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一から始める僕達私達の異世界MMORPG  作者: 水町
第一章 天に一番近い島
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7 東の高原

 天に一番近い島の街は、高い壁に囲まれた城郭都市。中央広場から十字に東西南北へ大通りが伸びており、南通りははじまりの塔へ。そして、東、西、北の通りはそれぞれ街の門へと向かっている。

 買い物を終えたヴォックとロクローは、その中の東門を目指して、中央広場から東へ向かって大通りを歩いていた。

 防具屋で買った新米神兵防具セットに加えて、ヴォックは扱いやすそうな短めの片手剣「ブロンズソード」と革のショルダーバッグ。ロクローは大振りな両手剣「ロングソード」とウエストポーチを身に着けていた。

 

「にしても、アイテムをしまっておけないってのはめんどくせーな」


 ロクローは買ったばかりのウエストポーチをぽんぽんと叩く。


「ああ。アイテムストレージがないっていうのは実際問題かなり不便だな。持ち運べるアイテム数がかなり制限されるし」


 ゴッドソルジャーアイランドには、他のRPGゲーム全般に存在するアイテムストレージが存在しない。

 アイテムストレージとは、見えないアイテム保管庫のようなもので、アイテムを入れておく事で、いつでも出し入れができ、普段は手に持って装備品やアイテムを運ぶ必要がないという便利な物だ。

 それが無いということはつまり、買ったアイテム、装備品は常に自分で持ち運ばなければならない。

 現実世界では当たり前の事だが、逆にRPGゲームではアイテムストレージがあるのが当たり前なのだ。

 武器や防具のようにかさばっていくつも持ち歩けない物の場合などは、街の倉庫に預けたり、はじまりの塔の自室に保存しておくといった方法を取らなければならない。

 それを補助するためか、街の各店には【お届けサービス】があり、買い物をした客に限り、不要な物をはじまりの塔の自室へ送り届けてくれる。ヴォックも最初に着ていたジャージをはじまりの塔の自室へ送ってもらっていた。


「そうなると、モンスターからのドロップ品とかダンジョンとかの宝箱で手に入れたアイテムとかはどうするんだろうな?」

 

