俺は悪役令嬢の幼馴染。断罪追放を失敗した親友を助けたい
前作が予想超える評価をいただき、本当にありがとうございました。
このエピソードは『俺は悪役令嬢の幼馴染。断罪追放だけは阻止したい』の続編です。
時間軸は、魔法学園の記念パーティーの翌日。
『――それがどうしてこうなった?』の部分に相当します。
お時間がありましたら、先に前作をお読みください。
王立魔法学園の記念パーティーの翌日。
朝礼が終わっても教室に王子アーサーの姿が無かった。
クラスメイトの話し声が聞こえた。
「アーサー様は、魔法学園を自主退学する事になりそうだ」
それは、そうだよな。
俺の親友である第三王子のアーサーは、国王をはじめとした国の重鎮たちが集まる王立魔法学園の記念パーティーで、俺の幼馴染のディアナ公爵令嬢の婚約破棄と断罪追放を宣言した。
だがその試みは、俺が中途半端に介入したせいで失敗に終わった。
おそらくアーサーは、パーティーを台無しにしたその責任を取らされる事になるのだろう。
その代わり、俺の幼馴染の女の子、ディアナ公爵令嬢の名誉が守られた。
そのはずだった。
だが、教室にディアナの姿が無い。
ディアナは、体調不良を理由にしばらく休学するそうだ。
おそらく、アーサーを唆した黒幕達の報復を危惧した公爵様の意向だろう。
ディアナは、パーティーが閉会になった直後、公爵家の目付きの鋭い老執事と生真面目そうなメイド長に両脇を抱えらるように連れ去られた。
その後、ディアナは学園の女子寮には戻らずに直接実家に帰ってしまった。
そのため、俺はディアナと何も話せていない。
あのときディアナは、顔を真っ赤にして、俺の事を見つめていた。
何か言いたいことでもあったのだろうか。
もしかして俺が中途半端に介入して、アーサーの立場を悪くした事を怒っているのかも知れないな。
今考えると誰も傷つける事なく、もっと上手く場を治める方法があったかも知れないんだ。
なお、ディアナは怒るとすごく怖い。
ハイライトの無い瞳で、延々と正論を言い続けるからな。
ご免なさいって言うまで、止まらないんだ。
俺が震えていると、周囲の生徒達が話しかけてきた。
「僕は、お前の事を見直したぞ」
「そうそう、とってもかっこ良かったです」
などと、いずれも好意的な言葉だった。
ん?急にどうしたんだ。
俺の学園での立ち位置は、王子アーサーと公爵令嬢ディアナについて歩く、言わば金魚のフンのような存在だった。
ひどいときは、面と向かって『お前のようなモブが王子とディアナ様に気安く話しかけるな!』と、まで言われたことがあった。
あのときは、アーサーが激怒して大騒ぎになったんだよな。
ディアナが上手く治めてくれなければ、上級貴族の代わりに俺が退学処分になるところだった。
隣に座っていた男子生徒が言った。
「君は、アーサー王子とディアナ公爵令嬢と常に一緒だったから話しかけ辛かったんだ」
「えっ?俺は嫌われ者ではなかったのか?」
「何を言っているんだ。君は魔法実技以外はディアナ嬢に匹敵する秀才じゃないか。クラスのみんなが一目置いているんだぞ」
そうだったのか……。
話しかけてみると、クラスメイトはみんな良いやつばかりだった。
俺は、アーサーとディアナが居なくても魔法学園で楽しくやっていけることに気が付いてしまった。
だが俺は、アーサーの親友でディアナの幼馴染なんだ。
アーサーとディアナが居ない学園生活なんて考えられない。
俺は、アーサーの自主退学を撤回させ、ディアナを学園に連れ戻したい。
俺は、何の取り柄も無い貧乏男爵家の次男坊。
衝動に任せて闇雲に駆け出しては、何の成果も得られない。
アーサーの退学が確定するまで残り時間は少ない。
考えろ。
今度こそ誰にも悲しい思いはさせたくない。
俺にできることは――
--
広い森のような敷地内に、お城のような豪奢なお屋敷が建っている。
ここは、公爵令嬢ディアナの実家である。
その日の夕方。
俺は、門番に名を名乗ってから、ディアナへの面会を求めた。
すると、目付きの鋭い老執事がやってきて応接間に通された。
そして、突然の訪問にも関わらず、すぐにディアナがやってきた。
ディアナは、黒髪を腰まで伸ばした、お淑やかで礼儀作法も完璧な公爵令嬢だ。
「ディアナ、会えてよかった」
「はい、私もお会いしたかったですわ」
「今日は、学園を休んでいたから心配していたんだぞ」
「本当ですか?私は今、急に元気になりました。大丈夫、心配いりませんわ」
「そうか良かった。俺は今日、君に話したいことがあって来たんだ」
「まぁ、私もあなたに話したいことがあったのです。実は私、あなたの事が――」
ディアナの頬が赤い。
やはり学園を休んだのは、相当体調が悪かったせいだろう。
無理をさせてはいけないな。
要件を早く済まそう。
「ちょっと待ってくれ!悪いが俺から話をさせてほしい」
「そ、そうですわね。こういう事は殿方から先に言うべきですわね」
「すまない、本当に急いでいるんだ」
すると、ディアナがひとつ深呼吸をした。
ディアナの控え目な胸が上下した。
やはり、胸が苦しいのだろうか?
