『迷いの古城』へ
セダと抱き合ったままうとうとして部屋の明るさに目を覚ました。セダはもう目を覚ましていて私の顔をじっと見ている。
「ハリムさん。ありがとうございました。素敵な夜でした。」
「そうかい。私も素敵な時間を過ごせて楽しかったよ。これからはイヤなことを忘れて私のことを考えて生きるんだよ。また会いに来るから。」
「また、来てくれるんですか?ハーフエルフなのに優しいんですね。」
「はははっ。私を他のハーフエルフと一緒にしてはいけないよ。」
「ふふふ。ちょっと戦うことが怖くなってたんですが、また戦えそうです。」
「そうか、それは良かった。」
私はセダの額にチュッと唇を付けるとベッドから起き上がる。部屋の壁には片手剣と小さな盾が立て掛けられている。セダの武器だ。盾を使うタイプの剣士だったんだな。二つの武器はもうボロボロだ。あ、いいのあるな。私は亜空間から片手剣と盾を取り出す。
「セダ、これあげるよ。」
「え、いいんですか?」
「いいのいいの。持ってみて。」
セダはさっと服を着ると新しい剣と盾を持った。
「なんですか、これ。盾がすごく軽いんですけど。」
はははっ。私の開発した魔導具だ。
「盾の裏に小さな宝石が埋まっているだろ。それに重力魔法を付与してある。重さは10分の1くらいかな。」
「魔導具じゃないですか。こんないい物貰ってもいいんですか?」
「いいのいいの。その剣は私が打ったんだけど、まぁたいした物ではないよ。従来の丈夫さをそのままに突くだけじゃなく切れるようにもしてみた。今までの剣みたいに扱うと自分の手を切っちゃうかもだから気をつけて。」
「すごいです。ありがとうございます。」
セダは頭を下げる。
「防具も服もボロボロじゃないか。これ。」
亜空間からロマニコフから受け取った、お金の入った袋を2つ取り出してベッドに置く。
「防具や服はあいにく持ち合わせがないんだ。これだけあればそこそこの物買えるだろ?」
「ひぃえー、金貨がいっぱい入ってますよー。こんなの受け取れませんよー。」
「いいのいいの。セダの命のが高いんだ。次会いに来たときも元気でいてくれよ。」
「はい、ありがとうございます。」
私たちは抱き合って唇を合わせたのだった。
「ビオーラ。」
「わっ、ハリムさん!びっくりするじゃないですか。」
セダと別れて、シャワラムに飛んで、ビオーラの住む部屋を訪ねたら留守だった。港に来てみるとビオーラが座って船を眺めていたので背後から声を掛けてみた。
「ごめんごめん。この前ここで襲われただろ?大丈夫なのか?」
「ふふふ。襲われたら、また助けてくださるんでしょ?もう、この指輪の使い方分かりましたし。」
でも、なんか心配だなぁ。でもビオーラは全く戦えないから下手に武器を渡すと余計危険だ。何がいいかな?やっぱ指輪かな?
