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ヒーロウ・イン!(完結作)  作者: 鈴本 案
第五章:インフェルノ
41/52

章末話『生け贄』・「うちをめちゃくちゃに」




 走りながら呼吸に乗れ。

 リズムに。

 同時に考えろ。


 死角がなくても攻撃するしかない。

 けど盾の防御(シールズ)が。

 どこを狙っても突起で防がれる。

 攻撃を当てるには――


 直感的に察した。

 手数の多さは負けに繋がる。

 すべて弾かれる。

 攻撃に時間がかかれば銃と同じで動きに対応される。

 連打で失うのは体力。

 セックと違って俺に無尽蔵の体力はない。


 両手に下げた狼の爪の質量を感じながら決めた。

 手数は二回。


 プロメテウス。

 セック細胞(スプリット)を限界まで防御に回したら何分耐えられる?


剣の技(ソーズ)の硬度やスピードとスーツの耐久性から算出すると三分間は全面で防げます。以降はセック細胞(スプリット)の形質が徐々に崩れ防御性能が下降、完全性は消失して材質のみの防御に変わります』


 充分だ。

 ()()()()()()()()


『了解です♪ サンダーフィンガー・ダブルは全身に展開し自動防御(フルオート)、ファイアボール・ダブルは1%のみ残し防御膜(ファシア)に変換』


 補助がなくなったせいか体が重くなった。

 予想の範疇だ。歯を食いしばってでも動く。

 ()()()()()()――


 ――合図したら()()()()てくれ。


『通信も途絶します。次の()()()()まで待機。ナオヤ、気をつけて』


 ありがとうフライヤ。


 フローで走り抜けた。

 まるで一呼吸で近づいたと感じる。

 体は揺れてるのに視野は固定されたままでスムーズだった。

 フローが呼吸と視野を繋げて安定させてる。


「マイティッ!」


 兎羽歌ちゃんなら。

 俺が共鳴を感じたように彼女も感じてくれるなら。

 伝わるはずだ。


 叫んだ直後にヘラクレスの黄と青の瞳(オッドアイ)も輝いて、

 眼がまとった体が一段と大きくなった。

 白いスーツが伸びて現れた大きな()()も。

 増強されたマイティが勢いで殴る構え。

 来る、

 反応したムニンのカウンターが!


「ソーズ」


 兄妹は似てる。ヤツらも技で息を合わせる。

 ムニンの両手から黒い剣が出た。

 胸を突こうと。

 だがマイティは囮だった(おとり)

 急速に体が縮む。

 黒い剣が彼女を刺せずに宙を突いた。

 しかもオマケがある!

 ヘラクレスに戻っても白の尻尾は大きくさせたまま、

 尻尾を操りムニンの両腕に絡ませた。

 腕を封じてる。


 俺の番。


 攻撃の姿勢で飛び込む。

 攻撃を誘うために。


「ソーズ」


 ヤツは顔を動かさずに体から黒い剣を出した。何本も。

 もろに食らう。

 これでいい。

 痛みや衝撃も感じない。


 三十秒もいらない!

 剣が引っ込んでいく!


 狙い通りの光景だった。

 体表から剣を自由に出し入れできるのは見たが、

 剣と同時に盾を出す姿は見てない。


 呪文のような技のかけ声。

 シールズやソーズとは唱えても両方はない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 なら剣の技(ソーズ)を出した直後にもっとも隙が生まれる。


 今の時間こそヤツらの“死角”。


 剣が消えれば盾が出てくる。

 剣が引っ込む前に、


「プロメテウス攻撃ッ!」


 合図する(コマンド)


『サンダーフィンガー・ダブル100%を右手のひらへ移動』


 これで、


『ナノ粒子としてサンタバーバライト鉱石と生体ポリマーに変化させ』


 右手の、


『狼の爪の材質を急速変成します』


 一撃目ッ!


