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一から始める僕達私達の異世界MMORPG  作者: 水町
第一章 天に一番近い島
5/55

5 ゲームスタート④

「この島が天に一番近い島で、この街が天に一番近い島の街って言うらしいな」


「んだよそれ。もっと捻ったネーミングにすりゃいいのにな。……最初に居た塔がこれだろ? はじまりの塔なんてそのままの名前じゃねーか」


 ヴォックとロクローの二人は、お互いにシステムウィンドウのマップを開きながら中央広場を横切っていた。


「まあまあ、ネーミングセンスの話しはさておき、ここがこの島唯一の街みたいだな」

 

 ヴォックは自分のシステムウィンドウをロクローに見せながら話す。


 街の中にいると、マップは自動的に街の全景を表示するが、隅にある縮小アイコンをタッチすることによって街の外、つまり島の全景地図を表示出来るようだった。

 ゲーム開始地点であるこの島は、地図上の街の大きさと比較してもそこまで大きな島ではなさそうだった。なんせ街が島の面積の四分の一程を占めている。

 さらに縮小アイコンをタッチすると、世界地図のように島の周辺までもが表示出来た。

 そこには、この天に一番近い島を囲むように大小様々な島が散らばっていた。


「島ばっかりじゃねーか」


「……なるほど。だからアイランドか」


 ヴォックはロクローの言葉に頷いた。どうやら、このゴッドソルジャーアイランドは、様々な島を行き来しながらプレイしていくゲームのようだ。


「こうしてみると、この島はかなりちいせー方じゃねーか?」


「まあ、この島はチュートリアルみたいな物なんじゃないか? この島でゲームの基本を覚えてから違う島に冒険に行く。みたいな」


「ふーん。じゃあさっさとこんなちっぽけな島攻略しちまおうぜ」


「その前に装備を整えないと。ほら、さっきの店が見えて来た」


 二人の前に、盾の看板を下げた店が見える。

 そこは、先程ロクローが難癖を付けながら飛び出て来た店だった。


「うぉっし。ハゲオヤジに金叩き付けてやっか! ――おう! 邪魔するぜッ!」


 先程、無一文で店を追い出されたロクローは、今度こそはといった感じに意気揚々と店の扉を開く。

 小気味の良いベルの音を響かせる扉の奥には、ファンタジー世界ではお馴染みな、様々防具が並んでいた。


「……おお」


 ロクローの後に続いて店に入ったヴォックは、この世界に来てから何度目だろう感嘆の声を漏らす。

 鋼鉄製の甲冑や盾、外套や兜といった防具が所狭しと陳列されている店内の様子は実に新鮮で心が躍った。

 普段ゲーム画面越しに見慣れている光景ばかりであったが、画面に映る3D映像と、こうして実際に見るのでは雲泥の差だった。


「いらっしゃ――げ、また来たのか」


 防具屋の店主はロクローを見て明らかに嫌そうな表情をする。

 確かにロクローの言う通り、前頭部の髪のボリュームが明らかに少ない中年の男性だった。


「客に向かって、げっ、とはなんだ。――おら! 今度は金を持ってきたぞ!」


 ロクローは店のカウンターに、詰所で貰った革袋を叩き付ける。

 革袋の中身は、1000ゴッズ。

 ゴッズというのはこの世界の通貨の単位だ。

 

「はいはい。最初からそうしてくれりゃ良いのに。……それじゃ新米神兵さんの為に詰所から依頼を受けて用意しておいた装備があるからね。そっちのあんたもそれでいいだろう?」


 店主はちらりとヴォックに問いかける。


「……ああ、はい。俺もそれでお願いします」


 答えながら店主の言動を注視するヴォック。


「んじゃあ、ちょっと待ってな」


 店主はカウンターのすぐ横にある納戸の中に入っていく。

 ヴォックは店主の入っていった納戸の中をカウンター越しに覗き込む。


「…………」


 納戸の中にある防具は全て同じ物。それが納戸の中を埋め尽くす程大量に並べてあった。

 プレイヤーの数は五千人いるのだからそれでも足りないくらいの量であったが、ヴォックにはその光景が異様な物に思えた。


「ほらよ。新米神兵防具セット男用二つ。一人分200ゴッズだ」


 すぐに店主が二着分の防具を抱えて戻ってくる。


「たけーよ。もう少しまけろ」


 店主の持ってきた防具を品定めするように眺めて、ロクローが値切り始める。


「バカ言うんじゃないよ。単品で買ったらとてもじゃないが200ゴッズで揃う品じゃないんだぞ。店的には赤字だよ。それでもこの防具セットをあんたらに売る毎に、詰所から支援金が出るって言うから、わざわざ近隣の島を回って大量に仕入れて来たんだぞ」


「あ? 支援金が出るんだったら良いじゃねーかよ。安くしろよ。むしろタダで寄越せ」


「あんたもしつこいな。こっちも商売だからね! 200ゴッズ! びた一文まからないからね!」


「んだとこの強欲オヤジめ! おい! ヴォックも黙ってないでなんとか言ったれよ」


 ロクローがヴォックの脇腹を肘で突く。


「…………ん? ああ。200ゴッズでいいですよ。はい。ここに置いときますね」


 ヴォックは、革袋から銀貨を四枚を取り出しカウンターに置く。

 ちなみに、銀貨は一枚50ゴッズだ。銅貨が1ゴッズ。銅貨より少し大きめの大銅貨が10ゴッズ。詰所から受け取った革袋の中には上記の三種類のコインが合計1000ゴッズ分入っていた。


