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大魔導師の育成  作者: 春夏秋冬
14/64

ロマニコフ商会本店

二人が泣き止むのを待ち残りの用意を終え部屋を出る。サラはまだ気持ちよさそうに眠っていた。放っておこう。

「3人ともおっはよー。よく眠れた?」

1階に下りるとアンナが元気な声をかけてきた。

「はい。おはようございます。あんなにしっかり眠ったのは久しぶりです。」

「ぼくも。」

「アンナおはよ。昨晩はありがとな。」

「いえいえ。サラちゃんは?」

「あいつはまだ熟睡中だよ。目が覚めるまで寝かしておいてあげてくれ。今日はあいつとは別行動だしな。」

「了解したわ。ささ、3人とも座って座って。朝食を出すわね。ハリムはコーヒーでいい?ナタリアちゃんとエドワードくんはオレンジジュースでいいかな?」

「うん。コーヒーでいいよ。ありがとう。」

「私紅茶がいいです。ありますか?」

「ぼくはオレンジジュースでいいです。」

「ナタリアちゃんは紅茶ね。了解。あるわよ。待ってて。」

アンナはそう言うと調理場の方に入っていく。すぐにウェイトレスと朝食を3人分持って出てきた。私たちがついたテーブルに並べられる。柔らかそうなテーブルロールとスープとサラダとベーコンエッグだ。

『いただきます。』

3人揃って食べ始める。エドワードはあれだが、ナタリアの食べ方は優雅だな。

それにしてもこのサラダ、昨日エマのサンドイッチでも思ったがなぜ野菜に調味料かけてあるだけでこんなに美味しいんだ?

「どう?美味しい?私が作ったのよ?はい、コーヒーと紅茶とオレンジジュースね。」

「ああ、とても美味しいよ。最高だ。」

「このスープすごく美味しい。」

「はい、美味しいです。わぁこの紅茶すごく美味しい。ベロン家で出てたのはなんだったのでしょうか。」

二人も大絶賛だ。


「今日はどんな予定ですか?」

朝食を終え、コーヒーを楽しんでいるとナタリアが聞いてきた。

「そうだな。今日はロマニコフ商会に行ってから冒険者ギルドを回ろうかな。二人はどうする?この宿で待っていてもいいが。」

二人は1度顔を見合わせてから

「付いていきます。いえ、付いていかせてください。」

「ああ、構わないよ。行こうか。」

3人で『月夜亭』をあとにするのだった。


少し歩いてシャワラムの中央付近にあるロマニコフ商会本店の建物の前に来ると、中からロマニコフと昨日の初老の男性が走り出てきた。

ロマニコフ、スキンヘッドにムキムキで相変わらず商人には見えない。裏社会の人間か格闘家に見える。まぁこいつは格闘術がそこらへんの冒険者よりすごい。まだ会頭になる前の若いころは護衛もつけず行商に出て、襲ってくる魔物や盗賊を拳でねじ伏せていたっけ。

「ハリムさんお久しぶりです。お待ちしておりました。どうぞ中へ。お子さんたちもどうぞどうぞ。」

私たちを招き入れる。ナタリアはびびってるな。怖くないぞ。エドワードは平気そうだ。まあ1騎士団をひとりで撃退できるやつには怖くないか。

私たちは1階の奥にある応接室に招き入れられた。柔らかいソファーに向かい合って座る。初老の男性はロマニコフが座ったソファーの後ろに立ったままだ。

「改めてようこそお越しくださいました。そちらのお子さんは…ん?見覚えがあるぞ?もしや、ベロン伯爵家のお嬢様ではございませんか?」

「はい、そうです。ベロン伯爵家はもうなくなってしまいましたが…」

「そうでしたな。大きな政変がございましたから。残念なことです。いやいや、天才と名高きナタリア嬢が無事でよかった。ハリムさんに助けられたならもう安心ですな。」

「は、はい…」

そうだよな。天才と名高かったのか。ん?あれ?

