She and I・・・(下)
「I and She・・・(上)」の下巻にあたります。「I and She・・・(上)」からお読みください。
■ 第2章 ■
●1節
今でもこの出来事が悪い嘘であったらと思う。
鳴りをひそめていた交信機から、まずは音声が流れてきた。
この船の状態を確認するものだった。
これにサレンパーカー艦長が応答した。
船名を名乗り、乗組員の無事をつげた。
映像の送受信が可能になり次第、再度交信を開始するので、回線を開いておくようにとの指示があり、音声による連絡が途切れた。
「いったいどうしたというのだ」
艦長の表情は暗い。
「やっと帰ってきたと言うのに、今の反応はなんだ?」
■
再び、音声のみの通信があった。
一時間後に全員操縦室に集まるようにとの一方的なものだった。
サレンパーカー艦長以下、乗組員一同、管制官の反応にとまどうばかりだ。
■
長い長い一時間が経過した。
全員操縦室に集まり、操縦席上部の大型通信モニターを固唾を飲んで見守った。
ノイズだらけだったモニターが安定すると、そこには宇宙探査局局長の見慣れた顔があった。
モニターは局長がテーブルの向こうに座っている状態を映し出している。
しばらくの沈黙のあと、局長が語りだした。
■
−−諸君。
まず最初に断っておく。
諸君がいま観ているこの映像は、あらかじめ録画されたものである。
したがって、諸君がどのように疑問に思っても、私は諸君の質問に答えることはできない。
真っ先に浮かんだであろう疑問
何故このような形で語りかけているのか?
という問いには答えておこう。
諸君に今の状況を最初に伝えるのは私であるべきであり、確実にそうできるように録画映像という手段を選択したのだ、と。
■
・・・あまりにもったいつけた言い方ばかりで混乱ばかりしていると思う。
実際、事態はそれほどひどいのだ。
(ここで局長はテーブルの上のコップの水を一口飲んだ)
とはいえ、諸君が今この映像を観ているならば、それは諸君が無事に帰路にいるということだ。
それもあともう少しというところまで戻ってきている。
おめでとう。
本当に良かった。
諸君が無事帰還してくれたことをほこりに思う。
そして、謝罪せねばならない。
申し訳ない。
(そう言って局長はテーブルに手をつき頭をさげた)
もちろん、諸君は観光旅行に出掛けたわけではない。
危険な任務であることを理解のうえで出航したことと思う。
しかし、誰が自分自身以外の身におこることを予測できただろうか。
さて、私が諸君の頭に浮かんだ疑問にまともに答えていないことにいらだちを感じているだろうか。
正直なところ、答えないのではなく、答えられないのだ。
諸君の身に起きたことを、今の私は正確には理解していない。
ただ、一番最初に謝罪すべきは私の任務だと考えたのだ。
ここから先は、現在の宇宙探査局局長かあるいはそれに代わる立場の人物が諸君に事態を説明してくれると考えている・・・・・
(再び局長はゆっくりと頭をさげた)
■
モニターに一瞬の映像の乱れのあと、別の人物が映し出された。
操縦室にいる全員が一様にとまどいを覚えた。
「宇宙省長官、サレンパーカーです」
そう名乗った人物は艦長にそっくりとは言えないものの外見からくる印象が非常に似ていた。
名前も同じだ。
「皆さん、長い任務お疲れさまでした」
「早速、我々が陥ったトラブルについて説明します」
長官を名乗る人物は「我々」と言った。
トラブルは、僕たちだけの問題ではないのだろうか?
■
「皆さんが出航して、一年・・・」
「一年というのは、先程の交信での報告でわかったことです・・・」
「こちらでは三十年余りの月日が流れました。それがトラブルの全てであり、復旧できるといった種類のトラブルではない点に多くの悲劇が起きています・・・」
「・・・今も・・・」
「それは、俗に言うウラシマ効果ということかね?」
サレンパーカー艦長がモニターを見据えながら問う。
「我々の船はそのような現象がおこるほどの速度で移動はできないはずだ。過去の航行でも、そのようなことは一度たりとてなかった」
それを聞いてモニターの中の人物は、一瞬悲しそうな表情をした。そして・・・
「それが起きてしまったのですよ・・・・。父さん」
と言った。
■
「・・・ジュニア、なのか?」
モニターの中の人物、サレンパーカー・ジュニアがうなずく。
「艦長の年令を追い越してしまいました」
さみしそうに少しはにかんだようにも見える不思議な表情を浮かべた。
「・・・実は想定したケースの中に、・・・このようなケースもあった。君の顔を見た瞬間からそうなったような気がしていた。しかし、起こって欲しくなかったケースだ」
艦長も困ったような嬉しそうな不思議な表情をした。
「現在私は宇宙省長官という立場にいます」
「個人的な問題は後まわしにしたいところだったのですが、私の顔を見せ、艦長との関係をあきらかにすることが、いま起きている事態を理解していただく一番の近道だと考えました」
その時、モニターの中に老人がフレームインしてきた。
■
●2節
−−諸君。
改めて言おう。帰って来てくれてありがとう。
私の生きているうちに・・・
(その口調は間違いなく宇宙探査局局長のものだった。)
ご覧のように老いさらばえてしまった。
しかし、諸君よりも早く年をとったのは私やサレンパーカー・ジュニアだけではない。
諸君たちだけが
年をとらなかったのだ。我々ほどには。
諸君の任務中にこちらでは三十年の月日が流れた。
諸君の身内の方や恋人、友人にも、だ。
また三十年あれば、寿命で亡くなる方もいる。・・・不慮の事故も起こる。
私は諸君たちに謝罪するためだけに生きてきた。必ず帰ってきてくれるものと信じて−−
■
「あなたたちが出航してからのある時点からあなたたちの航跡を私たちは確認できなくなってしまったのです」
長官−−ジュニア−−がかわって話しだす。
僕たちは黙って聞いていた。
「深刻な事故が起きたことが予測されました−−」
■
−−見失ってしまっただけなのか、事故によりあなたたちの存在自体消滅してしまったのか、宇宙探査局では判断つかなかったそうです。
こちらにいらっしゃる当時の局長だけが、あなたたちの無事を前提に全ての指示をだしました。
いるはずの方向への絶え間ない監視。回線の確保。
民間では大宮教授が、この考えを支持なさいました。
そして、だいぶ後になりますがそれを裏付ける事例もあり、この監視行動は続けられることになりました。
そして・・・再びあなたたちを発見しました。
いくつもの推論の上にシミレーションが行なわれていましたが、いずれも今のところ検証不能であり、あなたたちに何が起こったのかを正確にはお伝えすることができません。
しかし、トラブルの結果はあきらかです。
私たちは三十年、年をとり・・・
・・・あなたたちはとらなかった。
■
−−私は先程、個人的な問題は後にしたいところ・・・という表現をしましたが、実はこの個人的な問題こそがトラブルの全てなのです。
その個人的な問題の具体的な部分にも、ある程度には答える用意もあります。
しかし、このようなことを急に告げられてもとまどうばかりだと思います。
映像回線がつながったのを機に、各個人にメールにて報告書を送信しています。
まずは各自、ご確認願えないでしょうか−−
■
そう言われても動くものはいなかった。
「任務を遂行することができなかった。その失敗はトラブルではないのかね?」
艦長が問う。
通常のタイムラグよりも長い間のあと、長官が答える。
「・・・・未検証ではありますが、必ずしも任務が遂行されなかったとは考えられていません」
「少なくとも、任務の目的地である空間にどういう性質の空間があったのかわかりました。ですが、我々の科学力はまだその空間の性質を利用するところまで進歩していません。残念ながら、みなさんが向かった空間は現在は航行禁止宙域に指定されています」
それを聞いた艦長はゆっくりと目を閉じた。
わかった、という代わりに。
■
「特に質問がなければ、いったん通信をおわります」
誰も答えなかった。
答えられなかった。
「艦長、最後にひとつだけ」
「乗組員の方々への精神的なフォローをくれぐれもよろしくお願い致します」
長官は深々と頭をさげた。
「まずは事態を把握してください・・・」
「・・・回線はいきています。大きな問題が発生した場合は呼び掛けてください」
その言葉を最後にモニターの映像はホワイトアウトして消えた。
静まり返った空気のなか、
「シフト以外の者は各自プライベートルームに戻って状況確認。随時交代してくれ」
艦長が命令を下した。
一同、
「了解」
と力なく声に出し、僕はプライベートルームに向かった。
■
●3節
プライベートルームに戻りメールの受信を確認する。
一通のメールを受信した。
本文は事務的なものだった。
血縁者の現在の状況が簡潔に報告されていた。
祖父母は亡くなっていた。
両親と妹は健在。
妹は結婚して子供もいるという。
僕は、知らない間に20歳の姪のいる25歳の叔父さんになっていた。
しかし、
僕は自分でも薄情だと思うが、血縁者の近況などよりもっと気になることがあった。
千夏は?
千夏はどうしているのだろうか?
僕のいなかった「三十年」をどのように過ごしたのか。
妹と同じように、知らない誰かと結婚して家庭を築いているのだろうか・・・・・。
■
メールの最後に、
送受信不可能だった期間のメールを別のサーバーに保管してあり、一括でダウンロード出来るようにしてあるということが記載されていた。
そこに答えがあるのか?
それともあらたにメールを出せば返事がくるのか?
すぐに?
どんな答えが?
