異国の風
青年兵士のエスコートで馬車から降りると、目の前には豪華な宮殿がそびえ立っていた。
白を基調とした大理石の柱には竜や幻獣などの彫刻が刻まれ、権力の象徴と言わんばかりに所々金の装飾が施されている。
中庭の庭園は鮮やかな紫の花が咲き誇り、甘くさわやかな風が私達を迎え入れる。
ラベンダーと言うらしい。
「どうですかな?見事なものでしょう」
外務官の男は誇らしげに言った。
「えぇ。私達の国ではこのような花を見たことがありません。
とても鮮やかで、それに心地の良い香りがしますね」
私の隣でイブは、わー!と目を輝かせている。
「この花は私達の国では香水の原料としても使われるのですよ。
お嬢さんに差し上げましょう」
私達を見つけた庭師であろう男が話しかけてきた。
「頂いてもよろしいのですか?」
イブの顔がほころんだ。
「もちろんですとも!ここは宮廷の中庭であると同時に香水生成の工場でもあるのです。
我が国の主要貿易品の一つですからね。
貴女のような美しい女性に使って頂く事は良い宣伝になりますから」
「お世辞がお上手ですわね」
ふふっとイブが笑った。
この切り替わりの速さ…女とは恐ろしい生き物である。
私はレオと目を合わせ、そのようなことを男同士共有できたように感じた。
《女性へのプレゼント用》として私とレオも香水を頂いた。
何故か刺さるような視線を感じた。
その主は言わずもがな…なのだが。
香水を頂いた礼を言い、外務官の案内でいよいよ国家元首の元に向かった。
元首の待つ部屋のまえを厳重に近衛兵達が警備している。
私達が前を通り過ぎると、皆敬礼をし、何とも言えない神妙な空気が流れる。
魔王であった経験から、私は空気に飲まれることはないが、常人なら気後れするであろう。
二人を見ると気後れすることなく堂々と歩いている。
エルカサ城での旅立ちの時に経験しているとは言え流石である。
私の両親などは……
ふとそんなことを考えると、故郷の両親が恋しくなった。




