家族団らん
リビングに向かうと、幼い妹が朝から元気に走り回っていた。
足元にはさっきまで遊んでいたであろう玩具があちらこちらに散乱していた。
「ユリアは朝から元気だな。さぁもうすぐ朝食の時間だから玩具をかたずけて」
父が優しく促した。
「あーい!あ、にいたん、おはよ! 」
「おはようユリア。お兄ちゃんと一緒に片付けようか」
彼女の栗色の髪の毛をひとしきり撫でて二人で玩具を片付けた。
「おはようございます坊ちゃま。今日旅立ちになられるんですね」
家政婦のマリーダが目を潤めて言った。
「この家にお仕えしてそれほど年月は長くは無いですが、奥様や旦那様や坊ちゃまや、お嬢様は私に浴してくださります。身寄りのない私にとっては家族のように感じております。
その坊ちゃまが戦地に赴くなど心が詰まる思いです」
「ありがとうマリーダ。僕も本当の家族のように感じているよ。
それにちゃんと帰ってくるし、僕は家族を守るために戦うんだから怖くはないよ。
それよりお腹がすいたよ。ご飯はまだかな? 」
私がそう言うと涙をぬぐって
「そうでした!奥様がお待ちです!朝食にしましょう! 」
彼女は母がいるキッチンに朝食の支度をしに戻った。
出てきた朝食はいつもより少し豪華だった。
スープにパン、肉の燻製、卵料理、ヨーグルトと何種類かのフルーツ。
「しばらく食べれないんだから、しっかり食べていきなさい!
あまり変なものばかり食べて体壊さないようにね。
あと、女の子と旅するんだから常に清潔感に気を付けないと嫌われるわよ?」
母がいつもより明るく振る舞うのは、すぐにでも泣いてしまいそうな自分を抑えるためだろう。
「嫌われるって、僕は旅行に行くんじゃないんだから」
「あら?勇者だからって全員が全員あなたになびくわけじゃないのよ?
やっぱり私は誠実で清潔感があって一緒にいて楽しい人に惹かれるわ! 」
ね?あなた?と父を見て言うと、父は照れながらそうだなと笑った。
「この夫婦の惚気を当分見ないで済むと思うと、旅立つのも悪くないね。
妹よ、あとはお前に任せた」
そう言うと妹はヨーグルトまみれの口でおーっ!と言った。
家族皆がそろっての食事は当分先になるだろう。
この暖かで幸せな時間を守るために私はかつての同族と戦わねばならない。
人と魔人の共存を図る旅。
私にしかできない旅なのだ。