 右腕を振り抜く途中、

 ()()()()()()()()と、

 金属が氷つくような音が鳴った。


 コマンド(イメージ)通りなら、

 細部の形状がヤスリのように変わる最中で、


 岩を噛み砕く歯を顔面へ向けて振り抜く。


 今の右手は左手より軽い。材質が鋼鉄より軽いんだ。

 軽い物体がインパクトの瞬間、

 鈍重な感覚に変化した。


 振り抜いたら殺せたと感じた。

 容赦なく全力で殴りつけた。

 普通の人間なら顔が潰れる。

 ヘラクレスが尻尾で腕を捕まえてるから衝撃も逃がせない。


 ムニンがこちらを向かなかったおかげで罪悪感にはならなかった。

 けど冷酷な瞬間は戦場での狂乱の戦士の様(バーサーカー)を俺に連想させた。


 すべて一瞬だったが、一瞬の戸惑いはフローの行動を不安定にして一秒遅らせたかもしれない。

 サンダーフィンガーの高速移動と急速変成を左手で感じながら続け様に殴りかかった。

 だがムニンがヘラクレスを蹴り飛ばしていて、

 腕の拘束も解かれ剣も収まり、


「シールズ」


 体から別の突起が出る始まりが見えた。

 突起した盾の間で彼女の表情も覗いた。

 黒いマスクがズタズタに裂かれて剥がれ落ち、

 血まみれの素顔が俺を見つめて、

 ゆみちゃんの顔で、


 笑ってる。


「うちをめちゃくちゃにしてよ壊れるぐらい」


 爪はヤツまで届かなかった。

 盾の突起で止められて金属がこすれる嫌な音がする。

 爪は止められても怒りは止まらない。

 そんな顔で、


「息をするのをやめろッ化け物ッ!」


 怒鳴ってもつばぜり合いに似た状況で怒りをぶつけられない。

 腹部に衝撃を感じた。

 蹴りだ。後ろに飛ばされる、

 なんとか体の姿勢を保って倒れないように――

 また蹴りの衝撃。

 頭と胸に。

 くそッ追い撃ちされてる。

 防御膜(ファシア)は解かれてるがスプリットは全身に散って防御はしてる。

 それでも力で飛ばされて転がった。


「おにぃちゃぁん、コイツやっちゃダメなのー」

「殺すんじゃねえ!」


 遠くからフギンが、


「大将にどやされて消されっぞ!」


 指示してる。


 ダメだ防戦一方。

 二発目を入れられずに戦法が崩れた。

 ムニンの顔はもうマスクに覆われて戻ってる。

 露出してる口元で舌なめずりしたのも見た。

 こっちは体勢が崩れたままで頭を踏みつけられてる。くそッ。


「ほらぁうちの足を舐めなよ。お似合いだよホラホラぁ。それとも脱いでほしい? パンツを見ながら素足をなめたいのかな」


 キャハハと笑い声が聞こえたが力が入らない。

 俺まで鳥兜に。いや全力を使ったから。それとも戦意喪失したのか。うつみたいに脱力してる。

 フギンが叫んだ祝福って言葉が浮かぶ。

 祝福なんかじゃない。

 この重みは呪いだ。

 俺が感じて抗ってるものは、

 重みの先で蔓延してるのは、

 呪いだ。


 ()()()


 音がした。

 ヘラクレスが殴りつけてたがムニンが盾で防いでる。

 次々と殴り始めて音が金属音に変わっていった。

 スパイン。拳の毛を硬化した。

 ギンギンギンと音がしてムニンの盾が少し凹んでいく。


 いつもきみは俺の前の道を開いてくれる。

 俺の呪いを軽くしてくれるのか。


「いけぇッ!」


 叫んでいた。

 応援を聞いたヘラクレスのパンチが速くなる。

 スピードが落ちるどころか、

 どんどん加速する。

 なんて体力だ。


 すっと動きが止まった。

 右腕の大振り。


 腕だけ、

 大きい!


