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16.聖女とはなにか。


「今日も暇ねえ。」


アイラさんはそう気だるそうにソファで天井を見ていた。

レイさんの子も退院してしまったので私たちは文字通り手持無沙汰だった。


私はアイラさんに以前からの疑問を問いかけることにした。


「そういえばアイラさんってお医者さんだったんですか?」

「ええ。田舎街の小さい診療所だったけれど。

それにこの通り、国を追い出された身よ。」

「追い出された...?」


私は言った後に慌てて「言いたくなかったら大丈夫です。」と付け足した。

予想に反してアイラさんは笑顔で口を開いた。


「私の医学は治癒魔法を使うことでも、薬草を使うことでもなかったの。

貴方も聞いたら私を変に思うかもしれないけど、もっと事実と根拠に基づいた治療をしていたの。」


それを聞いてハッとした。

それって「西洋医学」のこと...?


「これ以上は変人扱いされるからやめておくわ。

とにかく異端という判を押されてしまったのよ。」

「変だと思いません。

アイラさんが治療をしていたのは誰かを救いたかったからですよね?」

「...ええ。そうね。ありがとう。

でも、聖女の治癒魔法を目にして圧倒されたわ。

貴方の魔法を解明できれば、もっと多くの人が救えるはず。」


アイラさんは目を輝かせてつづけた。


「ねえ、貴方も知りたいと思わない?聖女とは何なのか。その魔力の根源はどこなのかを。」


聖女とは何か。魔力の根源。

考えたこともなかった。

私がここに転移してきた時にはもうすべてが出来上がっていたから。

確かに、聖女って何なんだろう。


「...知りたいです。私がなぜここに召喚されたのか。」

「そうでしょう?良いこと思いついたわ。

どうせ診療所は暇だし私達で調べましょう。これも医学の進歩に貢献するはずよ。」

「でも調べるってどうやって...。」

「何もあなたがこの世界初の聖女ってわけじゃないのよ。」


初耳だった。私の他にも聖女が。

でも納得できる。

私が召喚される以前からみんな聖女の能力や存在は熟知していたわけだし。


「歴史上、何人も聖女はいたのよ。もうわかるでしょう?」

「歴史書とかを探せば?でも本なんて...。」

「ここにもあるわよ。図書館。」

「そうなんですか?じゃあ聖女に関する本も...。」

「ここはベルガウだし、聖女について興味がある人がいるとも思えないけれど。

でも探しに行く価値はあるわ。」


私はここに転移して聖女だと奉り上げられた。

本当に私が?という疑いはずっと残っていたのだ。


私の中の好奇心がどんどん大きくなっていくのを感じた。


「よし。今日は私が見とくから、もう上がって図書館に行っていいわよ。」

「いいんですか?」

「ええ。これも立派な仕事のうちでしょ。」


アイラさんはそうほほ笑んだ。

私は図書館の場所を教えてもらい、お礼を言って診療所を後にした。


(聖女のことなんて今まで考えたこともなかったな。)


私には借り物のように感じるこの不思議な能力、

この理由を、それは無理でも何かを知りたいと思った。


















(思っていたよりも凄い本の量だ。)


私は本の山に埋められた場所にいた。

そこそこの広さがある場所で、診療所よりは大きかった。


あまりにも乱雑に本が山積みにされているので、これを図書館と呼んでいいのか疑問だった。


ジャンル分けなんて当然されていないので、私は端から端までを見るしかなかった。

でもそこまで量が多いわけではないので不可能ではなかった。


("王国の起源"、"聖なる力"、これなんかいいんじゃない?)


いくつかそれらしきものを見つけることができた。

私はふともう一つ先の本の山の向こうに人影を見つけた。


(あれってエルさん?)


銀色の髪がキャンドルに照らされて、美しい横顔だった。

彼も何か本を探しているようだった。


一瞬ためらったが私は彼に声をかけた。


「エルさん?」

「...クラリス、なぜここに?」


彼はいつもと少しだけ様子が違うように思えた。

私は少し迷ったが本当のことを伝えた。


彼に内緒で王国へ手紙を出したこと罪悪感を消したかったのかもしれない。


「...そう。聖女のことを調べる、ね。」


滅多に動揺しない彼の瞳が少しだけ揺れた気がした。

でもエルさんはすぐにいつも私に向けてくれる笑顔で言った。

その笑顔を見てやっぱりさっきのは私の勘違いだったかも、と思い深く考えなかった。


「でも君を診療所に行かせて良かったかもしれないな。

俺は過保護すぎるとフィンにも言われたよ。」

「仕事はほとんどないですけど...楽しいです。」


エルさんは私のことをやっぱりちゃんと考えてくれてる気がする。

それ故に私がしてしまったことへの罪を覚えた。


エルさんは一歩私に近づいて、顔を近づけて首を傾げた。


「...ねえ、俺に隠し事してない?」

「いいえ! してません。」

「君がそう言うなら。」


焦って言い切ってしまったが、逆に怪しかった気がする。

エルさんも絶対気づいてるはずなのにそれ以上は言及しなかった。


「さあ帰ろうか。」

「エルさんの用事は良いんですか? 何か本を探していた訳じゃ...。」

「それはもう必要なくなったから。」


彼は意味深にそう言った。

エルさんは食事に誘ってくれたけど、私は疲れているからという理由で断ってしまった。


彼の私を見る優しい瞳を見ていると自分のことを嫌いになってしまいそうだったから。

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