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ヒーロウ・イン!(完結作)  作者: 鈴本 案
第五章:インフェルノ
34/52

第一話『鏡に映るオオカミ』・「直也さんくすぐったい」(挿絵あり)

(本作の挿絵はイメージです。本編の描写とは必ずしも一致しませんのでご留意ください)


■前章までのあらすじ

ヒーローを志す直也は兎羽歌と知り合った。フライヤ、セックらとも出会いながら、最大の宿敵ハイタカこと一ノ瀬誠を退けた。

死闘のあと、直也はセックから未知の真相を聞かされる。フライヤの健在も知り愛の告白もされた。

彼と兎羽歌は複雑な心境のまま日常に戻る。

スーパーにバイトでフライヤが入って関係が複雑化する前後で、直也は二匹の奇妙な犬やスーパーの社長ウォータンとも出会う。

謎めいた出会いから平和は続かず、二人組の怪人ウェンズデイ兄妹がスーパーに襲来する。

セックの助力で危機を脱した直也と兎羽歌。二人はそのまま逃避行をしたのだった。


■前章までの主な登場人物

田中(たなか)直也(なおや)

生活保護且つ『流原(ルハラ)マート』でバイト中の29歳。ヒーロー名は「ウェアウルフ」でウェアはWereではなくWear(着る)。マスクがウルフヘッドとしてバージョンアップ。酒は飲める。


大上(おおがみ)兎羽歌(とわか)

神内(こうち)区のスーパー『ルハラマート』に勤める、誕生日を迎えた20歳。ヒーロー名は「ヘラクレス」で3つのモードや体毛スパインを操る。スーツがバージョンアップ。お酒は好き。


●フライヤ・ハス

『ルハラマート』でバイトを始めた外国人で、眼帯を外した元アイドルの19歳。明るく天真爛漫でイタズラ好き。ヒーロー名は「プロメテウス」で賢明にして冷静沈着。直也を好き。


●セック・ハス

挿絵(By みてみん)

オッドアイの女傑で超人。英雄名は「ビッグ・セック」で複数の名を持つ。古代でシヴァとも名乗っていた。希に弟子を作る。蹴り技は無影脚で様々な物を武器として使う。秘密が多い。


●フギン・ウェンズデイ

●ムニン・ウェンズデイ

好戦的な超人兄妹。スーパーヴィラン名は「レイヴンズ」で兄のフギンは身長が低く粗暴、妹のムニンは身長が高く無口。ムニンの顔は直也の旧知にそっくり。セックとフライヤを狙いスーパーを襲った。まとった濡れ羽衣(クロウクロス)で強大な力を発揮する。


●ウォータン・ゲンドゥル・ウェンズデイ

ルハラグループの代表取締役でスーパーの男性社長。長い金髪、長身で体格がよい。黒いサングラスをかけ白いスーツを着ていた。


●二匹の犬

遠くではドーベルマン、近くではシェパードに見えた。直也に好意的。


佐藤(さとう)

スーパーに務める男性。同い年の兎羽歌に告白するも実らず。超人兄妹の襲撃で巻き添えになった。


高橋(たかはし)

スーパーに務める、佐藤と仲がいい年上の男性。


一ノ瀬(いちのせ)(まこと)

挿絵(By みてみん)

