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旅立ち

朝食を終えると、全員で外に見送りにきてくれた。

私は妹を抱きかかえ、それから全員と抱き合った。



「ユウマ本当にすまない」

父が申し訳なさそうに謝罪した。


「陛下も言ってただろ?器を持った人間は役割を演じなければいけないって。

僕もそう思うよ。父さんと母さんの息子に生まれてこれてよかったよ。

ここまで育ててくれて本当にありがとう」

私が言うと、ついに母が泣いてしまった。


「母さん泣かないで。ちょっと世界をちゃちゃっと救ってくるだけだから。

ちゃんと帰ってくるから心配しないでよ」

明るくおどけて見せたがバカと言ってさらに泣いてしまった。


母の涙につられて父とマリーダも涙ぐんでいた。


「おはようございます皆さん! 」


「ちわっす」

男女の声が聞こえた。

「もしかして君たちは息子の友達かい? 」


「レオ君にイブちゃんいらっしゃい」

母は涙をぬぐって二人を歓迎した。


「初めまして。自分はレオって言います。この度一緒に旅をすることになりました。よろしくっす」

私はいつも通りでいいよと言うと

「いや、でも閣下の前はまずいっしょ。それにおまえだって自分のこと僕っ…… 」


とっさにレオの口を塞ぎここから一刻も早く立ち去ることを考えたが、イブによって遮られた。

「ちょっと私にもあいさつさせてよ! 」


イブは声色を変えて父に言った。

「初めまして。私はイブと申します。

息子さんと弓使いの彼とは3年間一緒のクラスでした。

お家にも何度もお邪魔させてもらい、奥様にもよくして頂いてます。

今日はお会いできて光栄ですわ 」


「おー流石優等生。ご立派ご立派」

拍手するレオをイブが横目で睨んだ。


「私も君たちと会えて光栄だよ。だが、私の事を閣下と呼ぶのはやめてくれ。

君達の同級生の父親のおじさんでしかないんだから」

父は笑いながら言った。


目をはらした母が言った。

「イブちゃんレオ君ウチの子をお願いね」


「もちろんです」

二人は声を合わせて応えた。


「君たちも大変だろうが、どうか三人とも無事に帰ってきてくれ。

命を落とすことのないようにな。親御さんが悲しむのを見たくはない」

父は真剣な眼差しで私たちに言った。


二人は顔を見合わせて笑った。

「お心遣い感謝します。だけど私たちは大丈夫です」

「そうですよ。なんたって俺たちの親友は…… 」


「勇者様ですから! 」

二人は声を合わせて言いまた笑った。

それにつられるように皆笑った。


これから死地に行くにもかかわらず二人の緊張感の無さに感傷に浸っていた自分がバカらしく感じたが、この二人が間違っているのは言うまでもない。


だが、二人のおかげで湿っぽい旅立ちにならずに済んだことは感謝しておく。



「いまだに親の前では僕なんだねー」

エルカサ城へ向かう道中ふとイブが口にした。


「最強無敵のお前でも両親の前では甘えん坊ってギャップが可愛いよなー。

いやー勇者様ファンクラブの皆に見せてやりてーわ」

二人が悪戯っぽく笑いながら言った。


「ここぞとばかりに俺をいじり倒しやがって。

それにずっと僕って言ってたんだから仕方ないだろ」

元魔王をいじって笑いにするとはこの二人の方が真の勇者と言えるのではないか。


「陛下との謁見までにそのだらしない顔なんとかしておけよ」

二人は、無理かもと言ってまた笑った。


二人のお気楽学生気分も城内に入った途端消えうせた。

「やべー。俺王様と話すの初めて」

「アンタこんなとこでまでバカ言わないでよ? 」

こそこそと二人が話すのが聞こえて可笑しかった。


ここに来るのは実に3年ぶりになる。

3年前と同じように中央に鎮座する男は私をじっと見据えた。

「久しいな。リーベルトよ。いよいよ旅立つのだな」


「はい。とは言え魔王の所在は今だ不明。

我々はなにをすれば良いのでしょうか? 」


玉座に一番近い場所に立っている側近の男が答えた。

「まずは、ヨギ大聖堂へ行け。

そこで初代勇者は神からの祝福を受けたと伝えられている。

ヨギ大聖堂はインパ国のヨグルという街にある」


そしてこう続けた

「インパ国と我が国は同盟関係にある。

先日インパ国からの書簡で隣国との軍事衝突にあたって援軍を要請された。

我が国の代表として君たちを派遣することにした」


「我々の旅の目的は魔王討伐なのでは? 」


私の質問に口ひげを触りながら玉座の男が答えた。

「士官学校を卒業したということは軍人であるということだ。

魔人や魔獣以外にもこの国のために働くのは軍事としての義務である」


「人を斬れと? 」


「国益のためなら構わん」 


神託が下りたとは言え、魔王の私がここに居る以上他に居場所はないのだ。

彼らが魔王の居場所を知り得るはずもない。

勇者降臨にかこつけて政治的に利用するための駒だということは3年前から承知済みだ。


だがこちらが逆にそれを利用して人間と魔人との和解に利用させてもらう。

でなければ私がこんな茶番に付き合う理由はない。


「後ろの二人も軍人としての務めを全うせよ。

本来ならばそなた達のような新兵が行う任務ではないのだから、死んでも恥を晒さんようにな」

男が言い終えると早々に立ち去った。


私達は玉座の主の居ない部屋を後にした。

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