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【番外編】地に響く天の歌  作者: 春日千夜
もしもニースたちが地球にいたら
4/7

〜年越しの巻〜

年越しのショートストーリーを書きました。

本編は異世界モノですが、このお話の舞台は地球です。

平和な地球社会に、もしニースたちが生まれていたら。そんな日常のひと時を書きました。


本編「地に響く天の歌〜この星に歌う喜びを〜」もよろしくお願いいたします。

https://ncode.syosetu.com/n4764fa/

 大晦日の朝、国際空港に一機の旅客機が舞い降りる。黒目黒髪黒い肌の少年ニースは、セラ、ラチェットと共に日本へやってきた。


「ここが日本……。空港は、そんなに変わらないんですね」


「でもニース、漢字がたくさんあるよ!」


 ニースとセラは、キョロキョロと辺りを見回しながら歩く。ラチェットがそんな二人に笑いかけた。


「二人とも、迷子にならないようにね。マルコムさんたちが待ってるから、行こう」


「マルコムさんは、すごいですね。あっという間に人気が出て、世界中でマジックショーを始めるなんて」


 ニースたちは、世界を飛び回りながらマジックショーを行うマルコムの招待を受けて、日本へやってきていた。セラが嬉しそうに笑った。


「日本の食べ物、楽しみだなぁ。スシとテンプラだっけ?」


「ぼくは温泉が楽しみだよ。露天風呂っていうのがあるんだよね?」


 わくわくを抑えきれない二人に、ラチェットは微笑んだ。


「そうだね。でも、それだけじゃないよ。日本にはお正月っていうのがあるんだ。年越しの時には寺や神社って呼ばれる日本の神殿に行くらしい」


「オショウガツですか」


「メグたちが、着物っていう日本の伝統服を用意してるらしいよ。せっかくだから、日本の文化を楽しんでいこうね」


「キモノ……どんな服でしょう?」


「テラには美味しいものあるかなぁ?」


 三人はお喋りを楽しみながら、マルコムたちが待つ旅館へと向かった。




 旅館へ着いたニースたちは、初めて見る和風建築に大喜びだった。


「うわあ……! お庭がすごく可愛いよ!」


「この入り口の飾りも面白いね」


 歴史ある佇まいの宿には、和風庭園や正月飾りが置かれており、出迎える従業員の姿にも、ニースたちは驚いた。


「不思議な服ですね」


「この人たちは、仲居さんっていうんだ。この人たちが着てる服が着物だよ」


「これが……!」


「すごい! これを着れるの!?」


 はしゃぐニースたちは、マルコムが待つ部屋へ案内された。靴を脱ぎ、畳の部屋に入るだけでも、ニースたちは感動し、歓声を上げた。

 マルコムが愉快そうに笑って、三人を出迎えた。


「ようこそ日本へ。みんな楽しんでくれてるみたいで何よりだよ」


「ご招待ありがとうございます、マルコムさん!」


「ニース、時差ボケは大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


 マルコムの部屋には、先に日本へ来ていたメグとジーナがいた。ジーナは三人に緑茶を淹れた。


「はい、どうぞー。少し苦いけど、日本のお茶もなかなか美味しいわよー」


「ありがとうございます」


「グスタフさんも来れれば良かったですね」


 セラの声に、メグは肩をすくめた。


「日本のお正月っていうのはお休みらしいけど、アメリカは違うから仕方ないわ。私たちも、冬休みだから来れたわけだし」


 メグの隣で、ジーナがニヨニヨと笑った。


「マルコムも残念だったわねー。本当はメアリを誘いたかったんでしょー? 孤児院の子どもたちに招待状を送ったって聞いたわよー」


 マルコムは、気まずそうに苦笑いを浮かべた。


「まあな。子どもたちのパスポートを取るまで、時間がかかるってことを忘れなければ、間に合ったんだがなぁ……」


「ぼくとセラは持ってたから、良かったね」


「うん! 去年、聖歌隊でカナダに歌いに行った時に作ってて良かったね!」


 嬉しそうに笑う二人に、マルコムは微笑んだ。


「ニースとセラちゃんが喜んでくれるなら、救われるな。みんな、夕飯前に温泉に行くか?」


「はい!」


 ニースたちは、大喜びで浴衣に着替え、温泉を楽しんだ。




 ちらちらと寒空に雪が舞い、大晦日の夜は静かに更けていった。セラたちが着物を着ている間、ニースたちはテレビをつけながらカードゲームを楽しんでいた。


「日本のテレビも面白いですね。男女に分かれて歌を歌うなんて」


