旅立ちの朝
窓から差し込む陽光で私は目を覚ました。
神託を受けてから3年の月日が流れついに旅立ちの日がやってきた。
あれから生活が一変した。
爵位を与えられ王都に住まわされた。
家の広さは以前の家の4倍ほどもあり、庭や使用人の住む場所まで用意されていた。
そして母の出産。
後から知ったことなのだが、謁見の日の体調不良は、プレッシャーや馬車酔いという事ではなく身籠っていたことが原因だったらしい。
そしてそのおよそ半年後、私の可愛い妹が我が家にやってきた。
両親と幼い妹の姿を見れるのはこれで最後になるかもしれないと思うと不安になった。
如何に己の力が強かろうと生きて帰ってこれるとは限らない。
そう、前世で敗れたあの時のように……
着替えを済ませ、旅立つための荷物を確認し、もう戻ることはないであろう自室を後にした。
自室を出るとそこには浮かない顔の父が居た。
「おはようユウマ。ついに今日か……」
「おはよう父さん。安心してよ。勇者がそう簡単にはやられませんよってね。
それより仕事は順調? 」
湿っぽい話にしかならないのでとっさに話しを切り替えた。
「あぁ。子供を使って成り上がった身売りのリーベルト侯爵って、やっかみが付いてまわるけどね。
貴族は政争で頭がいっぱいであまり国民を顧みない。残念なことにね。
ユウマが帰ってきたときに胸を張れるように私も頑張るよ」
父は涙をこらえながら精一杯明るく応えた
「父さんなら大丈夫だよ。伯爵から侯爵になれたのは父さんの実績を陛下が認めたからじゃないか」
私がそう言うと父は力いっぱい私を抱きしめた。
「絶対に帰って来いよ」
「もちろん」
私も強く抱き返した。
父は元々貿易商の仕事についていたが、私が士官学校に行くにあたり爵位を賜り、官僚貴族として働くこととなった。
国が生活を保障するとはこの事だったのだ。
爵位が与えられたのにはもう一つ理由がある。
士官学校では貴族の後ろ盾が重要な要素を占めている。
士官学校から既に貴族派閥の争いに巻き込まれるのだ。
もっとも、庶民からの入隊者には無縁の話なのだが、神託を受けた勇者という特別な存在を快く思わない輩も一定数居るということだ。
王より直々に爵位を賜った事で、国王という最大の後ろ盾があると貴族出身者に暗に知らせるという、あの食えない男なりの計らいなのだろう。
おかげで逆に嫉妬を買う学生時代だったと思うのは私の気のせいではないはずだ。
ガシャンと物音が鳴った。
「ユリアがまた暴れまわってるな。降りようか」
父は私の肩を叩くと、リビングへ向かった。