鬼の少女と女剣士
武術道場に戻ると入口の外でマリアムが『フジ』のちょっといいところの町娘みたいな服装で待っていた。か、かわいい…
「おう、ハリム待っていたぞ。この服どうだ。城の人間が持ってきてくれたのだが。」
「ああ、凄くかわいい。びっくりした。」
「そ、そうか。ありがとう。」
「で、城の者はなんて?」
「わらわとハリムを城の昼食に招待したいのだと。他の者は道場で昼食だ。リーユーくらいなら連れていけると思うぞ。」
「リーユー、どうする?」
エマに抱かれているリーユーに聞く。
「ハリム。」
リーユーは私の方に両手を差し出すのでエマから受け取る。
「じゃあ、行くか。わらわたちは昼食は終わったらゴンゾウに町を案内してもらうから、そっちは道場の娘たちに案内して貰えよ。」
「マリアム様ズルいです。」
白い道着を着て汗だくで、額にぽっこりたんこぶを作ったミザリが言ってきた。
「はっはっはっ。わらわはハリムの妻らしいからな。」
「ミザリ、そのおでこどうした?」
「う…真面目にやれってマリアム様に殴られたです。」
「ああ、お前が悪いのな。」
「ふん、です。」
ミザリは膨れている。こいつはこういう顔がかわいいよな。
「では、行こうか。」
「うむ。ゴンゾウ、案内を頼む。」
「はい。こちらへ。」
私とマリアムとリーユーはゴンゾウに連れられ城の中に向かったのである。
昼食は城の1階の謁見した部屋とは違う綺麗な庭がよく見える大きな部屋であった。さすがにマリアムもリーユーも座ったが、本当は女性は膝を閉じて座るのだそうだが、二人とも足が痛いというので、男と同じ膝を開いて座った。料理は塩を振り掛けて焼いた魚と豆を発行させた物を溶いたスープ、米という白い穀物と根野菜を煮た物。どれもシンプルだが美味しかった。食事相手はミツムネ殿とその第1夫人の二人。夫人は長い黒髪の美人で服装は前で重ね合わせる服を幾重にも重ねて一番上は赤い生地に艶やかな花の模様。素晴らしい。是非私の恋人たちにも着せてやりたい。と言ったら次来るまでに用意してくれるそうだ。代わりに亜空間にあった新品の洋服や外套をプレゼントした。話の内容は大陸はどうだとか、『フジ』ではどうだとか、そういった世間話だった。
昼食が終わるとゴンゾウに連れられて町にやってきた。私はこの国の町人の男が着る服を貰った。リーユーも子供用のユカタという服を着せて貰ってご満悦だ。
私はこの国の男たちよりずいぶんと背が高いが、鬼たちが大きいので、服装もあり、あまりジロジロ見られなくなった。
「あ、ハリム殿、これ、ミツムネ様からです。」
「これは?」
ゴンゾウは銀貨のような物の真ん中に四角い穴の開いたお金のような物を数十枚重ね、真ん中の穴に紐を通した物を渡してきた。
「これは?」
「これはこの国のお金ですよ。これで10万イェンあります。3人なら十分かと。」
「おお、いいのか?ありがとう。」
持ってる金貨とかでは買い物出来ないんだな。両替したいな。
この国の神を奉る神社というところなどを案内された帰り道であった。鬼たちからは大きめな魔力を感じていたのだが、一際大きな魔力を感じた。キョロキョロして探してみる。
「やーい。一本角ー。」
「人にも鬼にもなれない半端者ー。」
子供の声が聞こえてきた。声の方を見ると鬼族の少女が桶に水を汲んで運んでおり、それを少し離れたところから5人の男の子供たちが囃し立てながら石をぶつけていた。鬼族の少女はボロボロの服を着ているのに頭に綺麗な髪飾りを付けており、そこだけやけに目立つ。鬼族の少女は全く気にしない素振りでただ前だけを見て桶を運ぶ。あ、石がおでこに当たった。少し血が出るが少女は気にしない。
