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大魔導師の育成  作者: 春夏秋冬
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馬車にて

馬車はランペドの東門をぬけ街道に出た。クリミドの馬車は最近発明されたバネなるものが車輪付近に付いているらしく揺れが少ない。どういう構造かは知らない。道は土が剥き出しだがよく踏み固められている。

「はぁはぁはぁ。」

隣の子供二人はまだ息が切れている。

「大丈夫かい?」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

私は心配して尋ねると女の子が答えた。

外套はとても汚れていて泥などが付着していたり擦りきれたりしているが、外套の首もとから少し見える襟のあるシャツは高級そうだ。半金貨を普通に持っていたし、いいところの子なのかもしれない。


馬車は順調に進み、1つ目の村での休憩を挟み2つ目の村を目指して走っていた。

隣の子供たちもこのころには息が整い、静かに座っていた。

シーンとした車内で女の子のお腹がクゥーンとなった。その音を聞いてまず吟遊詩人の女性がふふふと笑い。そのあと車内が笑いに包まれた。

「す、すみませんっ」

女の子は恥ずかしそうにうつむく。

「笑ってごめんよ。お腹すいたのかい?」

「はい、すみません。」

「謝ることはないよ。お腹はすくもんさ。」

私が女の子をなだめていると、吟遊詩人の女性と冒険者の二人も会話に入ってきた。

「わたしもすいたわね。」

「オレの腹の虫も鳴きそうだ。」

「あたしもお腹ペコペコー」

私は行き掛けにエマからもらったサンドイッチを思い出した。

「私サンドイッチを大量に持っているのですが、今から振る舞いましょうか?」

『おー』

車内が歓声に包まれる。

「いいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。たくさんあるなら僕もいただこうかな。」

唯一会話に参加していなかった商人風の男性に尋ねると了承を得られたので、私は空間魔法で亜空間からサンドイッチの籠を取り出す。

「く、空間魔法!?」

「あれそんなにすげぇのか?」

「あたし初めて見たわ。」

冒険者の女性は魔導師っぽいので驚いている。空間魔法ってそんなに珍しいだろうか?自分以外にシャーロットしか使い手は知らないが、世の中にマジックバッグが出回っているのだから、それなりにいるんだろう。道具に魔法を付与する場合使えないと付与出来ない。

「さあお食べ。皆さんもどうぞ。」

子供二人は恐る恐る籠に手を伸ばし二人とも玉子サンドを掴んだ。他の人にも籠を差し出すと皆もそれぞれ1個ずつ取り出す。

「ありがとうございます。いただきます。」

「いただきます。」

子供二人はお礼を言って食べ始めた。小さい方の子供の声初めて聞いた。声は高めだが、男の子の声だな。

二人は2口ゆっくり食べたたあとお腹が限界だったのか残りを勢いよく食べてしまった。

他の人たちもお礼を述べたあと食べ始めた。

「こ、これはっ。」

「まぁすごく美味しいわ。」

「めっちゃうめ。」

「うん。最高ー幸せー」

大絶賛だ。私も1個取りだし食べる。葉野菜と肉の燻製を薄くスライスしたものを挟んだやつだ。うん、さすがエマ、とても美味しい。葉野菜と肉を挟んだだけなら誰にでも作れそうなものなのだが、どうしてこうも違いが出るのだろう。300年生きてきても料理のことはよくわからん。

残ったサンドイッチを見て子供二人の喉がゴクリと鳴る。

「御者の人と護衛の二人分、3つ残してあとは食べていいよ。どんどんお食べ。他の方もどうぞどうぞ。」

そういうと四方から手が伸びてきて、あっというまにあれだけあったサンドイッチが3つだけ残してなくなった。


2つ目の村での休憩の際、残りのサンドイッチを御者席の3人に振る舞って、馬車はシャワラムに向かい始めた。

ここからは海沿いの道を進む。ここからシャワラム近くまでずっと波が打ち寄せる砂浜を見下ろす道が続く。ザーザーという波の音とポカランポカランという馬の足音とカタンカタンという車輪の音が混ざり合ってとても心地いい。これを味わうためにランペドからシャワラムを馬車で移動していると言っても過言ではない。窓から白い海鳥が飛んでいるのが見える。あれは魔物ではないらしい。

