アリーチェの火魔法
「初めまして。デギル帝国皇帝ソフィア=フィル=デギルと申します。」
オリビアの葬儀から1週間後、ソフィアを『迷いの古城』に連れてきた。今は大広間でみんなに紹介している。
「ふぁー、凄く細くて綺麗なのです。」
「な。アンナさんといい、ハリム様の関係者のハーフエルフの美しさはハイエルフの沽券に関わりますね。」
ミザリとルーチェはソフィアの美しさに驚いている。うん、オリビアも人族としては飛びっきり綺麗だったからな。
「ふふふ、ハリムとオリビアの子、ソフィア。そう固くならなくっていいですわ。ここでは礼儀作法を咎める者はおりません。存分に羽を伸ばしなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
シャーロットの言葉にソフィアの肩の力が抜けた。
「オリビアのことは残念でしたわ。わたくしの数少ない友人のひとりでしたのに。心から御悔やみ申し上げますわ。」
「ありがとうございます。母は父上のお陰で幸せな最期を迎えることが出来ました。羨ましいです。」
「ソフィアはそんなに綺麗なのだから男は選り取り見取りではありませんの?」
「いえ、皇帝という立場はなかなか思うようにいかないものです。父上のように皇帝でも強引に連れ出してくれる男性はいないものでしょうか。」
「ふふふ。それは難しいかもしれませんわね。」
ソフィアにもいい男が見付かってほしいものだな。
「して、そちらのダークエルフは?」
「はい、護衛のアリーチェです。アリーチェ。」
「はい。デギル帝国サウザンドナイツ序列2位のアリーチェと申します。『蕀の魔女』シャーロット様にお会いできて光栄です。」
ソフィアに促され護衛で付いてきたアリーチェが挨拶する。
「あなたがアリーチェですか。話は聞いていますわ。なんでも火魔法の権威だとか。」
「『蕀の魔女』シャーロット様、『氷結の大魔導師』ハリム様、『白竜姫』マリアム様に比べればまだまだでございます。是非ご教授願いたく思います。」
「では、あとで魔法学の話に花を咲かせましょうか。」
「はい。是非に。」
アリーチェ泣いてる?どんだけ魔法の話がしたいんだ。
こうして大広間での顔合わせを終えたのであった。
ソフィアをミザリたちに任せ、魔法に興味のあるメンバーで古城の庭にやってきた。アリーチェが火系魔法の最上級を超え魔法を見せてくれるという。メンバーはアリーチェと私、シャーロット、ナタリア、エドワード、ルーチェ、サラとサラに抱かれたリーユーである。特にリーユーは同じ火魔法のスペシャリストなので見せたかった。
「では行きますね。」
アリーチェは私が作った目標の土ゴーレムに持っている大きな宝石の付いた杖を向ける。ん?これは火球?火球は火魔法の初級魔法だ。だが、明らかに杖に集まる魔力の量が火球ではない。風系の魔法も感じる。杖の先に小さな火の玉が出来る。それが赤から橙、白を通してやがて青くなる。
「蒼火球!」
アリーチェの声に杖の先の火の玉が飛び、土ゴーレムに直撃し、土ゴーレムは爆散したのであった。よく見ると地面が溶けている。どれだけの温度なんだ?
