吟遊詩人ビオーラの恋
ビオーラ視点です。
わたしの名前はビオーラ。吟遊詩人をしております。年齢は25になったみたいです。見た目は…ふふふふ。悪くはないと思いますよ。
わたしは相棒のリョートとともにいろいろなところへ行き、いろいろなところで演奏し歌います。評判のいい歌は『蕀の魔女』と『氷結の大魔導師』の恋の物語。魔王によって『迷いの古城』に閉じ込められた『蕀の魔女』を『氷結の魔導師』が助け二人は恋に落ちる話です。わたしもいろいろな方と恋をしましたが、まだ愛した方はいません。わたしも『蕀の魔女』のように助けられればその方を愛することができるのでしょうか?実際はまだ『迷いの古城』が解放されていないことは有名な話ですので、まぁ創作ですよね。
あるときクリミド商国という国にやってきました。クリミド商国は商人の国だからでしょうか。お金の支払いがとてもいいです。いつもお金に困るとクリミド商国にやってきて歌います。その中でもシャワラムという港町は活気があり、この大陸ではない国の方と出会えたりするから好きです。
首都のキャリアンまでやってきました。商業ギルドに行き掲示板に貼られている求人を見ます。…たくさんありすぎてわからないですね。受付の方に聞きましょう。
「吟遊詩人の求人はございませんか。」
「少々お待ちください。」
少し待ちます。
「これなんてどうでしょう。ここキャリアンにある大衆居酒屋で激しい演奏。」
「激しいのはちょっと…」
わたしは緩やかに奏でるタイプです。
「ではこれは。シャワラムのちょっと小洒落た居酒屋『シーサイド』雰囲気のいい曲希望。」
「ああ、それがいいですね。それにします。」
「では、申し込んでおきます。貴女は直接現地へ行ってキャリアンの商業ギルドで申し込んだ旨を伝えてください。」
「はい。承知しました。」
良さそうなのがありました。『シーサイド』、聞いたことがあります。たぶんあそこです。
キャリアンから宿場町ランペドまで半日、ランペドからシャワラムまで半日、上手くいけば1日で着けます。
キャリアンでもう1泊し次の朝1番の馬車に乗ります。なんとか座れましたが朝早い馬車は混んでいて窮屈です。他の国ではこんなことはありません。商売の神様はせっかちな人を好むと聞きます。やはり商人はせっかちなのでしょうか?
無事ランペドの西門に到着しました。シャワラム行きの馬車は東門です。西門から東門までは歩くと一刻以上掛かります。仕方ないので乗り合い馬車で東門に行きます。なんとか正午出発の最終便に間に合いました。中には商人がひとり座っていました。ん?この方、キャリアンからずっと一緒ですね。それにしても今日は朝から何も食べていないのでお腹が空きました。座って待っていると綺麗な顔をしたハーフエルフの方が乗ってきました。まぁエルフ族の方はみな綺麗な顔をしているのですが。その綺麗な顔に騙された女性は酷い目に合うのです。
「こんにちは。」
わたしの顔をジーっと見てくるので挨拶しました。
「やぁこんにちは。こんな綺麗な女性と一緒の馬車とは幸運だな。吟遊詩人さんかな。」
さすが生まれながらの女ったらしハーフエルフ。自然と誉め言葉が出てきますね。
「ええ、今晩シャワラムの街の飲み屋で演奏する予定があるのよ。是非いらして。」
「今晩は難しいが是非聞きたいな。いつまでシャワラムにいるのかな。」
「1週間はいる予定。気に入ったらもっといるかも。港の近くの繁華街にある飲み屋よ。是非探してね。」
「ああ、きっと行くよ。」
これでお客さんひとりゲットでしょうか?
護衛の冒険者が乗り込んできて出発しようとしたとき子供が二人走り込んできて乗せました。なんかバタバタですね。
馬車が走っていると走り込んできた子供のひとりのお腹がなりました。わたしもなる寸前でしたので思わず笑ってしまいました。
そうしたらハーフエルフの方が空中から籠を取り出し中に入っていたサンドイッチを乗客、冒険者全員に振る舞ってくれました。それからくらいでしょうか。隣に座っている冒険者の女の子がハーフエルフの方をチラチラ見るようになりました。ふふふ。ハーフエルフに騙されてはいけませんよ?
馬車は順調に進みあと一刻でシャワラムといったところで事件は起きました。他国の騎士が襲撃してきたのです。冒険者の方が対応します。怖いです。
「あたしはクリミド商国の冒険者魔法少女サラ。そのイカルディ王国の騎士様がなんの用よ。他国じゃないの。」
さっきの冒険者の女の子が啖呵を切ります。サラちゃんというみたいです。でも騎士の方たちは構わず突っ込んできてサラちゃんと冒険者のひとりがぶつかって気を失ったみたいです。
「攻撃したな。命だけは助けてやろうと思ったがお前ら全員ここで死ね。」
という騎士の声が聞こえてきました。誰が攻撃したのでしょうか?勘弁してください。ああ、わたしの人生はここで終わるのです。1度くらい人を愛してみたかったです。リュートを抱いて震えます。
するとハーフエルフの方が立ち上がりました。
「大丈夫だよ。」
そう言って出入口から出て行きました。大丈夫じゃないです。ハーフエルフは人族より基本魔力、体力とも高いと言われていますが、相手は騎士です。兵士ではなく騎士なのです。騎士は兵士の中のエリート中のエリート。勝てるわけがありません。わたしは出入口から外の様子を見ます。すると騎士がひとり転けていてハーフエルフの方がサラちゃんを治療しています。優しい手付きです。女ったらしです。騎士の方は石にでも蹴躓いたのでしょうか?
