グレ山攻防戦
戦線離脱した兵士たちが衛生兵に救護され国へ戻って行くのを尻目に、私達は緑の野を駆ける。
戦地に近づくにしたがって、爆発音や叫び声が大きくなり、戦場の大きさを知る。
「俺が先行する。離れるなよ」
手綱を絞り、身をかがめると愛馬は一気に加速した。
争い合う両軍。
至る所で鉄が擦れあう音、魔法による閃光、両者乱れ合う中を縫うようにして駆ける。
自軍の先団に到着したところで、私が減速したのと同時に後方2人も戦闘態勢に入った。
何重にも広がる分厚い敵軍の壁が立ちはだかる。
「雷神!」
唱えると、電撃が私の前方をうねりながら地を這うように走る。
目前の敵は消えうせ、黒い焼け跡のみが地に残った。
奥まで見通せるほどすっぱりと、一団は真っ二つに割れた。
「進め!」
私は叫ぶと同時にその割れ目を突き進み、私達に続くように兵士達も続いた。
およそ4000と聞いていたが今の一撃でおよそ三分の一ほど消滅しただろうか。
二番手を走るイブが敵が合流しないよう魔法を放つ。
「暴風炎!」
炎の竜巻が沸き起こり、敵を次々と飲み込んむ。
3番手のレオは取りこぼした敵を次々と射止めていた。
私は前方にエアネイルを唱えると、襲い来る矢や敵の魔法などをかき消して行く。
嬉しい誤算で無風になり、馬達はスタミナを使うことなくトップスピードを維持できた。
後方に続く兵士たちも見事中央突破に成功したようだ。
突然敵の攻撃が止まった。
どうやら左右の援軍に気を取られこちらを見る暇は無いのだろう。
第一段階の包囲網はどうやら成功したようだ。
私達は一団を躱し、敵後方陣地に向かって走った。
逃げ行く兵が戦況を知らせたのだろう。
敵陣営が想定より近いようだ。
ここは岩場に挟まれた峡谷で戦闘中の入り口付近とちがって足場が悪く道幅も狭い。
「落石させましょうよ」
イブの提案に乗りイブとレオを迂回させることにした。
私は一人馬を下り、敵軍を待った。
しばらくすると、敵の援軍が私の前に現れた。
「おい、そこの男! ここで何をしている? 」
荒くれた兵士の問いに答えてやった。
「私はユウマ、ただの旅人です。ここで皆さん帰っていただけませんか?
見たところ貴方たちの中に魔人も混じってるようですが、私は誰も殺したくありません。
だから大人しく帰ってください」
「ユウマだと?魔王様が言ってた勇者ってやつか! 」
そう話して前に男が出てきた。
銀色の髪の毛、魔人特有の赤い瞳。
「やはり魔王は復活しているのですね。どうか魔王とやらに話してこんな馬鹿げた争いは終わりにしよう
と言ってもらえませんか?
なんなら私が話しますよ? 」
にっこりと笑うと、相手の顔が引きつっていた。
「馬鹿げてるのはお前の頭だ! ここで勇者を葬れば俺も幹部になれるしな!死ね! 」
剣を地面に突き立てると、突如地面から炎が噴き出した。
私の周りを火柱が覆った。
私はため息をつき、持っていた剣を投げつけた。
火柱の中を突き抜けるとドサっという鈍い音と共になにかが倒れた。
そして火柱が消え、目の前には術者であった魔人の死体。
頭部には剣が串刺しになっていた。
敵の部隊は一瞬の出来事に狼狽えたが、気を取り直した数人が襲い掛かると、それにつられ皆後に続いた。
私は死体へ走り剣を引き抜くと、切りかかる敵を下段から斬り上げる。
相手の首は宙を舞う。
すかさず身をよじり、回転するようにして次の敵を斬り伏せる。
10ほど切ったところで、低音が大事地に響き渡る。
斜面から無数の落石が転げ落ち、敵の兵士たちを襲う。
私は巻き込まれないように戦線を離脱した。
敵兵士は落石により完全に折れてしまい、皆引き返してしまった。
落石はしばらくやむことなく、止んだ頃には落石で道が塞がれてしまった。
イブとレオの二人が合流してまもなく、自軍が追い付き、私達は一時の勝利を喜び合った。




