ヤンとルーチェ
「今から宴会なんでしょ?ビオーラさんやアンナさんも連れてきたら?」
宴会開始を待っているとサラが言ってきた。
「ビオーラというのは知りませんがアンナというのはあの宿屋の娘ですよね?いいですねー。ミザリもアンナ好きです。会いたいです。」
「んー。」
「どうしたの?呼びたくないの?」
「いや、そうじゃないんだ。呼びたいよ。私も二人に会いたい。ただね、私が転移でここに戻ってこれる自信が…」
「ん?どゆこと?」
「サラやミザリが思っているほど転移魔法は便利ではないってことさ。」
「え?便利じゃん。クリミドからヘルミナ王国まで一瞬だったよ?」
「ああ、ヘルミナ王国には何回も来ているからね。」
「ん?」
「昨日赤級を回収したあとアッバの町まで転移魔法を使わなかっただろ?あれは使わなかったんじゃなく、使えなかったんだ。」
「1回行ったところじゃないとダメってこと?」
「1回どころじゃないよ。何回も。いや、違うな。1回でも行けるようになるときもあれば、何回行っても行けないところもある。」
「んんん?ますますわかんない。」
「転移魔法の長距離転移はね、その場所がこの大陸のどこにあるか明確に分からないといけないんだ。だから転移を頻繁に使いたいところは飛行を使って明確な位置を把握するんだよ。」
「じゃあさ、ここの上空を飛んでこの位置を把握すればいいってこと?」
「それだけじゃダメなんだ。ここは深い森の中だろ?」
「うん。そうだね。」
「森の中や建物の中に転移する場合はさらにそこがある森や建物はどんな形で大きさでどんな構造で、それのどこにあるのかも把握しなければいけないんだ。」
「ほえー。」
「『月夜亭』やクリミドの冒険者ギルド、帝国の宮殿はよく行っていたから内部に転移できるんだけどさ、ここはまだ3回目だからね。森が大きすぎるし難しいかな。」
「なんでここで帝国の宮殿が出てくるか分かんないけど、分かったよ。」
「あれ?言ってなかったっけ?帝国の皇帝は私の娘だったよ。」
「え?えええええええ!?」
ははは、サラを驚かせるのは楽しいな。うん、かわいい。
「ね、ナタリア。エドワード。」
二人に話を振る。
「はい。とっても綺麗な方でした。」
「うん。」
「帝国皇帝ということはオリビアの娘ってことですか?オリビアは元気ですか?随分会っていません。」
ミザリだ。ミザリはオリビアにもなついていた。ていうか、ミザリは古城に連れていく女性全員になつく。
「ああ、先日亡くなったよ。残念だ。」
「え!?オリビア死んじゃったんですか?だからあのとき吸血鬼にしてあげるって言ったのに。オリビア…うゎーーーーーーーん。」
ミザリは泣き出してしまった。こういうのを見るとまた涙が込み上げてくる。ミザリの頭を撫でる。
宴会っていうんだから暗くなり始めてからなのだろうか。もうかれこれ三刻ほど待たされている。長命種族はこういうところが困る。人族だと「少々お待ち」で三刻も待たされることはなかなかない。私は昨日一睡もしていないのでミザリに抱き付かれたままうとうとしてしまった。ミザリも戦闘で疲れたのか私の胸の中で眠っている。サラも一睡もしていないのでリーユーを抱いたまま寝ているし、リーユーも熟睡。ヤン、ナタリア、エドワードも始めは集落をキョロキョロ見たり走り回ったりしていたが、今は夢の中。
集落が喧騒に包まれた気配を感じ目を覚ます。辺りは夕暮れ時で暗くなり掛けている。私は腕の中のミザリをほどきベンチに寝かせ、広場の外を走っていたハイエルフの男を捕まえた。
「おい、何かあったのか?」
「あ、ハリム様。あのですね、ルーチェという女の子がですね、ハリム様のために肉を取ってくると言って集落を出たまま帰ってません。そろそろ暗くなるので捜索隊を出そうとしているのです。」
「ルーチェ?あの女の子か。それは心配だね。」
「ルーチェは優秀な子なので戦闘力は私たち大人の男と大差ないんですがね、さすがにひとりで夜の森では心配です。」
あの子優秀なのか。でもまだ子供、経験も少ないだろう。よし。
「私も捜索に加わろう。どっちの方向に行ったかは検討がついているのかい?」
「それは助かります。ありがとうございます。東の方に向かったという目撃情報があります。ここから東の方角にビッグボアの巣があると噂があるのでそちらかと。」
「わかった。ありがとう。君確か名前は…」
「ああ、はい、ビャルネと言います。」
「ビャルネくん、申し訳ないが捜索隊の隊長に私が先に捜索に向かったと伝えたあと、ここに戻ってきてこの子らが起きたら今の情報を伝えてここで待つように言ってくれるかい?」
「え、あ、はい。分かりました。」
「では、頼んだよ。」
私は眠っているヤンだけ抱え重力魔法で森の上空まで浮かび上がり東の方角に向かったのであった。男でも子供なら抱えるさ。
「んんん…ん?おわっ、く、空中?」
現場へ向かって飛んでいる途中でヤンが目を覚ました。
「ヤン、おはよう。」
「こ、ここは?」
「ああ、ルーチェってハイエルフの女の子がいただろう?あの子がビッグボアの巣に狩りに行ったまま帰ってこないらしいんだ。それを助けに行くところ。せっかくだからヤンの戦い方を見せてもらおうと思ってね。」