気持ちの固まらぬまま、メールに記載されていた手順でダウンロードを開始した。
受信には時間がかかるようだった。
モニターを眺めていたが、とらえどころのない不安にかられてプライベートルームをでた。
ブリーフィンクルームには先客がいた。
■
「ドク・・・」
ブリーフィンクルームにいたのはドクだった。
「おう、イタルか。もう読み終わったのか?」
「レポートは。今、たまっていたメールの受信中です」
「そうか。その・・・、大丈夫か?」
「・・・いえ、大丈夫もなにも、まだよくわからなくて」
「そうじゃろのう。艦長はここで待って、誰かの悩みを聞いてくれと言ってたが・・・」
「艦長が?」
「おう。じゃから、なんでもきいてくれ」
「なんでもと言われても・・・」
不安なまま過ごしていた日々が、安心する間もなくめまぐるしく事情が変わり、混乱しているというのが正直な思いだ。
「何もわからんか」
「はい」
「わしも信じられんかったよ。艦長からその可能性を聞いた時にはの。でも、わしもジュニアを見知っとったから、あれを観たら信じないわけにはいかん。これは、現実。いや、これが現実なのじゃ」
「知っていたんですか?」
「ああ、相談されていた・・・」
■
思い返すようにドクが語る。
「最初にその推論に至ったのは、アンヌじゃった」
「アンヌが?」
全然そんな風には見えなかった。
「ナビゲーションシズテムについて一番わかっているのは彼女じゃからな。システムの状態から考えられることを推測したのじゃろう・・・」
ドクは話しながら、僕に腰掛けるよううながした。
僕が席に着くと、ドクは続きを話し始めた。
■
「この船は高速で移動しています。私たちの持っている知識、技術では計測できないほどのスピードで・・・」
−−アンヌが艦長に報告したのは、その推測だけじゃ。
どうしてそうなったのかということや、そのことによって起こることを二人は良くディスカッションしていたよ。
ナビゲーションシステムという計測器を失ってしまっていた二人にとっては、その推論全てが空想と同じくらい曖昧なものじゃった。
曖昧な話で、ただでさえ不安なみんなに
心配の種をさらに蒔く必要はない。
だから、二人以外でこの話を聞いていたのはわしだけじゃ。
一番、最悪なのは何かに衝突する事故。
または速度に耐えられずに船体が破損すること。
じゃが、システムが役立たずになってから相当期間無事だったことから考えて、何かそういうことのおこらない空間に入り込んでしまったと考えてもよさそうだと推定した。
次に、想像もできんくらい遠くまで行ったあげくに帰れないというケース。
これは充分にありえると推定された。
その時は積んでいた物資の終わりが、我々の終わりじゃ。
想像もできんくらい遠くまで行ったとしても、どこかでこの空間を出ることが出来るというケースが、
唯一帰れる可能性のあるものじゃった。
それでも帰れない可能性に、
そこで正確に転回できない。
通ってきた特殊な空簡に入れない、またはその空間が一方通行である。
といったケースが推定された。
帰れない可能性のどれだけ高いことか・・・
わしたちがこうして帰ってきたのがどれだけ奇跡的なことなのかわかってきたかな−−
■
改めて自分の作業が基準となった転回の重要性が理解でき、冷や汗が流れた。
「そして、そんなことは有り得ないだろうと想像していたのが『タイムマシーン効果』じゃ」
「タイムマシーン効果?」
「艦長は『ウラシマ効果』と言っていたかな。どちらにしても本当はそんな言い方はしないのかもしれん。でも結果はまさにそういうことじゃ」
「相対性理論とかそういうことなのですか?」
「実証されたわけではない。結果から言ってることじゃ。わしたちが高速で航行している間に流れた時間と地上で流れた時間に差が出てしまったために、この船"ホワイトエクスプローラー号"はタイムマシーンになったのじゃ」
「未来へのタイムマシーンですね」
「そうじゃ。30年後の未来へ1年かけて移動したんじゃ。だが、それは結果じゃ。計測する方法のなかった間は、どれくらい先の未来へ行くのかも計算のしようがなかった・・・」
「2年後の未来かもしれんし、100年後の未来かもしれん。それによっても、わしらの運命はまったく違ったものになっていただろう・・・。2年ならたいした違いは起きなかったかもしれんし、100年後ならわしらを待つ者もいないかもしれん」
「そこがわからなかったから、何もわからないのと同じということでみんなへは知らせなかったんですね」
「そうじゃ・・・」
しかし、色々考え合わせると・・・
「でも、気付いていなかったのは僕だけかもしれませんね」
「うむ。みんなベテランじゃからな・・・」
そうか・・・
そうだったのか・・・
■
●4節
タイムマシーンは開発されてはいなかったが、
未来へのタイムマシーンは理論上は製作可能だと聞いたことがある。
ホワイトエクスプローラー号は未来へのタイムマシーンになってしまった。
30年後の未来へ出現する僕達は、
地上の人から見ると、
過去からの亡霊なのだろうか・・・
■
現在の千夏−−50歳を越えているのか?−−にとって、
過去から現れる25歳の僕は、
相応しい男になっているだろうか・・・
■
●5節
そんなことを考えていると、アンヌがやってきた。
「どうだった?」
心配そうに訊いてくる。
「ええ。不思議な感じです。レポートを読んだだけでは良くわからくて・・・」
「そう。クリスと会った?」
「いえ。まだ会っていません」
「じゃあ、プライベートルームに戻ったのね」
「どうかしたんですか?」
「うん・・・。本人が言ったんだから教えてもいいのかな・・・」
■
「・・・艦長とダンと私が操縦室にいたんだけどね、クリスがダンに『交代する』って言ってきたの・・・。でもあまりに様子がおかしいから艦長が『大丈夫か?』って訊いたのよ」
「様子がおかしい?」
「もう顔面蒼白」
「で?」
「で、結局、本人が言うには『妻はいなくなりました』って」
「どういうことです?」
「そういう制度があるんだって。この船の行方がわからなくなってから2年たった時に、乗組員を死んだことにするか、そのまま行方不明者にしておくか家族が選択できるんだってさ」
「それで?」
「それで、クリスの奥さんは、クリスの死を選択したんだって」
■
「クリスは生きてるのに?」
「それは、私たちが一緒にいるから知ってることじゃない?奥さんから見たら2年間も音信不通のまま無事かどうかもわからないんだよ?」
「だけど・・・」
「うん。まあ、君の気持ちもわかるよ。実際、私もそう思う。でも、奥さんを責めることはできないだろう?」
千夏が他のだれかと幸せに暮らしていたとしたら、責めるつもりなどなかった。
「それはそうですが・・・」
奥さんの為に必死に帰ろうとしていたクリスを思うと・・・。
「そのうえ、奥さんがそういう選択をした場合は、いま彼女がどうしているかさえ教えてもらえないんだって」
「そうなんですか?」
「らしいよ。あたしは今自分の読んだけど、みんなのん気に待ってるみたいだから本当のとこはわかんないけど。甥っ子や姪っ子が同じ仕事してるってさ。どこまでエンジニアな家系なんだか・・・」
「そうですか・・・」
クリスは大丈夫だろうか・・・。
「あ、ごめん。それで、クリスがそんなだからダンと交代してくれって言いに来たんだ。君が大丈夫なら。で、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
本当は自分でも大丈夫なのかどうかわからなかったが・・・
■
●6節
ダウンロードしているファイルは後で読むことにして、
操縦室へ戻った。
ここでも大丈夫かと訊かれた。
大丈夫です、と答えてダンと交代した。
サラが、心配そうに
「本当に大丈夫なの?・・・その・・・あなたにも待っている人がいたでしょう。クリスと同じように・・・」
「僕の場合は・・・結婚していたわけでも、婚約していたわけでもないのでレポートに彼女の近況はなかったんです・・・。だから、本当はよくわかりません・・・」
「そう・・・。そういえば、私のレポートもそうだったわ。血縁者の現況報告だけだった・・・。とは言え私には"待っていてくれる人"はいないのだけれど・・・」
その時、
操縦室内に音声通信が響いた。
「・・・サレンパーカー艦長」
音声は艦長に呼びかける。
「・・・しばし、回線を私用で拝借してもよろしいでしょうか」
■
「許可する」
艦長が音声に応える。
「ありがとうございます。航海士のサラは操縦室にいますか?」
艦長はサラの方に視線を動かしたのち、
「おります」と応えた。
気のせいかサラの顔色がおかしい。
「すみません。映像回線に切り替えます」
と音声の主が言うやいなや、
モニターに映像が映し出された。
先程、ジュニアがいた席に1人の男性が座っていた。
しぶい
というかキザな感じ
というかワイルド
というか・・ちょっとクセはあるがいい男だ。
「サラ。元気か?」
と、その男性は言った。
「ロイ・・・」
とサラ。
え?
ロイって、あのサラの?
■
「ずいぶん待たせたんだってな」
「・・・どうして・・・」
ロイの表情ががちょっとひきしまった。
「おそらく・・・、俺の乗ったマクロイノ号とそっちの船とが陥った状況は同じ性質のものだ。話を聞く限りではな」
「良かった・・・。生きてて・・・」
「サラもな。クリスがうまいことやったのか?」
「ええ。それに艦長や、ダン、イタル、アンヌ、ドク・・・。私たちはチームで帰還したと思っているわ・・・」
「そうか。それもまた運だな・・・」
「ええ」
「俺は帰還してから15年もおまえのことを待ってるよ。・・・俺の勝ちだな」
「ロイ」
「あと少し。慎重に帰って来いよ」
「わかったわ」
「待ってる」
とロイは言い、最後に
「艦長、私用ですみませんでした・・・。なんてな。ジミー偉くなったな・・・。帰ってきたらまた一緒に飲もうぜ」
と言葉を残しモニターから消えた。
■
「・・・驚いたな。あのマクロイノ号が・・・。さすがはロイだ・・・」
艦長が珍しくつぶやいていた。
サラは呆然と立ち尽くしていた。
「私にも待っている人ができたわ・・・」
と振り向いた瞳に涙があった。
「やっぱり、帰ろうとがんばってたんですね。信じて待っていたのは間違いじゃなかったじゃないですか。今度は僕たちががんばって帰りましょう」
と言うと
「調子にのるな、生意気だぞ」
と笑いながら怒られた。
■
●7節
交代の時間になると、クリスが現れた。
なんと言葉をかけていいのかわからなかった。
「大丈夫だ。何もしていないより、何かしている方が考えなくてすむ」
とクリスの方から言ってきた。
そして、艦長に
「ブリッジは僕にまかせて、艦長も一度あがってください」
と言った。
艦長も落ち着いた(といっても顔色はさえなかったが・・・)クリスの表情を見て、
「頼む」
と言って操縦室を後にした。
■
プライベートルームに戻って確認すると、
ダウンロードは終わっていた。
一つのフォルダがあった。
そこに何があるのかこわくて、
なかなかフォルダをひらくことができなかった。
現在の千夏を思い描くことができず、
20歳の千夏と、
おそらく50歳を越えた当時の千夏のお母さんの姿が
ぐるぐると頭の中でまわってごちゃごちゃになっていた。
■
ダウンロードしたフォルダをやっと開く。
千夏からのたくさんのメールがあった。
じっくり読むことができなかった。
ドキドキと心拍数があがった。
文字が眼の中で踊り、飛んで行った。
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
ちょっと怒ってるんですけど。
"愛していない"ってどういうこと?