犯罪者で29歳。フライヤの元恋人。ヴィラン名は「ハイタカ」で直也と因縁があった。現在は行方知れず。


●老婆

一ノ瀬と最後に接触した奇怪な人物。


●ヤマ

一ノ瀬の元仲間。留置所で首を吊って死亡した。


●白い狼

兎羽歌の前に幻影として現れた。










 ドアを閉めたらオートロックの音がした。

 鍵かけなくていいんだな。

 同時に照明もついた。

 自分の部屋の玄関とは違う。別の玄関にいると強く感じた。

 隣で立ってる兎羽歌ちゃんは部屋に入る前から行儀よくて、


「どうぞ」


 うながさないと玄関でずっと待ってそうだった。


「はい、失礼します」


 靴を脱ぐ所作(しょさ)も丁寧で、茶室に入るような姿が可愛く見える。場所のせいか。

 彼女は緊張してるのか。緊張してないからなのか。判断できない。

 滑らかな動きでスリッパを履いた彼女が、橋を渡るみたいに歩いていく。

 部屋の奥に進む後ろ姿を、メットを手にしたままぼうっと眺めた。

 小さく揺れる可愛い後ろ髪。

 綺麗なうなじと首筋。

 全部が過去の出来事に重なった。


 兎羽歌ちゃんのあとを追って入った空間。やっぱり狭いもんだな。

 見回すと、安くても案外小綺麗だ。内装は女の子が好みそうな乙女チックな配色やデザイン。

 照明もムードがある。

 寝室と一体化したラブホ独特の密室的な空間に、テレビや自動精算機、テーブルとソファーとか置いてある。

 一番目立つのはやはり大きなベッドで、

 兎羽歌ちゃんはどこに、

 と思ってたら。

 ベッドの(ふち)にちょこんと座ってた。


 ――そこ座りますか。

 無防備な彼女の姿から未知の圧力(プレッシャー)を感じて、


「アジトみたいで結構いいでしょ」


 上ずった声での批評。

 兎羽歌ちゃんは首ふり人形みたいにコクコクうなずいた。

 同意されても落ち着かない。俺はメットを持ったまま洗面所を探した。


「結構きれい」


 声が聞こえたから、


「ホント綺麗だねー」


 棒読みで返して洗面所のドアを閉めた。

 浴室とトイレに面してる洗面所の()()()()の前に立ち、顔を眺める。

 大してかっこよくもないのに、同僚の女の子をホテルに連れ込んだ男の顔(オオカミ)

