妊娠
オリビアの葬儀のあとホテルに戻ったが誰もいなかったので、置き手紙を残しシャワラムに転移魔法で飛ぶ。アンナとビオーラにプロポーズするためである。なんか、複数人にプロポーズするとか最低だな、私。
『月夜亭』に入ると受付にイザベラがいた。アンナの母だ。
「やぁ、イザベラ。」
「いらっしゃい。ハリムさん。今回は早い再来ね。」
「ああ、ちょっとアンナと話があってね。」
「あら、やっとうちのアンナを貰ってくれる気になったのかしら?」
「ああ。結婚したいと思っているよ。」
「あらあら、まあまあ。冗談のつもりが本当だったのね。」
「イザベラは許してくれるのかい?」
「それはもう。あの子も私もずっと待ちわびていたことですもの。」
「それはありがとう。アンナは?」
「今、ちょっと忙しいのよ。アンナの部屋ででも待っておきなさいな。」
『月夜亭』は夕食時で忙しそうだ。アンナは調理場かな。姿が見えない。
「ああ、そうさせて貰うよ。」
私はアンナの部屋へ移動した。
「ハリム。今回は早かったね。」
一刻ほどアンナの部屋で待っているとアンナが入ってきた。
「ああ、アンナに話があってね。」
「うん。私もハリムに話があるんだ。」
「そうか。どこか出掛けようか?仕事はもういいの?」
「うん、大丈夫。全部引き継いできたから。」
「夕食は?」
「まだだよ。」
「じゃあ、何か食べよう。」
「アルビニアのお肉が食べたいわ。」
「いいね。行こうか。」
「ちょっと着替えるから待ってて。」
アンナが着替えるのを待つ。あれ?
「アンナ、そのお腹…」
「えへへ。バレちゃった?」
アンナのお腹がポッコリ膨らんでいたのだ。
「え?あれ?この前、膨らんでたっけ?」
「んー。たぶんちょっと膨らんでたんじゃないかな?」
ぜんぜん気付かなかった。今も服を着ていたら分からない。
「半年前?なのか?」
「うん。そうみたい。」
「アンナ…」
私は着替え途中のアンナを抱き締める。
「もう。着替えられないじゃない。ちょっと待っててよ。」
「ああ、うん。ごめん。」
大人しく着替え終わるのを待ったのであった。
アンナとアルビニア王国に飛び、いつも行くお店に入り夕食を取った。食事中もニマニマしてしまう。
「ハリム。ニマニマにすぎ。」
「ああ、だって嬉しいんだ。この日をどんなに待ったことか。」
「子供ならたくさんいるでしょ?」
「アンナとの子供は特別だよ。いや、みんな特別だけれど、アンナとの子供は私にとってはもっと特別なんだよ。」
アンナと関係を持ち出して100年以上。なかなか子供が出来なかった。アンナも悩んでいた時期があったのを知っている。
「アンナの話っていうのは子供のこと?」
「それもあるけど、古城行くって話の方。」
「ああ、それはここを出て星空を見ながらでも話そうか。」
「うん。」
食事を終え、町に出る。のどかな町だ。
飛行で草原まで飛ぶ。季節は初夏だが、ここら辺は標高高いので涼しい。お腹を冷やしてはいけない。アンナに外套を羽織らせる。
「ありがと。」
「ああ。」
「ハリム、私ね、子供は『月夜亭』で産もうと思うんだ。」
「ああ、その方がいいかもな。」
「いいの?」
「アンナとお腹の子供が優先さ。」
「ハリムはどうするの?」
「ああ、そのことなんだけど、アンナ。目を閉じて。」
「うん。」
アンナが目を瞑るのを確認して左手を取り、薬指に指輪をはめる。
「いいよ、開けて。」
アンナが目を開け指輪を見る。
「まあ、綺麗な指輪。魔導具?」
「いや、違うよ。私が作った。婚約指輪だ。」
「え?結婚してくれるの?」
「ああ、結婚しよう。アンナ、愛してる。」
「嬉しい…」
アンナと抱き合う。ああ、幸せだ。
「結婚しないと思った?」
「うん。だってハーフエルフだもの。ハリム、逃げるんじゃないかなってちょっと思ってた。」
「まさか。」
「そうだよね。疑ってごめんね。古城に行くのはこの子が生まれて、ちょっと育ってからでいいかな?」
「ああ、いいよ。毎日通うよ。」
「毎日じゃなくてもいいよ。でも、ありがと。」
二人で長く抱き合った。
「ところでハリム?」
「ん?」
「私だけじゃないんでしょ?他の人は?」
「ああ、それに関しては本当に申し訳ないんだが、シャーロットたちとも結婚するよ。」
「それはいいよ。ハリムだもん。私だけって言われた方が信用出来ないよ。サラちゃんとか?」
なんかすみません。
「ああ、シャーロットとマリアムとミザリとサラとはもう婚約した。明日はビオーラにプロポーズしようと思っている。」
「そっか。やっと決心したんだね。」
「ああ、シャーロットにだいぶ背中押されたけどな。」
「ふふふ。さすがシャーロットさんだね。」
本当にシャーロットには頭が上がらない。
「今夜はどうする?」
「アンナと寝たいな。」
「ビオーラさんのところに行かなくてもいいの?その…私、出来ないよ?この前しちゃったけど。」
「そんなのいいさ。今日はアンナのお腹を撫でながら眠りたい。」
「ふふふ。ありがと。」
「では、『月夜亭』に戻ろうか。」
「うん。」
転移で『月夜亭』に戻ったのであった。
「あらあら、まあまあ。子供がいたなんて。」
『月夜亭』に戻り、今日のことをイザベラに報告した。イザベラはお腹の子のことを気付いていなかった。
「うん。お母さん、内緒にしててごめんね。」
「いいのよ。めでたいわね。てことはあと3ヶ月くらいで出来るのかしら?」
「十月十日と考えるとそうなるな。」
「あらあら、大変。ここで産むの?」
「そのつもりなんだけど…ダメ?」
「ダメじゃないけど、仕事が忙しいと構ってあげられないわよ?」
「大丈夫だよ。ギリギリまで仕事したいし。」
「んー。ハリムさん。古城に出産に立ち会った経験のある人は?」
「お母さん!」
「アンナちゃんは黙ってて。」
おお、イザベラが強い。
「吸血鬼たちはミザリの出産に立ち会っているかな。」
「そうかそうか…」
「お母さん!私、仕事があるの。」
「仕事なんていいわよ。雇っている子たちも成長してきているし。」
「でも…」
「でもじゃありません。アンナちゃん、仕事はいいから古城で産みなさい。ここで慌ただしく産むよりいいわよ。」
「えー。」
「えーじゃありません。あなたたち、結婚しるんでしょ?」
「そうだけど…」
「アンナはどうして古城で産むのがイヤなんだい?」
「イヤじゃないんだけど、他の人に迷惑を掛けたくないっていうか…」
そんなことを考えてたのか。
「迷惑なんてないさ。アンナを迷惑だなんて思う人は古城にはひとりもいないよ。それに古城にも仕事はあるよ。吸血鬼たちは食事作るの大変そうなんだ。体調良かったら手伝って上げてほしい。」
「なら、決まりね。」
「うん、分かった。」
1年後くらいからかと思っていたけど、これからアンナと暮らせるのか。楽しめだ。
「では、出発はいつにする?」
「アンナちゃんいつでもいいわよ。」
「うん。ハリム、明日戻るんだよね。」
「ああ、そのつもり。」
「じゃあ、それまでに準備するわ。」
こうしてアンナが古城に来ることが決まったのであった。




