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大魔導師の育成  作者: 春夏秋冬
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オリビア

「ハリム様、父上とお呼びしても?」

「ふぇ、あ、ああ、構いませんよ。皇帝陛下。」

「ふふふ。父上。ソフィアとお呼びください。言葉遣いももっとくだけていただいても構いません。父上ですもの。」

「あ、ああ。」

私たじたじ。オリビアと私の子?まぁやることはやっていたからそうだよな?ハーフエルフだし。40年ほど前に子が出来たとは聞いたが私とのだとは一言も言っていなかった。20年ほど前まではここにちょくちょく遊びに来ていたんだけど一度も会わせてもらえなかった。20年前に剣聖と勝負をして負けたのが悔しくてそれ以来宮殿の方にはあまり近付かなかった。放出系の魔法は使わなかったとはいえ、身体強化に飛行魔法に転移魔法はバリバリ使った。300年近く研鑽した剣術が人族の20歳にもならない少年に負けるとは思わなかった。才能って怖い。

「そちらのお子様は?わたくしの兄弟ですか?」

「違うよっ。普通の人族だろ?」

「ふふふ。イカルディ王国の元ベロン伯爵家の長女ナタリアと次男エドワードですわね。初めまして。父上が1枚噛んだのですね。イカルディ王がかわいそう。」

「初めてお目にかかります皇帝陛下。私は今はただのナタリアでございます。以後お見知りおきを。」

「はじめまして皇帝陛下。以後お見知りおきを。」

二人は頭を下げたまま挨拶する。さすが皇帝陛下、すごい情報力だ。


「さて、父上。ここに来ていただいたのは他でもありません。母オリビアがもう長くないのです。」

ソフィアがそう言うと大臣やサウザンドナイツの何人かが顔を伏せて泣き始めた。剣聖の野郎も泣いている。剣聖の野郎は無口な一匹狼みたいなやつだがオリビアに見出だされたからか昔からよくオリビアにだけはなついていた。

「そうかオリビアが…頼む、会わせてくれないか。」

「もちろんです。それが母の最後にして最大の望みですから。」

そう言ってソフィアは優雅に歩き出す。そのあとに付いていく。ナタリアとエドワード、あとアブラムと剣聖も付いてきた。


一団が1つの部屋の前に到着した。

部屋の外に立っていた男が何も言わなくても扉を開けてくれた。

中は天蓋付きの大きなベッドがひとつ置かれていてそこにひとりの老女が眠っていた。オリビアだ。昔の面影はあるがずいぶん痩せている。しわも多い。お世話の女性だろう二人が立って頭を下げている。

私は進み出てベッドの横に両膝をつき両手をベッドの中へ入れてオリビアの手をにぎる。すると眠っていたオリビアはゆっくりと目を開けた。

「オリビア。ハリムだよ。わかるかい?」

「まあ、ハリム。久しぶりね。ぜんぜん来てくれないんですもの。寂しかったわ。」

かすれた声で答えてくれた。自然と涙が溢れてきて頬をつたう。

「ああ、ずいぶん待たせちゃったね。加減はどうだい?」

「ずいぶんいいみたいよ。貴方が手を握ってくれるんですもの。気分もよくなるわ。何年ぶりかしら。」

「こんなことならいつでも大歓迎だよ。明日も握りにくるよ。」

右手でオリビアの手を握ったまま、ベッドの縁に腰掛けオリビアの顔を覗き込み左手で頭を撫でる。

「ハリムは変わらないわね。いつまでもカッコいいまま。」

「オリビアもいつ見ても綺麗だよ。」

「ふふふ。今夢を見ていたのよ。ハリムが私を宮殿から連れ出していろいろ連れていってくれたときの夢。ああ、あのころは楽しかったわ。伝説の『迷いの古城』や北の海の真ん中にある無人島…歴代の皇帝たちでも私ほどいろんなところに行った人はいないわね。あの頃が人生で1番楽しかったわ。」

「ああ、私もだ。オリビアと過ごす時間は私の宝物だった。昔私が探していた剣があっただろう。あれが漸く見つかったんだ。南東の方、帝国からだと東になるのかな?『フジ』という島国があるらしい。なんでも木造建築の発展した国みたいだよ。場所を特定してくるから今度一緒に行こう。」

「ふふふ。また私を誘ってくれるなんてうれしいわ。『フジ』…行ってみたいわ。でも、もういいのよ。ありがと。他のだれかを連れていってあげて。」

「そんなこというなよ。一緒に行こう。私はオリビアと行きたいんだ。」

もう涙が止まらない。

「ソフィアにはもう会った?」

「ああ、今私の後ろにいるよ。」

「驚いたでしょ。」

オリビアはイタズラっぽく微笑む。

「ああ、凄く驚いた。父上って呼ばれたときは心臓が止まるかと思ったよ。どうして教えてくれなかったんだい。」

「ふふふ。ハリムはまだ死んではダメよ。こういう日のために内緒にしておいたの。」

「内緒にすることじゃないだろ。私も子育てしたかったよ。」

「あらあら、ハーフエルフらしからぬ発言ね。でもハリムならそういうと思ったから言えなかったのよ。ここは帝国よ。私が子育てできるわけないじゃない。」

「そう、まあそうだよな。」

「ハリムと私の子。私の唯一の子供。美しく真っ直ぐに育ったわ。」

「ああ、そうみたいだね。若いころのオリビアにそっくりだ。」

「でも少し真っ直ぐすぎるの。帝国の皇帝としては致命的よ。ハリム、目をかけてあげて。たまに助けてあげて。」

「ああ、わかった。約束する。」

「ソフィアいるの?」

「はい、お母様。ここに。」

ソフィアは泣いている。

「困ったことがあったらハリム、お父さんを頼りなさい。お父さんは私のスーパーマンなんだから、なんでも解決してくれるわ。」

「はい。わかりました。」

「アブラム。」

「はい、ここに。」

「ハリムを連れてきてくれたのはあなたね。ありがとう。ハリムを捕まえるのは大変だったでしょう。」

「いえ、ありがたきお言葉。このアブラム、オリビア様のためならたとえ火の中水の中です。」

「ふふふ。その忠誠心、今度はソフィアに向けてあげてね。」

「はい、全力をもって。」

アブラムは号泣している。

「アリフレート。いるの?」

剣聖のことだ。剣聖もすでに号泣している。

「は、はい。ここに。」

「ハリムと仲良くね。他の騎士たちにもたまには優しくしなきゃ。これからは私がフォローできないわよ。」

「はい。肝に命じます。」

「ハリム。」

「ああ、なんだい?」

「最後にあなたに会えてもう思い残すことはなくなったわ。ああ、幸せな人生だった。もう1度愛してると言って。」

「最後って何を言っているんだい。1度と言わず何度でも言うさ。オリビア、心の底から愛しているよ。」

「ふふふ。うれしいわ。ハリム、私も愛していたわ。いえ、愛してる。誰よりも何よりもあなたのことをずっとずっと愛しているわ。」

オリビアはそう言うとそっと目を瞑り、静かに息を引き取ったのであった。

「オリビア!」

「母上!」

「オリビア様!」

私はオリビアの頭を抱く。ソフィアと剣聖も駆け寄ってきてオリビアの亡骸にすがり付く。みんな号泣。アブラムとナタリア、お世話の女性たちは立ったまま泣いている。エドワードは立っていられなくなったのか膝を抱えて泣いていた。

オリビアの死に顔は微笑みを浮かべたとても素敵な表情だった。

書きながら泣きました。

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