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大魔導師の育成  作者: 春夏秋冬
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リド村の森

夜の森は危険だ。それはこの平和なリド村の森でも変わらない。方向感覚が狂うっていうのもあるけれど、夜行性の魔物が闊歩するようになるからだ。どんな安全な森にも夜行性の魔物は必ずいる。さすがにここの森には私の防御結界を抜いてくるような魔物はいないだろうが、それでも気を使う。一般の村人にはキツいだろう。しかもそれがサラの兄妹だ。婚約を認めてもらわなければならないこの大事な時期に弔事などあってはならない。

森の上空を一回りしてみたが、分からなかったので森に入って探すことにする。日が傾いて空が赤くなってきた。あと一刻もすれば暗くなってしまうだろう。森の中はすでにずいぶん暗い。


「おーーい。」

探知の結界を最大限に広げて、神経を研ぎ澄ませる。これだけやってもマリアムの探知力には敵わない。声を出して答えてくれることを祈る。だが、辺りは静まりかえっている。焦る。

そのときだ。私の真下に魔方陣が浮かび上がった。

「な!?なんだ?」

これは転移の魔方陣だ。だれだ?私は立ち止まり警戒する。

「ん。」

「な!?」

魔方陣の真上の空中にリーユーが現れた。そのまま自由落下で落ちてきて私の腕の中にスポッと収まった。

「リーユー?転移魔法に成功したのか?」

「ん。」

リーユーは嬉しそうにニコニコしている。どんだけ天才なんだ、この子は。しかも私の転移魔法とは少し違う。私の転移魔法は正確に記憶した場所にしか行けない。しかし、リーユーは私を目掛けて転移してきたのだ。

「状況。」

リーユーが言う。状況説明しろってことだよな?

「ああ、サラの兄妹がこの森で行方不明になったから探してるんだよ。」

「手伝う?」

「分かるのかい?」

「たぶん。」

リーユーは私の腕の中からするすると抜け出すと地面に降りて鼻をクンクンさせ始めた。臭いで分かるのか?さすが獣人だ。

「あっち。」

リーユーはある方向を指差しそちらに向かって走り出した。慌てて後を追い掛ける。速い。修行のときから分かっていたが、こういった森の中なんかを走らせたらリーユーは速い。私も付いて行くのがやっとだ。魔法の腕は天才的で身体能力も高い。獣人は種族によって寿命はまちまちだから狐人の寿命は私には分からないが、長く生きると私やシャーロットを超える魔導師になるな、この子は。


「ん。」

走りながらリーユーの声が聞こえた。いたのか?神経を研ぎ澄ませる。いた!人族が二人と魔物が1匹、あともうひとつ。これは、魔族か?私は魔力循環法で身体強化する。魔物の反応が消えた。ヤバいか?見えた!

1組の男女が尻餅を付いていて、それに向かい合う人影…いや、下半身が蜘蛛だ。アラクネだ。アラクネを見るのは初めてだが、強い魔族だと聞いたことがある。いわゆる上級魔族だ。

「リーユー!」

アラクネに向かって一直線に進んでいたリーユーに注意を促そうとしたときだった。

「ん!」

リーユーの声が聞こえたと思ったら視界から消えた。後ろに気配を感じて振り替えるとリーユーは蜘蛛の糸に絡め取られていた。

「ちっ。」

しかし、リーユーは後回しだ。リーユーの戦闘力ならそう簡単には死なない。それよりもあの二人だ。

「あ!」

アラクネが私に気が付いてこっちを見る。上半身の見た目は可愛らしい女の子だ。胸と腰に草で作った服が巻かれている。

アラクネが私に手のひらを向ける。糸の攻撃か?私は咄嗟に横に飛び射線から逃れる。そして、魔剣ジュピターを抜き放ち、一気に距離を詰めた。間合いに入った。獲った。そう思ったときだった。

