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一から始める僕達私達の異世界MMORPG  作者: 水町
第一章 天に一番近い島
1/55

1 プロローグ

初投稿です。お願いします。

「なあ、ヴォック。チビ共のレベリングも大体済んだしよ。今日は勿論いけるところまで行くんだろ?」


「そうだなあ。アリシャさんのクエストがあるからスライムを探すのを優先するけど、その後は、少し潜ってみるか?」


「あたしは別にそれでも構わないわよ」


「お! いいねいいね! どんどん潜っちゃおうよ! それこそ最下層まで行ったって私は構わないんだぜー!」


「ツヅラちゃん……。最下層って……。ここが何階まであるのか知っているんですか?」


「しらん!」


「……このダンジョン。地下三階以降は腕試し用のエンドコンテンツなんだと思う。ヘタすれば地下百階とかまであるかもな」


 古ぼけた石造りの薄暗い廊下を、杖や剣を携えた五人組の若い男女が歩いていた。


「はッ! 百階上等。そのくらいの方が攻略し甲斐があるってもんじゃねーか」


 そう息巻く先頭を歩く二十代半ば程の青年の名はロクロー。

 金髪のボサボサ頭が特徴的な精悍な青年で、真っ赤な外套を羽織る背には大きな剣を担いでいる。


「燃えるねー。バーニングマイハートだねえ」


 そのロクローの隣を歩く小柄な少女はツヅラ。短めな黒髪の活発そうな少女で、歳は十代前半程。木の枝のような細い杖を元気良くぶんぶんと振り回している。


「二人共。意気込みは良いけど、潜った後にその道を戻って地上に帰る事を忘れるなよ。あんまり深く潜りすぎると、それこそ深みにはまって戻れなくなるぞ?」


 ロクローとツヅラの少し後ろを歩く、ヴォックという少年が冷静な口調で告げる。

 十代半ば程で、革製のキャスケットを目深に被った中性的な顔をした少年だった。


「潜るにしても、地上に戻る為の余力を残しておかないといけないわけですね……」


 ヴォックの隣を歩く少女はリーン。ウェーブのかかった肩までの髪がどこか育ちの良いお嬢様のような上品な雰囲気を持たせる少女だった。ツヅラ同様に小柄な身の丈。それに似合わぬ大きな盾を重そうに担いでいる。


「来た道をそのまま帰らないといけないのは不便よねー。帰還アイテムとかあれば良いのにね。ヴォックくんもそう思うでしょ?」


 背後を警戒しながら歩く最後尾の女性はアリシャ。不満そうに形の良い唇を尖らせながらヴォックに問う。

 前を歩く小柄なツヅラやリーンとは違い、すらりとした高身長の二十代前半程の女性だった。

 

「うーん。確かに不便ですけど、俺的にはこれもありかと思いますよ? 帰還アイテムがない方がリアルな冒険に近い感じしません?」


 ヴォックは苦笑しながら答える。


「……そう。街に帰るまでが冒険だぜ」


 それに対してロクローがきりっとした表情で振り返る。


「はあ……。あんたは遠足気分も程ほどにしなさいよ」


 そんなロクローに呆れた様子で溜息を付くアリシャ。   


「おーい! 早く行こうぜー? のんびりしてると日が暮れちゃうよ? おっと、ダンジョン内じゃお天道様は見えないか」


 ぐんぐんと大股で廊下を進むツヅラが、杖を振りながら後方に続く仲間達を急かす。


「ツヅラちゃん! 先走りすぎですよ! 私の後ろにいてくださいよー」


 そんなツヅラを小走りで追いかけて、リーンはぷんぷんと頬を膨らませる。


「リーンが遅いんだよー! ナイトならもっとずかずか前に出ないと!」


 追いついて来たリーンの鼻を指で摘まむツヅラ。


「うー。や、やめてくらはいー。そ、それに、この盾重いんですから、そんな早く動けないんですよー」


 リーンは盾を持っていない方の手をばたばたさせて抗議をする。


「――お。こりゃ、チビ共。じゃれあうのはそこまでにするんだな。団体さんがお待ちかねだぜ」


 じゃれあう少女達に追いつくと、ロクローはツヅラの頭に軽く手刀を落とす。そして、くいっと顎を動かして通路の先を示す。

 五人が歩く薄暗い石の廊下。少し進んだところは開けた部屋のような空洞があり、そこには異形の怪物が群れをなしていた。


「うひゃー。気色悪いのが大量だ」


 ツヅラが舌を出して顔を顰める。

 

 豚のような頭部を持つ濃緑の肌をした人型のモンスターが七匹。すでに戦闘態勢を取っており、棍棒を構えて部屋の中から五人のいる通路を睨み、ふごふごと鼻を鳴らして威嚇している。


「レッサーオークが……えーっと、七匹か。数が多いな……。みんな戦闘準備! リーンが最初に突っ込んでヘイトを頼む!」


 ヴォックが敵を確認して早口で指示を出すも、

 