「さっきのサンドイッチのお礼に1曲奏でましょうか?」

吟遊詩人の女性が素敵な提案をしてきた。

「いいのかい。是非に。波音が邪魔されないようなのを頼むよ。」

「分かっていますわ。では。」

ポロンポロンポロリン。それはとても静かで穏やかな曲だった。ああ、素敵な時間…300年生きてもこれだけ穏やかで素敵な時間はあまり味わったことがない。

子供たちや冒険者の二人があまりの心地よさにウトウトと船をこぎを出した。おいおい、お前ら仕事中だろ。いいのか冒険者。


そんな素敵な時間が唐突に終わりを告げる。

馬が数頭掛ける音が段々近付いてきて、

「おーい!そこの馬車止まれー!」

男が叫んできた。

御者は馬車を止め、冒険者は盗賊かと飛び降りる。客室でウトウトしていた二人も臨戦体制で馬車を降りた。さぁお仕事の時間です。御者席に座っていたアーチャーの男は屋根に登ったようで天井から足音が聞こえる。

馬に股がった全身甲冑の男3人が馬を早足にして近付いてきた。

「武器を下ろせ!我々は盗賊ではない!人を探している。」

そんな声が聞こえてくると隣の女の子は男の子を抱きしめ震え出した。

「馬を降りて名を名乗れ!」

客室にいた冒険者の男が剣を構えたまま1歩前に出て叫んだ。

3人の男は渋々といった感じで馬を降り、頭の甲冑を脱いだ。赤髪短髪、黄色髪真ん中分け、青髪ロン毛の3人。

「これは失礼した。我々はイカルディ王国青龍騎士団所属。私は副団長のアンヘル=パポンだ。黄色いのがフランコ、青いのがマウロだ。」

赤髪短髪が自己紹介した。

「イカルディ王国ってどこだ?」

「さぁ聞いたことねぇ。」

客室に乗っていた冒険者の男と御者席に座っていた槍を持った男がお馬鹿な会話をしている。

「あたしはクリミド商国の冒険者魔法少女サラ。そのイカルディ王国の騎士様がなんの用よ。他国じゃないの。」

冒険者の女性はサラというらしい。なんだ魔法少女って。

「ふん。我々は子供を二人探している。理由は言うつもりはない。冒険者風情が邪魔をするなっ。」

そう言って3人は馬車の入口に向かって歩き出した。

「あれーオレ、かちんときちゃったなー」

「イカルディだかいかめしだかしらねぇが他国でこんなことしちゃっていいんですかねぇー」

冒険者のお馬鹿二人は赤髪短髪の物言いに憤怒して3人の前に立ち塞がった。

「邪魔だ。」

黄色髪と青髪がお馬鹿二人を勢いよく突き飛ばした。

「わっ。」

「きゃっ。」

突き飛ばされたひとりがサラに勢いよくぶつかった。そのときカーンと矢が赤髪短髪の甲冑の肩に当たった。屋根の上のアーチャーが放ったものだ。

「攻撃したな。命だけは助けてやろうと思ったがお前ら全員ここで死ね。」

3人は不敵に笑うと抱えていた頭の甲冑を近くに放り投げ腰にあったロングソードを抜き放った。

馬車内では女の子が男の子を抱きしめる腕に力を入れ震えている。

「助けてー」

消え入りそうな声がかすかに聞こえる。

吟遊詩人の女性はリュートを抱いて震えているし、商人風の男性は鞄を抱きしめながら、恐怖で嗚咽している。御者の男性も御者席できっと震えているのだろう。

「やれやれ。そろそろ私の出番かな。」

私はあんな幸せだった時間をこんな恐怖空間に変えた馬鹿どもを懲らしめるため座席から立ち上がり入口に向かったのだった。

2018.8.18 第1話全面的に書き直しました。ぜんぜん違う話になっています。

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