サラちゃんの治療を終えるとハーフエルフの方が名乗ります。
「おっとこれは失礼。私はハリムという。しがない冒険者だよ。」
ハリム…ハリムハリムどこかで聞いたことがあります。あ、わたしが歌う歌に出てきました。
「ハ、ハリム…あの『氷結の大魔導師』の?」
状況も忘れて聞いてしまいました。
「ああ、懐かしい二つ名だね。今は氷魔法は封印してるのだがね。」
肯定されました。信じられません。物語の中のヒーローが目の前にいるのです。そして彼は本当にヒーローでした。ふっと消えたかと思うと少し離れたところに現れました。そしてゴーレムを召喚して騎士たちと戦わせます。わたしはいつの間にか馬車を降りてハリムさんを目で追っていました。ゴーレムがいなくなったと思ったら今度は騎士たちとどんどん空に上っていきます。どういう原理でしょうか?これハリムさんがやってるんですよね?やられてないですよね?見上げますが見えなくなってしまいました。必死でハリムさんを探します。すると黒い点が凄い速さで落ちるのが見えました。心臓が止まるかと思いました。
「ハリムさんが無事でありますように。ハリムさんが無事でありますように。」
呟きながら念じます。
「やぁただいま。」
真後ろから聞こえてきました。すごく驚きました。また心臓が止まるかと思いました。この胸のドキドキは驚いたからですよね?恋じゃないですよね?わたしは思わずハリムさんの方に走りよっていました。わたしより行動の早い人がいました。サラちゃんです。サラちゃんはハリムさんに抱きつきました。なにかモヤモヤします。わたしは淑女、抱き付くなんてはしたない。わたしは彼の左腕をそっと掴みます。
「ご無事でしたかハリムさん。良かったです。とても高いところから落ちたように見えましたが。」
「あれは落ちたんじゃなくて落としたんだよ。心配かけたかな?ごめんね。」
よくわかりません。あ、わたし名乗っていませんでした。名前を覚えていただかないと。
「ふふふ。ご無事で何よりです。わたしの名はビオーラと言います。以後お見知りおきを。」
「ああ、ビオーラね。とてもいい名前だ。美しい君にピッタリだ。」
ああ、なぜか胸が苦しいです。
みなで馬車に戻りました。隣のサラちゃんはチラチラからガン見に変わっています。
「サラちゃん、ハリムさんのことが好きなの?」
わたしは聞きます。
「え、あのいや、そんなわけ、あわわわわ。」
なんてわかりやすい。なんてかわいい子なのでしょう。あれ?こんなにかわいい子でしたっけ?あ、ヘアピン!
馬車を降りたあとサラちゃんを捕まえて聞きます。
「そのヘアピン。サラちゃんしていましたか?」
「ん?あれ?おお!頭になにかある。気付かなかった。」
こんなことをするのはハリムさんでしょう。きっと治療したときです。
二人でハリムさんの元に行きます。やはりハリムさんでした。羨ましいです。そんなことを思っていたら、
「そうだ、二人とも右手を出して。」
わたしはちょっと期待しながら素直に従います。
大きな青い宝石の付いた指輪が二人の右手の人差し指にはめられました。サラちゃんとお揃いです。女心がわかってないです。でもこんな高級そうな物をもらったのは初めてです。素直にうれしいです。
「これも魔導具だよ。命の危機があったらこの指輪に魔力を込めて宝石部分を床に押し当てなさい。きっとその問題を解決してくれるから。今回出会ったのも何かの縁だ。二人にあげるよ。」
これは魔導具でした。いったいいくらくらいするのでしょうか?わたしでも扱えるのでしょうか?魔力を込めるってどうやるのでしょう。
「あら、ありがと。左手の薬指でもよろしかったのに。」
ちょっと冗談ぽく言います。わたしのプライドです。
「おいおい。私はハーフエルフだよ?」
「ふふふ。伝説の魔導師のハーフエルフ。危険な恋の臭いがするわ。」
ええ、もう胸のキュンキュンが止まりません。
暗くなったので店まで送ってもらうことになりました。ハリムさんひとりではありませんが。
サラちゃんがまた積極的です。モヤモヤします。この子は天然でしょうか?嫌味がありません。
「あらあら、サラは積極的ですね。」
わたしが嫌味を言ってしまいました。
「せ、積極的って…え、あ、そのあわあわあわ…」
なんていい子なんでしょう。この答えでわたしの嫌味が嫌味じゃなくなりました。敗北感です。
「なるほど。この店なら何回か使ったことがある。店主にひとこと言っといてやろうか?」
ふふふ。ハリムさんは優しいですね。
「大丈夫よ。ありがと。こう見えてもプロですもの。じゃあ行くわね。みんなもありがと。じゃあまたいつかね。」
最後の強がりです。ああ、わたしの恋。愛に変わる予感がある恋。でもきっともう会えないのでしょう。
『シーサイド』に入ると店主さんに早速今からできるかと聞かれました。了承します。今わたしはいつもより相棒を奏でたい気分。ハリムさんを想って奏でます。いつもより大きな拍手をいただくことができました。
吊り橋理論を狙いました。まぁラノベの恋愛は基本吊り橋理論ですが。