「ん?天才?ナタリアが?エドワードではなく?」

「はい。12歳にして幾多の学問を修める天才少女。ナタリア嬢様ですな。」

頭の方がすごいのか。エドワードといいすごい家系だな。

「ナタリア。」

「はい。」

「得意なことは?」

「そうですね…特には…戦闘は苦手ですが、それ以外のことはなんでもそれなりに出来ると思います。」

戦闘以外なんでも…だから裁縫も上手かったのか。

「料理は?」

「それなりに出来ると思います。ここまでの道中、山菜や木の実を使って料理してました。」

「姉上の料理おいしいです。」

まるほど、エドワードが強いだけじゃなかったんだな。いろいろ納得。戦闘力が高いエドワードと戦闘以外なんでも出来るナタリア、いいコンビだったわけだ。

「円柱の体積の求め方は?」

「πr2乗h。」

「帝国の歴代皇帝の名前は?」

「新しい方からソフィア女帝、オリビア女帝、オリバー3世帝、チャーリー帝、オリバー帝、ライリー女帝、オスカー5世帝…」

「もういいよ。ありがとう。よく勉強しているな。えらいぞ。」

デギル帝国の皇帝は基本「皇帝陛下」あるいは「陛下」と呼ばれるため名前が世にあまり出回らない。意外に難しいのだ。今の皇帝はソフィアというのか、知らなかった。オリビア、もう退位したんだな。まぁ人族だもんな。もう70歳くらいかな?

「ああ、皇帝で思い出しました。1ヶ月ほど前デギル帝国のサウザンドナイツの方がどうやったら大魔導師ハリムに会えるんだ?と訪ねてきました。『迷いの古城』からなかなか出てこないと伝えると帝国運営の冒険者ギルドで来るまで待つと言っていました。まだ帝国の方の冒険者ギルドにいると思います。」

ランペドの屋敷にも来いと手紙が来ていたな。何かあったかな?

「わかった。あとで会いにいくよ。ちょうどこのあと行くつもりだった。」

「そうですか。それがいいでしょう。」


「はい、これ、シャーロットから預かった。マジックバッグだ。中に20点ほど入っているらしい。」

「これはこれは。助かります。シャーロットさんの作られたマジックバッグは貴族の間で人気があり品切れ状態だったんです。」

「この前私が作ったやつを大量に卸しただろ?」

「ハリムさんは作ったやつは、まあ、ははははははっ。」

笑って誤魔化された。オレが作ったやつは商人向けかよ。ぐすん。

「お代の方は?」

「いいワインがほしいな。あとドレスを何点か。シャーロットのサイズわかるよな?あと私用の食材も大量にほしい。この子らの着替えも。」

「はい、存じております。全部用意いたします。」

「お金足りる?」

「はい、大丈夫です。まだまだハリムさんから預かっている金は大量にございます。では後日『月夜亭』の方にお届けいたします。」

「ああ、頼むよ。アンナ用の服もあるといいな。あ、いいか、二人で選ぶよ。」

「相変わらず仲がいいですな。さすがはハーフエルフ。」

「おう、ああ、まあな。」

「さて、では、アーロン、あれをお持ちしろ。」

「はい、少々お待ちを。」

ロマニコフが初老の男性、アーロンに声をかけるとアーロンは応接室を出た。そして1本の細長い物を布で包んだ物を持ってきて私たちが座っているソファーの前のテーブルの上に置いた。

「こちらにございます。」

「ご苦労。」

ロマニコフは包んであった布を外す。すると中から少し反りのある細身の剣が出てきた。ロマニコフはこちらに少し押す。もう待ちきれない。私はその剣を掴み鞘から抜き放つ。銀色に輝く片刃の剣が姿を現した。

「きれぇ。」

ナタリアが呟く。そう綺麗なんだよ、この剣は。まさに芸術品だな。前に南の方にあるアルバヤ連邦で持っている人を見掛けてからずっと欲しくて探していたんだ。

「この剣はカタナというそうです。うちの商船が座礁している。『フジ』という国の船を助けましてな、お礼にもらったのです。見た瞬間ハリムさんが探していた物だとわかりました。いつものお礼に差し上げます。」

「え、いいの?すげぇ、やった。ロマニコフ愛してる。」

うん、男では1番。

「はははは、それはそれはありがとうございます。」

「『フジ』行ってみたい。どこにあるの?どっちの方角?」

「はははは、まあまあ落ち着いてくだされ。子供みたいになっておりますぞ。『フジ』はこのシャワラムの港から南東に船で1ヶ月くらいかかるらしいですぞ。」

これが落ち着いていられるか!100年以上探したんだぞ。見掛けたのは先の1本だけ。持っていた男も見失ったし、もう手に入らないと思っていた。

「船で1ヶ月は遠いな。まぁ私が全力で飛べば1日で着くだろ。目印はあるかな?」

「1日ですか、さすがですな。なんでも木造の家屋ばかりの国だそうです。小さな島国だと言っていました。船も全部木製でした。よく魔物のいる海を越えられたものです。」

「ふーん。木造か、わかった。ありがとう。」

こうしてロマニコフへの用事は最高の形で終わったのだった。


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