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γ-III : I want to talk about you





「君は、私のことが好きだ」



彼女は、薄闇の中で口を開いた。

直立したまま。彼を見つめたまま。



「……は?」



彼が一番最初に思ったのは、とても力強い口調だな、ということだった。今まで先輩から聞いたことが無いタイプの。

だから彼の返答は、生理的な反応に近い。



「君は、私にどうしようもなく惹かれている。それに君はまだ気づいていない」



そう言って、彼女は一歩踏み出す。よく響く足音だった。


彼はまず、首筋から鳥肌が立って、その次に鼓動の尋常でない脈打ちを自覚し、遅れてやっと理性で彼女の言葉の意味内容を理解し、何かが自分の中を急速に渦巻いていくのを覚えた。とにかく忙しい。



「そして、それを指摘された君は、多分、いや絶対、ものすごい不快感を覚える。怒りをあらわにする」


「……よく、分かってんじゃあ、ないですか」



そうこうしている内に、彼女はまた一歩踏み出していた。


名前を与えられた渦巻きは、少し萎えてしまった。

感情の先読みというのは、中々威圧作用がある。一瞬、勝てないんじゃないか、と彼は思う。

けれど、そもそも何と戦っているのか。そこでまた彼の逆張り精神が蘇る。

皮肉る。



「先輩、それはアレですか。とりあえず自信満々に意味不明なことを言って、相手が動揺している隙に間合いにサッと入って、……ナイフで首を狩る、とかなんか、そういう作戦なんすか。先輩は交渉とかめっちゃ得意ですからね。知りませんけど」



口に出してみて、彼も少し落ち着く。


彼女は少しずつ、彼の方へ近づく。彼はそれを防ぐ。そういうゲームが存在する、らしい。



「君は、自分が私のことを好きだと、考えたことは無いのかな?」


「さっきから思うんですけど、それじゃもう自意識過剰を通り越して自分と他人の区別がつかなくなった末期の人っすよ。今の先輩は、それを自覚した上で言ってるんですか?」


「そうだね……別に、君は私の言葉を聞かなくてもいいんだ。けど、そうすると何も解決しない。ここからは、出られない」



だから君は聞くだろう、と彼女はささやく。予言は闇に溶けていく。


彼女が一歩一歩進むのと平行して、彼はじりじりと後退する。足先や指先の感触が鋭くなっていくようだった。

視覚はあまり役に立たない。今、目測している先輩までの距離は、当てにならない気がする。



「それ以上、俺に近づかないでください。近づいたら……椅子を投げます」



そう言って、彼はずっと握っていた椅子を振り回してみる。存外軽い椅子で、彼の非力でも十分な速さで投げることができるだろう。



「……でも、君は私を、肉体的には、傷つけられないだろう? 腕、あるいは手。言うまでもない。顔とか頭。脳への影響があるかもしれない。脚。実はペダルを踏んだりするので微妙」



それはだいたい、彼も言いながら思っていたことだ。少なくとも、椅子を投げるようなコントロールできない暴力は彼の趣味じゃない。



「先輩は俺のこといくらでもめった刺しにできるのに、俺は正論だけしか武器がないの、めちゃくちゃ理不尽ですよね」



「君が私を傷つけられないというのは、とても大事なことだよ。君は自分が一番だと、まあ本気で思っている一方で、実は自分のこともどうでもよかったりする。その中で、損なえないもの……ともかく、君のそれは何の脅しにもなってないね」


「じゃあ……近づいても先輩は何も損をしませんが、俺が不快だし怖いので、それ以上近づかないで下さい。距離は俺に意味を持ちます」


この場所はそんなに広くなかった。彼は無限に後退できるわけではない。



「……」



彼女の足音が、ようやく止まる。

彼女は胸の内で反芻している。距離は彼に意味を持つ。


彼は浅く呼吸している。先輩はここで止まるべきじゃなかった、と何故か思う。



「さて、これで三度目か。問おう。君は私のことが好きだ。そのことについて君はどう思う?」


「逆に聞きたいんすけど」



彼はパッと思いついたことを口にする。



「先輩は俺のこと、好きでも嫌いでもないんですよね?」





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