イタルのいない人生なんて考えられません。
死んじゃうよ。
■
あの時のメールだ・・・。
返事くれてたんだ。
死んじゃうって、おい・・・。
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
死んじゃおうかと思ったのは本当。
メールをじっくり見て、
発信日に4月1日という日付を見つけなかったら、
危なかったかも。
でも、昨日はイタルからの返信がなかった。
どうしたのかな。
イタル・・・
■
通信が不能になってしばらく後のメールもあった。
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
イタル
いま
どこにいますか?
私が部屋から出ないので
みんなが心配しています。
事故が起きたかもしれない
と言っているのはみんなの方なのに。
私は、そんなことは信じていません。
ただ、
イタル
あなたがここにいないことがつらいのです。
それでも今日久しぶりに外出しました。
昨夜、
父から聞いた話を良く考えたくて。
外の新鮮な空気を
胸いっぱいに吸い込みました。
見るものすべてがあなたを思い出させます。
庭のベンチを見ては、
二人並んで話した日を、
すれ違う親子連れをみては、
一緒にこどもの名前を考えた日を。
バス停であなたを一目見て、
この人だ
とわけもわからず思ったあの日のことを。
私はいつまでも、
あなたの帰りを
待っています。
いつまでも・・・
■
こんなに心配をかけていたんだ・・・
逢えなくてつらい想いをしていたのは、
自分だけではなかった。
起こっている事態がわからなかったのは、
僕たちだけではなかった・・・
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
今朝、夢をみた。
とても懐かしい想い出。
起きていても
夢をみていても
イタル、
あなたのことばかり想ってるけど、
あの場面を夢にみたのは初めて。
私には恥ずかしくて、
イタルの方をみることができなかったので、
あの時、イタルがどんな表情だったのか
わからないせいかも。
■
大学の研究サークルの新入生歓迎会を覚えてる?
私が入学した年の。
余興をしなければならなくなったイタルは困った様子だった。
私はイタルを困らせる先輩たちを許せなかった。
気が付いた時には立ち上がっていたよ。
その時は恥ずかしいだけだったんだけど、
何故かイタルを怒らせてしまったのではないかと後になって思った。
なんて恥ずかしいことをしたのだろうという思いと
嫌われたのではないかという思いで、
しばらくイタルに顔をみせる勇気がでなかった。
また、兄さんの知り合い経由で母の耳にも入り、すごくしかられた。
「嫁入り前の娘が・・・」ってね。
そのあと、何度も誘ってもらたった。
嬉しかったけど、どういう顔して逢えばいいのかわからなかったよ。
あの時、断り続けていたら・・・
私たちつきあわなかったかな?
そんなことないよね?
私の運命の人、イタル。
あの時からじゃなくても、
いつかはつきあうことになったはず。
そういう運命。
夢でみたその時のイタルは、
私の方を見て
少し恥ずかしそうに優しく微笑んでた。
きっと実際のイタルも怒っていなかったんだよね。
だから、
やっぱり誘いを断らなくて良かったんだと思った。
いつかはつきあうことになったとしても、それまでの時間さえ、惜しく思える。
いっそ、
初めて逢った日
から恋人になりたかった。
そうそう、いつかカラオケデートをしたね。
歌が上手なのに驚いた。
あの時、歌を歌っていたら盛り上がったかもしれないね。
でも、イタルが歌が上手なことを私しか知らないというのも嬉しいものです。
イタルのことを好きになる女の子が出て来ても嫌だし。
イタル、
私の運命の人。
いま
どこにいますか・・・
■
千夏・・・
どんなに僕は、
必要とされていたのだろう・・・
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
カメはオスよりメスの方が大きくなる
って知ってた?
うちにいるヒメは、
甲羅の長さがもう30センチくらいあります。
イタルが連れてきたヤマトはまだ12センチくらい。
ずいぶん大きさに差が出ました。
でも、仲良くしています。
羨ましいくらいに。
人間でいうと、
姉さん女房
みたいな感じなのかな?
イタルは、
年上の女性はどうですか?
何歳くらいまでの年上なら大丈夫ですか?
イタル
早く帰ってきて。
逢いたい・・・
■
千夏、知っていたのか・・・?
そうか、
ジュニア−−長官が
大宮教授は帰還の可能性を支持してたと言っていたじゃないか・・・
教授は全てをわかっていたのだろうか?
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
22歳になりました。
家族が誕生日を祝ってくれたよ。
イタルが来てくれなくて残念です。
1年間逢えないってこういうことだよね。
でも、
帰ってきたら許してあげます。
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
今日は疲れたよ・・・。
おやすみ、イタル
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
ちゃんと1年待ったよ
イタル
逢えないのもがまんした
なんで帰ってこないのかな・・・
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
今日は大学の卒業式でした。
主席で卒業だって、私が。
イタル、信じられる?
研究ばっかりやってたのになー。
だからか。
そのご褒美なのかな。
イタルに逢えるのが、
一番嬉しいけどなー。
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
用があってあるメーカーに行きました。
そうしたら、偶然会いたくない人に会ってしまいました。
誰だかわかる?
イタルの同級生だった、あの先輩です。
悲しそうな顔で、
「奈良くんのこと、残念だったわね」
だって。
久しぶりにひとのことを無視してしまいました。
だって、
イタルは帰ってくるのに、
もう帰ってこないような言い方をして。
嫌なひとです。
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
もうすぐイタルが出航してから2年になります
毎日
毎日
年をとっていきます
いつまでも
待ってるけど・・・
わたし
いつまでも
若くないからね
イタルが帰ってきた時に
イタルが
わたしのこと
わからなかったら
やだな・・・
■
●9節
地上では行方不明になって2年の後、
船員の死亡を申請すれば、認められる権利が残された家族に与えられたそうだ。
新しい生活を始めることができるように。
サラから聞いたロイのケースでは、死亡の扱いになるということだったが、
家族の選択に任されているようだった。
2年というのは、ホワイトエクスプローラー号の積載物資の量から算出されていて、その期間を越えての生存は物理上ありえないということらしい。
ただ、わずかな可能性を信じることを家族から奪わないために、選択できるようにしたらしい。
僕の家族は、
僕の死亡を受け入れなかったようだが、
僕のアパートはひきはらったらしい・・・
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
イタルのご両親が−−
お父様とお母様が−−そうお呼びしてもいいでしょう?−−先日イタルの部屋を引き払いました。
私と兄も立ち会いました。
部屋にあったほとんどのものはご実家に送られました。
オートバイの扱いには困られた様子でした。
兄が
良かったらお預かりしましょう
と申し出ました。
お父様が、
形見としてもらってほしい
と申されました。
"形見"という言葉に、
お母様も私もひどく動揺してしまいました。
お母様も、
あなたの帰りを信じているのだとわかりました。
とにかく、
オートバイはうちでお預かりしています。
放っておくと痛むから
と言ってたまに兄がエンジンをかけているようです。
私のいない時に。
オートバイのエンジン音がするたびに、
イタルのことを思い出し、
私の胸が痛むからでしょうか。
早く帰って来て、
また後ろに乗せてください。
あの日のように・・・
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
イタルのお母様から電話がありました。
用事はなかったみたい。
でも、何を言いたかったかはわかった。
世間話のように、
イタルの幼なじみ(?)が結婚したって教えてくれたけど、
本当は私にイタルのことを忘れるように言いたかったのじゃないかしら。
イタルを待ち続けている私を、
お母さんは心配してくれているんだと思う。
だけど、御自分自身もイタルのことをあきらめられていないから、はっきりとは言えないのでしょう。
早く帰ってきて、イタル。
■
・・・結婚。
千夏はその後どうしただろう・・・。
20代の千夏
30代の千夏
40代の千夏
本当だったら一緒に歩めるはずだった年月を
千夏は1人で過ごしたのだろうか・・・
それとも・・・
■
To:イタル
From:チナツ
Sub:
残念なお知らせがあります。
宇宙探査局のメールサーバーは
もうイタル宛のメールは受付けなくなるそうです。
でも、兄がこの件で相当動いてくれました。
関係各所と話をつけ、
今までのメールでサーバーに残っている分は、
サーバーを分けて保管することになったようです。
淋しい想いで書いてしまったメールも
あるかもしれないけど
心配しないで。
私の心にははいつもあなたがいます。
あなたの心に私はいますか?
