夜桜 ①
夕飯を食べ終わったあと、食休みをしようと、ベランダで風にあたっていた。もう、辺りは夜の景色だ。ビルや道路の灯りが輝いて、闇夜をくつがえしている。春の夜風は、少しつめたくて、心をすっきりさせてくれる。
ふと、にぎやかな音が耳に入ってきた。これは、どこで鳴っているのかな。
ベランダから見下ろすと、たぶん1kmくらい先だろうか。川沿いに沿って、明るい光が続いている。
音はその方向から聞こえてくる。
そういえば、同じクラスの子が、桜祭りがもうそろそろ終わっちゃうね、夜桜きれいだよね、と言っていた。
たぶん、それだ。どんなことをやっているのかなあ?桜って入学式のときに校庭でみた、きれいなピンク色の木だよね。夜になると、どうなるんだろう。
よし、あそこまで、行ってみよう。あいつを誘ってみるか。
真央の家のリビングに行くと、本を読んでいた。本当に本が好きだなー。
「ねえ、一緒に夜桜っていうやつ見にいかない?」
「・・・」
「あんたも退屈でしょう、ね」
「そうだな」
おっ、珍しく素直だな。気が変わらないうちに、さっさと行こう。
エレベータで階下まで行ったら、にぎやかな音が大きくなった。
夜道をてくてく並んで歩くと、大勢の人が楽しそうに歩いていて、もう桜も終わりだからな~
なんて言ってるのが聞こえてくる。
桜が終わるってなんだろう。木が枯れちゃうのかな。
川まで来ると、川沿いの道路にライトがずらっと下げてあって、小さなお店がところ狭しと並んでいる。そこでは賑やかな音楽がなっていて、人々はみんな笑顔だ。
川と道路のあいだは土手になっていて、ライトに照らされた桜が並んでたっていた。
あたしが、土手に近づくと、夜の空間を埋め尽くすほどのピンクの欠片が天から降っていた。
ただただ幻想的な、美しくて悲しいような、そんな景色に釘付けになってしまった。
一人で来なくてよかった。こいつがいなかったら、悲しさにのまれてしまったんじゃないかな。
「これって、桜の花が落ちてるんだよね」
「ああ、花は役目を終えると、木に別れを告げるんだ」
「悲しいね・・」
あたしは、知らぬ間に、真央の服の袖をつかんでいた。
「そうだな、楽しく考えたらどうだ?この木はこれから緑色の葉に包まれる。木がピンクの服から緑の服に着替えてるところだと」
「はは、それ面白いね。じゃあ、この桜たちは服をぬいでる途中だ」
「ああ、それより翔、むこうの店は行かなくていいのか?食べ物がいっぱい売ってたぞ」
「行くよ~!おいしそうなにおい。楽しみ~」
フフッと笑った真央と、連れだって明るい通りに移動した。




