ヘルミナ王国
魔王と会った日の夜、『シーサイド』にやって来た。ひとりなのでカウンターに座る。まだビオーラは登場していない。
「ウイスキーをロックで。あと何か摘まむ物をくれ。」
ウイスキーをちびちび飲みながら登場を待っているとビオーラが現れた。ビオーラは演奏台の前で客に向かって一礼すると演奏台に上がり椅子に座り、私の方を見て1度微笑んでから、リュートを奏で、透き通るような美声で軽やかに歌い出した。定番の『蕀の魔女』と『氷結の魔導師』の恋の歌…じゃなかった。『吟遊詩人』が異国の男に捕らえられたところを『カタナの魔導師』が助け、二人は愛し合う…そんな歌。どこかで聞いた話だな。まぁいいか。演奏が終わると拍手喝采であった。閉店後のことは…素敵な大人の時間だったよ。
朝、また会う約束をしてビオーラの泊まっている部屋を出る。
「あ、これ、生活の足しにしてくれ。」
そう言って帝国ギルドで受け取った報酬全部置いてきた。
「今日はヘルミナ王国の孤児院に行こうか。社会勉強で。」
食堂で朝食を食べていたナタリアとエドワードと合流して二人を誘う。ドラゴンはまた明日。急ぎじゃないって言ってたし。優秀な子供を探すって目的もある。まぁそんなに都合良くは行かないだろうけど。
「孤児院…行きます。」
「ヘルミナ王国行ってみたい!」
「私は明日からミシビ王国にドラゴン退治に行く予定なんだ。少し時間が掛かるかも知れない。二人は今夜からランペドの私の屋敷に移動してもらう。そこでいい先生と同じ弟子になる子を紹介するよ。」
「「はいっ。」」
「ナタリアちゃんとエドくんとはもうお別れ?寂しくなるわ。」
とアンナ。またすぐ会えるさ。
ナタリアとエドワードを連れてヘルミナ王国の首都ヘルミニアにやってきた。もちろん転移で。ヘルミナ王国は隣のガーバイル獣王国と常にどんぱちしている。獣王国から攻めてくるのだ。ヘルミナ王国と獣王国の東側には大きな森がありハイエルフたちが住んでいる。獣王国とハイエルフの間には不戦協定が結ばれているらしい。獣王国とは文字通り獣人の国。戦闘民族の国。でもハイエルフとの不戦協定。獣王国は魔族領かヘルミナ王国に攻めるしかないのだ。昔は間に何個か国があったんだが全部攻め滅ぼしてしまった。なのでヘルミナ王国には孤児が多い。国とマリア教、あと聖王国の聖アレフ教が孤児院を出しているがぜんぜん足りないため私も出資して孤児院を建てた。じゃあ、仲裁すればいいじゃないかと言われるかも知れない。実は獣王国の今の獣王は私の母の弟の子孫。ひとこと言えなくもない。でも国同士の問題にあまり首を突っ込みたくないし、拳聖が突っ掛かってきてウザい。余計被害が増えてしまう。ちなみにクリミド商国と帝国にももちろん孤児はいるが、国と宗教系の孤児院で十分足りている。
ヘルミニアの城の近くにある大きな屋敷の前にやってきた。遠くに『迷いの古城』が見える。シャーロットやみんなは元気かな?まぁ不死人だから元気か。ミザリは暴れてないかな?挨拶せずに出て来たから心配だ。ミザリはシャーロット以上に寂しがり屋だからなぁ。
「ちょっとここに寄ろうか。」
「え、この大きなお屋敷ですか。ヘルミナ王国の大貴族ですよね。」
「ああ、ちょっと娘と孫に挨拶を。」
「え?娘?孫!?」
私はソフィアが初めての子ではない。母が死んでから260年数多の女性を抱いたのだ。子供くらい出来る。他にも何人かいるが…また別の話。
「おかえりなさいませ、ハリム様。」
「ああ、ただいま。いつもご苦労様。」
門番に挨拶して門をくぐり玄関まで歩き扉を開け中に入る。
「これはこれはハリム様。おかえりなさいませ。」
中にいた執事が挨拶してきた。
「ああ、ただいま。ミラはリビングにいるかい?」
「いえ、ミラ様は研究室にございます。」
「では、私たちはリビングに行くので、ミラを呼んでくれるかい。」
「かしこまりました。」
執事は2階に上がっていく。私たちは1階にあるリビングへ移動し、ソファーに3人並んで座り少々待つ。
「ヘルミナ王国のミラ様…聞いたことあります。宮廷魔導師筆頭ではありませんか?」
「ああ、そうだよ。」