いつの日か、
イタルがこのメールを読むことが出来ますように。
そして、
また逢える日を楽しみに
毎日を過ごしたいと思います。
イタル、
運命の人。
また逢える運命だよね。
では
また・・・
■
ホワイトエクスプローラー号の乗組員の皆様へ
ただいまダウンロードしていただいた電子メールは、
私ども大宮研究所が
宇宙探査省(当時宇宙探査局)から
業務委託を受け、
皆様宛の電子メールのサーバーを管理保管していたものから再構成したものです。
発信者情報を一部削除していますので、
これらのメールに直接返信することは出来ません。
ご不明な点など、お問い合わせの際には、
当メールアドレスにご返信ください。
ただし、制度上保護されている情報など、
お伝えできない情報も一部ございますので、
悪しからずご了承ください。
大宮研究所
管理責任者 大宮冬雄
■
更にもう一通
■
奈良イタル様
立場を利用してこのメールを記す。
宇宙探査局を退局して、
現在は大宮研究所に在籍している。
地上に帰還したら、
研究所に来てもらえないだろうか。
場所は、
我が大宮家のあったところだ。
詳しくはその時に。
大宮冬雄
■
どういうことだろうか。
千夏はどうしたのだろう?
大宮研究所?
先輩が何故?
読む前より謎が増えていた。
■
クルー達の
いろいろな想いを乗せた
ホワイトエクスプローラー号は、
衛星にある中継基地まで無事に到着した。
基地では、大歓迎を受け48時間滞在した。
常駐スタッフに見知った顔はなかった。
出航した時のスタッフは、
みな現場から引退していた。
心も
身体も
休まることはなかったが、
ここからは
お客さん扱いで
シャトルに乗せてもらい地上に帰るだけだ。
することがない分、
いろいろなことを考えてしまった。
■
ここにエピソード
あれは、千夏とつきあい始めたばかりの頃だったか・・・
珍しく夜中に電話が鳴った。
サッカーをテレビで観戦していた僕はすぐに携帯に手を伸ばした。
相手を知らせるインフォメーションウィンドウには見覚えなのない番号が表示されていた。
誰だろう?
こんな時間に。
テレビの音声を絞って電話に出る。
■
「はい?」
「・・・石神井です。遅くにごめんなさい。今大丈夫?」
「大丈夫だけど、何かあったの?」
石神井百合。
大学の同級生。
数少ない女子学生だ。
「うん・・・。特に何かあったわけじゃないのだけど」
何もないのにこんな夜中に電話をもらうほど彼女と親しくはなかった。
「・・・」
答えないでいると、
「奈良くんて、一年生の夏休み明けから印象変わったよね」
と随分むかしの話をされた。
■
「そう?」
一年生の夏休みに僕は千夏と出逢っていた。
「それと、最近もまた感じが違うよね」
「そうかな?」
「最初に会った頃は、とても話し掛ける気になれない感じだったよ」
「そう?自分ではわからないけど」
(といったのは嘘だ。)
「・・・彼女のせいなの?」
「え?」
「なんでもない・・・。就職は決まった?」
「・・・うん。宇宙探査局でなんとかなるかもしれない。来年の試験次第だけど」
「すごいわね。まだこの時期に」
「自分の志望がしぼれただけだよ。まだ何か決まったわけじゃない」
「そう。私は自分が何をしたら良いかわからないわ」
「まだ時間はあるし君は優秀なんだから、志望すれば何にでもなれるだろう」
「・・・」
返事のないまま電話は切れた。
小さな声で、
志望してもなれないものもあるわ
と聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
切れたばかりの電話がまた鳴った。
■
「起きてた?」
千夏からだった。
「うん。どうしたの?」
「・・・」
「なに?」
「・・・石神井先輩から電話いかなかった?」
何も後ろめたくないのにドキッとした。
「あったけど?さっき」
「さっき?」
「うん。就職活動の話した」
「ふうん。こんな夜中に?」
■
「起きてたから出ただけだよ」
「それだけ?」
「それだけって?」
「他に何も話してないの?」
「うん」
「昼間、先輩にイタルの番号きかれたの」
「・・・」
「それからずっと気になって、寝られないし、どうしたらいいのか・・・」
「なんでもなかったよ」
「でも、石神井先輩、イタルのこと・・・」
僕もそれは思った。だけど−−
「行こうか?」
「え?」
■
「これからそっちに行く」
「なんで?真夜中だよ」
「朝の門限は何時?」
「えー、そんなのないよ」
千夏がやっと少し笑った。
「じゃあ、明るくなったら裏木戸から出てきてよ」
「・・・うん、わかった。待ってる」
■
真っ暗な夜道を、
僕はバイクを走らせ
千夏の元へ向かった。
自分の何が千夏を不安にさせるのだろうか・・・
すいている道を飛ばして走ったので、
大宮家近くの公園に着いた時はまだ暗かった。
公園の脇にバイクを停め、
自動販売機で温かい缶コーヒーを買った。
千夏に、
何か余計なことをしたのかな
とか
それとも大事な何かを忘れているんだろうか
とか
千夏に何かあったのかな
とか
石神井百合は千夏に何をどう言って僕の電話番号を訊いたんだろう
とか
彼女は結局何がしたかったのだろう?
などなどぐるぐるとコーヒーを飲みながら考えていた。
■
空がうっすらと明るくなり始めてから、
僕は大宮家の木戸に向かって歩きだした。
時折、新聞配達員とすれ違ったが、
街はまだ活動を始めていなかった。
木戸に着くと同時に、
庭の白い靄の中から
千夏が現れた。
千夏はいつでも僕が来たことを察知する。
「・・・おはよう」
と言う千夏の目の回りは、白い顔の中でほんのり赤みがかって見えた。
「おはよう。公園にバイク停めてるから歩こうか」
こくん
と頷いたが動かなかった。
顔を見ながら歩き出すと、
半歩遅れて
付いて来た。
■
公園のベンチに腰掛ける。
ちょうど停めたバイクを
見ることが出来る位置にベンチがあった。
「はー。何やってるんだろう私」
と千夏が大きなため息の後言った。
どういうこと?
「本当はこんなこと言いたくないんだけど・・・」
「何?」
「自分が自分じゃないみたい。私ってこんなコだったかなって思う」
■
「こんなコって?」
「ん・・・」
千夏は話したくなさそうだった。
しばらくして
「つまらないことでイライラしたり、眠れなくなったり、・・・知らないあいだに泣けてきたり・・・。私ってもっとクールなコじゃなかった?」
と訊いてきたが直接答えず、
「つまらないことなの?」
と訊いてみた。
■
じっと考える千夏。
「・・・つまらなくない。・・・イタルのことは、どんなことでも大事なこと・・・」
「じゃあ、それでいいじゃない」
「やだ。カッコ悪い。なんでイタルは冷静なの?」
「冷静じゃないよ。頭の中ゴチャゴチャのままかっ飛んできた」
じっと千夏を見つめる。
「うん。ごめんね」
「僕もごめん。不安にさせちゃって」
「・・・逢いたかった」
「僕も逢いたかった。だから、来た。・・・呼べばいつでも飛んで来るから・・・。その・・・」
何も言わずに千夏の肩を抱き寄せた・・・
■
●12節
だけど、呼ばれても
すぐに飛んでいけないところに
僕は旅立ってしまった
■
僕はある程度の覚悟をして、
ホワイトエクスプローラー号に乗った。
航海は一年間の予定だった。
自分が選んで就いた仕事だったし、
断るという選択肢は無いに等しかったのも事実だ。
しかし、
こんなトラブルに遭遇してしまうと
"ある程度"の覚悟などなんの意味もなかった。
一年間逢えないということが、
こんなにも辛いことだったなんて・・・
千夏にしてみれば、
覚悟なんてなかっただろうし、
しかも、
出航してすぐに消息不明になってしまった僕を
どんなに怨んだだろうか。
僕は
自分が生きていることを知っているから、
ただ千夏に逢いたい
早く帰りたい
とひたすら思っていただけだが、
千夏は、
逢いたい
早く帰ってきて
と思いながら、
いつ帰ってくるんだろうか
"本当に"生きて帰ってくることができるんだろうかと
思い悩んでいたのだろうと考えると
やるせなかった。
僕のことはあきらめて
幸せに暮らしていてくれ
とさえ思う。
■
クリスだって、
彼の元を去った奥さんが
今は幸せに暮らしていると
教えてもらえれば、
自分の気持ちに区切りはつけられたかもしれない。
また、気持ちに区切りなんてつけられないかもしれない。
それはクリスにしかわからないし、
もしかしたらクリスにもわからないかもしれない。
今の僕と同じように・・・
■
●13節
計器類のない
純粋な客室に乗っているという
珍しい状況に落ち着けないまま
シャトルは空軍基地に着陸した。
着陸時には、
思わず身構えてしまった。
クリスとダンの操縦に感じるような
圧倒的な安心感もなかったし、
計器がないことがかえって恐怖を感じさせた。
シャトルのパイロットが下手なわけはないのにである。
空軍基地からはすぐに移動した。
"普通"は、ここには着陸しないそうだ。
混乱をさける為の措置らしい。
■
●14節
地上に帰還してからは、
宇宙省の宿泊施設に滞在した。
一躍、時の人となった僕たちには
好奇の目が向けられるとともに、
報道機関から取材の申し込みが殺到していた。
それらすべてを宇宙省はシャットアウトして、
一応の平穏を与えてくれていた。
健康診断を受け、体力がある程度回復するまで外へも出られなかった。
そして、極秘のうちに僕たちはその施設内で家族との面会をそれぞれ果たした。
どの面会にもぎこちなさがあった。
彼らには彼らの30年の月日があり、
僕たちにはたった1年のことだったけれど、
死の覚悟を乗り越えて帰還したという濃厚な1年があった。
その二つの年月はまったく異質のものである。
お互いに異質の時間を過ごした家族は、別世界の住人のようにさえ遠く思えることもあった。
それでも血の繋がりというのはありがたいもので、
親は生きて帰ってきたことを喜んでくれた。
その点はどの家族も似たようなものだっただろう。
だが、夫婦は?