「覚悟は出来ています。どうぞ何でも言って下さい」
そう言って、俺を見つめた。
「そうか。俺は、ディアナに頼みがある。これはディアナにしかできないことなんだ」
「私にしかできない……なるほど、わかりますわ」
「さすが学年首席のディアナだな。俺の考えはお見通しだったのか」
「も、もちろんですわ」
そして俺は、ディアナに頭を下げた。
「頼む、俺にレイヤ公爵家のご当主、ユピテル・ラウ・レイヤ公爵様を紹介してくれ!」
俺は、アーサーの自主退学を撤回させるため、国王に匹敵する権力と影響力を持つディアナのパパ、レイヤ公爵様の力を借りることにしたのだ。
「……」
だが、ディアナからの返答が無い。
しまった。やはり怒らせてしまったのか?
おそるおそる顔を上げる。
ん?……なにやらディアナの様子がおかしいぞ。
顔を真っ赤にして、独り言を呟いている。
「――お父様にご挨拶。これはもうプロポーズと言っても過言ではない……」
おい、しっかりしろディアナ!
俺は、君のお父様に大事な話があるんだよ!
--
俺は、ディアナに頭を下げて、レイヤ公爵と話をする機会を作ってもらった。
俺の目の前には、テーブルを挟んで黒髪の大柄な男性が座っている。
国王に匹敵する権力と影響力を持つ、レイヤ公爵家の当主ユピテル・ラウ・レイヤ公爵である。
良く見ると目元のあたりが、ディアナにそっくりだった。
「約束も無くやってきて私に面会を求めるなど、今どき相当勇気のある若者だな!」
まずい。公爵様の機嫌が悪そうだ。
俺は、頭を下げた。
「無礼は承知でお願いがあってきました。どうか話を聞いてください!」
「頭を上げろ。こちらも貴様に話があったのだ」
公爵様の圧がすごい。
俺、何かしましたか?
「その前に、昨日のパーティーでの一件、礼を言う。貴様は、我が愛娘ディアナの名誉を守ってくれた。一人の父親として感謝を伝えたい」
そう言って、公爵様は頭を下げた。
なお、公爵と貧乏男爵の次男坊の身分差は、ほぼ王様と平民と言っても過言ではない。
「お、お気持ちは受け取りました。恐れ多いので、やめてください!」
俺は、大慌てで公爵様の頭を上げさせた。
「貴様には本当に感謝しているのだ。貴様の介入のおかげでレイヤ公爵家の面目が保たれただけでなく、今回の黒幕たちに対して一方的に『貸し』を作ることができた。ふはは、この貸しは大きいぞ」
公爵様は、まるで映画俳優の名悪役のように笑った。
「貴様の貢献は大きい。よって貴様が望むもの、最も欲しいものを与えよう」
おや?
俺が公爵様にお願いをする前に、俺が望む流れになってきた。
「すでに貴様の欲しいものはわかっている。遠慮は不要だ。黙って受け取るがいい」
「ありがとうございます公爵様」
俺は頭を下げた。
すでに、アーサーの自主退学を撤回させるための根回しは済んでいる。と言う事だろうか?
やはり、国王に匹敵する権力を持つ公爵様は侮れないな。
「これからは、わしを『お父さん』と呼んでも良いのだぞ?」
……は?
ちょっと待って!
公爵様が壊れたぞ!
俺が、びっくりしていると、さらに衝撃の発言が飛び出した。
「貴様と我が愛娘ディアナとの婚約を認めよう!」
なんだってー?
俺はただ、アーサーの自主退学を撤回させるため、公爵様の手助けを頼みに来ただけなんだ。
それが、どうしてこんな話になったんだ?