「うーん。普通のゲームみたいになんでもかんでも持って帰るというわけにはいかないだろうから、取捨選択も必要になると思うよ」


「そりゃあもったいねーな」


「まあね。お。あれが門じゃないか」


 二人の行く先に大きな門が口を開けていた。門の両端には屈強そうな衛兵が控えている。


「おっしゃ。いよいよ冒険の始まりってわけだな。腕が鳴るぜぇ!」


 背中の鞘から剣を取り出し構えて見せるロクロー。


「ああ。ちょっと待ってくれ。街から出る前に確認しておくことがあった」


 門へ向かって駆けだそうとするロクローを制止してヴォックは腕輪を叩く。


「なんだよ。早く行こうぜー」


「ロクロー。ステータス画面見せてくれ。ほらここ」


 ヴォックはシステムウィンドウのメニュー画面から【ステータス】の項目をタッチしてロクローに見せる。


「ん? なんだそりゃ。……ほほう。なんか色々あるな」


 ヴォックのステータス画面を覗きこみロクローは顎を支えて唸る。


 ステータスウィンドウに表示されているのは、まず一番上にプレイヤーネーム。

 そしてレベル。現在のヴォックのレベルは当然1。レベル表記の横にはゲージが伸びており、このゲージが次のレベルアップまでの目安となっている。当然今は空ゲージだ。

 続いて【HP】と【ST】。ヴォックはHP125、ST85%と表示されている。

 さらに「筋力」「敏捷力」「体力」「器用さ」「魔力」「抵抗力」からなる6つの基礎ステータス。

 そして最後にクラスとスキル。ヴォックのクラスは【ファイター】となっており、所持スキルは『オーラアタック』と表示されていた。


「うん。ちなみにレベルアップすると、最大HPの上昇と、この各基礎ステータスに割り振れるポイントが貰えるみたいだ」


「なんだよ。お前の基礎ステータス全部0じゃねーか」


 ロクローの言う通り、ヴォックの6種の基礎ステータス値は全て0と表示されていた。


「初期値は0みたいだな。元々の身体能力にステータス数値がレベルアップで上乗せされていくとかそういう感じなんじゃないのか? ロクローも開いてみろよ」


「ふむ。見てみるか」


 ロクローはヴォックに倣って自分もシステムウィンドウを出してステータス画面を確認する。


「どれ、見せてくれ。……ほら。ロクローも全部0だ。自分のプレイスタイルによって自由にステータスをカスタマイズしていく感じなんだろ」


「おい。オレのクラスとスキルんとこは何にもねーぞ? お前のところにあるファイターとかオーラアタックってなんだよ?」


 ロクローは自分のクラスとスキルの所に何も記載されていない事に気が付く。


「そうそう。それを取ってもらおうと思ってさ。ほら、そこにクラス選択ってあるだろ」


「お、これか」

 

 ロクローはヴォックに言われた通り、ステータス画面の下部に表示されている【クラス選択】をタッチする。

 すると、選択可能クラス一覧が表示された。

 そこには【ファイター】【メイジ】【クレリック】【ナイト】の四つが表示されていた。

 ロクローは順にタッチしてみる。


 【ファイター:物理攻撃を得意とするクラス】

 【メイジ:魔法攻撃を得意とするクラス】

 【クレリック:治癒魔法や補助魔法を得意とするクラス】

 【ナイト:味方を守る事を得意とするクラス】


 各クラスの詳細はこのようになっていた。


「まずは基本クラスの選択。それが今後、プレイスタイルによって派生していくみたいだ。まあ、この辺はMMORPGでは王道のシステムだな。ただ、一度選ぶと選びなおせないみたいだ」


「なるほどな。ロールを決めろって事か」


「うん。聞くまでもないと思うけど、ロクローは両手剣だし俺と同じファイターだな」


「そんじゃ選ぶぜ」


【初期クラスは一度選択すると、以降変更することは出来ません。このクラスで本当に宜しいですか? Y/N】


 そう警告文が表示されるが、ロクローは読んだかも怪しい程の早さでYESをタッチする。


「お、オレのもヴォックと同じになったな」


 ロクローは、クラス【ファイター】と表示されたステータス画面をヴォックに見せる。


「おっけー。スキルの使い方だけど、所持スキルの所をタッチすると表示されるから」


 普通のMMORPGでスキルを使用するときは、使用したいスキルのアイコンをマウスでクリックするか、そのスキルに対応したキーを叩くだけなのだが、実際の身体を使用するゴッドソルジャーアイランドに於いてはマウスもキーボードも存在しない。では、どのようにしてスキルを使うかと言えば、


「どれどれ……。ははははッ! こりゃあいいや! 武器を構えてスキル毎に設定された言葉を声に出す、か」


 ロクローはスキルの使い方を見て嬉しそうに笑った。

 確かに、アニメや漫画では必殺技を使うときに技の名前を声に出す事が多い。少年心がくすぐられるのはヴォックも分かるような気がした。


「オーラアタックの場合は装備している武器によってスキル名が変わるみたいだから両手剣のスキル名を覚えておいてくれよ。まあ、スキルの使用に慣れれば、スキルを使うぞって意思を込めるだけでも使えるみたいだけど」