または恋人は?
無条件でわかりあえる血のつながりはないけれど、
築いてきた関係でそれを乗り越えることもあるかもしれない。
それは人それぞれだ。
■
僕は家族と一緒に郷里には帰らなかった。
僕はきっと、宇宙省を離れては生活ができないだろう。
ダンとアンヌ、そしてドクも同じ選択をした。
宇宙探査局という組織は、
30年の間に宇宙省に発展していたが、
省内に宇宙探査を担う宇宙探査局という部署があらたに存在していた。
僕たちの身元を、そこが引き取ってくれたのである。
サレンパーカー艦長は、
責任をとって退局した。
誰も艦長の責任を追及せず、
むしろ無事に帰還した手腕を褒めたたえられていたが、
勇退する道を選んだ。
そして、自分の母親と年齢のかわらない妻と、
自分より年上の息子とともに、
かつての自分の家で暮らしはじめた。
艦長にどんな葛藤があったのか、
想像することはできなかった。
クリスは態度を決めかねていた。
■
僕は、
大宮先輩からのメールの内容にとまどっていた。
どうして千夏がどうなったのか教えてもらえないのだろう・・・。
クリスにも情報はなかった。
しかし、僕に比べて選択肢が少しだけ多かった。
彼の妻が、
クリスの死を制度上受け入れ、
帰還した今も連絡をとってこないことから、
彼女はクリスと関係のないところで幸せに暮らしているということは想像できるが、それはあくまでも想像にしか過ぎない。
第二の人生を尊重する為に、お互いに情報を得ることが制度上禁止されているからだ。
彼女がどこでどのような生活を送っているのか−−いないのか、生死さえも−−クリスには知りようがないのだ。
だが、本当に?
クリスは教えてもらうことはできないけれど、
自らの手で調べることを誰が止められるだろうか?
制度がそれを禁止していたとしても。
クリスは迷っていた。
会いたい気持ちと、
会いたくない気持ち。
それは当然
鏡のように
彼の妻も持っている気持ちではないのか?
会いたい気持ち、
会いたくない気持ち・・・
そして、
クリスの死を認めてしまったことを負い目に感じ
会えない
会う顔がないという気持ち。
または、
もうほおっておいてほしい。
クリスのことは忘れて新しい人生を歩んでいるのだから。
という場合だってあるだろう。
情報がないということは、
それらすべてに可能性があるということだった。
「なんて残酷な運命なんだ。30年後ではなく、300年後だったならこんなにも悩むことはなかったのに」
後にクリスはそう言ったという。
■
しかし、運命は残酷なだけではなかった。
サラにとっては、ちょっとした・・・いや奇跡的な幸運をもたらした。
皮肉にもこの航行により、ロイとの間に生じるはずだった年齢差をあまり生まずに再会を果たすことができたからだ。
ロイが宇宙で行方しれずになった時の年齢が
ロイ32歳
サラ27歳(推定)
サラが今回出航した時の年齢が
サラ37歳(推定)
それから地上で15年(ロイの出航から25年)経過後ロイ帰還
ロイ33歳
さらに15年後サラ帰還
ロイ48歳
サラ38歳(推定)
元々の年齢差5歳に
宇宙の異空間で過ごした時間の差
地上の時間にして5年
合わせて10歳の差になった。
それ程不自然ではない年齢差といえるだろう。
それこそ親子ほど年の離れたカップルだっているのだ。
(ちなみにサラの年齢が推定なのは、今だに彼女が私に年齢を教えてくれないからである)
ロイは自分の経験からサラの帰還を信じた。
だが、それはクリスへの信頼でもあった。
ロイが帰還するまで、
何隻かの船が同じ空間を航行したが、戻ってきた船はいなかったからである。
ロイはさらっと、
「まっつぐ行って、くるっとまわってまっつぐ帰ってきただけだ」と言っていたらしいが、
それがどれほど高度な技術を要することか。
ロイの乗った船−−宇宙探査艇"マクロイノ"−−の艦長は正直に、ロイがいなければ戻っては来れなかったと語ったという。
今はロイの通った空間も航行禁止宙域になっていた。
それでも、
クリスとサラの乗る船なら、
同じ事態になったとしても必ず帰ってくると信じていたのである。
そして、同じように帰還を信じた者たちがいた・・・
そのうちの一人が千夏だった。
■
僕はクリスのように
どうすべきか悩むことはなかった。
先輩のメールにあったように、
大宮家に向かうだけである。
そこにどんな事実が待っていようとも。
そこから初めてどうすべきか悩むことになるのかもしれなかった。
外出許可が降りてすぐ、僕は大宮家へと向かった。
■
●15節
"30年後"の(僕からみた)未来も鉄道路線には大きな変化はなかった。
車輛や駅舎また改札口のシステムはさすがに見慣れないものに変わっていた。
そして、全線が地下にもぐった現在は、昔のように郊外に向かって緑が多くなって行く様子は窓から見えなかった。
何度も大宮家へ通ったが、
こうして電車を利用したのはごくわずかだ。
始めて訪れた時からバイクで通うようになるまでの数回、それに千夏の合格祝い、
そして、千夏に最後に逢った日−−
■
●16節
玄関を見上げただけで、
ガチャリと扉が開いて千夏が出迎えた。
「今日はスーツなんだね」
へーという顔をしている。
「社会人だから」
と言うと、
「お嬢さんをください! の日?」
と小声で訊いてきた。
「違うよ。出航の挨拶だ」
「そっか、残念」
と微笑む千夏はわざと明るく振舞っているようだった。
■
リビングで教授は出迎え、
「そうか、とうとう奈良くんも宇宙へ旅立つか」
と嬉しそうだった。
「はい、ここまでこれたのも教授のおかげです」
「君ががんばったからだ。向こうでもがんばってきなさい」
「後のことは任せてくれ」
と先輩も言った。
これから出航まで一ヶ月、宇宙センターから外出は出来ないからと伝え、
教授と先輩に出発の挨拶をしたので帰ると言うと千夏がバス停まで見送るという。
■
ゆっくりと歩く。
「ごめんな」
と言っていた。
「何が?」
と千夏が明るい顔で言う。
「一年も離れ離れになることになって」
「うーん。さみしいって言ったら行くのやめる?」
え?
そうだよな。
一年なんて長いし、気軽に帰ってくることのできないところに行くんだ・・・
「ちょっと、考え込まないでよ。宇宙飛行士になるのは、イタルの夢だったじゃない」
「うん」
「ちゃんとがまんして待ってるから・・・」
そして耳に口を近づけ
「・・・浮気もしないし」と言う。
そんなこと考えてもいなかったから、ドキリとした。
「そんなまじめな顔しないでよ」
という千夏の方が一生懸命明るい顔を作っているように見えた。
■
バス停に着いて、
バスを待っている間、何も話すことができなかった。
■
バスが来た。
「じゃあ、行って来るよ」
「うん、元気でね」
と千夏は手を振った。
笑顔だった。
笑顔で送ろうと決めていたのだろうと思った。
■
●17節
――地下を走った電車は駅に着いた。
駅はずいぶん立派になっていたが、
交番というシステムは健在のようで、
やはり交番の前にはバスの停留所があった。
宇宙省から支給されたパスで、
電車とこのバスも同じように乗降できた。
みっつめ
のバス停で降りる。
ベンチから
千夏が立ち上がってくる幻影が見えた。
あの夏の暑い日、
高校生だった千夏の姿が・・・
道の反対側のバス停には、
僕を見送った大学生の千夏の姿が・・・
そのどちらも幻だった。
■
大宮家の建物は、
建て替えられていた。
もはや個人の邸宅の面影はなく、
小さくかかげられた看板に
「大宮研究所」
とあるように、
いかにも研究施設といった感じのおもしろみのない建物に変わっていた。
入口は以前の玄関のあった位置にある。
僕はそこを見上げて、立ち止まっていた。
ここまできて飛び出して来ない千夏を不思議に思った。
"帰ってきたよ。千夏"
心でつぶやく。
どのような話を聞かされることになるのか。
僕はサレンパーカー艦長になれるのか
それともクリスのようになるのか・・・
■
インターホンを鳴らす。
「大宮研究所です」と、
女性の声が応えた。
「奈良と言います。大宮教授はいらっしゃいますか」
「奈良様ですね。お待ちください」
といってインターホンがプツと切れた。
どうやら事務員もいる立派な研究施設のようだ。
待つ間もなく、
入口の扉が開いた。
教授・・・と思ったのは先輩だとすぐに気が付いた。
「ご無沙汰しています」そんな挨拶をしていた。
「奈良くん・・・」
先輩はそう言ったきり絶句していた。
急に手をにぎりこむように包んで来て、
「本当にすまない・・・」
と言った。
何を謝られているのかわからなかったが、先輩のつらい気持ちが伝わってきた。
「とにかく入ってくれ」
ちょっとした受付スペースと女性事務員が二人ほどいる事務スペースを横に見て、
一番奥の所長室とプレートのかかった部屋へ通された。
応接セットに大宮夫妻が立って待っていた。
「お帰り、奈良くん。良く帰ってきてくれた」
年老いたとはいえ威厳は以前のままの大宮教授が口を開いた。
千夏のお母さんの方は、僕の顔を見るなり、
目に涙がたまりはじめてきていた。
相変わらず美しかった。
良い年の重ね方をしたのだろうと思われた。
「お茶を・・・」としぼりだすように言いながら、
そのまま部屋を後にした。
そんなお母さんを目で追いながら、先輩が教授の隣に立ち
僕を教授と先輩の向かいに座らせて自分達も腰掛けた。
この場に、千夏がいない理由を僕は必死に考えた。
僕とは逢いたくないのだろうか?