「ビッグボアか。何回か狩ったことがある。大丈夫だ。あの肉うまいよな。」
少し飛ぶと戦闘音が聞こえてくる。少し木がなく開けたところ、そこでルーチェが1匹の魔物と戦っているのが見えた。
「あれか?ん?あのビッグボア、オレが知ってるのより一回りいや、二回り大きいけど?体表も黒いし、牙も長いし、動きも速い。」
まあ、そうだよな。ハイエルフに優秀って言われる子供が普通のビッグボアに苦戦するわけないよな。ルーチェの戦い方はショートボウと魔法を組み合わせた後衛タイプ。怪我はしていないが、魔物の突進が速すぎて魔法を練れないため致命傷を与えられていない。しかし清廉された戦い方だ。土魔法を防御に使い上手く突進をかわしショートボウで攻撃する。ショートボウの連射速度も速い。魔物の額周辺に何本も矢が刺さっている。だが魔物の体表に刺さっているだけで脳まで届いていない。
「あれはマーベラスボア。ボア系の魔物の最上位種だよ。所詮草食の魔物さ。ヤンが前衛としてあの突進を止めるんだよ。ほら、行っておいで。」
「おわっ。」
私はヤンをマーベラスボアとルーチェの間にヤンを降ろす。
「は、ハリム様!助けに来てくださったのですか?」
「ああ、ヤンがね。私は運搬だけ。ヤンが前衛として突進を受け止めるからルーチェは矢で急所を狙ったり魔法をしっかり練って放つんだ。いいね?」
「はい!ありがとうございます!」
「ほら、来たよ。」
マーベラスボアは急に現れたヤン目掛けて突進する。ヤンは一瞬で体内の気を練り腰を落として両腕をクロスさせてマーベラスボアの突進を受け止める。ズルズルと突進の勢いで引き摺られるがなんとか大丈夫そうかな?戦闘種族獣人にはこれがある。身体強化を自然と出来るというか…気というものを練って私の身体強化と同じような効果が得られるのだ。私の身体強化は母のこれを参考にして考えたものだ。
マーベラスボアの突進はなんとか止まった。ヤンは止まったと見るや鼻っ柱に右フックを叩き込む。おお、痛そう。腰の入ったいいパンチだ。
「と、止まった…」
「ほら、ルーチェ、攻撃、攻撃。」
「は、はい。」
ルーチェは即座に2本の矢を放ち1本がマーベラスボアの左目に直撃した。マーベラスボアは痛いのか唸り声をあげる。
「うん、いい感じ。二人で倒せそうだね。ルーチェはヤンを上手く盾にするんだよ。前衛を信頼することが後衛の1番の仕事だ。ヤンっ。君は後衛のルーチェに絶対攻撃がいかないようにするんだ。後衛タイプの狐人族と組んでいたんだから分かるだろ?」
「おう!任せろルーチェ!」
「はい。ヤン、お願いしますね。」
マーベラスボアは突進のための助走距離を取るためヤンから離れようとするがヤンは付いていき殴る蹴る。その隙にルーチェは魔法を練って放つ。
「岩の弾丸。」
土系の下級魔法を放つ。下級ではあるがよく練られていて威力は下級のものではない。マーベラスボアの側面に着弾する。だがマーベラスボアは少し体制を崩しただけで平気そうだ。
「よく練られたいい魔法だがマーベラスボアは体表が厚いからあれでは致命傷にならない。他の魔法は?」
「他にも使えますが、あの肉をあとで美味しく食すのであればこの魔法が最適かと。」
そんなことを考えていたのか…私のために肉を獲りに来てくれたんだもんな。
「風の刃か水の刃は?ハイエルフならどちらかは使えるだろ?」
ハイエルフは森を傷付けないよう、料理のとき以外は火魔法は使わない。その変わりそれ以外は得意なやつが多い。
「はい。両方使えます。」
「あれでマーベラスボアの首を落としてしまえ。そうすれば肉も食べられるだろ?ヤンが盾になっている今なら当てられる。」
「はい。」
そう言っている間にマーベラスボアは激しく暴れだしヤンを弾き飛ばした。ヤンが吹き飛ぶ。マーベラスボアはルーチェ目掛けて突進してくる。しかしルーチェは意に介さず魔法を練り続ける。ルーチェに激突しそうになったとき、横から体制を整えたヤンが弾丸のように飛んできてマーベラスボアに体当たりを噛ましマーベラスボアは進路が大きくずれルーチェは無事だった。
「すまん。」
ヤンはひとこと言うとマーベラスボアに肉薄し殴る蹴る。
「水の刃。」
ルーチェの魔法が完成し放たれる。マーベラスボアの首に当たる。少し弱いか?あ、魔法媒介!ルーチェは魔法媒介を何も持っていない。魔法媒介なしで中級魔法があの威力か…確かに優秀だ。
「ちょっと浅かったね。今度はこれを持って放ってみてくれ。」
私が亜空間から取り出したものはナタリアが持っていたベロン家のナイフ。ナタリアの分は預かっていた。私の手持ちに魔法媒介になりそうな武器がこれしかなかった。だって私、魔法媒介いらないし。
「はい。ありがとうございます。んんんん…水の刃!」
再度放たれた魔法はさっきの3倍の威力がありそうな水の刃。ヤンに殴られているマーベラスボアの首に着弾し、今度は綺麗に首と胴体をお別れさせたのであった。
バトルシーンって難しいですね。私、ジャ○プ派ではなくヤン○ガ派だったもので。バトルシーンは苦手っぽいです。