 日も暮れない内から、しかも勤務中に。ってそれは仕方ない。異常な事態だったから。

 疲れた顔してるな。

 当然か。さっきまで烏人間(バケモノ)と戦ってたんだ。

 なら今の状況はご褒美かも。二人だけの祝勝会。

 違う勝ってない、むしろ敗走だ。

 急に悔しさが湧いた。


 そもそも俺はなんでラブホに。

 場所を消去法で考える前、師匠(セック)に誘導されたのは間違いない。

 にしたって。

 願望があったのか。うつ、新型うつも治ってきたから。性欲が戻ってきたのかな。

 自己嫌悪に陥るから正当性を導くべきだと直感が働いた。

 いわば隠れ家に来たんだよ。ヒーローに付き物の。

 なにより彼女が心配だったんだ。

 そうだよダメージが、彼女の体が心配なんだ。

 メットを洗面台に置いた俺は洗面所から飛び出した。


 勢い任せ。

 ベッドの縁に座る兎羽歌ちゃんの隣めがけて、

 ドスンと腰をおろす。

 思ったよりベッドが揺れる。(きし)む音もした。

 俺の行動に彼女も驚いてるな。

 かまいやしない。


「トワカちゃん」

「はいっ」


 目をぱちくりしてる。


「体大丈夫なのっ」


 聞いた。ラブホに連れてきた正当な理由。

 安心したような顔をされて、


「もう大丈夫です」


 満面の笑顔が返ってきた。


 兎羽歌ちゃんって。

 こんなに。

 こんなに、可愛い子だったっけ。


 今は地味な印象も感じない。むしろ前より艶っぽい気がする。

 彼女の色んなパーツがキラキラしてる。輝いてるみたいに見えた。

 少し恐いぐらいだった瞳の奥底も、透き通った素敵な目だった。


 こういう子がずっとそばに、隣にいたのか。

 よくも一緒に過ごしてたな。信じられなくなった。

 今もすぐ目の前。


『己のものなら美しさはなおさら増す』


 彼女(セック)が「キミのものだ」と言った彼女(フライヤ)を評した言葉。


 見極めたい。


「やっぱり心配だから一応見てみないと。見せてみて。いいよね」


 早口になりながら兎羽歌ちゃんの手を取り、裏や表、指も見ていく。


「綺麗な指してる。傷もない」


 手も握ったことがあるのになんで知らなかったんだ。


「ありがとう、ございます……」


 照れてるような声がしたから多分照れてるんだろうけど、聞き流して無視。

 (そで)をめくる。下のスーツの袖も()()()()()()。これも細胞の影響。

 腕を見ても抵抗はされなかった。俺にされるがままみたい。

 だんだん面白くなってきて、首もチェックした。


「首も綺麗。傷もなし」

「うん、ありがとう」


 顔も触ってチェック。

 前にも同じような検証をしたな。あの時は狼人間(ヘラクレス)だったし顔には触らなかった。

 思い出しながら、なるだけ優しく触れた。

 頬に手をあて、眉やまぶたも撫でてみた。


「綺麗なまつ毛だね」

「うん、嬉しい」


 嬉しいんだ。

 じゃ次は耳たぶも。


「綺麗な耳たぶ。揉むと気持ちいい」

「ちょっやだぁ、直也さんくすぐったい」


 笑いだした。俺もつられて笑えた。


「お腹も見せましょうか」


 突然の申し出に驚いた。

 返事より先に服をぺろっとめくられる。


「あ、スーツ着てたんでした」


 出てきたのは白い生地。


「残念だな。トワカちゃんの腹筋また見てみたかった。シックスパック、ボコボコになってるお腹」

「直也さんやだもうー。けど、うん。残念かも」


 笑ってる。なんで今の兎羽歌ちゃんはめちゃくちゃ可愛く見えるんだろう。

 顔より下に視線を向けると、胸の膨らみに気づいた。

 これは。

 変身の影響。

 胸が大きくなったのか。

 もしかして艶っぽさもそれで。だから色っぽく感じたのかな。

 感じたまま、衝動的に大きな胸を触ってみたくなった。

 場所が場所だし触ってもおかしくない。

 ちょっと触るくらいなら。

 彼女も承知してここにいるんじゃないか。

 その気があるんじゃないだろうか。

 ラブホで女性になにもしないのは逆に失礼なんじゃないか。

 けど胸を触ったら次は揉みたくなるな。

 そしたらさっきの首や耳たぶにキスをしたくなって、体を触りながら服やズボンを脱がしていって、下のスーツも、

 ってドンドン妄想が膨らんでダメだ!


 だんだん関係がハッキリしなくなってる。彼女は同僚、友だち、相棒、恋人、怪物、どれなのか。曖昧で掴めない。

 これでもし男女の関係になったら。

 今後二人の関係に支障が出るんじゃないか。ヒーロー活動に。

 こういう時は、ヒーローならどうする。


 わかるか!

 ヒーローがラブホで過ごす状況なんてっ!

 とりあえず現状、彼女を抱くのはよろしくない。関係がこじれて『ヒーロー活動は解散ッ』なんて憂き目にあう可能性も考えたら。

 大体フライヤはどうする。

 今は代わりになにか。今二人ができるなにかはないか。


 フライヤ――


 変身みたいな閃き。


「トワカちゃん、行こう」

「えっ」


 急に腕を引っ張ったから驚かれたけど、多少強引に手をひいた。

 洗面所へ。


 二人で大きな鏡に向かって立った。

 兎羽歌ちゃんを前に、

 俺は後ろに。


 マスクを被った。

 改めて鏡に映る姿を見たら、

 スーツを着ずにマスクだけ(ウルフヘッド)の格好はダサい。

 でも俺の考えが正しければ、


『プロメテウス起動しました』


 ()()()()はず。


ナオヤっ(ウェアラー)、ラブホでなにしてるのっ』


 今はごめんフライヤ。お願いがある。


『もうー。接触通信、了解です』




 兎羽歌ちゃんを後ろから抱きしめた。


「直也さん……」

「白い狼を見たと言ってたね」

「はい……見ました」

「もう一度見よう。今度は一緒に」


 鏡を。


 ()()()()()()


 そこに、


 ()()()()()()()姿()()()()()




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― 新着の感想 ―
ついついそういう雰囲気になっちゃいますよね、だってラブホテルだもん!(笑) あちこちチェックされても抵抗なくされるがままのトワカさん。直也さんはそういう事しないと安心してるのか、直也さんとならそうい…
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