不意に彼女の言葉が思い出された。
"・・・三十年後の姿なんて勝手に想像しないでください・・・"
初めて会った日に、
彼女と母親を見比べた僕に向かって言った言葉だ。
あの頃の彼女の母親のように成長した千夏が、
この建物のどこかで息をひそめているのか?
それとも、ここにはもういなくて、
「千夏は結婚して幸せな生活を送っている」
と聞かされることになるのか?
だったらあっさりと船にいる間に教えてくれても良かった。
千夏の幸福だけを祈れるように
自分自身を納得させる為の時間はたくさんあった。
実際は何が起こったのかわからず、
もやもやとした想いをずっとかかえたまま
今日を迎えていた。
ここに来れば、すべてがあきらかになるのではなかったのか?
■
「奈良くん」
教授がじっと顔を見つめながら口をきる。
「はい」
返事をする喉がカラカラだ。
「どうしても直接私の口から君に伝えたかったのだ」
「はい」
重い空気が漂う。
僕は教授の顔から目が離せなかった。
思い切ったように教授は言った。
「奈良くん。千夏は生きていないんだ・・・」
■
●18節
千夏は
生きて
いない・・・
千夏は生きていない
と教授は言ったのか?
生きていないと・・・
■
「すまない。奈良くん」
先輩の声は遠く聞こえた。
「心配せずに行ってこい・・・などと君を送り出したことを何度後悔したことか。僕は妹を守ることができなかった」
守る?
声にならない。
■
「事故だった。防げない事故ではなかったかもしれぬ。」
事故?
「奈良くん。つらいだろうが最後まで聞いてくれ。何故すぐに君に伝えられなかったのかも、最後にはわかるだろう−−」
そういって教授はゆっくりとした口調で語りはじめた。
■
●19節
−−千夏は、
最初から宇宙開発にかかわる周辺技術へ関心を持っていたようだ。
冬雄や君と同じ大学に入り、
その道へ進んだ。
君が出航するまでは、
基礎を学んでいただけだったから君は千夏が何の研究をしていたか知らないかもしれない。
そして君は音信不通になった。
君の消えた空間について、
私は以前から仮説を持っていた。
その仮説がある程度正しければ、
無事に帰ってくることも可能性の上ではありうると
私は千夏に話してしまった。
君のことを心配している姿を見てはいられなかったのだ。
■
ただし、
帰ってくることが出来たとしても
それはいつ−−何年後−−になるのかはわからず、
また帰ってきた時には、
出航した時とあまり変わりのない
−−せいぜい1歳から2歳
食料や物資のことまで考えると3歳というのはありえない−−
歳をとるといってもそれくらいの、
千夏の記憶の中のままの姿の奈良くんが帰ってくる、と。
まだ若い千夏にわざわざ伝えなくても良かった事なのかもしれない。
しかし私は教えてしまった。
■
千夏は私に相談してきた。
コールドスリープの有用性についてだ。
何を考えているのかはすぐにわかった。
これから必要になる技術だから、と千夏は言った。
それは私も認めた。
ゆくゆくは絶対に必要になる技術だ。
宇宙へと人類が進出していく様々なシーンで
この先有用な技術であるのは間違いがない。
だが、それはいつのことか?
今日か
明日か
来月か
来年か
十年後か
百年後か・・・
まだ、必要のないオーバーテクノロジーだと私は言った。
「だが、基礎研究を始めるのはいいことじゃないか?」
私は言った。
千夏がそんな言葉を聞きたいのではないのをわかっていながら。
■
「私には今すぐ必要なの」
千夏は覚悟を決めているようだった。
「実用レベルまでの開発したいの」
私は、熱意に負けて協力することにした。
君が帰ってくるのが先か、
千夏が実用レベルのものを開発するのが先か
はたまた君は本当に帰ってくることができるのか?
とにかくやりたいようにやらせてあげようと思ったのだ。
君との想い出に浸り、
死んだように過ごすだけの娘の姿を見てはいられなかった。
だから、
本当は
無意識のうちに
千夏がそういう発想をするように
誘導していたのかもしれない。
千夏の熱意に負けたのではなく・・・
■
千夏は大学生活の残りを、
すべてコールドスリープの研究にあてた。
私は、卒業後の受け皿を作るべく、
ここに研究所を作る準備を始めた。
千夏が卒業したと同時に
この研究所はスタートさせることができた。
もちろん、
海のものとも山のものともつかない研究だけではやっていけないから、
私のそれまでの研究や活動もここを拠点とすることにした。
冬雄も事情をよく理解した上で、
宇宙探査局を退局して、この研究所を支えてくれた。
今では民間では屈指の研究所になったと自負している。
だが、その内部でコールドスリープの研究開発が行われていたことを知る者は少ない−−
■
僕は自分の宇宙での遭難が、
いかに多くの人の人生に影響を与えたのか、
改めて思い知らされた。
自分の責任ではないとはいえ、
頭が垂れる思いだ。
教授は話を続けた。
■
−−これは驚異的なことなのだが、
千夏は10年ほどの期間で実験レベルの試作機の開発に成功した。
人間を仮死状態にして何年間も維持できる装置だ。
「仮死状態・・・」
思わずつぶやいていた。
「そうだ。生きたまま冷凍され、長期間生命維持はされるが、ほぼ老化はしない。死に限りなく近い状態だ」
「なぜ、そんな・・・」
「コールドスリープ自体は今後必ず必要になっていく技術だ。たとえば、移住などを目的に大人数が長期間宇宙航行する場合に、活動しながら移動するのと睡眠したまま移動するのでは、宇宙船の大きさや物資の量に圧倒的な差がでてしまう・・・。だから、航行に必要なクルー以外はコールドスリープ状態にするといった用途が考えられる・・・」
「・・・だが、千夏にとっては違う用途の為に開発したのだ・・・」
「・・・ある種、それは未来へのタイムマシンでもあるのだ。君の乗ったホワイトエクスプローラー号が計らずもそうなってしまったように・・・」
教授が言葉を区切り、僕の顔を見据えた。
「千夏にとっては、君の行き着く未来へ、追いつく為の装置だった・・・」
■
「自分を冷凍し、君の帰ってくる未来に、冷凍した時の姿で君と再会しようと千夏は考えたのだ・・・」
「・・・しかし、装置は完成したが、実際に使用出来るかどうかは別の問題だ」
「・・・」
「生きたままの人間を冷凍し、それをまた解凍するなどということは誰もしたことのないことなのだ」
"冷凍"
"解凍"
人間に使う言葉ではない。
背筋に寒いものが流れた。
「我々は動物実験を繰り返した。数年のちには、モンキーでも成功した。といってもスリープしていたのは1年間にしか過ぎなかったし、我々は猿ではない」
心がこの話を聞きたくないと言い始めていた。
だが耳をふさぐことはできなかった。
教授が話を続ける−−
■
−−人間での実験が出来ないことで研究は止まったかに思えた。
そもそもここまで研究が進展するとは予測していなかった。
千夏の能力を低く見ていたわけではないつもりだが、
それは私の予想をはるかに越えていた。
それだけ熱心だったのだろう。
千夏は何度か自ら実験台になろうとした。
その度に私たちは千夏をとめた。
「奈良くんが帰ってくる保障はない」
という引き止めの言葉では千夏はひきさがらなかった。
「もう逢えないのなら生きている意味がない」
と言う。
「だから、この実験に命をかけてもいい」と。
「帰ってくる保障はないが、帰ってこないと決まったわけでもないんだ」
と言うとしぶしぶ納得して、装置をより安全なものへと改良していった。
しかし−−
■
「しかし?」
「・・・マクロイノ号が地上に帰還した・・・」
ロイの乗った船だ。
「連日彼の姿が報道された。出航した時と変わらぬ彼の姿が」
−−大騒ぎだったよ。
今と同じように。
いや今以上か。
なにせ初めてのケースだ。
そういうことも有り得るとかねてから主張していた私も冬雄も事後調査に駆り出された。
■
その隙に千夏は装置を作動させてしまった。
そして、自分で睡眠タンクの内側へ入っていった。
■
調査にひとくぎりつけて、我々が泊まり込みの調査から帰ってきた日は嵐のように天候の悪い日だった。
嫌な予感がしたのを覚えている。
その予感は残念ながらあたってしまい、
すっかり冷凍睡眠状態になっていた千夏を研究室で見付けた。
それまでにも研究室にこもることがたびたびあったから、家内も他の所員も気付かなかったようだ。
■
すぐに解凍の準備に入った。
千夏の想いは理解できるが、
安全性が保障されていない装置で娘を実験台にするつもりはなかったからだ。
長引かせれば、長引かせるほど
不確定な要素が増えていく。
危険が増す
ということだ。
命の危険が。
■
当然のことながら、
千夏は解凍の方法もしっかりマニュアル化していた。
手順に問題がないか何度もチェックした。
そして、いざ手順の第一段階に着手しようとした時−−
■
「−−この研究所に落雷があった・・・」
落雷・・・
「一切の電源が落ちた。無停電電源装置の設備があったにもかかわらず」
「千夏は・・・?」
「無停電電源装置は瞬時に再起動し、電源は復活した。しかしコールドスリープのコントロール系統はコマンドを受け付けなくなってしまった」
「千夏は・・・?」
千夏はどうなってしまったのか・・・
僕は自分でも気付かぬうちに、ただ
千夏は?
千夏は?
と繰り返していた。
「強制的に電源を切ることは、解凍の手順を無視することになり、危険が伴う賭けだった」
賭け・・・
僕も同じ軌道で戻れるという保障もないまま
一か八かの賭けで反転し、
漂流していた宇宙から戻ったばかりだ。
人生は
いたるところに
一か八かの賭けが転がっているのか?