「ほぇー。」
サラ、口開きすぎ。
「私は新たな火魔法を開発するのではなく、従来の火魔法の温度をより高めることに専念してみました。より熱く、よりコンパクトに。そうしている内に炎の色が蒼くなったのです。」
なるほど。そういうアプローチの仕方もあったわけか。氷魔法で一緒のことをしたはずなのに、火魔法では考えなかったな。ただの初級の火球に最上級を使うとき以上の魔力を注ぎ込んだわけだ。
「ほほぅ。魔法の炎に魔力を効率よく提供することで一気に温度を上げるわけですわね。」
「いえ、魔力だけではありません。酸素もです。火魔法に風系の魔法を組み込むことで酸素を炎に取り込ませ温度を上げています。」
「凄いです。火に効率よく酸素を送り込んで温度を上げるんですね。風魔法を炎を弱めないようにするコントロールが難しそうです。」
シャーロットとアリーチェが難しい話をしているところにナタリアが参加した。この3人は研究や勉強が大好きで気が合いそうだ。それにしても火魔法に風魔法を組み込むとは。
エドワードとリーユーがそわそわしている。
「やってみるかい?」
「はい。やりたい。」
「ん。」
チビッ子二人は頭で考えるよりまず実践だな。私は土ゴーレムを10体用意した。サラも魔法の練習として1体作ってくれた。
「さあ、いいよ。打ってごらん。サラとルーチェも。」
「あたし、2つの魔法の同時展開とか無理だし。」
そう。魔法を同時展開すること自体が高等技術なのだ。
「そんなことないよ。魔力循環法、だいぶ上達しただろう?もう出来るんじゃないか?」
「そうなの?やってみるよ。」
魔力循環法は身体能力を向上させるだけではなく魔法の同時展開も出来やすくなるのだ。
私の合図に4人は身体に魔力を循環させ、それぞれ自分の前に火球を作り周りに風魔法を展開する。うん、出来てる出来てる。
リーユーは風魔法の練習がもっと必要だな。展開がいびつだ。だが火球に込める魔力量は凄まじいな。炎の色が橙に変化した。
サラとルーチェは火魔法があまり得意ではないので火球に込める魔力量が足りない。でも、周りに展開している風魔法の制御はなかなかいいのではないか。炎の色に変化はないが。
エドワードが今のところ1番いい線いっている。さすが両方使いこなすだけはある。エドワードの炎も橙になった。
「よし、とりあえず放ってみな。」
4つの火球が11体の土ゴーレムに向かって放たれ着弾する。
ズドーーーーーン
爆発音と共にキノコ雲が上がる。うん、なかなかの威力。4つ合わされば私の火系魔法の最上級並みの威力だ。
「おお!」
「私がこんな火魔法を使えるなんて…」
「わー。火球でこの威力。凄い。」
「ん。」
サラ、ルーチェ、エドワードは自分たちが放った火球の威力に驚いている。リーユーは笑顔で私に両手を伸ばす。誉めてくれってことかな?
「よーし。リーユー。凄いぞ。もっと風魔法を練習しような。」
「ん!」
私はリーユーを抱き上げ頭をごしごし撫でながら誉める。リーユーはご満悦だ。サラ、羨ましそうな顔しない。昨晩あんなに抱き合っただろうが。
「さすが、ハリム様の弟子ですね。魔法の同時展開を易々とやってのけるとは。」
難しい話をしていた3人もこちらにやってきた。
「あら、サラさん。何を羨ましそうな顔をしておりますの?羨ましいならハリムに抱き付けばいいではありませんか?」
あ、シャーロットが言っちゃった。
「なななな、だって、アリーチェさんがいるしそんなこと出来ないよー。」
「ふふふ。」
ああやってあたふたするサラって本当にかわいいな。
「アリーチェ、ありがとう。この子たちにもいい勉強になった。」
「いえいえ。私にも氷魔法や転移魔法を教えて頂きたいです。」
「ああ、構わないよ。今日はもう帝国に帰るだろうから、アリーチェの研究室にときどき顔を出すよ。」
「本当ですか。嬉しいです。是非いらしてください。」
「ふふふ。アリーチェがここに住み日も近いですわね。」
こらこら。そんなんじゃないよ。
「私としてはここはパラダイスですからね。皇帝陛下の護衛の仕事がなければ今からでも住みたいくらいです。もちろんハリム様のご寵愛を頂けるなら光栄です。」
こらこら、アリーチェ。上目遣いでチラチラ見ない。そんなことすると…
「いてっ。」
「ハリム!鼻の下伸びてるよ。こんだけ婚約者がいてもまだ足りないかっ。」
ほら、サラにつねられたじゃないか。
大広間に戻るとミザリに抱き付かれ頬擦りされて困惑しているソフィアがいたのであった。ミザリはいつもこんな感じだな。