「ビオーラ、今度は左手出して。」
「あら?今度は薬指ですか?」
んー。薬指でいいか。ビオーラの薬指に小さい緑色の宝石の付いた指輪をはめる。
「これは?また魔導具ですか?」
「うん。そう。これを付けると魔法が使えない人でも風系の魔法を中級まで使えるようになるよ。」
「はぁ、よくわかりません。」
そうだよね。
「では、あの岩あるだろ。あの岩にその指輪を向けて風の刃って言ってみて。」
私が大きな岩を指差す。
「はい、やってみますね。風の刃!わっ!」
ビオーラの指輪から不可視の刃が飛び出して岩が弾ける。
「今度は自分に向けて風の癒しって言ってみて。言い間違えたらダメだよ。」
「はい。風の癒し。わっ、暖かい。」
「そ、それは回復魔法。この二つだけ覚えておけばいいよ。」
「すごいです。なんか私、魔導師になった気分です。」
「だからって油断はダメだからな。」
「はい。この前痛い目見ましたから大丈夫です。」
「なぁビオーラ。」
「はい?」
「今日、『迷いの古城』に帰るよ。」
「そうですか…寂しくなります。」
付いて来いとは言えない。これ以上増やすとシャーロットに怒られてしまう。
「寂しくなったら、その指輪で遠慮なく呼んでくれていいからな。」
「いいんですか?私寂しがり屋だから頻繁に呼んじゃいますよ?」
「ああ、構わないよ。むしろ頻繁に呼んでほしい。」
「ふふふ。じゃあ遠慮なく呼んじゃいますね。」
「ああ。」
ビオーラと抱き合う。
「ハリムさん。お時間は?」
「夕方まで空いているよ。いや、今埋まった。ビオーラ。」
「はい。」
「部屋に戻るぞ。」
「はい、喜んで。」
私たちはビオーラの部屋に戻り、夕方までゆっくり愛を確かめ合ったのであった。
「クリス、エマ。今回はずいぶん賑やかしてしまったな。」
「いえいえ、ここは旦那様の屋敷ですので、好きなようにお使いください。私も楽しかったですよ。才能のある子供たちを見てるのは。世の中広いですな、ジークだけではないとは。」
クリスはいい刺激になったみたい。
「あたしも楽しかったよ。また『フジ』に連れて行ってくれよな。」
エマは久々に遠出が出来て楽しかったのだろう。
「ああ、また行こう。では屋敷を頼んだよ。」
私はみんなを連れて『迷いの古城』の玄関ホールに転移したのであった。
「おーい。帰ったぞー。」
玄関ホールで声を上げる。みんなはキョロキョロ見ている。
「ミザリっ!」
2階の部屋からシャーロットが出てきて飛んで降りてきてミザリを抱き締める。あれ?
「ふゎー、シャーロット様?」
「ふゎーではありませんわ。消滅したのかと心配していたのですわよ。」
「え、あ、その、ごめんなさい、シャーロット様。」
あ、そうなるわな。失念していた。
「シャーロット、ごめん。私が悪いんだ。」
「そうですわ。ハリム。貴女も一緒にいるなら連絡のひとつでもくれればいいではありませんか?わたくしがどれだけ吸血鬼たちの消滅に心を痛めていたか分かっておりますわよね?」
「あの、本当に申し訳ない。」
「まぁいいですわ。無事だったのですから。ほら、ミザリ。泣いてないで他の吸血鬼たちに謝ってらっしゃい。」
「ううう。シャーロット様、ごめんなさい。行ってきます。」
ミザリは泣きながらふわふわと飛んでどこかへ行った。
「さて、ハリム?今回やけに大人数ですわね?」
「ああ、実は…」
「シャーロット!久しいなっ。魔王だよ、魔王!」
空気の読めないマリアムがシャーロットに飛び付いた。カミールも真似してシャーロットの足に飛び付く。
「ま、マリアム?生きていたのですか!?」
「ん?わらわが死ぬわけないだろ。」
「だってドラゴンは死ぬときは人目に触れないところに行くと聞きますからてっきり寿命が来たのかと…」
シャーロットはそんなこと考えていたのか。
「違う違う、出産だ。シャーロットの足にくっついているのが、わらわとハリムの子、カミールだ。カミール、挨拶!」
「カミールだ。シャーロット会いたかった。」
カミールはシャーロットの足にくっついたまま、挨拶した。えらいぞ。
「ななな、子供ですって。ハリムとの?う、羨ましくなんてありませんわよ?」
「羨ましいんだな。相変わらずシャーロットは可愛いのう。」
「羨ましくなんてありませんし、可愛くもありませんわ!」
はははっ。二人でじゃれてるよ。なんかこの光景も久々だな。そんなことを考えていると、サラがちょいちょいと私の服を引っ張った。
「ねぇ、シャーロットさんってさ、初めは綺麗すぎて腰引けちゃったけど、いい人そうだね。」
「ああ、シャーロットは口調もあんなだから誤解されがちだけど、本当は寂しがり屋で人なつっこいんだよ。」
こうして賑やかになった『迷いの古城』での生活がスタートしたのであった。




