ことのはじまり ②
みじめだな、あたし・・・
引かれるままに歩いた。どこをどう歩いたか記憶にない。ただ道の両側に魔物たちがつめかけ、ぐいぐい引かれて歩くあたしを見て、笑いやひやかしの言葉をあびせていたことは、ぼんやりと覚えている。
気が付けば、大広間のようなところに正座をさせられていた。魔物たちが周囲を取り囲み、正面には魔王が玉座のようなところに腰を下ろしていた。
下を向いていた、あたしのあごを、大きな指がしゃくりあげた。強引に顔を上げさせられた眼前には、いつのまにか近づいてきた魔王の顔があった。
まさに赤き鬼・・・
「ふむ、うわさどおりの美しさだな」
地からわきでるような低い声で魔王がつぶやいた。
そんなうわさがあるの・・そんなのどうでもいいや・・
魔王が指を、あたしの顔から外したので、再び下を向いた。
もう自分はどうなってもいい。みんなのためにできることをしよう。できることは、言葉を発する事だけだけど・・
「今さら頼み事を言える身じゃないけど、あたしの国には、おまえの配下を送るのをやめてほしい・・・財宝はすべて持ってくるし、食料も必要最小限 以外は持参するわ」
「・・・・」
「他国の噂は聞いているわ・・・。あたしは国王の娘として、国のみんなに、秩序ある生活を送らせてあげたいの」
聞き入れてはもらえないだろうが、いちるの望みを口にした。今の言葉を、こいつはなんと思うのだろう。魔王の表情を見るのは怖いが、ちらりと上目でのぞき見た。
もともとが怒り顔のやつだ。なにを考えているのか分からない。そんなことを思っていたら、魔王はググッと自分の顔をあたしに近づけ、にやりとした。
「がっははははは、いいだろう」
あまりにあっさりと意外な言葉がでたので、呆然となった。いいだろうって了承ってことだよね・・
「ただし、条件がある」
「条件・・・」
こいつにすれば、あたしが言ったことは、受け入れる必要がない提案だ。だが、あえて受け入れるという。こんな利もないことにあう条件なんてあるのかしら。
「ワシについてまいれ」
魔王は人差し指の鋭い爪で、あたしの首輪と両手の縄を、プツプツと切り離した。
なにを条件として言われるのだろう。不安に思いながらも、大広間から別の部屋へのしのしと歩を進める魔王の後ろを、おずおずとついて歩く。周りにいる大勢の魔物たちの視線が、いっそう不安をあおりたてた。




