ヤンの話
ヤンは語り始めた。
「四獣将のひとりシュウ様は狐人族なんだ。リーユーたちはシュウ様の分家筋になる。シュウ様の家は代々獣王の近くで仕え、力のある者は今代のシュウ様みたいに四獣将になったりする。リーユーの家は魔族領との境目に集落を作り魔族の侵入に備える。そうやって狐人族は長年上手くやってきたって聞いた。オレの家は代々リーユーの家に仕えていたんだ。」
「仕えていたならリーユーに『様』を付けなくていいのかい?シュウには付けるだろう?」
「まだ子供だからな。子供のうちはみんな対等。大人になって力をつけ、役職なんかを貰って初めて尊敬される。それが獣人族だ。」
「なるほどな。」
獣王の子でも弱ければ尊敬されないってことか。さすが戦闘種族。
「大魔導師ハリムの母親は獅子人族って聞いたことあるけど知らないのか?」
「ああ、私の母は流浪癖があったからね。獣王国に長期滞在したことないし周りに子供がいたことないからね。続けて。」
「狐人族は長年そうやって上手くやってきたらしいんだけど、この子リーユーが生まれてから変わったんだ。シュウ様がリーユーの才能に気づいてしまった。」
「リーユーの才能に?四獣将とは言え一介の魔導師がか?」
私でも目の奥を覗かないと気付かなかった。
「獣王国の四獣将を『一介の』って言えるのはハリムくらいだよ?」
リーユーと戯れているサラが突っ込んでくる。
「ああ、狐人族の毛の色っていうのはさ、本来黄色なんだよ。リゴウ様…リーユーの父親でオレたちの集落の長なんだけどさ、リゴウ様もシュウ様も他の狐人族たちもみんな毛の色は黄色だった。でもリーユーは毛の色が黄金色だろ?これが魔力をたくさん秘めている証らしいんだ。」
「なるほど。」
そんな分かりやすい特徴があったのか。
「シュウ様は焦ったんじゃないかな?獣王の近くに仕える地位を息子の代で奪われるんじゃないかって。オレたちを逃がすときリゴウ様がそう言ってた。」
「まぁそう考えるかもな。」
「1ヶ月前、ついにシュウ様は強硬策に出たんだ。下級魔族50人をオレたちの集落にけしかけたみたい。」
「それで君たちだけ逃がされたわけか。」
「うん。みんな頑張って戦ったけど、集落は壊滅状態だった。リゴウ様はオレたちに逃げろって。獣人に頼らずヘルミナ王国に行けって。宮廷魔導師ミラの祖母は獣人族だからきっと助けてくれるって。」
そのときの情景を思い出したのかヤンの目に涙が溜まり零れ落ちる。
「リゴウはなぜ君にリーユーを?」
「リーユーは生まれてから今まであまり人になつかないんだ。なついたのはリーユーの母親のシュンコウ様とオレだけだった。父親のリゴウ様にもなつかなかった。だからだ。」
「そのシュンコウ様っていうのはどうなったんだ?」
「一緒に逃げたよ。でもここまで来る道中にシュウ様の部下らしき獣人に襲撃されてさ、オレたちを庇って死んでしまった。シュンコウ様…うぅぅぅぅ。」
ヤンはついに声を出して泣いてしまった。泣き止むのを待つ。
「大魔導師ハリム、いやハリム様!」
「なんだい?」
「あんたはヘルミナ王国のマイクって化け物を育てたんだろ?」
「マイクが化け物?そんなに強かったかな?」
「見たことないけどシュウ様が言ってたことがある。」
「北部方面軍の総司令官にそんなこと言えるのはハリムくらいだよ…」
またサラに突っ込まれた。
「まぁ育てたのは私ではなくミラだが、戦いの手解きは少ししたことはあるな。それがどうした?」
「オレを弟子にしてくれ!オレは強くなりたいんだ!」
「仇を討ちたいのかね?」
「そうじゃねぇ。なくはないけど、オレも獣人族の端くれ、負けた方が悪いって昔から教えられてきた。」
「じゃあどうしてだ?」
「今度あんなことがあったら大切なものを守りたいんだ!オレは大切なものを、大切な集落を、優しいシュンコウ様を守れなかった!次は絶対に守りたいんだ!」
うむ。実は私の中ではリーユーを弟子にすることは決定していた。今ある魔力だけでもミラあたりなら軽く凌駕するほどの魔力を秘めているからだ。魔王のこともある。是非弟子にほしい。でもヤンはどうだろう?見た感じ才能は微妙。年齢もたぶん8、9歳なので獣人の成人の10歳にもうすぐだ。伸び悩むのではなかろうか。しかしやる気は凄いな。どれだけ才能があってもやる気がないと伸びない。しかしやる気さえあれば、どこまでも伸びる可能性はある。サラとナタリアと組ませればいい相乗効果を得られるだろうか。やってみるか。
「ああ、いいよ。そのやる気に期待する。私の修行は厳しいぞ?」
「ありがとう!望むところだ!」
「き、厳しいのか…」
サラはびびっているな。サラに厳しくする気はない…かも?
