謁見【前編】
外見の印象は、いかにも上流階級御用達と言った作りの宿であった。
宿に足を踏み入れた私の目に最初に飛び込んできたのはホールから延びた広い階段だった。
入り口のホールから絨毯が敷かれ、階段へと続いている。
その脇はおそらく受付のようだ。
兵士の姿を見つけた従業員たちは私達の荷物を預かり、部屋へと誘導した。
階段を上る私達の横を裕福そうな男女腕を組み下りてくる。
それを横目で追っていると母は私を小突いて
「コラ! じろじろ見ない」
小声で私を叱った。
部屋へと続く廊下を歩いていると、ちょうど廊下の突き当たりで、その壁には絵画が飾られていた。
リンゴを齧る女性を後ろから抱きしめる男性の絵だ。
女性は左手でリンゴを齧りながら右手は自分の腹部を触り、後ろの男性もその手と共に抱きしめるという構図であった。
タイトルは勇者受胎と書かれていた。
「これは勇者様がこの世に生を受けた時のことが描かれているんですよ。
この絵を右に曲がるとお部屋になります」
従業員が足を止めた私に説明してくれた。
部屋に入った瞬間母のテンションが上がった。
リビングとバスルームに加え衣装ルーム、寝室は二部屋と、親子三人が泊まるには広すぎるくらいであった。
ひと段落すると部屋をノックされた。
開けると、兵士が言った使用人メイドであった。
3人のメイドを中に通すと、自己紹介を始めた。
彼女たちはナナとリリとロゼと名乗った。
メイド長のナナと名乗るメイドが話した。
「身の回りのお世話を言いつけられております。
なんでもお申し付けください」
胸まで伸びる黒髪が特徴的だった。
私達はよろしくと軽い挨拶を交わした。
「では、謁見の前に着替えて頂きます」
ナナがそう言うと、父はショートヘアーのロゼという女性に、母はポニーテールのリリに付き添われ着替えさせられた。
私にはナナが付き、良い所のお坊ちゃんから貴族のバカ息子にランクアップした。
父と母も同様で、社交界にでもデビューするような格好であった。
着替え終わると、呼びに来た兵士に連れられ、再び馬車に乗り込んだ。
「着替えてきた意味無かったね」
私が言うと
「まさかこんな格好させられるなんてな」
父はウンザリした顔をしていた。
「いいじゃない! お姫様になった気分よ」
母は私達とは対照的に浮かれていた。
少しすると馬車が止まり、馬車を下りると、王宮が目に入った。
左右で見張りをする兵士が敬礼をするのを横目に私達は案内人に連れられて王宮に足を踏み入れた。
どこも、ただただ広く、壁の所々に歴代の王の肖像画が飾られている。
ほかには金で作られた燭台や壺なども飾られていた。
きょろきょろと見まわしながら歩いていると、案内人の足が止まった。
部屋の前には二人の兵士が見張りをしている。
「こちらが謁見の間です」
案内人はそう言って廊下の端に寄ると兵士達が扉を開けた。