「このような美しい国にもああいった闇の部分はあるんだな。おい、ゲンゾウ。あの鬼族の少女はどうして苛められているんだ?」
「ああ、あの子ですか。あの子は見ての通り鬼族なんですがね、角が1本しかないでしょう。」
よく見たらそうだった。他の鬼たちはおでこの髪の毛の生え際に左右に2本の角がある。でも少女は左に1本しかない。
「あれがどうした?」
「某にはよくわからないんですがね。あれのせいで鬼たちから相手にされないです。不吉だとか。」
「ふーん。なるほどな。あの子の両親は?」
「父親はずっと前に、母親は去年死んだと聞いた気がします。」
「天涯孤独なのか。」
少女に向かって飛んでいく石に掌を向け重力魔法を掛ける。石が少女に届く前に地面にポタポタと落ちる。石を投げた子供たちはキョトンとしている。リーユーは私の掌をじっと見ていた。まさかな。子供たちがまた石を投げる。リーユーは石に向かって人差し指を向ける。すると私のときと同じように石がポタポタと落ちた。
「なっ、リーユー、お前天才か?」
「これはすごいな。リーユーの魔力の流れがスムーズ過ぎる。こんな獣人がいるのだな。」
マリアムも驚いている。
「それにしても…」
「ん?マリアム。どうした?」
「気に入らんな。」
「お前も『神龍山』で他のドラゴン苛めてたんだろ?」
「いや、苛めている方が気に入らんのではない。あの鬼の少女だ。」
「ん?なんで苛められている方が?」
「あの少女、わらわがこの国で今まで見た中で1番力を持っている。力がないなら分かる。力があるのに黙って苛められるだけ。それが気に入らん。」
私も気付いていた。そうなのだ。さっき感じた一際大きな魔力。それはあの鬼族の少女から感じられるのだ。
「まぁ、いろいろあるんだろ?」
子供たちがまた石投げを開始しようとしていたので、そろそろ止めようとした時であった。
「こらーー。やめろーー!」
綺麗な黒髪をポニーテールにし、腰にはカタナを二本差した美しい少女が叫びながら走ってきたのだ。
「げ、男女だ。」
「にげろー。」
子供たちは蜘蛛の子を散らすように四方八方に逃げ出した。なんか楽しそうだ。綺麗なお姉さんに構って貰いたくて苛めしてないか?
「あ、キキョウ殿…」
ゴンゾウがぼそりと言った。あれがシロウ殿の孫娘、キキョウか。少し見守ろう。
「マイ、大丈夫だった?血が出てるじゃない。」
あの鬼族の少女はマイというらしい。
「うん。あの人たちが助けてくれた。母の形見は大丈夫だったよ。」
マイは私たちを指差したあと、頭の髪飾りをそっと撫でる。気付いていたのか。髪飾りは母親の形見なんだな。
「あの、ありがとうございました。異国の方。」
キキョウが私たちにお辞儀をしてきた。マイもペコリと頭を下げる。
「ああ、キキョウ殿にマイだったかな?私は大陸の人間でハリムという。こっちはマリアムでこの子はリーユーだ。たいしたことはやっていないよ。」
「でも、この国の人間は拙以外はマイを助けようとする者はいません。」
「それは悲しいことだね。しかし、キキョウ殿の助け方にも問題があるように感じられた。子供たちはキキョウ殿に怒られることが楽しくて苛めがエスカレートしているのではないかな?」
「な、ではどうしろと?」
あ、ちょっと怒り気味。
「そうだね。苛めている子供ひとりひとりからどうして苛めているか聞くとか?」
「そんなことしてたらキリがありません。怒鳴ってやるのが1番早いんです。失礼します。行こ、マイ。」
キキョウはマイの手を引いて何処かへ行ってしまった。
「ほっほっほっ。なかなか気の強い女じゃて。」
マリアムはなんか楽しそうだ。私たちはゴンゾウに連れられて武術道場に帰ったのであった。




