出発前
「シャワラムに買い出しと冒険者ギルドに依頼完了の報告と、あとロマニコフから金をせびってくるよ。」
私は朝食を取ったあとリビングで出掛ける報告をシャーロットにする。
「えー、また出掛けるのでありますか。ついこの前出掛けたばかりではありませんか。」
「この前って、もう半年前なのだが…」
「わたくしたち不死人にとったら半年前はついこの前なのですわ。」
「まあそうなんだろうけどさ。古城の食糧がそろそろあやしいんだ。仕方ないだろ。」
「わたくしの愛を受け入れ、ハリムも吸血鬼になったらいいではありませんか。」
「愛は受け入れてるけど、吸血鬼はちょっと覚悟が。」
吸血鬼というのは、種を残す方法は2つある。出産と血の契約である。吸血鬼は吸血鬼同士でないと繁殖することができない。だが、それを解決する方法がある。血の契約である。魔力を込めて相手の血を吸うことで他種族を吸血鬼にすることができる。シャーロットからずっと迫られているが断っている。まあ男女の関係はあるのだが…
「ふーん。また宿屋の小娘に会いに行くのですわね。」
「そそそんなわけなないだろっ。まあ『月夜亭』には泊まるけどさ。あくまで拠点だよ。」
「すごく動揺されているようですが…ふぅ、仕方ありませんわね。では、このわたくしが作ったマジックバッグ、ロマニコフに売ってきてくださいませ。」
シャーロットは仕方なく納得しながら、綺麗な装飾のされた肩掛けの鞄を渡してきた。ロマニコフというクリミド商国の商人は1度この古城に連れてきたことがあるのでシャーロットも面識がある。
「中にもう20点ほど入っておりますわ。」
「おお!さすがシャーロット師匠。センスがいいな。」
「し師匠はやめてくださいませ。もうハリムの方が強いではありませんか。」
「んー。どうだろう。全力で戦ったら私の方が勝つかもしれないが、私の魔法は環境破壊が激しいからな。それを考慮して戦うと負けるんじゃないか。」
「ふふふ。頼もしいですこと。この調子で早く魔王を倒してわたくしをここから解放してくださいませ。」
「そうだよな。私とシャーロットでまだ足りないか?」
「そうですわね。魔王だけならなんとか倒せるかと思いますが、彼には強力な側近が何人もおります。戦力がちょっと足りませんわね。」
「んー。そうか、戦力か。30年前に消えたドラゴンと3人ならなんとかなった?」
「彼女と同級がもう3、4人必要ですわね。」
「白竜姫と同級って…なにその無理ゲー。」
「あら人族にもいるじゃありませんか。勇者に聖女に拳聖と剣聖。」
「げ。あいつら性格くそだもんよ。一緒に戦いたくねぇよ。」
「あら、それは数代前の話ではありませんか。今の彼らはそんなことないかもしれませんわよ。」
「いやいや、あいつらは小さいころからチヤホヤされて育つからどうしても性格が歪んじゃうんだよ。もう懲りた。」
特に勇者と聖女な。やつらは10歳になる前に指名され、それから特別な生活を送る。そうじゃないと強力な魔物や魔族に対抗する国の最高戦力とはなり得ないからだ。
「まぁなにか考えないとな。私も寿命がいつ来るかわからないしな。」
「ふふふ。そのための血の契約ではありませんか。老いはじめたらひと咬みしてさしあげますわ。」
「まぁそうだよな。シャーロットを解放する前に死ぬわけにはいかないしな。そうなったらよろしく頼むよ。」
「はい。いつでも。」
シャーロットは妖艶に舌なめずりをした。
私はため息を吐きながら、外套に袖を通し腰に剣をさした。
「行く前に血をいただけませんか。」
シャーロットは私の血を要求する。魔力を込めなければ吸血鬼にならないので大丈夫。
「ああ、いいよ。」
私は白いシャツのボタンを3つ外し、外套とシャツをずらして右の肩を露出させる。
シャーロットは静かに近づいてきて私に抱きつき胸に顔を埋める。豊満な胸が鳩尾付近に押し付けられる。今日は薄い赤色の胸元が大きく開いたロングドレスだ。私が着たころはそうでもなかったが、私が住み始めるとお洒落をしてくれるようになった。かわいいやつだ。私は右手でシャーロットの腰を抱きしめ左手で綺麗な肩の高さで切られたストレートの青みがかった銀髪を撫でる。
「ふふふ。昨晩もあれだけ激しかったですのにお元気ですわね。」
シャーロットは不敵な笑みを浮かべて私を見上げる。
「まままだ若いんだよ!仕方ないだろっ。」
「ふふふ。相変わらずかわいいですわね。」
シャーロットが私をからかいながら浮くのを感じたので、右手の拘束を緩める。
「そういえば吸血鬼が飛ぶのは重力魔法じゃないんだったか。」
「さあ、どうなんでしょう。物心ついたころから飛べましたので意識したことがございませんわ。吸血鬼は飛ぶものですわ。」
「どんな理屈だよ。」
「ふふふ。今度研究してくださいませ。」
シャーロットは私の右肩に顔を近づけるを噛みつき血を吸い始めた。
「魔力を込めるなよ。」
あんな話をしたばかりだからちょっと怖い。
シャーロットが少しうなずくのを肩に感じながら少し待つ。尖った犬歯が肩から抜かれるのを感じる。
シャーロットは飲み終えると私から離れた。
「ご馳走さまでございました。」
「お粗末様でした。ずいぶん飲んだよね?」
「ふふふ。当分会えませんからね。吸い貯めです。活動に支障をきたすほどではありませんわ。」
そういってちろりと舌を出す。
私はため息を吐きながら、服を直した。
「じゃあ行ってくるよ。」
「はい。お土産期待しておりますわ。」
「ああ。転移魔法発動、行き先ランペド。」
私は転移魔法でランペドに飛んだのであった。