「何を言ってるのか分からなくても、音楽は世界共通だからね。聞いてるだけでも楽しいよね」


「俺はこの演歌っていうのが結構好きなんだ。独特な節回しが面白いよな」


 そこへ、扉をノックする音が響き、マルコムがニヤリと笑みを浮かべて立ち上がった。


「お嬢たちの支度が整ったみたいだな」


「メグの着物……」


 ラチェットが、ごくりと喉を鳴らして立ち上がったので、ニースもどんな着物を着ているのかと、わくわくしながら立ち上がった。


 マルコムに続いて部屋を出ると、ニースとラチェットは思わず息を呑んだ。メグは艶やかな赤い着物に身を包み、セラは可愛らしいピンク色の着物を着ていたからだ。


「ニース、どう? 似合うかな」


 くるりと回るセラに、ニースは、にっこり笑った。


「うん。すごく似合ってるよ。お人形さんみたいで、可愛いね」


「か、可愛い……!?」


 ニースに褒められたセラは、顔を真っ赤にして俯いた。その隣でメグが、ラチェットに微笑んだ。


「どうかしら。振袖っていうものらしいんだけど」


 見惚れていたラチェットは、はっとして答えた。


「に、似合ってるよ。とっても……!」


「ふふ。良かったわ。袖が長いのが面白いわね」


 ひらひらと袖を振る姿に、ラチェットは耳まで顔を赤く染めて、目を逸らした。

 メグとセラの後ろからやってきたジーナは、落ち着いた緑の着物を着ていた。


「マルコムー。写真を撮ってくれないー? グスタフに見せたいのー」


「構わないが、写真を撮るなら寺に行ってからの方がいいんじゃないのか?」


「それもそうねー。行きましょうかー!」


 ニースは俯いたセラに、手を差し出した。


「セラ、行こう?」


「うん……!」


 二人は仲良く手を繋ぎ、マルコムたちと共に近くの寺に向かった。




 星が輝く寒空の下でも、寺にはたくさんの人が集まっていた。除夜の鐘を突こうと並ぶ人たちを見て、ニースとセラは驚いた。


「ニース、あの大きな鐘、すごいね!」


「あの鐘をみんなで鳴らすんですか?」


 メグをエスコートするように腕を組んでいたラチェットが、ニースの問いに答えた。


「そうだよ。108回鳴らすらしい。煩悩の数だって言われてるらしくてね」


「煩悩……?」


 首を傾げるニースを横目に、メグが笑った。


「マルコムは、108どころじゃなさそうね」


「あのな、お嬢。俺だってそこまではいかない。煩悩には、ちゃんと種類があるんだぞ?」


 肩をすくめたマルコムの言葉に、セラが頷いた。


「マルコムさんの煩悩は、女の人にだけ偏ってますもんね!」


「……セラちゃん、そりゃないよ」


 落ち込むマルコムの肩を、ジーナが笑いながら叩いた。


「せっかくだから、マルコムもやってきなさいよー。煩悩を払っておけば、良い出会いがあるかもよー?」


「良い出会いより写真だ。みんな写真を撮るぞ」


 誤魔化そうとするマルコムに誘われて、ニースたちが列を離れて写真を撮っていると、どこからか、ふわりと甘い香りが漂ってきた。


「何か良い匂いがする……」


 にへらと口元を緩めたセラを見て、ニースが辺りを見回すと、たくさんの人が湯気の立つ紙コップを手にしている姿が見えた。


「あの屋台かな」


 ニースの声に、ジーナが頷いた。


「あれは甘酒ねー。せっかくだから飲みましょー」


 ジーナが買ってきた甘酒を受け取り、ニースたちはゆっくり飲んだ。酒粕の香りと温かさが心地よく、甘さが体中に染み渡り、冷えた体を芯から温めた。


「美味しい……!」


「うん。なんだか落ち着く甘さだね」


 セラの笑顔を見て、心が穏やかになるような感覚に、ニースは、ほぅと息を吐いた。


 ーーアメリカでは、新しい年を楽しみにするだけだけど……。日本だと、今年一年にさよならする気持ちが、なんだか少し寂しく感じるかも。


 ニースは、セラと過ごす時間が、とても貴重なものに感じられた。


「こんな風に、のんびり過ごせるって、すごく贅沢な気がする」


 ニースの呟きに、セラは頷いた。


「うん。日本に遊びに来て、良かったね」


 厳かな除夜の鐘と共に新しい年が始まる。人々は口々に年始の挨拶を交わし、ニースたちも笑い合った。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!」


 皆で迎えた新しい年が、楽しいものであるようにと、ニースは心から願った。

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