表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーロウ・イン!(完結作)  作者: 鈴本 案
最終章:フェニックス・ハリウッドエンディング
51/52

終前話『太陽の先で光る羽』・「大、好き」







『神とは天の領域に属する住人。

 天とは太陽。

 故に(ボク)ら神々の眼は太陽の黄色なんだ。

 だが大地に落ちた僕らはもう神ではない。

 僕らの片眼は地球の青に染まった。キミが属する大地の色に。

 黄と青の瞳(オッドアイ)となった僕らは太陽と地球の中間、月と灰色に属している』


焔の眼をせる者(バーレイグ)は己を神だと信じてる。眼が青に染まるのも許さない。

 故に隻眼。右側の青を塗り潰した。

 ヤツは半死人。半分は死人で半分は神。

 人間の肉体は物理的に傷つけられるが、アストラル体はアストラルでしか傷つけられない』


『肉体的なヤツの弱点は眼だ。

 神の象徴、黄色の瞳がヤツには何より重要だから。

 弱点を隠すためにも仮面を被っている。

 だが肉体でさえも傷つけるのは容易じゃない。

 魔術防壁。ヤツにはあらゆる攻撃を遮断する絶対防御のバリアがある。

 しかもヤツは槍を持つ者(ズヴィズル)。ハイタカを思い出せ。必ず槍はある。心して気をつけるんだ。

 それでも僕には切り札がある。キミにもその時がくれば必ずわかる。

 水のように柔軟に感じて、

 鉄のように強く考えろ』




 マスクで場所は捕捉できてた。

 神内(こうち)区沿岸の工場地帯。


 彼女のスーツには羽衣が入ってる。

 セック細胞(スプリット)スプリット(プロメテウス)なら感知できる。それを彼女は気づかなかった。


 夜が近づいてる。

 ここら一帯はルハラグループが所有してる工場みたいだ。

 工場地帯なら夜間でもずっと明るい。

 街中よりも戦うにはうってつけか。どうりでウォータンがここに呼ぶわけだ。

 俺がくみしないのはバレてる。彼女もフェンリルにはならない。有利な内に片をつけるつもりか。


「プロメテウス、ナビを」


『了解です♪ 追尾開始。戦闘は行われてない模様』


 まだ始まってない。

 急いで道を進んだ。


()()()


 どこだ、今いく。

 黒いスーツも浮き上がって駆けた。


 目の前なんメートルか先、二匹の犬がいる。

 違う、狼。ゲリとフレキか。

 妨害を? どうする。

 戦うか、一気に抜けるか。


 一気に抜ける。


 賭けた。彼らなら見逃してくれるかもしれない。

 二匹の間を走り抜ける。

 襲ってこない。やっぱり、よかった。


 ハッハッハッ、

 ハッハッハッ、


 なんだ。

 走りながら息つぎが聞こえた。

 俺じゃない。

 右と左を見ると、

 狼が走ってる。

 並走してるのか。

 なぜ。


『戦闘、始まりました!』


 考えてる暇はない。

 走る速度を上げた。

 グングン走る。我ながら速い。しかも息が切れない。スーツの性能か。


 ハッハッハッ、

 ハッハッハッ、


 まだついてくる。

 なにがしたいんだ。


『ナオヤと仲良くなりたいのかも』


 そうなのか。

 だったら、


「助けてくれ! きみらの力を少しでも俺に!」


 助力を頼んだつもりだった。

 だが不思議な現象が起きた。

 並走してる狼たちの体が金色になっていく。

 粒子に、

 川の流れみたいに、

 流れが俺の脚に、

 集まってくる。


『僕が名づけ親になる時がきたようだ!』

「セックか!」


『彼らは今この時より、

 ()()()()()()()になる!』


 彼女がマスクの中で叫ぶと脚が金色のブーツに変わった。


『ブーツではない! 足甲、脛当てだ(グリーヴ)!』


 スコルとハティ。

 それがゲリとフレキの新たな名前。


 ヒーロー名か!


