産声
遠くで光が見える
悠久の時を闇の中で漂う私には、久方ぶりに見る眩い光に恐怖を覚えた。
光はだんだん近づいて、それと共に鼓動の高鳴りを感じる。
そして眩い光に包まれ私は初めて泣いた。
辛うじてあった記憶の断片が私の涙と共に徐々に消えうせていく。
消失する恐怖がさらに涙を流させた。
次第に意識も薄れ、疲れ果てた私は襲い来る睡魔に身を委ねた。」
「アナタ! ママって言ったわ! この子初めてしゃべったわ! 」
気づくと目の前の女は私を見下ろし興奮している。
男もそれに気づいて駆け寄ってきた。
「おお!今度はパパって言ってみろ!ほーらパ……パ! 」
舌が思うように動かない、いったいどうなっているのだ?
口からでるのはあーだとか、うーだとか言葉にならない言葉しか発せられない。
悔しそうに私の声を聴いている男とほほえましく笑っている女。
まったく状況が読み込めない。
だが、二人の男女はどこか懐かしくとても暖かい気持ちにさせてくれる。
感じたことのない多幸感が私の体をめぐった。
そして私は再び深い眠りについた。
そして見覚えのある光景が映し出される夢。
二人の男が激しく争う夢を。
一方は信念の為、もう一方は守りたい者の為に。
二つの悲しみが引き合い、そして光となって消えた。
長い眠りの中誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
そのこえは次第にはっきりとし、大きくなっていく。
……マ!
ユウ……!
声とともに光が広がっていく。
ユウマ!
はっきりと女性の声が聞こえ、眩い光が私を覚醒へと誘う。
「起きなさい! ユウマ! 起きなさい!」
ユウマとは一体誰の事だろうか?
「ユウマ! いつまで寝てるの! 」
朦朧とした意識から現実の世界へ引き戻される。
「おはよう……母さん」
私は今母さんと言ったのか。
たしか…… 眠る前に見た女性の面影がある。
次第に私が眠っていた間の記憶が目を覚ます。
明るく朗らかな母と、優しく聡明な父。
私……? 僕……?
長い歳月の眠りは自分の意識をすぐには一致させてくれないようだ。
「ユウマ! いつまでもぼっとしてないで着替えなさい! 」
母の大声が室内に響きわたると私の部屋を出て階段を下りていった。
重い瞼を擦り着替えを済ませ1階のダイニングへ行く。
ウッドハウス独特の木の甘い香りと、朝食の香ばしい香りが鼻をついた。
ダイニングには朝食を先に済ませ仕事に出かける支度をしていた父が居た。
「おはよう父さん」
「おはようユウマ、母さんが怒る前にちゃんと起きなきゃだめだぞ。
女にモテるには早く起きて髪型くらい整える男でないとな」
ニッと笑いながら父が言うと
「朝から馬鹿言わないで」
と母がたしなめた。
そしてキスをすると父は仕事に出かけていった。