「おいおい。ブラザー! そりゃあないぜ!」


 ロクローが信じられないといった表情で叫ぶ。


「はいはい。毎度あり。で。あんたは買うの? 買わないの? いつまでもそんな恰好してると、いくら神兵さんとはいえ衛兵達が黙ってないと思うけど」


 店主が人の悪そうな笑みを浮かべてロクローに問いかける。


「ぐぬぬぬ……」


 ロクローは悔しそうに革袋から銀貨を取り出す。


「毎度あり。はい。それじゃあ、装備していくならあそこを使ってね。サイズは大丈夫だと思うけど合わなかったら言ってくれ」


 素早い手つきで銀貨を回収した店主は、店の隅にあるフィッティングルームらしいカーテンの引かれた一角を顎で示した。




「へい、ブラザー。さっきから何黙りこくってんだよ」


 防具屋を出た後も思案顔をして黙っていたヴォックの肩をロクローが叩く。

 防具屋で着替えを済ませた二人は、布の服の上に革製の胸当てや肘当てを付けただけの簡素な軽装備姿になっていた。


「……ん? ああ。悪い悪い。さっきの防具屋の店主の事を考えていたんだ」


「……お前も感じたのか」


 ロクローは思案顔で言葉を返す。


「――!? ロクローも感じてたのか。……うん。そうだ。……おかしいよな。ゲームならあんなことは言わない」


 意外そうな顔してヴォックが答えた。

 ロクローは何も考えていなそうだけど、実際はちゃんと考えているんだと感心さえした。


「だろぉ? むなくそわりーオヤジだぜ。接客業舐めてんだろ」


「……は?」


 見当はずれな答えが返ってきてきょとんとするヴォック。


「あ? お前もあのハゲオヤジの接客態度にむかっぱら立ててたんじゃねーの?」


「いや、全然違う」


「じゃあ何がおかしいってんだよ?」


「あのハゲオヤ……いや、店主の人の言葉さ。それと納戸の中にあった大量の防具」


「大量の防具? そりゃ必要だろ。だって数千人分だろ」


「先に聞いておくけど、ロクローはMMORPG……というかRPG自体はプレイした事あるか?」


「そりゃバリバリだよ。ガキの頃はドラクエとかFFとかかなりやりこんだぜ。このゲームを始める前もネトゲは結構やってたしな」


 ロクローは今までやってきたゲームのタイトルを挙げながら指折り数える。


「なら話しは早い。っていうかプレイしたことあるのに違和感を感じなかったって言う方が驚きなんだけど」


「なんだよ?」


「さっきの店主と店さ。NPCにしてはおかしくないか? ロクローに対する受け答えが自然すぎる。とてもじゃないけど今のAI技術じゃ不可能に近い受け答えだったろ? それに、納戸の中にあったこの初心者装備の数。それを、あの店主は詰所からの要請で大量に仕入れてきたって言ってたよな。なんていうかな。ゲームにしてはリアリティがありすぎじゃないか? そんなバックグラウンドなくてもいいだろ的な」


 ヴォックの言葉に、ロクローは眉をハの字にして眉間に皺を寄せる。頭の上にクエスチョンマークが見えた気がしたのでヴォックは説明を続ける。


「普通のゲームなら、店主はある程度決まった言葉しか話さないし、実際の商品も、明らかに店の規模を大きく超えた量を頼んだとしても平然と用意しているだろう? 例えば、防具屋で革の鎧を千着買っても、毎度あり! って感じでさ」


「んー? そりゃそうだろ。ゲームだもん。鎧を百個買おうが、ただのデータなんだからなんでもありだろ」


「そこだよ。今俺達がやっているのもゲームなんだ。俺達はゴッドソルジャーアイランドっていうゲームの世界にいるんじゃないか」


「あー。言われて見りゃそうか?」


「俺は、この世界は精巧に作られたゲームの世界で、街の人々も製作者側によって用意されたNPCだと思ってたんだけど、もしかしたらそれは違うのかもしれない」


「どう違うんだ?」


「元から存在していた、とある異世界に、俺達が召喚されたって考えかな。それだったら実際の身体を使うっていうのも納得できる気がする……」


「ふーん」


 ロクローはあまり興味なさそうに上の空で返事をした。


「ふーん。って、ロクローは気にならないのかよ?」


「気にならねーよ。例えここが異世界だろうが、ゲームの中だろうが関係ねぇ。どっちだとしてもオレ達がやることはただ一つ。ゲームを楽しむって事だ。実際の肉体を使う? 上等じゃねーか。今までこんなゲームあったか? VRなんて目じゃねーぞ。楽しまなきゃ損だろ」


 そう、心から楽しそうな笑みを浮かべて話すロクロー。


「……ぷっ。はははっ。そうだな。そうだよな」


 ヴォックはついつい考え込んでしまった自分が馬鹿らしくさえ思えた。

 リアルのしがらみに囚われず、なんの憂いも無くゲームの事だけを考えていたいと、かつて夢にまで描いたはずだ。それが、いざ、実際にその状況になってみると、考えなくても良い事を考えてしまっていた。


「そうだ。せっかくなんだし細かい事は気にせず思う存分楽しんじゃえば良いんだよな……」


 ヴォックは誰に言うでもなく自分自身に呟いた。


「そうだぜブラザー! そうと決まれば次は武器の店に行こうじゃねーか!」


 マップを開いて武器屋を探すロクローを見て、ヴォックは思った。

 このゲームを始めて最初に出会ったのがこの人で良かったかもしれない。普通に考えれば有り得ないこの状況に、悲観的、消極的な考えを持つ人と最初に出会い、行動を共にしていたら、自分も楽しむどころか同じようになっていたかもしれない、と。


 ヴォックは言葉には出さなかったが、この能天気な相棒に感謝した。

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