教皇の奇跡
少しの時間が過ぎ、ミレーヌが数人の司祭を伴ってフロアに戻ってきた。
「ラザフォード様だ! 」
参拝にきた信者達が司祭の中の一人の男を見つけると、人々は膝をつき祈り始めた。
「敬愛なる子達よ、よくここまで来られました。
あなた方にメルシュ様のご加護がありますよう祈りを捧げます。」
崇められた男がそう言って祈り始めるとフロアの床から紋様が浮かび上がり白く輝きだし、人々に身体加護の呪文を付与した。
「おぉ! 奇跡だ! ラザフォード様が私達の為に奇跡を起こされなさった! 」
人々は口々に言うと、自分の体調の改善を喜んだ。
魔術や聖術と言った類に疎い者であればこれは奇跡に見えるのだろう。
私から言わせれば地下に眠る光魔を利用したペテンにしか見えなかった。
とは言え、通常魔石を利用して行うよりもここの膨大な魔力を利用して行うわけであるから、持続時間や効き目はそうとうなものであろう。
「今日はこれから特別な儀式があるので、お帰り願いたい! 」
そう言うと周りの司祭たちが人々を大聖堂から追い払った。
「人払いは済みました。教皇様」
司祭の一人が聖術を唱えた男に言った。
「ようこそ勇者殿。私はクロノス・ラザフォードだ。ゴルゴン殿より事の子細は伺っている。
だが、入れるのは勇者殿のみ。それと、本堂には教団の者を同行させる。よろしいな? 」
「お会いできて光栄です聖下。私はユウマ・リーベルトと申します。
わかりました。同行お願いいたします」
握手を交え挨拶を終えると、ミレーヌが言った。
「お父様、同行は私がいたしますわ」
「ここでは教皇様と呼びなさい。いいだろう。お前が勇者殿を案内して差し上げなさい」
「ありがとうございますお父様! 」
教皇はなにかを言おうとしたが言わずに司祭達と共に消えて行った。
「ごめんなさいね。あんな父で……
改めまして、私はミレーヌ・ラザフォード。
よろしくお願いしますわ。」
私達三人も名乗り改めて挨拶を交わした。
「ミレーヌちゃんのお父さんが教皇だったとはね…… 」
レオは驚いた表情で言った。
「そうなんですよ。私も聖女なんて持ち上げられて……
こんな事でもありませんと、まともに同年代の方とお話しすることも叶いませんわ! 」
「ハハハ! それはよかった! な? ユウマ」
「あ、あぁ…… 」
イブの視線が痛い。
「勇者様の本殿参拝が終わったら皆さんのお話を聞かせて頂けません?
私ずっとこの街から出たことが無くって、外の世界の事を知りたいんですの!
それに、同じ年の女性ともお話ししてみたいし……ダメ……かしら? 」
「いいわよ、ね? 二人とも」
レオと私は同意し、4人で過ごすことが決定した。
「じゃ、さっさと神の祝福とやらを受けてきなさいよ」
「ユウマさん愛されてますわね」
ミレーヌがそう言うと、イブの顔が赤くなった。
クスクス笑うレオと赤面の少女を置いて私は本堂へ向かった。




