〜ハロウィンの巻〜
今日はハロウィンということで、ショートストーリーを書きました。
本編は異世界モノですが、このお話の舞台は地球です。
本編「地に響く天の歌〜この星に歌う喜びを〜」もよろしくお願いいたします。
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町の木々は色付き、冷たい風が、ぴゅうと吹く。
この日は、10月の最後。日本でも昨今馴染みが出てきた、ハロウィンの日である。
アメリカのとある田舎町の一軒家。その子ども部屋のベッドの上で、髪も目も肌も全てが真っ黒な少年ニースは震えていた。
「怖い、怖い、怖い……」
ドンドンドンと、近所の家の扉を叩く子どもたち。
「Trick or treat !」とお化けの声が、町中に響いている。
しかし、ニースが恐ろしいのは、近所の子どもたちではない。
「ニースくーん。どこにいるのかなー?」
家に響き渡るジーナの声に、ニースは戦慄していた。
ーーリンド母さんは、どうしてジーナさんを家に入れちゃったんだ……!
ジーナは、隣に住むメグの母親で、ニースと家族ぐるみの付き合いがある。
毎年、ジーナは腕によりをかけて、近隣の子どもたち全員の衣装を作っているのだ。
階下から、ジーナと養母リンドの話し声が響く。
「ジーナさん、今年は今まで以上にすごいわね。ルポルは狼男で、ヘレナは吸血鬼、エミルはフランケンシュタインだなんて、これまでで一番の張り切り様じゃない?」
「うふふー。今年はメグちゃんが、ハロウィンダンスパーティーに行くっていうから、すごーく暇だったのー。ニースくんのも、頑張っちゃったから、期待しててねー」
ニースは二人の話に、ギュッと目を瞑り、震える肩を押さえるように、被っている毛布を引っ張った。
ーー今年は何にされるの? ゾンビは去年やったし、落ち武者や殺人鬼も、もうやってる。ぼくはもう、自分の姿を見て倒れたくない……! でも、ジーナさんがただの白いお化けにするわけがないし、ぼくは、どうなっちゃうの!?
ガチガチと、恐怖で歯を打ち鳴らすニースの耳に、ガチャリと、部屋の鍵を開ける音が聞こえる。ニースは扉に鍵をかけていたが、リンドが合鍵で開けてしまった。
しかしニースの準備は万端だった。扉の前に、クローゼットを動かしておいたのだ。
「あらー。可愛いバリケードねー」
ニースの準備は万端だったはずだ。しかし、ジーナの前にそれは通用しなかった。ジーナはあっさりとクローゼットを横にずらし、ベッドのそばへと歩み寄った。
「ニースくーん。お・ま・た・せー」
カタカタと震えるニースの視界が開けた。毛布を剥ぎ取ったジーナの満面の笑みが、ニースに向けられていた。
ニースは、抵抗虚しく着替えさせられてしまったが、ぽかんと口を開けて鏡を見ていた。
「えっと……ジーナさん。今年は本当にこれでおしまいですか?」
ニースは鏡に映る自分の姿が、思ったほど酷くはなかったので、拍子抜けしていた。
ニースはスキンヘッドのカツラを被り、ヒゲを付け、片目には眼帯をし、上下とも黒い服を着て、黒いロングコートを羽織っていた。
「そうよー。これでおしまーい。もっと違うのが良かったー?」
ジーナの声にニースは思い切り首を横に振る。
「いえ! ぼく、今年の仮装はすごく気に入りました!」
ニースはジーナから籠を受け取ると、喜んで階下へ降りた。
ニースの足音を聞いたリンドが、台所から顔を出す。
「あら、ニース。すごく似合ってるじゃない!」
ニースは、マー○ル作品のフ○ーリー長官の仮装をさせられていた。
ニースは照れたように頬をかいた。
「えへへ……。ところで、ルポルたちは?」
ニースがキョロキョロと居間を見渡すが、兄弟たちの姿はなかった。
片付けをしているジーナが、二階からニースに声をかける。
「ルポルくんたちなら、先に出かけたわよー。それより、ニースくん。あなたの仲間が着いたみたいだから、玄関を開けてあげてー」
「……仲間?」
ニースが首を傾げていると、来客を告げるブザーが鳴った。
ニースは、玄関を開けて驚いた。
「え……!?」
目の前には、世界的に有名な蜘蛛男と、上半身裸の体の大きな緑色の物理学者がいた。
「ニース! 何でお前が長官なんだよ!」
「マルコ、落ち着けって」
「落ち着いてられるかよ! エリックはスパ○ダーマンだからいいかもしれないけど、俺はハ○クなんだぞ!」
目の前にいた緑の巨人と蜘蛛男は、ガキ大将のマルコと、取り巻きのエリックだった。
「二人とも……すごい……」
ニースが唖然としていると、後ろからリンドが顔を出した。
「あら、二人も似合ってるわ。三人そろえば、アベ○ジャーズみたいじゃない」
リンドからキャンディを受け取りながらも、マルコが、ギリリと悔しそうに歯噛みをした。
「それなら、アイア○マンとか、キャプ○ンアメリカとか、色々あるのに! なんで俺だけ!」
ニースは、マルコに真剣な目を向けた。
「ぼくは、ハ○ク好きだよ。強いし、カッコいいじゃない。筋肉ムキムキでシャツが壊れちゃう所は、グスタフさんみたいだし。メグも気にいるんじゃないかな?」
マルコは、ニースの言葉を聞いて渋りながらも受け入れた。
「まあ、お前がそこまで言うなら、いいって事にしとくよ。メグさんに見せられないのが残念だけどな」
そこへ、片付けを終えたジーナが、玄関へやってきた。
「ほらほらー、三人ともー。早く行かないと、お菓子がなくなっちゃうわよー。はいこれー」
ジーナは、三人の籠にそれぞれクッキーの袋を入れた。
ニースは笑顔で頷いた。
「ジーナさん、ありがとう!」
するとマルコが一人、門へと駆け出す。
「よし、ニース! 誰が一番お菓子を集められるか、競争な!」
エリックがそれを見て、慌ててニースの袖を引っ張った。
「ほら、長官! 早く行くぞ!」
ニースは笑いながら駆け出していく。
「うん、行こう!」
ジーナとリンドは、笑顔で三人を見送った。
紅葉が広がる町中で「Trick or treat !」と掛け声が響く。高く澄んだ秋の空には、どこまでも子どもたちの笑い声が響いていた。