 途端に脚が軽い。

 まるで風が舞うように駆けてる。

 このまま走ってたら空でも飛べそうだ。


 そう感じた時、前方で捉えた。

 ヤツが宙に浮いてる姿を。


 俺が近づくまでにも激しい攻防は続いていた。


 灰色の仮面と白いウェットスーツで金の籠手姿のウォータン。

 赤フードと赤マントにスカルマスクと白スーツ姿のヘラクレス。


 色と手足が凄まじい速さで交錯していた。

 でもホバリングで宙を舞うウォータンが有利に感じる。

 しかも一撃一撃の衝撃と振動が凄まじい。空気を伝わってビリビリ肌に伝わる。

 彼女はそんな攻撃をよくしのいでた。


 ヤツの姿で前と違う点に気づいた。

 そうか金のグリーヴがない。

 俺が履いてるからか!


「ゲリッ! フレーキッ! 貴様ら狼はやはり馴れ合うかッ」


 空気が揺れる大声が飛んできた。


「ワタシを裏切り離れるか? いいだろうならば主人が死ねばまたワタシの元へ戻る!」


 ヤツが来る!


 同時に兎羽歌ちゃんが俺の存在に気づいた。

 バレットになりながら急速に向かってくる。


『ナオヤ、』


 セックこんな時に!


『ヤツは不完全だ。突く者(フニカル)は戦場で黄金の鎧を着る。それが籠手と足甲だけ。今ではガントレットのみ。やはり大気では弱まる(アトモスフィア)!』


『神は死んだ。キミはヤツを倒せると知れ!』


 内側から燃えるように力が湧く。

 これならよけられる。


 ヤツの金の手がくる。

 巨大に感じた。

 当たればやられると。


 だが当たらない!


 一撃目はかわせた。

 逆の手がくる。

 動きを合わせられてる、


 瞬間バレットが横殴りで突っ込んできた。

 ウォータンがふき飛ぶ。


『直也、どうして!』

「こっちのセリフだ!」


 ヤツが起き上がって次がくるとすぐ察知して彼女が駆けた。

 パンチを見舞うために突っ込んでいく。


「ガンド」


 ヤツがなにか言い放った。

 聞こえたと同時、

 金色がいくつか煌めくと彼女が逆方向へ吹き飛ばされた。


「神を呑み込みし獣よ。ワタシの世界でワタシに飲まれるがいい!」


 ヤツの体からなにか出たように見えた。

 それが彼女まで伸びてなにかを掴み、


『魂を先に動かし、魂を掴む』


 師匠(セック)の声と認識が合致した。

 アストラルからアストラルへの攻撃。

 ダメだ!


「トワカッ!」


 赤のマントが動いた。

 防御するのか!


