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ヒーロウ・イン!(完結作)  作者: 鈴本 案
第六章:フェニックス
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第四話『ノーバディ不在』・「ワタシは社長で資産家だが」




 あれからもう二か月。一時期テロだと騒がれた神内区の大停電もすっかり忘れられた。

 冬も終わりで春が近づいても平和に変わりはない。

 スーパーは普通。同僚におかしな様子もなかった。

 兎羽歌ちゃんやフライヤも普通。ルームシェアも順調みたいだ。

 俺も心境以外は普通。レイヴンズとの戦いが嘘みたいだ、と思いながらもトレーニングは欠かさなかった。


 ヒーローチームはお隣さんとしての距離も近くなった。

 フライヤとはスーパーに出勤する時間も重なってるから、ドアを開けると彼女がいたりする。


「同伴出勤みたいだなぁ」

「なら腕も組まなきゃ」

「だから見られたらまずいって」


 注意しても道路を渡るまでは腕を絡めてくる。雑談も。


「ナオヤー、男って好きな女の子のパンチラはどう思うの?」

「パンチラ? どうって……」

「見れるかもしれないけど他の男にも見られるかもしれないよ」

「そう言われたら見れなくてもいいからしないほうがいいかな」

「そっか。気をつける。する時はナオヤの前だけでするね」

「まあ気をつけて」




 休憩室でもフライヤと二人になった。


「トワちゃんの秘密知りたい?」

「なに」

「一緒に住んでるから色々わかったよっ」


 知りたい気はするけど。


「彼女が教えていいって言ったら聞くよ」

「ちぇっ。つまんなーい。じゃわたしの秘密なら知りたい?」


 知りたいけど。


「知りたいなぁ」

「なにその棒読みヤダ。もっと真剣にっ」

「だって聞かなくてもどうせ言ってくるだろうし」

「そぉだけどー。ナオヤに求められたいー」

「ハニー。きみがいなきゃスーツはおじゃんだよ。これからも一緒にいてくれ」――もう扱いも慣れたな。

「やだもー。ほんとに求められたら照れちゃう」

「そういえば壁の穴は塞いだからね」

「ふさがなくていいのにっ」


 穴を開けたのも案の定師匠(セック)だったみたいで。

 当の彼女はしばらく見てないが、最後に話せた時は『レイヴンズはもう現れないだろう』と言っていた。

 だけど引き続き仮面の男(ブロンド)には気をつけろとも。







 昨日師匠(セック)の言葉がよぎったのもあるかもしれない。

 妙に兆候みたいな印象を感じた。

 鳥のさえずりが耳についたり太陽の色や植物の緑が目についた。普段より空気の匂いも。

 だから買い物もないのにスーパーの前まで来た。


 入り口の、

 フリーペーパー置き場の椅子に、

 座ってる。

 黒いサングラスで白いスーツを着た金髪の男(ブロンド)が。


「やはりワタシの見立てた通りの青年だ。兆候空間優位性質(マージナルセンス)がある。しかし威力は足りない代物」


 俺に話しかけてるのか。


「ウォータンさん。うかがいたいことがあります」

「君は解体ショーや料理ショーをどう思うかね」


 なぜか拳を握りしめた。


「わかりません」

「ああいったショーは下品な人間の文化の表れがあってワタシは大好きなんだ。ワタシのスーパーでも店舗によっては催しているよ」

「ここのスーパーでは見ないです」

「土地柄でね。神内区の店舗では拮抗している」


 よくわからなかったが社長は悪い意味で言ってると感じた。


「君は腹が減ってないかい?」

「少し空いてます」

「ワタシと話がしたいとも言ったね。ワタシも君と話したい。まだ落ち着かないのなら屋上で待っていてくれないか。少ししたら行くよ」


 俺は一礼して歩きだした。




 スーパーの屋上は駐車場になってるが、下にも駐車場があるから車はほとんど置かれてない。

 それでも一台だけ車が停めてあった。

 白い小型バス。片側が四輪。

 もう片側もやっぱり四輪だ。あの時の八輪車か。

 中を覗いても人はいない。

 離れて眺めると妙な感じがした。白いボディになにか書いてるような。

 ……これは、白い字。

 それで気づかなかったんだ。

 直線を組み合わせたような古い文字だと感じた。


「ワタシの“馬”が気になるかい青年」


 後ろから声がしてビックリした。

 振り向くと白いスーツの男性――ウォータン社長がスーパーのお弁当を手に持ってる。