「では今からクリミドにある私の家に案内する。付いて来なさい。」
「おう!じゃなかった。はい!」
私はヤンとリーユーを抱いたままのサラを連れ、子供たちと遊んでいたナタリアとエドワードを回収して、レイラたち保母と子供たちに挨拶して孤児院を出たのであった。
「あの、ハリム。あたしちょっと腕が痛くなってきたんだけど…」
孤児院を出るとずっとリーユーを抱いたままのサラが言ってきた。
「ああ、ごめん。そうだよな。ちょっと待って。」
私はリーユーに右掌を向け
「浮上。どう?」
リーユーに重力魔法掛けた。リーユーの体重は10分の1くらいになったはず。魔法を掛けている間ずっとリーユーは私の右掌をじーっと見ていた。ん?どうした?
「わっ。凄い!軽い!これならまだまだいける!ハリムありがとう。」
私がサボりたかっただけ。心が痛い。
そんなことを考えているとリーユーはヤンにおもむろに右手の人差し指を向けた。なんだ?魔法か?
「浮上。」
「わっ。」
「「え?」」
ヤンも私もみんな驚いた。リーユーは重力魔法をヤンに掛けたのだ。ヤンが低空をプカプカ浮かぶ。なんだこの子…見よう見真似で重力魔法を使ったのか?思った以上の拾い物かもしれないな。
「すげぇ。僕も。浮上。」
エドワードも真似をしてナタリアに掛けてみている。エドワードにはまだちょっと難しいかな?って思ったときもありました。
「きゃっ。」
いつも冷静なナタリアがかわいい奇声。ナタリアもプカプカ浮かんだのであった。なんなんだ、このチビッ子二人は。
サラはほへーと驚いている。
「さて、クリミドに行くよ。何か思い残すことはないかい?」
私はみんなに聞く。
「あの…」
「なんだい、ナタリア?」
「私ここまで来たら『氷国』を見てみたいです!」
「『氷国』か…」
『氷国』とは私が『氷結』という二つ名で呼ばれるようになった場所で私が氷魔法の封印を決意した場所。150年前の魔族大進攻、10万人の下級魔族を従えた上級魔族10人がヘルミナ王国と獣王国の間、そこにはまだ他に国があったのだがそこに攻めてきたのだ。最終決戦があったのはハイエルフが住む森のすぐ手前、アルドバニア王国という小さな国。国民の大半をなんとか避難させ、ヘルミナ王国軍、獣王国軍とときの拳聖、アルドバニア王国軍、ハイエルフの有志、そしてヘルミナ王国から要請を受けた私の総勢15万人で迎え撃ったのだ。魔族たちは通り道を焼け野原にしながらやってきた。まさに死闘だった。こちらの兵士たちは半分ほどが逃げ半分はみんな死んだ。下級魔族もみんな死んだ。拳聖も上級魔族3人を道連れに死んだ。最後に残ったのは私と上級魔族7人。私は全身怪我だらけで限界だった。人族領を守りたい一心で私の攻撃魔法の中で最大最強の氷魔法『絶対零度』を全力で放ったのだ。残ったのは一面の氷の世界。アルドバニア王国の城などの建物も森などの木々ももちろん上級魔族も。全て砕け散って消えてしまった。ヘルミナ王国、獣王国、ハイエルフたちからは英雄扱いされたが、何も言われなかったがアルドバニア王国の人たちにはさぞかし恨まれたことだろう。アルドバニア王国のあった場所はいまだに氷の世界。徐々に表面温度は上がっているらしいが150年経った今でも草1本生えない。
「わかった。行こうか。近くに転移してそこから飛んでいくよ。上空から見よう。あそこはまだ降り立てないんだ。」
私は転移魔法を起動した。
ルーチェと会うところまでたどり着けませんでした。