「フィンの一撃」


 ヤツのかけ声で金の線が走った。


 マントを抜け、身動きできない彼女の胸を貫く。


 魂の先で魂の形を攻撃できるなら、

 肉体の不死身さは無関係だ。


 白いスーツがうつ伏せに倒れて動かない。


「ワタシの完璧な社会はヒーローなどいらない」


 ヤツがくる。けど動けない。

 胸が苦しい。張り裂けそうだ。


「人間はしょせん群れでしか生きられない。群れが生きやすいのがワタシの社会だ。現実から一歩遅れて信仰心を追っていろ」


 反論どころか言葉もでない。


「信奉は自縄自縛。仕方ない。キミらがワタシを選び、ワタシがキミらを選んだ」


 足音が近づく。


「小破局の再建を反復する積極的な盲目の徒よ。ワタシの大海で永遠に溺れるがいい。ワタシの社会でワタシの血を、金を飲め。地の底で平和に生きよ。死ぬ時まで!」


 止まった。


「いや。田中直也。お前は違う。荒野にいる狼は街のルールには従わない。

 性質がオレとは似て非なる。だからオレはお前に執着した。

 語る者(ババア)とも契約したんだ。体をやる代わりにお前を処分させろと」


 俺をやる気か。


「アンタは」

「立て田中直也」

一ノ瀬誠(ハイタカ)ッ!」


 仮面の眼部から目が見えた気がした。

 あの目。香水の匂いも。

 金髪、長髪、顔形、年齢、印象、様々な要素が合致した。


「オレの金を喰え」


 金の拳が来る。


 けど俺の意識はもうヤツになかった。

 向こう、彼女が倒れてる場所。


 白いスーツの背中が開いて、


 背中からサナギみたいに、


 あれは――




 狼から人が生まれてきた。




 銀色の人間が。




 地面の黒い体、ヘラクレスは霧みたいに粉々に散っていく。

 出てきた者へ白いスーツが移動した。


 歩いてくる。


 近づいてくる。


 銀色がくる。


 ヤツも気づいた。


 ヤツが振り向く。


「私の、直也に、近づくな」


 銀色が煌めくと、


 白が視界の彼方へ吹き飛んだ。



  *



「あなたは、私の、ヒーロー、だから――


 ――大、好き」


 最大最強必殺技が、

 ストンと優しく飛んできた。





 再び体の内から熱さを感じる。




「じゃれ合うな! 貴様ら魔の力で話せていた者ごときが」


 ヤツが宙に上がる。


「銀の貴様は何者だ。フェンリルではない。黒き狼でもない。一体なんだ?」


「私は」


 彼女が顔を伏せた。


「貴様の名前は!」


 顔を上げた。




「私は、


 ゲイン。


 超人英雄、ゲイン(スーパーヒーロー)




 俺はずっと呼んでたのか。


 彼女の名前を。


 ヒーローはすぐ近くにいた。




 ヤツが言う。


「人の言葉を捨ててまでその男が大事か。元の姿を捨ててまでそんな男を守りたいか」


 彼女の口がマスクのような皮膚で覆われていく。

 そんな。

 言葉を。

 元の姿を、


 捨てたのか。


 彼女が弾けるみたいに動いた。

 凄まじい速さでヤツに攻撃を見舞う。

 ヤツも防御がやっと。いやバリアで防いでる。

 しかも宙を飛べるんだ、彼女は攻撃の度に跳躍する。


「ガンド」


 ヤツが両腕を開いて言った。

 そうか指が。

 籠手の指が離れて飛んでる。

 黄金の指が宙を舞い四方から彼女に当たった。

 彼女は防げてるが、


「フィンの一撃」


 指が戻る。そして籠手が飛んだ。

 腕ごと。

 けど元の腕と籠手を繋げてるなにかが見える。いや匂いか。

 彼女はよけてくれた。上回る速さが幸いしてる。


 俺は超人同士の戦いを見ていた。

 なにもできないのか。


 俺はヒーローなのか。




 そうかヒーローは。

 やはりいない。


 いないけどいるんだ。


 目に見えないが存在してる。


 人と人の間にあるもの。


 それがヒーローなんだ。


 人を繋ぐ絆の名前。


 だから身近にある。


 見えないからそれを見えるようにする。


 ヤツは絆を断ち切る。違う。

 絆を、人の間にあるものを利用する。

 頂点に立つ自分のため、悪質にする。

 だからだ。

 ヒーローはそれを変える。

 元の形に。

 そうか。

 やっとわかった。


一ノ瀬誠(ハイタカ)ッ!」


 二人が離れた。


「お前を倒す!」

田中、直也(ウェアウルフ)ッ!」


 いけ、


「ここからはヒーローの戦いだ」




 そして、




「ヒーローはヒーローを守るッ!」




 それが俺の答えだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
第一章の第一話でとても印象的だった箇所。 「あなたは、私の、ヒーロー、だから――――大、好き」最大最強必殺技が、ストンと優しく飛んできた。 ここと繋がってたんですね!(*‘ω‘ *)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