()()()()()()()()()!』


 剛腕の強力な一撃が盾を出したムニンごと吹き飛ばした。

 インパクトの瞬間、腕が小さくなったのも見えた。拳がトゲの生えた鉄球のようになったのも。

 スーツは体毛にも順応してたのに拳部分がかなり裂けてる。凄まじい威力を感じた。

 増幅した力を収縮で一点に集めたのか。


『直也、大丈夫?』

「ああ助かった」

『もっと、ボクを、頼って』


 胸に刺さった。敵の攻撃よりずっと。

 俺は俺だけじゃないのに。わかってるはずが一人で戦ってた。

 なにかがあるんだ。見えない空気の(よど)みみたいに。


「いい気になるなよ人間ッ!」


 フギンだ。セックとの戦いから離脱したのか。ムニンと合流してる。


「立てムニン。大将からお呼びがかかった。今回はこれまでだ。オメェらの勝ちじゃねえからな! 勘違いすんなァ今回は引き分けだッ」


 兄妹の姿も変身前に戻ってる。


「いいかよーく聞け。次は九十日後! 好きな時間に流原(ルハラ)ビルで待て! 来なければ他のヤツが生け贄になるぜ」


 ヤツらの様子がおかしい。

 体が徐々に黒い霧に。

 黒いシミが分解されるみたいに散っていく。


「御大将よ! ええ、わかっていますからァ。御大将はおれらを生け贄に――」


 姿が消えた。空気になる前の黒い風が空中を流れて、

 八輪の白い小型バスが停めてある方向へ。消えていった。

 今まで座ってた二匹の狼も風を追うように動きだした。

 振り向きながら。

 もうドーベルマンの姿で門番みたいにバスの入り口で座ってる。


 夜が迫る静かな駐車場。

 白いバスのドアが開いて何者かが駐車場に降り立った。

 二匹が首を下げてる。

 白いウェットスーツのような格好をした男。

 後ろの白いバスと同化してるみたいだ。

 白から分離するように歩いてくる。

 明らかにまともじゃない。

 アイマスクのような()()()()()()()を被ってる。

 ()()()()()()()


「やあ君たち。無事かい」


 男がにこやかに話しかけてきた。

 ()()()()も漂わせながら。


「とてもよく戦っていた。大したものだよ」


 兎羽歌ちゃんはいつの間にか変身を解いていた。

 セックは。


「最前席で観戦させてもらった。有望だね君たちは。嬉しいよ」

「あんた何者だ」「直也さんこの人は」


 男が一礼してくる。


「ワタシは()()()()()。馬に乗って突進する者、という意味だが今は突進するつもりはないんだ。ハハハ」


 外国人がジョークを話すような口調。

 セックが歩いてくる。


「おっと怖い人物が近づいてきた。ワタシも忙しい身でね、今日は挨拶だけ。また次にしよう」


 背を見せた白い男が歩いていく。

 こっちに来る黒いセックとすれ違う。

 男が言葉をかけたのが聞こえた。


「惑わす神よ」

「クソ野郎が」


 彼女がベールを外してツバを吐いた。表情を変えて俺たちに手を振ってる。


 男がバスの前に着く。

 ここから声が聞こえるはずはなかった。

 なのに頭に響いてきた。

 話しかけられてるみたいに。


「あまり馴れ合うな」


 俺じゃない犬に言ったんだ。

 二匹と俺がリンクしてるのか。

 男の言葉のあと二匹の姿はなかった。

 代わりに男が金色のブーツを履いてるのが見えた。

 そのブーツで地面を何度も蹴りつけるのを感じた。







兎羽歌が好き、直也が好き、フライヤが好き、六章での三人が気になる、セックが好き、ウェンズデイ兄妹や敵側のキャラがよかった、戦闘がよかった、クライマックスや結末が気になる、などありましたら

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― 新着の感想 ―
アトリーズがフギンの言う御大将なのかな。 ゆみちゃんの顔のムニンとの戦い、ゆみちゃんのイメージや思い出もめちゃくちゃにされてる感じがして、とても辛い(´・ω・)
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