「パーティーでのお前の一言『ディアナ、何があってもお前を手放さない。ずっと側にいろ』だったかな?年甲斐も無く心が熱くなったぞ」
ん?
俺、そんな事言ったかな?
なんだか微妙にニュアンスが違っているような気がするんだが……。
「どうした?嬉しくて言葉が出ないか。これからは、わしと貴様は家族同然。遠慮することは無いんだぞ」
そう言って、公爵様が微笑んだ。
本当にちょっと待って。
公爵様をデレさせてどうするんだ。
落ち着くんだ。
落ち着いて、今回の用件を話すんだ。
「聞いてください公爵様。もしも、私を家族同然と思っていただけるのであれば、どうか私の親友を助けてください。アーサー様の自主退学を撤回させるためにお力を貸していただけないでしょうか?」
俺は、全力で頭を下げた。
「なん……だと?」
「アーサー様は、私の親友です。王族のくせに素直で押しに弱い、本当に手のかかる奴です。でもアーサー様は、ディアナ嬢を断罪追放できるような人間ではないのです」
「それが、貴様の本当の望みか?」
「はい。そのとおりです」
「貴様は、我が愛娘ディアナを公衆の面前で傷つけた不埒者を、よりにもよってこのわしに助けさせようと言うのか!」
「それが、ディアナ嬢のためなのです!」
「ディアナのため……だと?」
よし!
これで、記念パーティーの時と同じ流れだ。
「公爵様。本当に、わからないのですか?」
俺は、意味深に笑ってやった。
頑張れ俺!
今度こそ、誰にも悲しい思いはさせたくない!
「私は、アーサー様の親友でディアナ嬢の幼馴染です。小さいときから困ったことがあると、皆で助け合ってきました。その関係はこれからもずっと変わらない、親友で幼馴染です。アーサー様もディアナ嬢もそう願っているはずなんです!」
アーサーとディアナが居ない学園生活なんて考えられない。
アーサーの自主退学を撤回させ、ディアナを学園に連れ戻したい。
「なるほど、親友で幼馴染か。貴様は、ディアナと全く同じことを言うのだな……」
ディアナが同じことを?
「良かろう。我が愛娘ディアナのためであれば、レイヤ公爵家の全力を挙げてアーサー王子の退学を撤回させようではないか!」
「公爵様。ありがとうございます!」
「黒幕共にもしっかりと釘を刺す必要がある。ディアナの安全のために、貴様には存分に働いてもらうぞ。覚悟するがいい!」
--
そして、数日後。
アーサー王子が何事も無かったかのように魔法学園に登校した。
「聞いたぞ。お前ディアナの実家に頭を下げに行ったんだってな」
おいおい、アーサー。
お前のせいでこっちは大変だったんだからな。
「えっ?僕が自主退学?そんな事するわけないだろう。僕は王子だから責任なんて取る必要は無いんだよ」
は?
ちょっと待って!
それが本当なら、俺は何のために公爵様に頭を下げに行ったんだ!?
俺が、心の中で青くなっているとディアナがアーサーの耳を掴んだ。
「こらっ、アーサー様。人を困らせるような嘘を付くなと、何度も何度も教えましたよね?」
「あっ、ディアナ!こ、これは違う。ちょっとした冗談だって。親友であるお前は、最初からわかっていたよな!」
なんだってー?
また、アーサーの悪い冗談だったのか。
アーサーの冗談は、いつもわかりずらいから本当に困るんだよなぁ。
だが、このやり取りもいつもの事だ。
アーサーが冗談を言って、ディアナが叱る。
「あぁ、もちろんわかっていたとも。俺たちは親友で幼馴染だからな」
そして俺は、意味深に笑ってやった。
こうして俺は、アーサーの自主退学を撤回させ、ディアナを学園に連れ戻すことができたんだ。
それから、俺とディアナは親公認、学園公認の恋人同士となった。
目の前でディアナが頬を染めて微笑んでいる。
「俺とディアナが『婚約』なんて、身分違いで絶対にあり得ないと思っていたんだ」
「国王の目の前で『お前を手放さない』などと言われたら、もう嫁の貰い手がありませんわ。責任、取って下さいね」
そう言って、ディアナが俺の手を握った。
まぁいいか。
俺は、幼馴染のディアナのことが、出会った頃から大好きだったんだ。
こんなの悪役令嬢じゃない!って、思った方は『星1』でも入れてあげてください。
予想超える評価をいただき、本当にありがとうございました。
続編を書きましたので、お時間がありましたらご確認下さい。
『俺は悪役令嬢の幼馴染。勇者ユーリと魔王討伐』




