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<失踪者>についての報告:付記

 出口は無い。この実存にまみれた手では失踪を書くことも許されぬのだろうか……。我々は強いられている、最初から最後まで、戯れをも強いられており、強いられを強いに変える、変えると言ても自分が自分に強いるようになるのだ、強いて強いられの無限機関が生じて、けれどもこれは無限期間ではないと抜かすのが実存の悪さではなかったか……。パキパキっと音がして、えびの殻で、窓を覗くとそこは日本だった。日本で無かったかもしれない、けれど私はオーストラリアを想像して、そこにはドラゴンが居た。オーストラリア・ドラゴンという種で、オーストラリア第五の季節となると街中に飛んできては人をちぎっては投げちぎっては投げ、とくにアボリジニのドランクンドライバーたちにドラゴンのムーアは厳しかった。ムーアというのが名であった。すっかり緑色になった空の下でムーアは、オーストラリアドラゴンは例に漏れず有袋類であったが、虐殺の容易さをありありと我々に示すだろう、ドラゴンのポケットに入ってるのは何だろう、というところでフランク・ザッパの『G-spot tornado』という曲のことを思い出し、たぶん年代もののシンセサイザーが入っているのだと推定して、大航海時代オーストラリアにおけるドラゴンとテクノの関係をしばしば思案し、この想像がやはり強いられと強いのたまものだということを思い出すのだった。愚かさ、冬の愚かさ、冬のオルカ、寒さ、風邪をまた引きそうだし、人間は生きてから死ぬまで、人類種は誕生から滅亡までずっと風邪を引いていたのだろう、そうであれば納得できる、我々に必要なのは納得だった、いや納得ではなく異世界と失踪者だろう。出口が無いよりはまだ異世界の存在は望高だ、つまり絶望的だ、というのも我々は物語に慣れて、それが可能世界にある限り、あるいは不可能世界にあってもその現出した異世界なるものがこの世界とそう遠くないことが分かってしまうからだ、我々は遠くにいけない、より遠く、より速く、というのは望で強いだ。けれどもおそらくムーアは、自分の子供に対してオーストラリア及びそれを含むオセアニアの千の言語で「そんなことないよ」と我々に、オセアニア全体に語りかけるに違いあるまい、オーストラリアドラゴンの仕事とはつまりそういうもので、まあどんなに嫌でも、かつて海だった私でさえも嫌だなあと思うが、書かれている限りは矛盾していても可能であり決して異世界ではなく、どうすればいいのだろう。このムーアという名前の与えられたドラゴンが、初めて固有名詞が与えられ明確に世界から分離されたそれが、夜、せめて我々を遠くまで運んでくれればいいのだが、それは腹痛のとき神に祈るなというぐらい無理がある、そもそもこの世界に投げ出された時点でクソなのだ、時間も存在も不在も証明不可能性もクソだ、怪物もクソだ、ドラゴンもクソだ、と喚き散らしていても胸の奥の冷えは隠しきれまいか、どれみろ強いられてるではないか。そうやって構造と戯れて、性欲と戯れて、どこにも行けず何も創れず終わるのが人間ではないか、アレクサンダー大王もそうだったし、20世紀アメリカで白人からも黒人からも差別されたという混血で肌の色が黄色っぽいションベン黒人もそうだった、しかし一番かあいそうなのはオーストラリアドラゴンだな、あいつは弱いドラゴンだからやっぱ強いられてんだ、道端のポピーよりずっと無力だよ……ところでケシ坊主って嫌だなあと思う、あれが最終的にヘロインになるわけだから、恨みもたっぷりだよ、しかしオーストラリアドラゴン先住民はやはり何らかの麻薬でトリップと恍惚を味わっていたのだろうか? 邪神様が聞いてきたら何と答えようか……そのとき私の首は刎ねられ、おそらく空間の残像、肉体の存在の残滓、私の瞳の残映からそいつは答えを知るのであろう、ああ、しかし、ムーアは本当にかあいそうだ。食物連鎖に巻き込まれ、生きて、存在して、存在しなくて、曖昧で、投げ出され、強いられている。ということでムーアは本気の逃避をすることにした、土台出口があったら逃避なんかできやしないのだから。いずれ見事失踪してみせるだろう。お前らは本気で逃避するつもりがあるのか? 千切れ雲が浮かんでいて、落ちる。出口は無いんだぞ。





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