「馬って」

()()()()()を彫り込んである」


 ルーン。

 ルーン魔術だとかは聞き覚えがある。

 魔術。

 やっぱりこの人がアイツか。

 あの灰色の仮面の男。


「ルーン文字はワタシにとって意味があるのでね。さあこれを食いなさい」


 お弁当を渡された。


「ありがとうございます」

「廃棄される弁当だ。気にしなくていい」


 休憩用と思われる設置されたベンチに座って食べ物に口をつけた。

 ウォータン社長もどこからか椅子を持ってきて、対面に座りこちらを眺めてくる。


「うまいかい青年」

「普通です」

「口に合わなければ捨てるといい」


 なぜか肌がざわついた。

 捨てるのは嫌だから食べる。


 食べてる間に社長は独り言みたいに話しかけてきた。


「毎日大量に作る。すべてが売れるわけではないと理解した上で」


「捨てるために作るんだ。なんと素晴らしい基盤、美しい歯車か」


「命のために命を消費する。大量に。そのメカニズムが美しい。武器、まるで銃のように。()()にも似てると、そう思わないか」


「君は知っているかい。(カネ)()()()()()


「美しい社会を支える仕組み。金も完璧で美しい。まるで()()()()()()()()()()。故にワタシは(きん)が大好きでね」


 食べ終えた弁当の容器を隣に置いてから、俺は目の前の男に聞いた。


「あなたがアトリーズ、そしてベルヴェルクなのか」


 サングラスのウォータン社長は驚いた様子もなく空を見上げた。


「もうすぐ夕暮れだ。()()とも呼ばれる。さて。

 ワタシは社長で資産家だが、その問いにも()()()と答えたら。君はどうするね」


 決まってる。


「アンタの目的はなんだ。なにがしたい」

「それはワタシが君に聞いてみたい」

「俺は。俺はヒーローになりたい。邪魔するアンタは何者なんだ。世界征服でもしたいのか?」


 質問は半分冗談で半分本気だ。


「世界の征服? 君はとてつもない勘違いをしているな」


 冗談でも言われたふうにウォータンが大笑いした。

 満足したみたいに息をつくと、


「誤解を解こう。ワタシは世の中をどうこうするつもりなどないよ」


 さらに聞いたセリフは予想外だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ジョークの感じでもない。


「ワタシが今の形を作った。なん千年も前からな。仕組みも、歯車も、武器も、そして金も。

 すべてワタシが君たちに与えた概念だ。君たちを導いた。農耕社会を与え、資本主義社会に到達した。

 今の世にいたるシステムへ辿りつくための、向上にいたるすべてを。過去から今まで続くものへの()()を」


 言ってる意味が半分は溶けて半分は頭の中でグルグル回ってる。なんなんだ。


「ウォータン、じゃあアンタの目的はなんなんだよッ!」

「どうせ彼女から聞いているだろう。ワタシに従順することだ。なにも特別な手続きはしなくていい。今のままでいいんだ。

 変える必要はない。

 ワタシが望むのは()()()。ワタシを受け入れて疑わない心。それはワタシ自体でなくてもよい。今の世の仕組みへの従属」


 一体なにを言ってるんだ。


「君はわかってるのか、()()()()()。彼の望み通りにワタシを倒してどうする。君が属してるのはいわばカルト、テロリストじゃないのかね」

「なに言ってんだアンタは」


 頭の中がまたぐちゃぐちゃだ。

 呼吸しろ。


「いいことを話そう。ワタシの元で働くんだ。君はワタシの祝福を受けた傘下の中でも特別な場所にいる。ワタシの敵を滅ぼすのにもっとも適した戦士だ」

「嘘をぬかすな」


 喉が熱い。


「君は感じてるだろう。大上兎羽歌という女の中にある()()()を。破壊衝動が重要だ」


 喉が。


「滅ぼさなくてはならない。ワタシと世の中(システム)への脅威を。抹殺するのだ。白い狼と、()()()()()を」




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― 新着の感想 ―
第六章第一話で 「俺が師匠セックやましてフライヤと兎羽歌ちゃんを裏切るなんてあるのか。ないと言い切れない自分に腹が立つ。」 と言っていたのを思い出しました。 直也さんには最後までトワカさんの味方でいて…
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