「いくぜおらぁあああッ!!」「ひゃっはー! 血祭りだぁああ!」「ああ! まってくださいー」


 ヴォックの指示を聞いたのか聞いていなかったのか、最初に飛び出したのは、大振りな剣を背中から抜き出すロクロー。続いて、ツヅラが杖をぶんぶんと振り回しながら。そして、二人に遅れて慌てたリーンが続く。


「…………。――こ、こらぁああああああああああ!」

 

 指示を無視されたヴォックは、一瞬ぽかーんと口を開いた後、すぐに我に返り、怒号を上げる。しかし、あっという間にオーク達のいる部屋に飛び出して行ったロクローとツヅラの耳には届いていない様子だった。


「はははっ! あの二人は相変わらずだねぇ。ヴォックくん。あんたも大変だ」


 ヴォックの後ろで、ツヅラの持つ杖より幾分か短いバトンのような杖を掲げて、アリシャが楽しそうにけらけらと笑う。


「はあ。……アリシャさん。援護お願いしていいっすか?」


「おうとも。おねーさんに任せなさいな」




 ヴォックが前に出た三人に続いて通路から部屋に出ると、ロクローが大剣を振り上げてオークを肩口からばっさりと切り倒していた。


「うおっしゃあ! 次、次ッ! ――――うがッ!?」


 意気揚々とオークの死体から剣を引き抜いたところで別のオークの棍棒がロクローを襲う。頭部に棍棒の直撃を受けたロクローは前のめりに地面に倒れ伏す。


「リーン! ヘイト!」


 部屋の入り口近くでおろおろしているリーンの背中を叩き、ヴォックは倒れたロクローに襲い掛かろうとしているオークに向かって切りかかる。


「――あ、はい! へ、ヘイト! え、えーい!」


 リーンは思いだしたかのように盾を頭上に掲げる。すると、盾は淡く光りを放ち出す。

 

「――フゴゴゴ!!」


 その光に照らされた三匹のオークが、鼻息荒くリーンに向かって飛びかかる。


「いた! いたいです! このーー!」


 左手で持つ盾でオーク達の棍棒を防ぎながら、リーンは右手に持っている青銅製のメイスで応戦を開始する。


「ツヅラ! リーンとロクローにヒール!」


 ヴォックは目の前のオーク一体を切り伏せて、ヒーラーであるはずのツヅラを探す。


「――って、お前何やってんだぁああ!」


 部屋の中央辺り、身軽な動きでオークへ駆けていくツヅラの姿を見つけてヴォックは叫んだ。


「おりゃああ!!」


 ツヅラは気合いのこもった掛け声と共に、地面を蹴って高く跳躍し、杖でオークの頭部を叩きつける。


「――ウゴアァ!?」


 杖で叩かれた頭部を押さえ、苦痛の呻き声を漏らすオークの目の前に着地したツヅラは、そのオークの太った腹部に勢い良く回し蹴りを食らわせた。


「――グボっ!!」


 ツヅラの蹴りがヒットした場所から青白い光が発し、オークは唾液と嗚咽を漏らし、くの字になって吹き飛ぶ。 


「ふふん! どーんなもんだい!」


 何度も地面を転がり壁に激突するオーク。それを鼻息を荒げて確認した後、自慢気にヴォックへと勝利のピースサインを送るツヅラ。


「――分かったからヒール!」


 大きな盾で身を守っているとはいえ、三匹のオークの攻撃を立て続けに受けているリーンはそう長く持ちそうにない。

 オークの棍棒が盾の隙間を縫うようにリーンの小柄な身体を打ち付けている。


「へいへいっと。そーれヒール――あっ! ヴォック、後ろ後ろ!」


 ツヅラが口をアヒルのようにして、杖を掲げて回復魔法を唱えようとしたところで、杖でヴォックの背後を指し示す。


「――げっ」

 