「ふーん。どれどれ……ふむ。両手剣は、スラッシュだってよ」


「俺の片手剣と同じか。剣はみんなスラッシュなのかな?」


「――『スラァァッシュ』!!」


 突然、ロクローが叫びながら両手で剣を振り回す。

 同時にロクローの剣の刀身が青白い光が包み空を切る。


「ちょ、何やってんだよ……」


「おおッ! こりゃあ面白れぇ! 『スラッシュウウウウ』! それ『スラッッシュ』!!」


 ぶんぶん、と青白く輝く両手剣を振り回すロクロー。某大作SF映画でビームサーベルを振り回すシーンをヴォックは思いだした。


「ちょ、ちょっと、楽しいのは分かるけどやめた方がいいぞ……」


「はははッ……、はぁ、はぁ。お? なんだこりゃ……」


 スラッシュを連呼して元気に剣を振り回していたロクローは、すぐに肩で息をするように剣を地面に刺して座り込む。


「ぜぇ、ぜぇ。……んだこりゃ、めっちゃ疲れるじゃねーか」


「言わんこっちゃない。スキルなんだからそんなに連発したらそうなるに決まってるじゃないか。STゲージがガッツリ減ってるだろ?」


 呆れた様子のヴォックが視界の左上の辺りを指で示す。


「おう……。これか」


「これはスタミナゲージ。まあ、他のゲームで言う所のMPみたいなものなんだけど、スキルとか魔法だけじゃなくて、行動全般で減っていくみたいだね。勿論、スタミナだから減ってくればそんな風に疲れて動けなくなる」


「はぁ、はぁ、そういや、最初に街を走り回ってるときもここのゲージが減ってたような気がするぜ……」


「少し休めば回復すると思うよ。そうやって座っていると徐々に回復してるだろ? スタミナゲージはそのまま、プレイヤーのスタミナを可視化したものだと思ってくれれば良いよ」


「なんかゲージ自体が短いんだけどなんでだこれ? 最大値が80%になってるんだが」


「ああ、空腹とか睡眠不足によって最大値が減少していくらしいよ。俺も今は85%だ。街から出る前に休憩がてら飯を食って行こうか」


 ヴォックは大通りを見回す。すると、ナイフとフォークが描かれた看板を下げる店が目に入った。


「ちょうど良いところに。あそこにしようか」


「テラス付きとか洒落てるじゃねーか。……よっこいせ」


 年寄りみたいな掛け声を出してロクローは立ち上がる。




「うぃー。食った食った。こっちの世界の飯も中々いけるじゃねぇか」


「確かに、これで5ゴッズは安いな」


 通り沿いにあった店に入った二人は、とりあえず本日のおすすめメニューを頼んでみた。

 出て来た料理は、パンとシチューにサラダが付いた洋風のセットだった。


「俺のSTゲージは100%まで戻ったけど、ロクローはどう?」


「オレも戻ったぜ。腹も膨れて元気百倍っつー奴だ。満腹満腹」


「そりゃ、あれだけ食えばな……」


 ロクローはシチューとパンを二回もおかわりしていた。あんまり食べ過ぎると逆に動き辛くなりそうだけどその辺りはどうなのだろう、とヴォックは疑問に思った。


「そういえば、さっきの店に女の子が二人いたな」


「あ? NPCだろ」


 会計を済ませて店から出たヴォックは後ろを歩くロクローに振り返る。


「あれ、気づかなかった? 街の人みたいな恰好してたけどプレイヤーだぞ。あの子達。腕輪をしてたし」


 青いワンピース姿の少女と白いブラウスを来た二人組の少女で、確かにパッと見は街を行き交うNPCの女性と何ら変わらない服装だったが、ヴォックは彼女らの右腕にある銀の腕輪を確認していた。 


「良く見てんなぁ。意外とすけこましか、てめーは?」


「そ、そんなんじゃないけど……。女の子のプレイヤーって珍しそうじゃない?」


 ヴォックは塔を出てからまだほとんど女性プレイヤーを見かけていない。普通のMMORPGでもリアル女性プレイヤーは希少な存在だったし、当たり前と言えば当たり前だと思った。


「さあな。こうやって歩いててもあんまりプレイヤーっぽい奴は見かけねーし、ほとんどの連中はまだあの塔にいるんじゃねーか?」


 ロクローはあまり興味なさそうに答えた。


「だろうね。だからこそ、今のうちにスタートダッシュを決めて他のプレイヤーに差を作っておきたいところなんだよな」


「だな! さっさと、脱! 新米神兵と行こうじゃねーか」


 二人は近くに見える東門に向かって進む足を早めた。

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