「決断のつけられないままでいる私たちの前で、コンピューターは暴走したまま生命維持のコントロールも失った」
「・・・」
「千夏は眠るように・・・いや眠ったまま亡くなった・・・」
「?」
「ギリギリで生命活動を維持していたところに急激な温度変化を受けたせいだと考えている・・・」
話の道筋はわかったが、
事態を理解したくないという心のせいで、
何を言われているのかわからなかった。
きっとポカンとした顔をしていたのだろう。
教授が
「奈良くん。千夏はもう生きてはいない・・・死んだんだ」
とふたたび言った・・・
■
千夏が死んだ。
そのことだけがズシンと心に響き、
その重さでやっと理解出来た。
千夏が死んだ・・・
■
最初から教授は
「千夏は生きていない」と言っていたのに、
やっと今自分の耳に届いたような気がした・・・
■
千夏と再会できないかもしれない−−
と考えたことはあった。
それは宇宙を漂流していた時にも考えたし
帰路にいると信じていた時も考えたし
埋められない年月が生じてしまったことがわかった時にも考えた。
だがあれこれと思い悩んだ中に『千夏の死』はなかった。
他の誰かと幸せに暮らしている千夏。
僕の帰りを待ってくれているはずの50歳の千夏。
それくらいしか思いつかず、
僕はどういう顔をして逢えばいいのか、
僕は千夏と逢ったらどう思うか、
僕は千夏を変わらずに愛せるのか、
僕は千夏と再会できなかったらどうしたらいいのか、
僕は、
僕は、
僕は、僕の事しか考えていなかった・・・
■
「−−千夏は常に君のことを想っていたよ」
教授が僕の考えていたことは知らずに言う。
「すみませんでした」
謝っていた。
「君が謝ることはない。私が千夏に見せてはいけない夢をみせてしまったのだ」
「そんな・・・」
「私はね、娘は君にやったつもりだったんだ。オートバイで出掛けると言われた日、娘はこの男に嫁ぐのだと思ったのだ」
「え?」
「現実に結婚してこの家から嫁に出すまでは、君から預かっているのだと私は考えていた」
教授がそんなことを考えていたなんて。
「だから、謝るのは私の方だ。娘を君に渡せなくてすまなかった」
それまで黙っていた先輩も
「父がそんな思いでいることに、僕は気が付かなかった。それなのに君に探査任務を勧めてしまった。奈良くん、本当にすまない」
と頭をさげた。
■
二人は僕に謝ったが、
そんな二人からは、家族を失った悲しみが伝わってきた。
千夏が亡くなったのがついさきほどのことのように・・・
悲しみは今も続いているのだ。
■
「お嬢さんを幸せにできなくてすみませんでした」
教授の思いを知った時、本当にそう思った。
千夏は
大宮家の娘として亡くなったが、
気持ちの上では
僕の妻として亡くなったと思いたい。
「千夏は幸せでしたよ」
■
いつの間にか千夏のお母さんが戻ってきていた。
お茶を運んできたわけでもなかった。
ここで交わされる会話を思って席をはずしていたのだろう。
辛くて聞いていられないのだろうと思った。
でも戻ってきた。
そして、
「千夏は幸せでしたよ」と言う。
「・・・いつも奈良さんのことを想っていました。そう、死の眠りにつくまで・・・」
■
「僕も千夏さんのことを忘れたことはありません」
お母さんの泣き腫らしたまぶたを見ながら言った。
「あなた」
お母さんが僕から顔を教授の方に移し呼びかけた。
「うむ」
教授は難しそうな顔で頷き、
「奈良くん、ありがとう。君の気持ちは確かなものかね?」と訊いてきた。
「同じ船に乗っていた者たちには、いろいろな運命がふりかかりました。艦長は、自分の母親と同じほどの年齢になった奥さんと暮らすことを選びました。それが当然だというように・・・。操縦士のクリスの奥さんは、彼の帰りを待てませんでした・・・」
「・・・僕は、一番大切な千夏がどうなったのかわかりませんでした。でも、どんな運命でも受けとめるつもりでここへ来ました」
どんな運命でも・・・
でも、こんな運命が待っているとは思わなかった。
■
●21節
「ついて来てくれないか」
と言う教授に従い、僕を含めた全員で所長室を出た。
所長室のすぐ脇に業務用のエレベーターがあった。
5人で乗っても余裕の広さだ。
改めて、
ここはかつての大宮家という個人邸ではなく
研究所になったのだと思った。
エレベーターは地下に向かっていた。
■
建物の入口がある階を2階とすると、
1階の駐車場スペースの更に下、
本当の地下にフロアがあった。
地下1階でエレベーターを降りる。
ゴーっという重低音がかすかに響いていた。
コンクリート剥き出しの素っ気ない廊下がエレベーターの前を横方向に走り、
向かいの壁に何箇所か扉があった。
そのうちの一番左の扉から地下フロアにある一室の内部に入った。
■
部屋の中央にカプセル型の大きな物体が横たわっていた。
その物体を取り囲むように計器類やスイッチの類がたくさんついた操作盤があり、
そこからパイプやケーブルが物体に繋がっていた。
一目見ただけで、
このシステムが
コールドスリープの装置
なのだとわかった。
「ここが、千夏の亡くなった場所・・・」
そう言いながら室内をゆっくり見渡した。
千夏を感じられるような気がした。
■
教授がゆっくりと中央に歩みより、
カプセルに左手を置いた。
「このタンクは、外側からも内側からも閉めることが出来る。一人でも稼動出来るように最初から設計されていた」
教授は、こちらを見ず
タンクに置いた自分の左手を見つめながら語っていた−−
■
−−中には不凍液を入れ、身体を浮かす構造にしていた。
その液体は特殊なもので、身体の外部も内部も損傷させないためのもので、装置よりはその液体の研究開発こそがポイントだった。
また、我々は液体中では呼吸出来ないから気体も当然タンク内には入れるのだが、気体の成分と気圧も調整した。
冷凍することや、急速冷凍の速度をあげること自体はさほど難しいことではなかったのだ。ただ凍らせるだけなら。
眠りについたあと、安全にそして健康に再び起きてこられること。
その為に千夏が考えたのがこの液体を使うタンクだった−−
■
「−−液体と気体の成分、そしてそれらのバランス、または気圧・・・数多くの要素の順列組み合わせを研究し、一定の効果が見込めるものを開発した」
「−−あの、千夏が・・・。生意気ばかり言っていた、あの千夏がだよ。その情熱の源は君だよ」
言葉が見つからなかった。
「千夏の死後、研究データは保存しているが、開発はやめてしまった・・・」
教授はそう言うが、システムが稼動しているように見えるのは気のせいだろうか。
■
左手
いや
タンクを見つめていた教授が顔をあげ、
僕の顔を見据えて言った。
「千夏に逢ってくれないか?」
■
●22節
え?
千夏に
逢う?
教授と顔を見合わせている僕に
先輩が言う。
「千夏が死んだことは、家族と小数の人間しか知らないことなんだ。まして、今もこのタンクの中で永遠の眠りについていることを知るのは家族だけだ・・・」
ゆっくりと先輩の方に顔を動かす。
「千夏が・・・ここに?」
「そうだ。そういう理由で君に実際に会うまではこのことを伝えられなかったのだ。許してくれ」
「あなたに最後に一目逢わせてあげようと思って」
部屋に入ってすぐのところで壁に寄り掛かるように立っていた千夏のお母さんが言った。
■
「父か、僕のどちらかが生きている限りは君の帰りを待とうと家族で決めたのだ」先輩が言う。
「暴走してしまったシステムをなんとか、冷凍保存が出来る状態にまでは復旧させた。ずっと、慎重に管理してきた・・・千夏を傷つけないように」
「・・・」
「最後のお別れをしていただけるかしら」
千夏のお母さんの問いに
僕は言葉を発することが出来ず
ただ頷いた。
「君の別れがすんだら、千夏の死を正式なものにし、きちんと葬ってやるつもりだ。だから、君が来てくれることがわかってからは、解凍の手順に入った」
「僕たちはしばらく席を外す。タンクのハンドルを廻せばハッチが開くようになっているから」
と先輩は言って、先に出て行った両親を追った。
■
●23節
しばらく身動きができなかった。
ゆっくりとタンクに歩み寄る。
タンク上部にあるハンドルを廻し始めた。
どこかでコンプレッサの音がした。
完全に廻し切ってから、
そのハンドルを掴んだままハッチを開いた。
■
青白い光が最初に目に入った。
何も衣服をまとっていない千夏の上半身が現れる形でハッチは開ききった。
青く透明な液体の上に千夏は横たわっていた。
水中ライトが青い光を発していた。
液体自体が青いわけではなさそうだ。
ライトはタンク内側に埋まっていて、タンクの縦方向の側面に2列、ハッチのない足元の方まで続いていた。
丸い防水ガラスの半分程しか浸かっていないから、液体の量も既に本来の深さから減っているのかもしれない。
今は横たわっている千夏を浮かす程には液体は入っていなかった。
開いたハッチの裏側にも操作パネルがあった。
単純なものだったので、照明の操作もすぐにわかった。
ハッチとオンとオフの切り替えスイッチがある。
ハッチになっていたので、ハッチの開閉に合わせて点灯したらしい。
僕はスイッチをオフにした。
■
ライトが消えて、急に現実感が襲ってきた。
千夏を目の前にしながら、周りのものにしか注意がいっていなかった。
幻想的なライトが消え、
今は、目の前に千夏が横たわっていた。
青い光源を失ってもなお、千夏は透き通るように青白く見えた。
千夏・・・
まぶたを閉じ、横になる姿は眠っているようではあるが
そこから一切の生気は感じることが出来ず、
千夏は生きていないのだと思い知らされた。
生きてはいない、という表現を使った教授の気持ちが良くわかった。
■
まるで美しい彫刻を眺めているようだ。
千夏・・・
「ただいま」
と口に出して言ってみる。
"おかえり"
という返事は返ってこなかった。
■
顔は、まぶたを閉じているせいか、
以前のの表情はうかがえなかったが、
まぎれもなく千夏の顔だ。
何年たっていようと千夏は千夏だ。
そう思うのは、僕が年を多くとらなかった側だからなのか?
