「...それ本気で言ってる?」


彼はからかうよう訳でもなく、本当に驚いた表情をしていた。

初めて彼の表情が動いた気がする。


「本気です。」


(それに、見た感じ16歳とかそこら辺だろうし...。)


「こんなに若い子好きにならないって思ってるでしょ。」

「なんで、それを...。」

「言っとくけど君より大分長いこと生きてるから。」


ここの人たちって見た目と年齢が比例しなさすぎて訳が分からない。

でも私は彼の言葉は真実だろうと思った。

だってこんな威圧感を持った10代がいたら困る。


私がそんな失礼なことを考えていると彼はその綺麗な瞳を細めて続けた。


「さっきから足音うるさいし、もう少し静かにしてよ。」


この人、普通に失礼な人だ。

見た目が愛らしい少年なだけあって私はよりいら立ちを感じたが、

すみません、と平謝りをして図書館を後にした。

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