森の中にて【2】
日も暮れてきた頃、小川のほとりにある中間キャンプ場で野営をすることにした。
川のせせらぎが心地よく私を眠りの淵に誘おうとしていた時かすかに声が聞こえた。
警戒し、目を開けると奥の方でうっすらとした光が見えた。
寝ている二人を起こさないように気遣いながら、私は光の主の方へと歩を進めた。
どうやら木の根元が光っているらしい。
光の原因を探ろうと覗き込むと、そこには緑とオレンジ色に小さく光る二人の少女が居た。
「瘴気が強まってこのままでは住めなくなるわ」
「なんとかならないかな」
私に気づくと二人は驚いた表情を見せた。
「キャッ!?この人間私達が見えてる!? 」
緑色に光った少女が悲鳴をあげた。
手のひらほどの大きさの二人組は私の顔の位置ほどの高さまで浮かんで、まじまじと私を見た。
「あれ?アナタ久しぶりじゃない? 」
私の顔を見たオレンジ色に光った少女が親しげに話しかけてきた。
「君とは初対面なはずだが。そもそも妖精を見るのが初めてだよ」
私が答えると緑の妖精はそんなはずはないと言った。
「私達が見えるってことは光の従者だもの。そんな勇者を除いて一部の人間しかいないわよ。
それになんだか知ってる人間の匂いがするもの」
私は自分が勇者だと告げると妖精たちは納得した。
喜びと困惑が入り混じった様子でオレンジの妖精が言った。
「やっぱり知ってた人じゃない。でも私達との契約が切れてるようだけど何故かしら?
それに何処か少し前会った時とは変わってるわね。」
私は先代の勇者は魔王と消えたこと、今の私は二代目らしいということを告げた。
「同じ種族で争い合ってるなんて私には理解できないわ」
呆れた様に緑の妖精が言った。
「そんなことより君!私達ヒュドーラに悩まされてるの!
私達と契約する代わりにあいつを倒してよ! 」
浮かんだ疑問を遮るようにオレンジの妖精が言った。
「そうよ!この森を抜けるならアイツを避けては通れないしお願いね! 」
そう言うと二人は私の額にキスをすると飛び去った。
気付くと辺りはうっすらと明るくなっていた。
「妖精と会っただって!? 」
レオは私の話で完全に目を覚ましたようだった。
目覚めた二人に昨夜の出来事を話すと二人はとても驚いた。
イブは信じられないと言った様子で言った
「おとぎ話の存在だと思ってたけど本当に居るんだ…… 」
「しかも契約したって、どんな力もらったんだよ!? 」
レオは興奮気味に聞いた。
私はわからないと答え、先に進もうと二人を促した。
30分ほど森を進むと馬達が立ち止まり、先へ進むことを拒んだ。
「いったいどうしたの? 」
イブが心配そうに自分の馬を撫でた。
「少し様子を見てくるよ」
私がそう言うと、レオも同行したがったので、イブに馬を任せて二人で奥へと進んだ。
「なんか気味がわるくね? 」
漂う瘴気を察知したのか、レオが口を開いた。
魔人の時は気にはならなかったが、人間になった今、背筋にヒヤリとしたものを感じる。
瘴気とは人間にとってはこういう感覚なのだなと妙に感心していた。
シュー・・・・
スルスル・・・
なにかが這う音が聞こえ、鳥の悲鳴だろうか?
甲高い音が聞こえ、そのごシーンと辺りは静寂に包まれた。
「近くにアイツが居るよ」
気付けば両肩に昨日の二人が乗っていた。
どうやらレオには見えていないようだ。
「精霊術の使い方を教えるね」
オレンジの妖精が言うと、緑の妖精が説明しだした。
「私達はあなたの魔力と自然エネルギーをリンクさせて現象と化すの。
勇者の持つ光属性の魔力で対象を転移させる能力や、周辺感知の能力使えるわ。
ためしに周辺感知能力を使ってみたらアイツの居場所がわかるはずだわ」
私は周辺感知術を発動したがなにも起こらなかった。
「うそ!?君本当に勇者?魔力がとっても低いのかな? 」
オレンジの妖精はあきれ顔で私を見た。
「私達が見えてるってことはそこそこ魔力があるはずよ。
それに光の魔力を持って生まれてくる人間なんてそうそう居ないもの。
瘴気が私たちの力を邪魔しているのかしら?」
緑の妖精が困惑していると、レオがうわ!っと叫び声をあげた。
「なんだこいつは!?デカい蛇?めちゃくちゃエグイ殺され方してるよ」
そう言うとミンチになった肉塊を調べ始めた。
「こいつがヒュドーラよ! 」
嬉々として緑の妖精が言った。
「違う精霊術を間違って発動しちゃったのかな?
ま、いいや!倒してくれてありがとね! 」
オレンジの妖精がそう言うと、二人の妖精は姿を消した。