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11.もう一人の"父"



(すごい、ここまで色々あるとは思わなかった。)


私は果物やお肉、洋服やアクセサリーなどの出店が並ぶ階層を見て驚いた。

私達が住む階層と同じく、一切の太陽光はないけど、その分たくさんの蝋燭で照らされていた。

数人の人が常に往来していて予想以上に普通の生活をしていることに驚いた。


エルさんのおかげで私が食事に困ることはなかったけど

最低限の洋服など必要なものがあって、フィンに頼んで連れてきてもらったのだ。


(正直に言うとベルガウのことをもっと知りたかったのもあるけど。)


「ねえ、フィン。この人たち全員吸血種なの?」

「商人達は人間が多いな。吸血種はもっと能力を使って生活してる人が多い。」

「そういえば、エルさんとフィンって何の仕事をしてるの?」

「貿易業。ここで売ってるものは大体エルさんが仕入れたものばっかだ。」


なんかそれって凄くエルさんらしい。

フィンもその手伝いをしているらしい。

だから2人とも留守にすることが多いんだ、と納得した。


「それって正規ルートの貿易じゃないよね?」

「いろいろ。エルさんの能力があれば、吸血種嫌いの王国とだって貿易できる。」

「...黒い霧のこと?」

「...そっちじゃない。お前知らないのか?」


フィンはうーん。と少し唸った。


「まあ本人から直接聞いた方がいいだろ。」

「じゃあフィンの能力は?」

「は? 俺、普通の吸血種だし。なんもないけど。

特殊な力持ってるのはファーザーだけだ。」

「そうなんだ。吸血種って皆持ってるんだと思ってた。」

「持ってたらあんだけの吸血種が易々と処刑されないだろ。

力は人間よりもそりゃあ強いけど。」


特殊な力を持ってるのはファーザーだけ。

その言葉に少し引っかかった。


私の部屋にいたあの狼を思い出した。

あの人の力は獣に変身する能力なのだろうか。

もしかして、あの人も...。


私がふさぎ込んでいるとフィンの声が耳に入った。


「お前、こういう服は?」


それは鮮やかな色が美しい素敵な服だった。


「...エルさんのお金だし。それは贅沢かなって。」

「...意外と控えめなんだな。」

「意外ってなに?」

「だって王国で随分、贅沢してたんだろ?」


フィンはそう言ってから、まずいって顔をした。

私はちょっとだけ傷ついたけど、実際に本当のことだったから気にしなかった。

人々から差別されて、この塔に留まるしかない人たち、

そんな吸血種に比べたら私って...。


「言い方悪かったな。ごめん。」

「いいの、本当のことだし。」


それでも彼は申し訳なさそうな顔をした。

私は必要だった物は買えたので、フィンにもう行こうと伝えようとしたとき、

道の向こうでもめている人たちの声が耳に入ってきた。


「お願いです。お金なら後からどうにか...。」

「俺もボランティアでやってる訳じゃないから。」

「でも、大事な友人なんです...!」


吸血種と思われる女性が男性に必死に頼み込んでいたが、

男性は彼女と目を合わせることもしなかった。

黒い髪の男性だった。黒い髪...。


(...あれってあの狼の人!)


私があまりに凝視してしまったからだろうか、

彼はこちらに気付いて近づいてきた。


「レイモンドさん、なんか用ですか?」


それに気づいて、庇うようにフィンが前に出た。

この雰囲気は凄く良くない。


「エルドレットの犬か。俺はこの女に用があるんだけど。」

「こいつに? 

驚いたな。金以外にも興味あったんですね。」


そうフィンが言い返すと、レイモンドというらしい男は少し笑った。

彼は歩く速度を全く変えず、私に近づいた。

フィンがそれを睨みつけた。


「おい、離れろ。いくら貴方でも刺し違えることはできる。」

「怖いな。さすが史上最悪の人殺しは違う。」


そうレイモンドが言うとフィンは一瞬だけ動揺した。

レイモンドはまたあの赤い瞳で私をじっと見た。


「まあいいや。あんたにはまた会いに行けばいいし。」


重苦しいこの場の雰囲気を作り出した張本人なのに、

それをいきなりぶち壊すかのように軽々と笑って、去っていった。


これだけ緊張した表情をするフィンは珍しくて

私は少し話しかけるのに戸惑った。


「...フィン、その、庇ってくれてありがとう。」


そういうとフィンはこちらを向いたが私のお礼には答えなかった。


「お前、あいつに会ったことあるのか?」

「えっと、うん。なんかいきなり部屋に...」

「大丈夫か?! なんで言わなかったんだ?」

「う、うん。大丈夫だったけど。」


それよりもあの男のことが気になった。

だって、あのフィンが敬語を使う相手だし、特殊な力を持っていた。

きっと...。


「あの人って...」

「ファーザーの一人だ。

吸血種を亡命させて、ここに連れてきてるんだ。

かなりの金額を払わせてな。」

「そっか、さっきの女の人と話してたのも...。」

「そうだ。それに、なり振り構わずに吸血種になりたいという人間を吸血種にしてる。」


人間を吸血種に...。

もしかして私を吸血種にしたのも...。

彼は何故か私に興味があるようだったし、

聖女と知っててわざと吸血種にした可能性もあるんじゃないか。


「それって、私のファーザーである可能性も高いよね?」

「俺が思うにファーザーの中では一番怪しい。

でもあくまで吸血種になりたい人間しか吸血種にはしてないはずだ。」

「さっきから気になってたんだけど、その...吸血種になりたい人間ってそんなにいるの?」

「意外にいるんだ。俺ら長寿だし。力も人間よりはある。

人間として生まれても尚、差別されて生きてる連中にとっては

吸血種になっても大差ないんだろうな。」


吸血種になりたい人間、なんているんだ。私は驚いた。

確かに人として生きても満足な処遇を受けず、差別されてきたのなら

その考えに至るのも理解できる。


「だからレイモンドさんの子供達は、厄介な奴が多い。

それにあいつは王国に強い恨みがあるみたいだから気を付けろよ。」


彼がファーザーなのだろうか。


私とフィンは当初より少し暗い雰囲気を漂わせながら

自分達の階層へと足を急いだ。

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