闇を漂う二人
血の匂いが漂い、崩れた天井の埃が舞うこの部屋で、今二つの種族が雌雄を決しようとしている。
対峙する男の目は黄金に輝き、その中に怒りと悲しみが垣間見える。
相手から見ると私も同じような眼光を放っているのだろう。
目の前に居る人間は私の城を荒らし、私の同族を数々手にかけた。
魔王の威信にかけて、残る魔人達の長としてこの者だけは絶対に生かしておくことはできない。
巷では勇者と呼ばれているらしい。
勇者が剣突き立て私の懐に飛び込んできた。
私は自分の剣を勇者の剣に絡ませ弾いた。
そして懐に左手に貯めていた魔力を放つ。
無数の炎の玉となって勇者の腹部に直撃した。
壁に飛ばされた勇者を容赦なく火炎弾が襲い続ける。
周囲の壁も崩壊し、粉塵が舞う。
私は攻撃を止めた。
すると消滅させたはずの男の姿があった。
「まだ生きているか。しぶといな」
「油断したが、大したダメージじゃねーよ」
勇者の額からは血が流れている。
「そうは見えないがな。次で終わらせてやる」
人間の中でも特別な能力を持った勇者。
この戦いは人間と魔人の生存競争と言うべきか。
勇者の体が黄金の輝きを放ち、剣先を地面から空へ向けて振り上げた。
すると光の斬撃が私を襲った。
私の左肩がざっくり切られ。腕を振り上げる事が出来ないほどのダメージを受けた。
「次で終わらせるのはこちらのセリフだ」
勇者が再び剣を構えた。
立場は違えども私達はどこか似ている者同士なのかもしれない。
故にこの戦いに敗北は許されないのだ。
「貴様を倒して人々の平和を取り戻す!」
「人間風情が生意気な口を聞く」
私の剣と奴の剣が交差するたびに光を発する。
突如閃光が煌めくと目の前の男は消えていた。
そして私の目に映るのは暗闇ばかり。
どうにも意識がぼやけてきた。
俺は…… 私…… 俺…………
自分の存在を反芻して確かめようとするが定まらない。
深い闇の中、時間の流れもわからない。
浮かび上がる光景を、ただぼんやりと眺めている。
崩れ落ちた天井…… 無数の屍…… 滴る鮮血が床を染め、聞きなれた女の悲鳴がこだまする。
俺は死んだのか?
私は生きているのか?
人間の悲鳴が煩わしい…… 数多くの部下を失い、私の城は鮮血で彩られた。
俺は魔王を討伐したのか?
奴は闘いの最中、光に飲まれて行った。
私は勇者を葬りさったのか?
人間の分際で私に歯向かい光の中に消えた。
私は光に包まれて……
気付けば俺は闇の中。
この闇は永遠に続くのだろうか?
人の世に平穏は訪れたのだろうか?
俺は魔人の繁栄を願う。
私は人々の平和を願う。
私は…… 俺…… 私……
魔人であるはずの俺が思い出すのは人間との交流の記憶ばかり浮かびあがる。
勇者であるはずの私が何故魔人を従えているのだ?
俺が仲間を殺した?
一緒に旅して戦ってきた仲間をこの手で?
そんなはずはない!
アイツらは魔人に殺されたんだ!
魔王である俺に!
私は…… 勇者…… 魔王?
なにもわからない。
今はただ浮かぶ景色に漂いながら身を任せようじゃないか。
ここには私だけではない。
俺がいるのだから。
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