「待って待って待ってーーーー。」

アラクネはそう叫んでその場にひれ伏したのであった。


「えっと…これどういう状況?」

私と火の魔法で蜘蛛の糸から脱出してきたリーユーはアラクネに泣きながら土下座されている。

まあいいか。最優先はサラの兄妹だ。土下座したままのアラクネはリーユーに任せて二人の元に行く。

「サイル殿とマリ殿で間違いないですか?」

「ああ。」

「うん。」

ああ、良かった。無事そうだ。

「私はサラの恋人のハリムと言います。あなたたちを助けに来ました。」

「え!サラの?」

「えー。こんなイケメンが姉ちゃんの彼氏!?」

いや、ありがとう。マリは見た目はどことなくサラに似ているが背はサラより高そうだ。

「お怪我はありませんか?」

「ああ、かすり傷程度だ。」

「あ、いたたたた。足が!」

マリが右足を押さえてうずくまった。

「大丈夫か?」

私はマリの右足を見る。ズボンの上からでは傷は分からないな。

「水の癒し。」

「え!魔法?」

「ええ、魔導師だからね。」

「魔導師…」

「どう?痛みは?」

「へ?あ!あれ、いたたたた。まだ、痛いわ。挫いたのかしら。」

おかしいな。水の癒しなら挫いていても治ると思うんだが?

「あの?痛いのでおぶってください。」

「マリ…お前…」

「構わないよ。」

私はマリに背中を向け腰を落とす。マリはぽすっと私の背中に覆い被さった。

「立ち上がっていい?」

「うん。」

私はマリを背負って立ち上がる。

「くんくんくん。」

臭い嗅ぐの止めて。サラも会ったころやってたな。

「ハリムさん、すまない。」

「いえ、構いませんよ。ところでサイル殿、この状況は?」

「森にレッドベアが出たのは知ってる?」

「ええ。」

「バール兄が殺されたんだ。いいやつだったのに…」

「いえ、生きていますよ。助かりました。」

殺さないであげて。

「あ、そうなんだ。良かった。レッドベアが出てみんなバラバラに逃げたんだ。オレもマリと逃げた。そしたら森から出られなくなって。うろうろしていたら、魔物に襲われたんだ。」

サイルはある方向を指差す。そこにはスネイク系の魔物が横たわっていた。ポイズンスネイクだな。そんなに強い魔物ではないが猛毒を持っている。厄介な魔物だ。ポイズンスネイクの頭部は切り刻まれて細切れになっている。凄い殺し方だな。

「これは?」

「あの、女が。助けてくれたのかな?」

助けてくれたのかな?

「ちょっと待っててください。」

私はアラクネの方に移動する。まだ泣いている。助けてくれたなら悪いことしたな。

「やあ、アラクネの…」

「ううう…あたちはレミュール。」

「レミュールか。私はハリム。あの二人を助けてくれたのかい?」

「そうだよー。それなのに酷いよー。」

「そうだったのか。暗くなったから焦っていたんだ。すまない。」

「怖かったー。死ぬかと思ったー。」

「いや、本当にすまない。」

「いや。許さない。」

「そこをなんとか。」

「じゃあ、また会いにきて。」

「寂しいのかい?」

「寂しいよー。50年ぶりに話した。」

そんなひとりぼっちなのか。それは寂しいな。

「ん。」

リーユーがレミュールに近付き頭を撫でる。

「ううぅぅぅ。うえーーーん。うえーーーん。」

また泣き出してしまった。

「残る。」

「え!リーユー、残るの?」

「ん。」

そうか。リーユーは優しい子だな。リーユーなら一晩くらい大丈夫か。

「じゃあ、明日の昼過ぎに戻ってくるから、それまでリーユー居てくれるかい。」

「ん。」

「食糧…」

「狩る。大丈夫。」

4歳なのに逞しいな。

「では、サイル殿、森の外に出ましょう。」

「ああ。」

「飛行しますが大丈夫ですか。」

「飛行?大丈夫だ。」

「マリは高いところ平気?」

「うん。」

背中のマリにも了解を取れた。

「では。」

リーユーとレミュールに別れを告げ、サラたちが待つ森の入口に向かって飛んだのであった。

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