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【番外編】地に響く天の歌  作者: 春日千夜
もしもニースたちが地球にいたら
2/7

〜ハロウィンの巻〜

今日はハロウィンということで、ショートストーリーを書きました。

本編は異世界モノですが、このお話の舞台は地球です。


本編「地に響く天の歌〜この星に歌う喜びを〜」もよろしくお願いいたします。

https://ncode.syosetu.com/n4764fa/

 町の木々は色付き、冷たい風が、ぴゅうと吹く。

 この日は、10月の最後。日本でも昨今馴染みが出てきた、ハロウィンの日である。

 アメリカのとある田舎町の一軒家。その子ども部屋のベッドの上で、髪も目も肌も全てが真っ黒な少年ニースは震えていた。


「怖い、怖い、怖い……」


 ドンドンドンと、近所の家の扉を叩く子どもたち。

「Trick or treat !」とお化けの声が、町中に響いている。

 しかし、ニースが恐ろしいのは、近所の子どもたちではない。


「ニースくーん。どこにいるのかなー?」


 家に響き渡るジーナの声に、ニースは戦慄していた。


 ーーリンド母さんは、どうしてジーナさんを家に入れちゃったんだ……!


 ジーナは、隣に住むメグの母親で、ニースと家族ぐるみの付き合いがある。

 毎年、ジーナは腕によりをかけて、近隣の子どもたち全員の衣装を作っているのだ。


 階下から、ジーナと養母リンドの話し声が響く。


「ジーナさん、今年は今まで以上にすごいわね。ルポルは狼男で、ヘレナは吸血鬼、エミルはフランケンシュタインだなんて、これまでで一番の張り切り様じゃない?」


「うふふー。今年はメグちゃんが、ハロウィンダンスパーティーに行くっていうから、すごーく暇だったのー。ニースくんのも、頑張っちゃったから、期待しててねー」


 ニースは二人の話に、ギュッと目を瞑り、震える肩を押さえるように、被っている毛布を引っ張った。


 ーー今年は何にされるの? ゾンビは去年やったし、落ち武者や殺人鬼も、もうやってる。ぼくはもう、自分の姿を見て倒れたくない……! でも、ジーナさんがただの白いお化けにするわけがないし、ぼくは、どうなっちゃうの!?


 ガチガチと、恐怖で歯を打ち鳴らすニースの耳に、ガチャリと、部屋の鍵を開ける音が聞こえる。ニースは扉に鍵をかけていたが、リンドが合鍵で開けてしまった。

 しかしニースの準備は万端だった。扉の前に、クローゼットを動かしておいたのだ。


「あらー。可愛いバリケードねー」


 ニースの準備は万端だったはずだ。しかし、ジーナの前にそれは通用しなかった。ジーナはあっさりとクローゼットを横にずらし、ベッドのそばへと歩み寄った。


「ニースくーん。お・ま・た・せー」


 カタカタと震えるニースの視界が開けた。毛布を剥ぎ取ったジーナの満面の笑みが、ニースに向けられていた。




 ニースは、抵抗虚しく着替えさせられてしまったが、ぽかんと口を開けて鏡を見ていた。


「えっと……ジーナさん。今年は本当にこれでおしまいですか?」


 ニースは鏡に映る自分の姿が、思ったほど酷くはなかったので、拍子抜けしていた。

 ニースはスキンヘッドのカツラを被り、ヒゲを付け、片目には眼帯をし、上下とも黒い服を着て、黒いロングコートを羽織っていた。


「そうよー。これでおしまーい。もっと違うのが良かったー?」


 ジーナの声にニースは思い切り首を横に振る。


「いえ! ぼく、今年の仮装はすごく気に入りました!」


 ニースはジーナから籠を受け取ると、喜んで階下へ降りた。

 ニースの足音を聞いたリンドが、台所から顔を出す。


「あら、ニース。すごく似合ってるじゃない!」


 ニースは、マー○ル作品のフ○ーリー長官の仮装をさせられていた。

 ニースは照れたように頬をかいた。


「えへへ……。ところで、ルポルたちは?」


 ニースがキョロキョロと居間を見渡すが、兄弟たちの姿はなかった。

 片付けをしているジーナが、二階からニースに声をかける。


「ルポルくんたちなら、先に出かけたわよー。それより、ニースくん。あなたの()()が着いたみたいだから、玄関を開けてあげてー」


「……仲間?」


 ニースが首を傾げていると、来客を告げるブザーが鳴った。

 ニースは、玄関を開けて驚いた。


「え……!?」


 目の前には、世界的に有名な蜘蛛男と、上半身裸の体の大きな緑色の物理学者がいた。


「ニース! 何でお前が長官なんだよ!」


「マルコ、落ち着けって」


「落ち着いてられるかよ! エリックはスパ○ダーマンだからいいかもしれないけど、俺はハ○クなんだぞ!」


 目の前にいた緑の巨人と蜘蛛男は、ガキ大将のマルコと、取り巻きのエリックだった。


「二人とも……すごい……」


 ニースが唖然としていると、後ろからリンドが顔を出した。


「あら、二人も似合ってるわ。三人そろえば、アベ○ジャーズみたいじゃない」


 リンドからキャンディを受け取りながらも、マルコが、ギリリと悔しそうに歯噛みをした。


「それなら、アイア○マンとか、キャプ○ンアメリカとか、色々あるのに! なんで俺だけ!」


 ニースは、マルコに真剣な目を向けた。


「ぼくは、ハ○ク好きだよ。強いし、カッコいいじゃない。筋肉ムキムキでシャツが壊れちゃう所は、グスタフさんみたいだし。メグも気にいるんじゃないかな?」


 マルコは、ニースの言葉を聞いて渋りながらも受け入れた。


「まあ、お前がそこまで言うなら、いいって事にしとくよ。メグさんに見せられないのが残念だけどな」


 そこへ、片付けを終えたジーナが、玄関へやってきた。


「ほらほらー、三人ともー。早く行かないと、お菓子がなくなっちゃうわよー。はいこれー」


 ジーナは、三人の籠にそれぞれクッキーの袋を入れた。

 ニースは笑顔で頷いた。


「ジーナさん、ありがとう!」


 するとマルコが一人、門へと駆け出す。


「よし、ニース! 誰が一番お菓子を集められるか、競争な!」


 エリックがそれを見て、慌ててニースの袖を引っ張った。


「ほら、長官! 早く行くぞ!」


 ニースは笑いながら駆け出していく。


「うん、行こう!」


 ジーナとリンドは、笑顔で三人を見送った。


 紅葉が広がる町中で「Trick or treat !」と掛け声が響く。高く澄んだ秋の空には、どこまでも子どもたちの笑い声が響いていた。

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