「宮廷魔導師筆頭…」
ナタリアの質問に肯定するとエドワードは驚いているが、肩書きが長いだけ。強さはエドワードとあまり変わらないよ。水系の魔法を最上級まで使えるくらいだ。今はその上の研究に没頭している。
「お父様!いつこちらへ?よく城じゃなく、ここだとわかりましたねっ。そのお子たちは?私の兄弟ですか?」
私の娘、ミラはリビングに入って来るなり質問責め。兄弟って…ソフィアと一緒。さすが姉妹。
「ヘルミニアに着いたのはついさっきだよ。屋敷の方に大きめな魔力を感じてね。この子はナタリア、こっちの子はエドワード。いろいろあって私が預かることになったんだ。兄弟ってソフィアと同じことを言うね。」
「大きめとは相変わらず失礼ですね。お父様やシャーロット様と比べないでください。こう見えてもヘルミナで1番の魔導師なんですよ?ナタリアちゃん、エドワードくん。初めまして。私はヘルミナ王国宮廷魔導師筆頭ミラ=オーティス侯爵です。よろしくね。お父様、ソフィアとは?」
ミラとの会話は忙しい。ナタリアとエドワードが挨拶している。
「ソフィアはデギル帝国の現皇帝だよ。私の子供、お前の妹だった。」
「あらあらまあまあ、敵国の皇帝が妹ですか。お父様は前皇帝と仲良かったですものね。一度お会いしたかったです。」
「今帝国と仲悪いの?」
「昔から帝国はどこの国とも仲良くしませんよ。国教であるマリア教の本山がある神国と遠くて金のなる木、クリミド商国くらいではないですか?」
「ああ、昔からそうだったな。」
帝国人たちは人族領の盟主は帝国だと言って憚らないからな。
「ああ、そうだ。先日前皇帝のオリビアが亡くなったんだ。国葬は1ヶ月後。そろそろヘルミナにも案内状が届くんじゃないかな?身分的にお前が行くことになるんじゃないか?」
「あらそうでしたの。残念でしたね。私の母の時でもそうでしたからお父様ずいぶん落ち込んだのでしょう?そうでしたら、私が行くことになるでしょうね。王を敵国に送り込むわけにはいけませんし。ではその時に会えるのですね。楽しみができました。」
「ああ、落ち込んだよ。苦しくて死ぬかと思った。」
ミラの母親のときもそうだが、人族との恋愛は本当に辛い。止める気はないが。
「トーマスとマイクは?元気?」
私の孫ね。
「トーマスは宰相ですから城の執務室でしょう。マイクは北部方面軍の総司令官ですので北部戦線にいるのではないでしょうか。四獣将当たりが出てきたら我が国では相手出来るのはマイクだけですのでなかなか帰って来ませんね。お父様、激励に行ってあげてくださいな。」
「え、やだよ。私が行くと拳聖が出てくるよ?被害が広がってしまう。」
「そうでしたね。残念です。」
二人とも頑張っているんだな。ちなみにミラの旦那さんも亡くなっている。人族だったので。もう結婚はしないみたい。ミラも辛かったのだろう。
「お父様、今日のご予定は?」
「ああ、ここで昼食を食べたら、私の孤児院にこの子らを連れて視察に行こうと思っている。」
「そうでしたか。ちょうど良かったです。実はお父様に頼みがありまして。」
「ん?なんだ?孤児院で何かあったのか?お金が足りないとか?」
「お金は十分頂いてます。実はですね。最近ヘルミニア近郊で獣人の子供を二人保護したのです。今お父様の孤児院にいます。」
「何!?獣人の子供?いじめられているんじゃないか?」
「そうなんですよ。我が国は獣王国と戦い始めてから長いですからね。国民は皆獣人に対する偏見が激しいのです。孤児院の子らもみな親を獣人に殺されたようなものです。保母たちが頑張っていますがちょっと難しいですね。帝国か商国の孤児院にでも預けて貰えませんか?あちらの方は大丈夫ですよね?獣王国には帰りたがらないのです。」
「ああ、そうだな。1度会って話してみるよ。ではお昼にしようか。」
4人で食堂に移動し昼食を楽しむのであった。
ハリムさん、ビオーラにどんと800万円です。よっ男前。
260年好き勝手して子供がミラとソフィアだけではハリムの種が心配になったので、他にもいる設定にしました。他のもそのうち出てくるかも。