35歳の千夏もこんなに素敵じゃないか・・・
僕は絶対50歳の千夏だって愛せたはずだ・・・
千夏は千夏じゃないか・・・
■
ゆっくりと顔を近づけ、
唇に唇を重ねてみた。
冷たい唇に。
ゆっくりと顔を戻し、
顔を見つめる。
じっと見つめる。
ちょっとおどけた口調で、
「千夏。王子のキスだぞ。起きないと駄目じゃないか・・・」
と言ってみる。
■
でも、千夏は目覚めなかった。
顔を見つめていると不思議な気分になってきた。
何かを忘れている。
何を?
■
あんなに逢いたかった千夏が目の前にいる。
それなのに、千夏は僕に気付かない。
「逢いたかったよ」
口に出して言ってみた瞬間にわかった。
忘れていたことを。
■
半年前、夢に女性が現れた。
見知った千夏ではなかったが、
確かに千夏だったのだろう
"・・・イタル・・・逢いたかった・・・・"
と彼女は言った。
■
ホワイトエクスプローラー号での半年前は、
"ここ"では15年前じゃないのか?
そのタイミングの一致に鳥肌がたった。
見知った千夏ではないが
確かな千夏がここにいる−−
僕が"夢"だと思っていたものに現れた千夏は、
ここにいる千夏−−35歳の−−だと確信した。
■
二人が
逢いたくて
逢えなくて
どうしても越えることの出来なかった
時空の壁を
千夏は
死によって
乗り越えたのだ
■
そして今
千夏はここに眠る
永遠の眠りについた千夏は
美しく
僕の旅の終りを待っていた
"ただいま、千夏"
そして今度は
千夏が
旅立つ・・・
肉体を離れ
本当の安らかな眠りにつくために
これが別れだ
永遠の
・・・プロポースずる約束
守れなくて
ごめん・・・
■
僕は一度開いたハッチを閉じることが出来なかった。
■
新鮮な空気を吸おうと、
外へ出たがダメだった。
深く息を吸うことができない。
建物の裏手にまわる。
すべてが変わってしまっていると思っていたが、
そうではなかった。
庭の一角に
見慣れた景色が残っていた。
二人ならんで腰掛けたベンチと、
小さな池。
ゆっくりと歩み寄る。
池にはたくさんのカメがいた。
大きいもの
小さいもの
泳いでいるもの
陸場で甲羅干しをしているもの
その中の一匹が、
やたらとこちらを見つめている。
じっと見つめた。
「ヤマト、なのか?」
僕があの夏
連れ帰った"ヤマト"なのか?
「亀は万年」ともいう。
ヤマトが三十年後の今も生きていてもおかしくないのかもしれない。
さらに一匹
甲羅の長さが30センチはあろうかという大きなカメが近づいてきた。
ぼやけていく視界とともに、
千夏の声が心によみがえって来た。
−−そのうちこの池では狭いくらいにカメでいっぱいになるかも。ヤマトとヒメの家族で−−
■
■ 最終章 ■
これは三十年前の話である。
あれから、私たちが宇宙を光速かそれ以上の速度で移動していた間に、残っていた人たちが過ごしたのと同じだけの時間が流れた。
もちろん追い着けるわけでもなく、残っていた人たちには更なる三十年が過ぎただけだし、むしろその前の三十年よりも多くの知人が次の三十年をまっとうすることなく亡くなった。
亡くなったといえば、一緒に宇宙へ出ていたサレンパーカー艦長も一昨年前にこの世を去った。
艦長は他の乗組員より年長だったから不思議はない。
そもそも死は誰にでも訪れるのだ。
しかし、母親のような年齢の自分の妻を看取り、自分の息子と兄弟のように同じ時を過ごしたのちに、息子より少し長く生きてから死すことになるとは予想外だったろう。
生涯の友であるドクがひどくがっかりしている。
クリスは退局して空軍のパイロットになった。
しばらくはやりとりをしていたが、連絡がとれなくなった。
戦死したという噂もあったが、定かではない。
ただ、あれ以来一度も会うことはなかった。
サラはロイと暮らしている。
時空を超えての遠距離恋愛を実らせた二人は幸せそうだ。
ダンとアンヌも、帰還から二年後に結婚した。
今思うとダンにはクリスに尊敬以上の想いがあったのではないかとも考えたこともあったが、ダンとアンヌのあいだには確かに愛があった。
しかし、その五年後に二人は離婚した。
きっといろいろあったのだろう。
死が二人をわかつまでもなく、愛は終わることもあるのだ。
■
帰還してから、何人かの同級生に会って気が付いたことがある。
人は同じように歳をとるわけではないということだ。
実年齢は53、4歳のはずだが、
四十代前半に見える者もいれば、六十代後半に見える者もいた。
その差は、大きくみれば30歳もあることになる。
どう見るかは個人的なものだから、これはあくまでも私個人が感じたことだ。
積極的に会いに来てくれた友人たちは、概して若く見える者が多かったように思う。
地上で流れた30年の月日は、誰にとっても同じであったはずなのに、これはどうしたことなのか。
いつかクリスに言った自分の言葉を思い出す。
・・・でも一方で人生経験と実際の年齢が一致するものかどうか、僕にはわかりません・・・
クリスは答えた。
・・・例えば実際の年齢が17歳でも精神的には大人のひともいれば45歳でも中身は子供というのもいるわけだ・・・
中身がそうであるなら、外観にだってこの考えはあてはまるのではないだろうか。
積極的だったり、好奇心が旺盛だったりという資質で人生を楽しみながら送る者と、苦しみや悲しみにしか目をむけず、羨みながら人生を送る者が、
見た目にも同じように歳をとる、という方が考え難い。
どう生きるか
によって、
たとえ同じ時間を過ごしたとしても
中身も
外観にも
ある程度年齢を重ねた時に違いがでてしまう。
若いことが素晴らしい
と言いたいのではない。
同じ月日を過ごすのなら、
中身にも外観にも
良い影響を与えるような
人生経験を送った方が、
幸せではないかと思うのだ。
私と若い姿のまま再会しようとした、
眠ったままの千夏は幸せだっただろうか。
一緒に月日を重ねられなかったことよりも、
千夏が幸せな人生を送れなかったのではないかと思えることが悲しい。
彼女の両親は「千夏は幸せだった」と言ってくれた。
私のことだけを想って人生をまっとうできたからだ。
それならば、私も幸せだ−−
■
私は−−、
私は、あれからの月日を一人で過ごしてきた。
私は今でも千夏を愛している。
人の死と、愛の死は、
必ずしも時を同じにしないのではないだろうか。
時というものが誰にでも平等に流れるわけではないのと同じように・・・・・
(了)
■
著者後書き (*ネタバレ注意*)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
冒頭の献辞に「武者小路実篤先生に捧ぐ」と記したように、
この作品は武者小路実篤氏の作品「愛と死」へのオマージュになっています。
「愛と死」という作品は、その直接的なタイトルからわかるように、
最初から登場人物の「死」が予想される作品です。
それにもかかわらず、その場面(主人公の婚約者の死)で驚き悲しんだ覚えがあります。
ある意味、その構造への挑戦がこの作品でした。
「愛と死」の物語をを現代・・・というより近未来の架空の星に自分なりに再構築してみたつもりです。
その際、同じく冒頭の献辞に列記したジョー・ホールドマン氏の「終わりなき戦い」を参考にしたSFとしました。
残念ながら、私にはSF的知識が豊富ではないので本格的なSFとしてはおかしな点が多々あると思いますが、SF的な味付けをした恋愛小説であるとご容赦ください。
献辞で両氏の名前を明かしている点
「I and She・・・」というタイトル(「アイ と(and) シ」・・・「愛と死」・・・駄洒落です・・・)
から冒頭から本作品はネタばらしをしていました。
それをも乗り越えて何か伝わるものがあったなら、
私の挑戦は成功なのですが、いかがだったでしょうか・・・
最後に
「I and She・・・」を「I&C」と読み替えてください。
この物語は
Itaru & Chinatu・・・の物語、でした・・・
ありがとうございました。
著者後書き (*ネタバレ注意*)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
冒頭の献辞に「武者小路実篤先生に捧ぐ」と記したように、
この作品は武者小路実篤氏の作品「愛と死」へのオマージュになっています。
「愛と死」という作品は、その直接的なタイトルからわかるように、
最初から登場人物の「死」が予想される作品です。
それにもかかわらず、その場面(主人公の婚約者の死)で驚き悲しんだ覚えがあります。
ある意味、その構造への挑戦がこの作品でした。
「愛と死」の物語をを現代・・・というより近未来の架空の星に自分なりに再構築してみたつもりです。
その際、同じく冒頭の献辞に列記したジョー・ホールドマン氏の「終わりなき戦い」を参考にしたSFとしました。
残念ながら、私にはSF的知識が豊富ではないので本格的なSFとしてはおかしな点が多々あると思いますが、SF的な味付けをした恋愛小説であるとご容赦ください。
献辞で両氏の名前を明かしている点
「I and She・・・」というタイトル(「アイ と(and) シ」・・・「愛と死」・・・駄洒落です・・・)
から冒頭から本作品はネタばらしをしていました。
それをも乗り越えて何か伝わるものがあったなら、
私の挑戦は成功なのですが、いかがだったでしょうか・・・