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コンパス

私はココアが大好きだ。

あの匂いを嗅ぐと心が落ち着き口に入れたときに広がる甘さが私を癒してくれる。

先ほどの苛立ちを抑えるためには二杯のココアを必要とした。

3杯目に入りようやく落ち着いたところで、生まれ変わりの事などを伏せコンパスを貰ったことを話した。

「なんだ、そうだったのか」


「ごめんなさい。誤解させるつもりはなかったんですの…… 」


「ミレーヌちゃんは悪くないって。

でも、色っぽい声が聞こえたから、まさかとは思ったけどね」


「恥ずかしいので忘れてください…っ」


「夢に出ちゃうかも」


「レオ様のいじわるっ」

レオは上機嫌でミレーヌに絡んで止まらない。

二人を他所にこちらのお嬢様は振り上げた拳をどこに下ろせばいいかわからない、と言った様子だ。

「な? 誤解なんだって」


「フン…紛らわしいことする方が悪いのよ」


「不可抗力だし、やましいことですらないし」


「……ててね? 」

イブはボソッと何かつぶやいた。

「ん?」


「なんでもない」


「ならいいけど」


「フン」

不機嫌なイブをなだめていると、ミレーヌとレオがニヤついていた。

ニヤついてる君が原因なんだが……

と言ってやりたい気持ちをぐっと我慢しているとレオが口を開いた。

「メルシュ様から貰った石がそれ? 薄く光ってるだけだけど……? 」


確かに、方角を指し示す光どころか石自体の輝きすら褪せてしまっている。

「たぶんこれは光魔に呼応するんじゃないでしょうか? 」


「光魔に? 」

私はミレーヌの言葉を聞き返した。


「えぇ、勇者様は」


「ユウマでいいって」

レオ、お前が言うなと心の中で突っ込んだ。


「では…… ユウマ君は勇者ですから光属性の魔力を潜在的に秘めているはずなんです。

ですから光魔の力を石に注ぎ込めば起動すると思うんです」


「ユウマ光属性の魔力注ぎ込んでみ? 」

レオが私に石を渡して催促した。


「ごめん。無理」


「え?なんで? 」

三人は驚いたように言った。


「俺にもわからん。けど、光属性の魔法だけは使ったこと無いんよ」


「ユウマにも使えない魔法があったんだ…… 」

イブがさらに驚いた。


「俺は神じゃないし、そんな何でもは出来ないよ」


「でも勇者じゃん」


「勇者の前に人間だって。まぁ、魔石使えば出来るんだろうけど……

回復だとかなんだとか、そういうのを生まれてから使ったことが無いし。

自分の中に眠る魔力の引き出し方が、光属性だけはわかんないんだ」


「なら魔石つかって起動すればいいんじゃね? 」

レオがそう言ったのをミレーヌが否定した。


「それは賢い方法ではないと思います。

本堂での事は地下に眠る膨大な魔石に呼応して私の潜在的な魔力が暴走したんだと思います。

私は何故か生まれ持って光属性の魔力を持ってますから……

ユウマ君が暴走しなかったのは、おそらく引き出し方がわからないので起動出来なかったのでしょう。

私は無意識的に光魔力を引き出してしまってますから、それで暴走したんだと思います。

それに、私はコントロールする術を知っているので暴走を免れましたけれど、引き出し方すらわからないユウマ君が暴走してしまえば、戻ってくることが出来なくなるかもしれません」


ミレーヌを除いた我々は深刻な表情をしていた。


「ですから、私がこの石を使って差し上げますわ。

それに、ユウマ君が光魔力をコントロール出来るようにお手伝いします」

ミレーヌがにっこり笑った。


「それってつまり……俺達と旅するってこと? 」

レオがミレーヌに期待混じりの疑問をぶつけた。


「はい! 」

ミレーヌの答えにレオは喜んだ。


「でも、教会は大丈夫なの? 」

イブの疑問は尤もだ。


「お父様を皆で説得しましょう!」

ミレーヌは拳を握ってやる気を漲らせている。


浮かれるレオを他所に、大丈夫かしらこの子……と目の前のイブが目線で語り掛けてきた。

私は激しく同意した。


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