 ヴォックがその言葉を聞いて振り向くと、いつの間にやらヴォックの背後に回り込んでいたオークが今まさにヴォックに棍棒を叩き付けようとしていた。


「くそっ!」


 ヴォックは咄嗟に腕を上げてそれを防ごうとする。


「――ブゴっ!?」


 しかし、オークは棍棒を振り下ろす事なく、首を曲げて横に吹っ飛んだ。

 オークの頭部に空気の塊のような物が衝突したからだ。


「ヴォックくんー。大丈夫ー?」


 通路から短い杖を構えた美女、アリシャがヴォックに向けてにこやかに微笑んだ。


「アリシャさん! 助かりました!」「あねごかっこいいー!」


 ヴォックとツヅラが、風の攻撃魔法でオークを仕留めたアリシャに向かって称賛の声を上げる。


「ぬおりゃあああッ! くたばりやがれ豚野郎!」


「ブギイイィイイ!!」


 気合いの入ったロクローの雄たけびと共に、オークの断末魔が部屋に響き渡る。


「へ。ざっとこんなもんよ!」


 リーンが引き付けていたオーク三匹を背後から豪快に切り倒したロクローは、剣を地面に突き立てて盛大なガッツポーズを取る。


 これで七匹のオークは全て沈黙した。


「おつかれー」


 短いバトンのような杖を腰のベルトに刺しながら、アリシャが通路から部屋の中に入ってくる。


「おつかれー! リーン見た? 私の勇姿!」


 ツヅラは某格闘ゲームのチャイナ少女のようなハイキックのポーズをとってリーンに自慢げ気に尋ねる。


「ふう。おつかれさまです。……もうツヅラちゃん、そんな余裕ないですよー」


 リーンは大きな盾を床に降ろし、汗ばんだ頭を振りながら答えた。


「みんなおつかれ。……ツヅラ。リーンとロクローにヒールを」


 ヴォックは視界の左上をちらりと見てツヅラに指示を出す。


「おおっと、忘れてたよ。めんごめんご」


 ツヅラは手刀で空を斬るようなポーズを取って謝罪する。


「――それとな、ツヅラ」


「ん。なんだい?」


 持っている杖の先端を淡く光らせてリーンに治癒魔法をかけているツヅラに、ヴォックは声を低くして呼びかける。


「……お前のパーティの役割はなんだっけ?」


「なんだい。やぶからぼうに。役割ねぇ……。うーん。ムードメーカー?」


「……それ本気で言ってんの?」


 ツヅラをジロリと睨み付けるヴォック。


「――うひっ。冗談冗談。ヒラかな」


 ヴォックから視線を逸らすように答えるツヅラ。


「ヒーラーはパーティの生命線。HPヒットポイント管理が最大の仕事だろ」


「……そ、そーだね」


「なんでそのヒラが真っ先にモンスターの群れに突っ込んでいるんだよ?」


「なんでって、そこにモンスターの群れがいるからさ。冒険者の性って奴だね」


「…………」


 帽子の下からジト目でツヅラを睨み続けるヴォック。


「まあ、いいじゃねーかヴォックよ。ここらはまだ雑魚いモンスターしか出ねーんだしよ」


 ヴォックの背後から、彼の頭を軽く叩くロクロー。ヴォックはジト目のままロクローに振り返ると、


「ロクローも相変わらずFAファーストアタックやろうとするのはやめてくれよ。まだ浅い階だから良いけど、もう少し潜ったところで同じ事やったらあっという間に囲まれて殺されちまうよ? FAはナイトの仕事。このくらいMMORPGプレイヤーなら当然知ってるよな」  


「そいつは善処しよう……」


 ヴォックの視線から目を逸らしながらロクローは呟いた。 


「私の敏捷力が低いからいけないんですよね……。ロクローさんとツヅラちゃんに出遅れちゃうのは……」


 リーンがしょぼんとしながら呟く。


「い、いや。リーンはそのぶん筋力とか体力にステータス振ってるんだからしょうがないよ。勝手に先走るあの二人がいけないんだ」


 ヴォックは慌ててリーンを慰める。


「あー! ヴォックはリーンにばっか甘いんだから!!」「そうだそうだ! 不公平だぞ!」


 ツヅラとロクローがその様子を見て、二人同時に不満の声を上げる。

 

「はあ。お前らなぁ……」


 ヴォックは帽子の鍔を摘まみながら大きく溜息を吐いた。 


「ははは。いやー。ヴォックくんは相変わらず大変だねー。それもまた愉快愉快」


 そんな四人の言動を見ながらアリシャが楽しそうに笑う。 

 

「アリシャさん……。そう思うならこのパーティに正式加入してくれても良いんですよ? アリシャさんがいつもいてくれるなら俺も大分負担が減るんですけど」


「お! そうだよ姉御! そうしなよ! ユー! はいっちゃいなヨー」


 仲間達の回復を終えたツヅラが、アリシャの胸元へ飛び込むようにして抱きつく。


「たはは。ごめんねー。このパーティも好きだけどさー。野良パーティの方が気軽であたしには合ってるんだよね」


 頭一つ分近く身長の小さいツヅラの頭を撫でながらアリシャは答える。


「ですよね……」


「ヴォック。無駄無駄。こいつは尻軽女だからな」


 残念そうにがっくりとうなだれるヴォックの後ろで、ロクローが吐き捨てるように呟いた。


「ちょっと! 今のは聞き捨てならないわね! 尻軽ってどういう意味よ!」


 鋭い目つきでロクローを睨むアリシャ。


「おお~。怖い怖い。図星突かれたからってそうぷりぷり怒るなよ。尻軽だけに。……なんちゃって」


 ふりふりと、まるで春日部在住の嵐を呼ぶ五歳児のように自らの臀部を振って見せつけるロクロー。


「……あ、あんたねぇ。…・・はあ。怒る気も失せたわ」


 アリシャはロクローの幼稚な行動に、怒りを通り越して呆れてしまったようだ。


「おう。怒る気が失せたんなら笑うところだぞ」


「……どこが笑えるのよ」


 ロクローとアリシャ。パーティの年上組二人のそんなやりとりに苦笑する仲間達。


「……さて、先へ進もう。少しでも深く潜りたいならあんまり時間は無駄に出来ないぞ」


 ヴォックは帽子を目深に被りなおして仲間達に告げる。



 彼等五人を含む、五千人の『プレイヤー達』が『この世界』に囚われてから半月程が経過していた。

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